また日常回です。
最近日常回しか書いてねェ
ゲヘナとトリニティの境界にある、とある教会。
人里から少し離れたその教会の中、一人の少女が膝を付き祈り捧げている。
「
―――Amen」
…言葉を紡ぎ終えた少女は立ち上がり膝をポンポンと少し払う。
「私も神に仕える身分となりながら言うのもなんだろうが…随分と身勝手な教義だな。
結局どいつもこいつも、考えるのは己のことばかりなり、か
…さて」
まもなく朝のミサの時間だ。
こんな辺鄙な教会に、しかもゲヘナの野蛮人でありながら神職者の身分に居座る者の元へわざわざやって来る物好きな信徒の皆様のためにも、さっさと用意をしてしまおう。
そしてミサが始まる。
こんな早朝からご苦労さまだと思わず言いたくなるほどには教会を多くの人が埋め尽くしている。
こんなゲヘナの野蛮人でも真っ当に聖職者として職務をこなしていれば、人々は感心し信頼してくれるようだな。
皆私の話を大人しく聞き、ミサはつづがなく終了した。
その後は朝食の時間だ。
よほど忙しい時には前日からの作りおきのもの(主にカレー)を食したり、この手の朝食として伝家の宝刀たるTKGを食したりするのだが、本日は比較的余裕がある。
油をひいたフライパンでウインナーを焼きつつ、隣の鍋で一口大に切ったブロッコリーを塩で茹でる。
それぞれを皿に盛り付け、ケチャップとマヨネーズをかけ…
茶碗に白飯をよそうのも忘れずに。
少しだけ充実した朝食の完成だ。
『栄養バランスの三原色』も守られた良いメニューだ、うん。
朝食の後はゲヘナの風紀委員としての書類、教会経営のため書類整理などの事務仕事。
教会にやって来た人の話し相手になることも多い。
が、私の教会で最も愉しめる仕事といえば、やはり懺悔室だろう。
『私は…今更になって気付いたんです…娘に酷いことをして…
でも、出来ることなら今からでも出来ることをしたいって…娘には『今更遅い』と取り合ってもらえず…』
「もし娘さんがお優しいお方なのならば、貴方が誠意を持って向き合い続ければいつか分かってくださることでしょう。
が、よほど強く拒絶され続けるのならば、諦めることもやむ無し、でしょうか?
他者の心を汲み取ろうとせず自身の救済を望み続ければ、かえって破滅を招くやも知れません」
『…ッ』
「…フッ」
いかんな。思わず口角が緩んでしまう。
やはり私は聖職者である前に、一人の人らしい。
その後もまあ、懺悔を聞いたり話し相手になったり、そんなこんなで一日は過ぎていった。
「本日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、お気をつけて」
「失礼いたします…」
「ねえおかーさん、今日のご飯なあに?」
「ふふ、そうねえ…」
…夕食。
そんな時間か。
しかし業務もほぼ終わりとはいえ、今からスーパーに行ったとして大したものが残っているのかどうか…
キッチンの缶詰や保存食入れ、冷蔵庫をひと通り見てみたが…やはり大したものはないな。
しかし幸いパスタ用の乾麺や鶏肉、小麦粉や牛乳などは残っていた。
これを使ってクリームパスタでも作るとしよう。
と、いざ作るとしたのはいいものの、クリームソースというやつはどうにも作るのが面倒くさいのだ。
特に最初の小麦粉と牛乳を混ぜるところなど、分量を間違えるとすぐにダマになる。
あーめんどくせ(半ギレ)
あとバターとか油をもろに使うので跳ねると
パチッ
熱ッつウゥゥぅぅぅぅぅッ!!(裏声)
これだ。油はねには気をつけよう!(注意喚起)
話が脱線したが続きだ。
バターが溶けてきたところに先程の小麦粉と牛乳を混ぜたものを投入。煮立ってなめらかになるまで混ぜる…
コンコン
「師匠、居ますか…?」
ん?この声はレイジョか?
「ああ、居るぞ」
「失礼します。すみませんこんな時間に…借りてた八極拳の教本を返しに来ました」
「そうか。
それはそうとレイジョよ、勝手に教会に入るのは感心しないな」
「え、あ、その…
と、扉の鍵が開けっ放しだったので、入っても大丈夫かと…と、とにかく失礼しまグゥ~」
「……………」
「……………」
身に纏っているチャイナドレスの様に顔が朱く染まる弟子。
夕食も食べずにやってきていたのか。
「…少し多めに作っていたところだが、良かったら食べていくか?」
「…ハイ、お言葉に甘えさせてもらいます…あ、じゃあスープ位は…卵とかありますか?」
「冷蔵庫に入っているはずだ。好きに使うと良い」
完成したクリームソースにフライパンで皮から焼いておいた鶏肉、ほぐしておいたしめじを混ぜてあえる。
茹でたスパゲッティを湯切りし、ソースと混ざった具材と絡めて…うむ。
完成だ。
「おお…(師匠の作る手料理…そう言えば師匠が辛いもの以外を食べるところを見るのって初めてかも…?)」
「…」
「?師匠、食べないんですか…」
「父と、子と…」
手を頭上から胸元に。
「聖霊の御名によって…Amen」
「………」
「…ん?どうした、食べても良いのだぞ?」
「えっ…あ!はい、いただきます…」
フォークに一口大のスパゲッティをクルクルと巻き、それを口に運ぶ。
「ん…!」
レイジョは顔をほころばせ、一口、また一口とスパゲッティを、時に鶏肉やしめじを口に運ぶ。
さて、私も…ふむ。我ながらなかなか美味い。
どれ、このスープも…おお。
「美味いな。卵とコーンのコンソメスープか」
「ありがとうございます…一応スパゲッティだったので、合う味のスープの方が良いかと思って…とはいえ、師匠のスパゲッティに比べたら手抜き感が拭えませんが」
「ふ、適当に残っていた物でこれだけ作れるならば上々だろう。
まあ、どうしても納得がいかないのならば、次山海経に立ち寄った際にまた何が馳走に上がるとしよう」
「…!はい、ぜひ!」
「…では、私はこれで。ご馳走様でした」
「いや、こちらこそ引き止めてすまなかったな。お粗末さまでした」
「では…うーん、師匠が喜ぶようなスープ…辛味の効いた酸辣湯スープとか…いや、ソレだと安直かな…どうせならたっぷり辛味を味わった後の、まろやかなものとか…」
「………」
別れて早々料理のプランとは。
ま、私を饗すための思案だ、今回は見過ごすとしよう。
さて、この様な辺鄙な場所ではありますが、シエルの教会は休養日や他の用務の日を除きあなた方をお待ちしております。
御用があればどうぞ、お立ち寄りを。