愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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過去編ことエデン条約編、第2話です


21話

清川シエルはトリニティに訪れていた。

 

いくら条約を結ぶ間柄とはいえ、長らく敵対していた者達の総本山に居るのだ。

 

周囲からは射殺すような視線や、路地裏の掃き溜めのような薄汚い陰口が聞こえる。

だが、シエルにとってそんなものはどうでもいい(・・・・・・)

 

それよりも重大な目的で動いている彼女には、そんなものは何ら気に留める意味のないものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この部屋のはずだが…お、居たな」

 

「…あれ、シエルどうしてここに」

 

「やあ先生。補習授業の最中だったか。すまない

 

私も少し彼女たちに用があってね」

 

「ひっ!?」

 

…阿慈谷ヒフミが私がそちらを見た瞬間に机の下に隠れてしまったのだが。

私はそんなに恐れられているのか?なんでやろなぁ…(すっとぼけ)

 

まあそんなことはどうでもいい。

私が用があるのは別の生徒…そう。

 

「白洲アズサ。君と話したいことがある」

 

「…?私に?」

 

「そうだ。先生、少しばかり彼女を借りるぞ」

 

「…変なこと吹き込んじゃダメだよ」

 

私をなんだと思っているんだ、失礼な。

私も流石にこんな無垢な少女にあること無いこと吹き込んだりはしないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…私に聞きたいことって?」

 

「……………アリウス分校、君の知っている範囲で構わない。

それらについて教えてほしい」

 

「…っ」

 

途端に表情が苦いものへと変わった。

無理もない。私がかつて先生(プレイヤー)だった頃画面越しに聞いた話でも顔を顰めた程だ。

 

それを直接味わってきたであろうアズサや…その近くにいた彼女達(・・・)の痛みは計り知れない。

 

「…それを知って…いったいどうするつもり」

 

「どうもしない。ただ、彼女らが依然脅威として残っているのは事実だ。

対策を取れるように知っておくに越したことはないだろう」

 

「…?でも、ミカとアリウスの転覆計画は失敗に終わって…」

 

「そうだな。その節は見事だったよ。

…だが、それで終わりだと思うか?」

 

「?」

 

「『恨み』とは雑草のようなものだ。

たとえ表面を取り払い美しく取り繕っても、そこに『根』が残っている限りまた何度でも現れる。

…心当たりはあるか、白洲アズサ」

 

「………」

 

図星か。

所詮推測に過ぎないが、アリウスに居た頃のアズサならばこの程度の質問に顔色一つ変えることは無かったのだろう。

 

補習授業部の面々や先生と接したことで、随分と丸くなったようだ。

まあ、それはむしろ良いことなのだろうが…

 

「………判った。でも、私も全部を知っているわけじゃない。

あまり、過度な期待はしないで」

 

「構わない。情報を貰えるだけでもありがたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻った」

 

「アズサ!大丈夫!?変なことされてない!?」

 

「…先生。私はそんなに嫌われているのか」

 

「まあ…その…やっぱり、トリニティとゲヘナの軋轢的なもの、なのかなぁ…」

 

と、目を泳がせながら先生が申しております。

説得力/Zero。

 

しかし、なぜこうも…下江コハルが元々正義実現委員会の部員ということを鑑みても、ここまでとは…

そこまで嫌われるようなことなど、した覚えがない……

 

「「………」」

 

ヒフミとコハルがなぜかこちらを見ている。

…そろそろ私も邪魔になりそうだな

 

 

 

「では、私も失礼させてもらう。今後も個人的に応援している」

 

「え、あ、ありがとうございます…?」

 

 

「…先生、少し話があるので後でシャーレに伺う。

時間を貰えるか」

 

「…分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティでの目的は完遂した。

後は立ち去るのみ…なのだが。

 

その途中、校舎の影で複数の少女が一人の少女を恫喝している様…所詮イジメを目撃したのだ。

 

…私は別段『正義の味方』になるつもりもないし、特に助ける理由もないが…

 

…仕方がないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、それで、突然剣?が飛んできたんです…」

 

エデン条約から数日後。

彼女(・・)に助けられたという少女は語る。

 

「それで一人がふっ飛ばされて…でも、すぐに立ち上がったんですけど。

そしたら案の定、彼女達、凄く怒って」

 

『いきなり何するの!!?

…って、貴女その校章は…!』

 

『なっ…どうしてゲヘナの生徒がここに!?』

 

『いきなり投剣なんて…やはりゲヘナの人間は野蛮人ですわね!格が知れるわ!』

 

『…先程までの諸君らの行動を振り返ってみてほしいものだな。

それこそ優雅、美麗、高潔からかけ離れた行いだったと思うがね。

…それとも、私の眼が狂っているだけであれがトリニティのあるべき姿だと?だとしたら、随分と哀れだな』

 

『…っ!黙りなさい!!』

 

『あっ、ちょっ…!』

 

「彼女達、さっき以上に怒ってとうとう銃を発砲したんです。

でも、そのゲヘナ生…さっき投げた剣を両手に持って、銃弾を全部撃ち落としてしまったんですよ」

 

『…な、なん、ですって…!?』

 

『ば、化け物…!?』

 

『ま、マグレよあんなの!さっさとリロード゛ッ゛

 

「…一瞬でしたよ。一人は頭を掴んで地面に叩きつけられて、一人は回し蹴りで校舎の壁にめり込まされて、もう一人は首と腹に三発ずつ拳を叩き込んで気絶…で、そのままその三人を連れていきました。

一応、私も…助けられたので、お礼ぐらい言おうとしたのですけど…」

 

『礼など不要だ。ゲヘナ生徒に頭など下げればそれこそ悪い意味で注目のマトだろう。

私もそんなものはゴメンだ』

 

『で、でも助けていただいたのに…』

 

『…此の世界でまともな思考は命取りだ』

 

『え?』

 

『そもそもこの世界は根幹から破綻している(・・・・・・)

そんな中で常識や良識など足枷になるだけだ

 

いっそもっと馬鹿になってみると良い。

そうすれば、こんな連中にも舐められないだろうさ』

 

「で…結局、その人はそのまま立ち去ったんですけど。

 

…え?連れて行かれた生徒は…ああ、その…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご丁寧に身ぐるみを剥がれた上に、大事な部分に私を恫喝してた時の写真を貼り付けられて磔に…

 

ええ、アレ確か聖人の絵画を元にしてたと思うんですけど…

あと、脚に紅茶を垂らされてて…それで、その…えーと。

一部の生徒からはそういうこと(・・・・・・)と勘違いされたみたいで…アハハ」

 

と、少女は遠い目をして語った。

 

ちなみに、たまたま近くを通った桐藤ナギサが少女の『アハハ』に反応して失神したのだが…それは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。シャーレ。

 

 

「失礼する。時間を取らせて済まない、先生」

 

「構わないよ。それで、一体なんの用事なの?」

 

「…先生、ヒナには会ったか?」

 

「うん、会ったよ。そういえば、今回のエデン条約調印で引退するんだっけ?」

 

「そうだな。ヒナもようやく重い荷物を一つ下ろせるわけだ

まあ、今後の引き継ぎなどでしばらくはまだ忙しくなりそうだがな」

 

「…まあ、確かにゲヘナは荒れてるもんね。

トリニティと友好を結べるなら、少しは治安維持も良い方向に持っていけないかなぁ…」

 

「…そういえば。先生、夏の間は随分ヒナと『お楽しみ』だったようだな」

 

「変な言い方するのやめようね。

…まあ、結局ヒナを休ませることばっかり考えてほとんど構ってあげられなかったかな…」

 

「なら、大体のことが片付いた後はこれまで以上に構ってやらなければな、先生?

ヒナも重役仕事が無くなれば本格的に将来(・・)の事も考えねばならないのだからな」

 

「…将来、かあ。

先生の立場で言うのも何だけど、全然見えないなあ」

 

「フ…先生のことだ。どうせ動けなくなるまで生徒のために奔走し続ける毎日を送るのだろう?」

 

「う………」

 

否定できない。

実際自分は生徒の問題に関わり続けているし、それで大変な目にあったこともしばしばだ。

 

「まあ、それが先生という人間の在り方ならば、否定はしない。

だが、無茶がすぎると生徒からも厳しいお叱りを喰らうぞ?」

 

「…そうだね。でも、それでもきっと私は変わらないよ」

 

「………それは、貴方が『先生』だからか?『大人』だからか?」

 

「……………そうとも言えるし、そうじゃないとも言える、かな。

 

これは多分、私という『人間』の根幹がそうなんだと思うんだ」

 

「……………ああ、そうか。

なら、安心した」

 

「…?」

 

シエルは柔らかな笑みを浮かべて椅子から立ち上がると、「時間を取らせて済まなかった」と言って出口に向かう。

送っていこうとしたのだが、心配することはない、むしろ貴方は休めと言われてしまった。

 

 

 

「…先生、最後に少し質問をさせてもらいたい」

 

「ん?」

 

「もしも生徒が…貴方と面識のない子供たちが途方もない間違いを犯してしまったとしたら、貴方はどうする?」

 

「…そのときは、絶対に止めるよ。

これ以上、間違った道に進まないように、その先を生き続けられるように」

 

 

 

「…では、質問を少し変えよう

 

 

 

 

もしその生徒たちに未来など無い(・・・・・・)としたら、やり直す時間など無いとしたら、貴方はどうするつもりだ」

 

「…………」

 

とても、難しい質問だった。

…でも、それでも。

 

「それでも、最期まで私は向き合い続けるよ。

どんな事があっても…悔いの残らないように。」

 

「…そうか。

ありがとう。では、失礼するよ」

 

「…うん。気をつけてね」

 

『なぜ急にそんな質問を?』とは、聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしその生徒たちに未来など無い(・・・・・・)としたら、やり直す時間など無いとしたら

 

私はこの言葉を、ずっと先で思い出すことになる。

 

 

―――――――エデン条約まで、あと2日。

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