キコ達はそれに便乗する事にした。
三人は一旦ビレルの村に戻り荷車を買い求めた。それに藁を大量に積んだ。その中に剣やら杖やらを隠して村を出発した。
峠を越えて半日程歩くと城が見えてきた。
「今夜は一旦休む事にしよう。城に侵入するのは明日の朝だ」
三人は交代で休憩を取った。
翌朝暫く城を眺めていると遠くに人影が見えた。奴隷がやってきたようだ。
「俺達も行こう」
三人は荷車を押して城に向かった。城が近付くと異臭が漂ってきた。
「何の匂いでしょうね」
そして正門に辿り着いた。オークの門番が話しかけてきた。
「ニンゲン、ミセロ、ツウコウショウ」
(通行証? そんなもん無いぞ)
ギーガがわざとらしく服の上から探ってみる。
「すみません。無くしてしまったようです」
「ナクシタ、マタカ、ニンゲン」
もう片方のオークが鬱陶しそうに行った。
「クカク、ジュウサン、ハタラクカ?」
「はい、十三区画です」
「ニンゲン、イケ」
そう言うと手をヒラヒラさせて追い払うようにした。キコ達はそのまま真っ直ぐ進んだ。小声でギーガが言う。
「どうやら通り抜けられたようですね」
しかしその時オークが言った。
「マテ!」
三人はビクッとして立ち止まった。キコは思わず荷台の藁の中に手を突っ込み剣を弄った。
「ジュウサン、クカク、マチガイ。ムコウ、タダシイ」
そう言って右の方を指差した。
「あ、そっちだった。間違えた」
キコはわざとらしくそう言った。三人はオークが指差した方へ歩いていった。
庭は広かった。植え込みに沿って歩いていった。人気のない所を見つけると、三人は武器、防具を身に付けた。
「荷車はここに置いていこう」
「そうですね。城の内部に入らないと」
三人は一番近くの建物に駆け寄った。窓はない。その建物に沿って歩いてゆくと通用口らしきものがあった。
「見張りはいないようですが内側には誰かいるかも」
「誰かいるとしたら何人くらいだ?」
「分かりません。最低二人でしょうが……仕方ない。透視してみますか」
三人はドアの前まで来てみた。一応ドアに聞き耳を立ててみる。何も聞こえない。
「透視する魔法があるのか?」
「はい。壁一枚分くらいを透過して中の様子を見る事が出来ます」
と言うとギーガは魔法の呪文を唱え始めた。その呪文が終わるとギーガの瞳の色が淡いグレーに変わった。
ギーガはゆっくりと右から左へ首を動かして壁の向こうの様子を伺った。
「誰もいませんね。倉庫だと思われます」
「扉を開けても大丈夫か?」
するとギーガは扉を、特にドアノブの辺りを凝視した。
「罠はありませんし施錠もされてません。開けて大丈夫です」
それを聞いてキコはドアを開けた。外側にドアは開かれて中はたくさんの木箱が山積みになっている部屋だった。
三人は部屋の中へ入る。ギーガの魔法はまだ続いているようだった。倉庫から廊下に出るドアも調べてくれて罠も鍵もない事を知った。
「そろそろ魔法の効果が切れます。廊下には今は誰もいないようです」
そう言うとギーガの瞳の色が元の色に戻った。
「よし、中に進もう」
キコは躊躇わずドアを開けて廊下に出た。
*
その後キコ達は何度か城内で人間とすれ違った。奴隷の割には自由に話をしたり楽しそうだし、何の作業もしてないでただ歩いているだけの奴隷もいた。
「彼らは本当に奴隷なのか?」
キコは不思議に思った。
その時、角を曲がってオークが二匹現れた。反射的にキコは剣の柄に手をかけたがギーガがそれを左手で制した。
その動きに気付いていないのか、オーク達はチラリとこちらを見ただけでそのまま行ってしまった。
「どう言う事だ?」
「城に入ってから妙だなと思っていたのですが、この城の中ではオークも人間も共存共栄しているのではないですか?」
「何ですって?」
「今だってオークは我々に目もくれなかった」
(そう言われればそうだが……)
「適当な人間に話しかけてみましょう」
三人は城の中をウロウロした。そして二人組の人間を見つけた。
「あの、ちょっと聞きたいのですが?」
「何ですか?」
「あなた方はゲオルグの奴隷ですか?」
「ゲオルグ様の? 奴隷⁉︎」
その二人は笑い出した。
「ゲオルグ様は奴隷など取る人ではありません」
(一体どう言う事なんだ?)
「その、ゲオルグ様は今どちらにおられるのですか?」
「ゲオルグ様の居室は三階と聞いていますが、はてさてどうなのでしょう」
余り質問を繰り返すと怪しまれると思いその二人とは別れた。
「一体この城は何なのだ?」
「でも城の謎も気になりますがゲオルグが三階に居るらしいのも気になりますね」
三人はとにかくゲオルグに会う事、倒す事が先決だと考えた。
城の上の階を目指しながら城の中を彷徨った。途中、何度かオークと
三階まで辿り着き、部屋を物色していると、とある廊下に出た。両側が窓になっているまっすぐな一本道だ。
「これは、渡り廊下かな?」
その廊下を進んでいくと行き止まりになりそこに大きなドアとそれを守るオークが二匹立っていた。
「クルナ、キンシ、カエレ」
「どうやらここから先は重要な所らしいな」
「この中にゲオルグが?」
(こいつらをぶった斬って先に進むしかない)
キコはギーガとシュピナに小声で伝えた。
「戦闘だ」
二人も同じ考えらしく、黙って頷いた。
振り向きざまキコはショートソードを抜いてオークに切り掛かっていった。
二匹のオークは驚いて慌てて剣を抜いた。しかし慌てていたため間に合わず、左のオークは右肩にキコの剣が刺さった。その痛みで抜いた剣を落としてしまった。
そのタイミングでギーガの火の玉の魔法が右のオークに当たった。キコは振り向き様にその焼かれたオークの頭を薙いだ。そのオークは頭が割れて悲鳴をあげる間も無く倒れた。
残ったオークは武器を拾おうともせず頭からキコに突っ込んできた。キコは受け身も取れず横向きに倒れた。剣を持つ手が下になってしまった。
オークはキコに馬乗りになりキコに打撃を与えてきた。十分な防御を取る事も出来ずキコはボコボコにされていった。
と、不意にオークは意識を無くして床にドサっと崩れ落ちた。不思議に思ってキコが起き上がる。
「眠りの魔法で眠ってもらいました」
シュピナが言った。
「助かったよ……さあ、このドアを開けてみよう」
しかしそのドアは施錠されており開ける事は出来なかった。
「では解錠の魔法で鍵を開けましょう」
ギーガは呪文を唱えるとそっとドアノブに手を掛けた。カチャリと音が鳴り鍵が開いたのが分かった。
ゲオルグの城の中ではオークと人間が共存共栄していた。
そんな城の中でオーク二匹に守られていたドア。
その奥には果たして何があるのか。誰がいるのか。