愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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10話

「ふう…これで今日の仕事はだいたい終わりかな」

 

 

連邦捜査部シャーレ。

 

そこの責任者である先生は、今日も今日とて山のような書類仕事、広大なキヴォトスで起こる生徒達の問題の解決に奔走し、ようやく一日を終えようとしていた。

 

そして、最後の書類を纏めようとした所で、一枚の書類が目に入った。

 

『清川シエル』。普段からシャーレを騒がせまくっている、先生の中では唯一中等部(年齢だけを言えば他にも例外は居るが)な生徒だ。

 

「そういえば、シエルと初めて出会ったときも色々あったっけなぁ…」

 

先生は思い出す。

彼女と初めて出会った…自分が関わった初めての大仕事の記憶を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『総員、戦闘用意』

 

ゲヘナ学園行政官、天雨アコ。

彼女は現在、アビドス領内で度々問題を起こしていたゲヘナ学園の一企業兼部活動である便利屋68を捕える…という名目で、シャーレの先生を捕か…もとい、保護しようと動いていた。

 

が、それに待ったをかけたのが彼女の指揮するゲヘナ風紀委員会の前に立ちはだかっているアビドスの対策委員会である。

自分達の学園の領内で大規模な戦闘行動を起こし、その上現在進行系で助け、助けられている先生を引き渡すことなど、アビドスの面々には到底納得のできないことだったのだ。

…あと、ついでに自分達の行きつけのラーメン屋を爆破した罪を便利屋に自分達で償わせるためにも。

 

「ちょっと!?ついでって何よついでって!!」

 

「社長…誰に向かって言ってるの」

 

おっと、ナレーションを第六感で察知でもされたのかな?

便利屋社長の陸八魔アルは白目をひん剥いた顔(ネットで一度は見たことがあるであろう顔)で悲鳴をあげた。

社員の鬼方カヨコが呆れ気味にツッコミを入れる。

 

「アルちゃ〜ん、今は漫才やってる場合じゃないよ?風紀委員会の連中、本気みたいだしさ」

 

「ふ、ふふふっ…ぜ、全員ぶっ殺しますッ!!」

 

「便利屋の連中もやる気みたいね…」

 

「ん。今は助かる。

…それはそれで、柴関ラーメンをふっ飛ばした責任は取らせるけど」

 

「……………ま、まぁとりあえず。

総員、戦闘用意!」

 

アビドスの生徒達に同行していた先生の掛け声とともに、アビドス、及び便利屋の生徒達は臨戦態勢に入る。

それに呼応するように、ゲヘナ風紀委員会も改めて武器を構えた。

 

「『各員、戦闘開―――――――」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィン!!ギィン!!ギィン!!ギィン!!

 

『「「「「!?」」」」』

 

「な、何なのあれ!?剣!?」

 

「しかも、コンクリートの道路に突き刺さってる…」

 

「わぁ、どうなってるんでしょうか、あれ…」

 

突如、両軍の間に割って入る様に降ってきた、4本の剣。

まるで十字架(・・・)を模した様なその剣に、アビドスの面々及び先生は面食らった。

 

…しかし、ゲヘナの面々の反応は違った。

 

「えっ!?あ、あれって…!」

 

「…それに、コンクリートの道路に突き刺せるような投擲。

…心当たりなんて、一つしかない」

 

「う、嘘でしょ!?風紀委員長が居ないと思ったら…!!」

 

『…?ゲヘナの皆さん、どうしたんでしょうか…』

 

『あ、ありえません!なぜ彼女がヒナ委員長のお側を離れるような』

『用事が思ったより早く片付いてな。先んじて帰らせてもらったぞ、天雨アコ行政官(・・・)

 

『…っ!!』

 

ターン…ターン…

 

『…?』

 

「何、この音…?」

 

「…!皆!上から来る(・・・・・)!!」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ダァンッ!!!

 

「きゃあっ!?」

 

「なっ…!」

 

『う、嘘…!?』

 

「「……………」」

 

突然何処からともなく現れたその女性に思わず悲鳴を上げるセリカ、同じく驚きを隠せない先生、ドローンからの映像で確認していた事で、彼女の異常な動きに驚くアヤネ、驚きと警戒から無言なシロコとノノミ。

 

そして…驚き、あるいは震え、あるいは不敵な笑みを崩さない便利屋68。

 

 

…上下黒色で統一され、上着にはボタンの見えない特殊加工を施したスーツ。

その上に、足元まで丈のある背中にゲヘナの校章が刻まれたロングコート。

 

…そして、それらに見合わぬ、首元から架けられた聖十字(ロザリオ)

腕には、風紀委員会委員長代行(・・・・・)の腕章。

 

「…シエル…!」

 

どこか憎たらしげにイオリが声を上げる。

そんな彼女には目もくれず、青髪の少女…シエルは、地面に突き刺さった剣を淡々と回収する。

原理は不明だが、剣の部分が消滅し、柄だけとなったそれらを懐に仕舞い込むと、先生に向かってコツコツと歩きだす。

 

「…っ!」

 

シロコはその少女に警戒心を顕にして銃を突きつける。

…が、その刹那、彼女が視界から消えた(・・・・・・・)

 

「えっ」

 

「私に戦闘の意志はない。銃を下ろしてもらえるか、砂狼シロコ」

 

「!?」

 

突然、自分の真横から聞こえた声。

自分が見失っていたはずの少女が、そこに立っていた。

 

「…シロコ、銃を下ろして」

 

「先生、でもッ」

 

「大丈夫だから。

…セリカ達も、便利屋の皆も。後…出来れば風紀委員会の皆さんも、手を出さないでくれると嬉しいかな」

 

「…心配には及ばないさ、先生。

風紀委員会、先生及び彼に味方する勢力に手を出せば磔刑とする」

 

「はあっ!?」

 

「えっ!?」

 

「…流石にジョークだ。さて、

 

…初めまして、先生。

ゲヘナ学園風紀委員会委員長代行、清川シエルだ」

 

「シャーレの先生です。初めまして、シエル」

 

…両軍の間で握手を交わす二人を見つつ、アビドスの面々はこっそりと便利屋に質問をしていた。

 

「ねぇ、何なのよアイツ!?やってきた途端、急に風紀委員会がビクビクしだすし…」

 

「後、『風紀委員会委員長代行』ってどういうことなんでしょうか…」

 

『中継で少し見えましたが…どうなってるんですかあの人!?

ビルの壁を蹴って飛んでくる(・・・・・・・・・・・・・)なんて…!』

 

「…言葉の通りだよ。

アイツは清川シエル、ゲヘナ学園風紀委員会委員長である空崎ヒナの自称幼馴染みで…中等部一年でありながら、委員長代行の称号を持っている女だよ」

 

「「『中等部っ!?』」」

 

「くふふ、いい反応だねぇ♪」

 

「笑い事じゃないでしょ!?中等部って…つまり私とかアヤネよりも歳下ってことじゃない!」

 

「その通りだ、黒見セリカ。

…先輩、と呼んでほしいのなら、お呼びするが?」

 

「うえっ!?ちょ、い、いつから…」

 

「ごめんね、割とすぐに話し合いも終わって…風紀委員会の人達もこの場は手出ししないって言ってくれたし、皆にも話しておこうと思って」

 

「そ、そう…」

 

「さて、先輩方。この度は私の愚部下達が失礼なことをしたようで、済まなかった」

 

「「『………』」」

 

『えっと、まあ、その…』

 

「まあ、実際に問題起こしたのはそっちの人達なんだけど…ねえ?」

 

「うっ!?」

 

「はぁ…」

 

「それで、お詫びと言っては何だが…」

 

そう言うとシエルはコートの懐に手を突っ込み…

 

 

中からかなりの大きさの円卓(ラウンドテーブル)を取り出した。

更に続けて大きな鍋と何枚かの皿を取り出す。

 

「私の作った自信作でもご馳走しよう」

 

「いやちょっと待ちなさいよ何今の!?

質量保存の法則って知ってる!?」

 

「細かいことを気にすると頭が真っ白になるぞ?黒見なのに。

黒見なのにッッッ!!」

 

「わざわざ2回言うな!!」

 

「セリカちゃん、すっかり仲良しになってますね~☆」

 

「どこが!?」

 

「ま、茶番はそこまでにして…さ、食べてくれ」

 

鍋の蓋を開き、中に入っていたスープ状の何かを更に注ぎ、更に具を一つ一つ盛り付けていく。

これは…

 

「ん…カレー?」

 

「にしては、随分サラサラしてるね。これは…」

 

「スープカレーだ。ココナッツスープベースなので辛味の苦手な方にもオススメ。

更にじっくりと煮込み上げた野菜とビッグサイズな鶏肉は、ホロホロで食べやすく軟骨まで美味しくいただける一品だ。

フフフ、我ながら素晴らしいな…!」

 

 

「…シエルってあんなキャラだったっけ?万魔殿とか私達に嫌がらせしてニマニマしてる姿とはかけ離れてるけど…」

 

「そう言えば、給食部のフウカ先輩が『食事を大人しく食べているのはあの子ぐらい』とか『ノリノリで料理のコツを聞きに来る』と話しているのを聞いたことはありましたが…あれ程とは」

 

『…代行とはいえ風紀委員長の権威を行使しておいて、自分は仲良くランチタイムですか、へぇ…』

 

(あからさまにイライラしてる…)

 

 

「…どうした、アビドスと便利屋の諸君。食べないのか?

心配せずとも、毒など入っていないぞ」

 

「…ついさっきまで争ってた相手の出したもの、素直に食べられるわけ無いでしょ」

 

「そうか?資金難なお前たちには食料は喉から手が出る程のものだと思ったし、個人的に助けになればと思ったのだが…」

 

「いらないわよ!だいたいそんなもの貰わなくても私達の食事ぐらいどうとでも」

 

グゥ~

 

「はっ!?」

 

「はぎゃあっ!?」

 

「…肉体の方は随分と素直なようだな。

それで、食べるのか、食べないのか?

食べないのならば、私が全て平らげてしまうだけだが…」

 

「う、うぅ…!わ、分かったわよ!食べるから!

出されたのに食べないの勿体ないし!!

本当にそれだけだから!!!」

 

「そ、そうよね!?わざわざ出してもらって食べないなんて食材にも失礼だし!

本当にそれだけよ!!」

 

『セリカちゃん…』

 

「社長…」

 

やや困り気味にあはは、と苦笑いをこぼすアヤネと、こめかみを抑えてはぁ、とため息をつくカヨコ。

それを見ないふりをしつつ、セリカとアルは『いただきます!』と言ってスープカレーを一口頬張る。

 

 

 

 

 

 

 

「「辛あッ!?」」

 

「え?…セリカ!?アル!?大丈夫!?」

 

「は、ひ、せ、しぇんしぇ…」

 

「か、かりゃ、し、ひたが、やけりゅ…」

 

『し、シエルさん!?どうなってるんですか!?』

 

「むう…?失礼。む、んむ……………

 

 

 

しまった。個人用に食べようとしていた激辛仕様とお客人用の辛さ控えめのものを間違えて出してしまったようだ…よっと」

 

そう言うとシエルはもう一度懐に手を突っ込み、別の鍋を取り出した。

が…

 

「…ん。私の気の所為じゃないなら今取り出した鍋、『お客人用』って張り紙が貼ってある」

 

「気の所為じゃないよ。

…良く見たらさっきの鍋にも、『激辛仕様』って貼ってあるし…」

 

「わぁ、わざわざ視えないように置いといたんだねぇ~♪」

 

「あ、あんたましゃか、初めから激辛をたべしゃせようと…!」

 

「何の話だ?私にもうっかりというものはある。

 

 

…決して、『普通に美味いカレーだと思ったら激辛だった』的なベタなリアクションを拝みたかったわけではないぞ?」

 

「その回答がもう答えじゃにゃいの!?後顔がニマニマしてるし!!」

 

 

 

「……………えっと。どういう状況なの、これ」

 

『…ひ、ヒナ委員長!?

し、しまった私としたことが…!』

 

「おや、来たかヒナ。

今はこちらのお嬢さんたちと先生にお詫びのスープカレーを振る舞っているところだ。いるか?」

 

「………それはまた後で。それで…

 

これはどういうことなの?アコ」

 

『うっ、そ、その…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今思うと、初めから色々ぶっ飛んだ子だったなぁ」

 

先生は物思いにふける。

思えば彼女は独特な生徒だ。

 

…いや、このキヴォトスにおいてそうでない生徒のほうがむしろ珍しいのだが。

その中でも彼女はある意味特殊だ。

 

自慢のような言い方になるが、先生(自分)はほぼ全ての生徒から好意を向けられている…実際問題、両手では収まりきらないほどにそういうこと(・・・・・・)まで発展した生徒も居るわけで。

 

そんな中では珍しく、シエルはかなり気軽に接してくる。

…その接し方がちょっとアレだったりもするけど。

 

思えば自分はまだまだ彼女のことを理解できていないのかも知れない。

また暇をみて話してみようか。

 

そう思いつつ、先生は今日も眠りにつくのだった。




鉄甲作用

シエルの身に付けている投擲技術。
黒鍵のみならず、弾丸やガラス片、そのあたりの小石ですらこの技能を用いて投擲すれば、コンクリートの壁や道路を容易く貫通させることが可能。
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