愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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エデン条約編第四話です。


23話

エデン条約、調印式当日。

 

私は風紀委員会の予定の時刻よりも数時間早く戦闘準備を終え、配置についていた。

 

理由は一つ。

 

 

 

――――――――巡航ミサイル。

 

探求者を名乗る異物達(ゲマトリア)よりアリウスへと渡った、キヴォトスにおいても作り得ない破壊兵器。

 

それをこの手で撃ち落とすためだ。

 

 

 

その為にエンジニア部の協力を得て、この槍を用意した。

 

 

『…ゲイ・ボルク、起動。

 

投擲による分解、及び再構築、マスターとして登録された『清川シエル』の呼びかけに反応した復帰機能、オールグリーン。

 

『発動レベル』を指定し、それに対応したシミュレーターを起動します。

レベルを選択して下さい』

 

 

「―――――突き穿つ死翔の槍(レベル2)

シミュレーターを起動する」

 

『『清川シエル(マスター)』のボイスを確認。

機械音声による複製や、本人の意志にそぐわぬ呼びかけではないと判断。

 

ゲイ・ボルクレベル2、『突き穿つ死翔の槍』を起動します』

 

 

…槍は問題なく起動した。

 

後は、巡航ミサイルの発射を待ち、ソレをこの槍で破壊するのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エル!シエルはどこですか!?

全くあの人は、今日はヒナ委員長の…!」

 

「アコ、何をしているの?」

 

「あっ、ヒナ委員長!シエルを見ませんでしたか!?

先に向かっているのかと連絡してみたらイオリもチナツも『こっちには居ない』と…!

 

全く、次期風紀委員長(・・・・・・・)としての自覚をもう少し持ってほしいものです…!」

 

「…シエルなら、別件で今日は休んでる。

数日前から連絡はされてた」

 

「………えっ」

 

「これで問題ない?

さあ、行きましょう」

 

「ま、待って下さい!今日はヒナ委員長の…」

 

「それはシエル(あの子)も分かってる。

…あの子がそういうタイプだってことは、私がよく知ってる」

 

「…………………………」

 

「さ、行きましょう。万魔殿の連中が用意した車なんて、気は進まないけど」

 

「……………ハイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『通功の古聖堂』には、トリニティゲヘナ両校の重役達が…あ!あそこにいらっしゃるのはシャーレの先生でしょうか!?

やはり重要なこの場に立ち会うようですね!是非ともインタビューを…』

 

「…マスター、ヒナさん達が車で出発したみたいですよ」

 

「………そうか」

 

ならば、まもなくアリウス(連中)も動き出すことだろう。

本格的に、ゲイ・ボルクを投擲する構えに入り、シミュレーターを改めて起動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーッ ビーッ ビーッ

 

 

『エラー発生。目標を補足しました。

補足の結果、対象はレベル2での破壊は不可能と判断(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…何?」

 

バカな。

槍の強度、私の膂力、それによる投擲による速度と威力。

それらをすべて持ってしても、あのミサイルを落とすには叶わないというのか?

 

…いや、落ち着け。そうしている間に、ミサイルは迫っているはずだ。

ならば…

 

「ゲイ・ボルク、レベル3。『貫き穿つ死翔の槍』を起動する」

 

二本の槍を一対として、動力部(しんぞう)を確実に穿つ『刺し穿つ死棘の槍』と破壊力を追求した本来の用途である『突き穿つ死翔の槍』を複合させた、ゲイ・ボルクの本来の持ち主(スカサハ)の宝具。

 

二本一対として放たなければならない都合上、一撃で両方の巡航ミサイルを破壊することは叶わないが、これならば…

 

 

 

 

ビーッ ビーッ ビーッ

 

 

『エラー発生。目標を補足しました。

補足の結果、対象はレベル3での破壊は不可能と判断(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「…は?」

 

馬鹿な。これでも不可能だと?

クー・フーリンの師であり、影の国の女王たるあの戦士の技でも撃ち落とすことは…イヤ違う。

 

理由はひとえに私にある(・・・・)

 

元々アレはキヴォトス外の人外達から提供されたもの。

キヴォトスの技術力とキヴォトス人の膂力だけでどうにかしようなど思い上がりだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ならば。

 

―――――――――――こちらもキヴォトス外の力を織り交ぜてしまえば良い。

 

「………レベル4、起動

 

 

 

 

『――――レベル4の起動を承認。リミッターを解除します』

 

 

 

その機械音声とともに、槍の表面から無数の棘が飛び出し(・・・・・・・・・)、私の右手を貫いた。

 

「ぐッ………!」

 

棘が私の血を吸い、カタカタと震え始める。

それと同時、私は投擲の構えを取った。

 

『――――レベル4の起動、確認。対象の破壊を可能と判断』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはもとより投擲する為のモノだった

 

狙えば必ず心臓を穿つ槍

 

躱すことなど出来ず、躱し続ける度に再度標的を襲う呪いの槍

 

それがゲイボルク、生涯一度たりとも敗北しなかった英雄の持つ破滅の槍

 

異端の血を織り交ぜ更に力を増したそれは、もはや並の強者であろうと防ぐことなど敵うまい

 

躱すことも出来ず、防ぐことも出来ない

――――故に必殺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その心臓、貰い受ける―――――!!」

 

 

 

身体が弓のように反り、貫かれ力の入らぬはずの掌をより強く握り、左脚に力を込め、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抉り穿つ(ゲイ)――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――――鏖殺の槍(ボルク)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

投げ放たれた槍は瞬き一つの間にマッハ6に到達。

 

 

朱い閃光が煌めき、現れた巨大な2つの巡航ミサイルがキヴォトスの空で大きな花火を咲かせるのは、時間をして2秒に満たなかった。

 

…が。

 

 

 

 

 

「ぐ…お…!!」

 

音も風も置き去りにして弾けた光を視認するや否や、全身に突風が激突する。

まずい、槍の投擲に八割方体力を持っていかれた今では、なす術無く吹き飛ばされ―――――――

 

 

 

 

「うっわぁあああああ!?

どうなってるんですかマスター!!こんなの台風でもそうそう吹かないレベルの風ですよー!!」

 

と、セブンが実体化し支えてくれた。

助かった。やはり持つべきものは頼れる従僕か。

 

「マスター…?失礼なこと考えてるんだったら、このまま安全ロープ無しの低空スカイハイ楽しませますよ?」

 

「……………」

 

悪かった。勘弁してくれ。

 

…と、いつもの軽口すら紡げない。

やれやれ、巡航ミサイルさえ破壊できれば後はどうとでも…と思っていたが、事態はそう簡単でもないか。

 

 

 

 

 

 

…ようやく風が収まった。

さて、ここからアリウスを各個撃破するため動きたいところだが…緊急事態だ。

 

 

「…右手に力が入らない」

 

「えーーーーーっ!!

何やってるんですかマスター!!!片腕使えなくなったらわたしの武装ほとんど使えなくなるのマスターも分かってるでしょ!?」

 

そうは言ってもな。

私だってレベル2で抑えるつもりだったのに、レベル4じゃないと撃墜できないって言うんだモン。

 

とはいえ、片手でも使えないことはない。

戦闘に問題は無いだろう。

 

「…しかし、左腕一本では予定が狂うのはやむなしか。

少し時間を要するが…行くしかないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぐっ」

 

「ヒナ委員長、大丈夫ですか!?

手を…!」

 

「大丈夫…自分で出られる。

それよりも、状況を…」

 

「…分かりません。ですが、先程の爆発音といい、高速で何かが飛んでくるような音といい…何かしらの戦略兵器としか」

 

「…考えられるとしたら、巡航ミサイル。

それも、音からして対空防御システムが遅れるほどの速さ。

 

…でも」

 

おそらく、撃墜されたと言おうとして。

ヒナは言葉を止め振り向いた。

 

 

 

「あ、あうう…どうして、ミサイルが撃墜されたんですかぁ…!?

ヒナさん、思ったよりずっと元気そうですよ…!」

 

 

『………致し方無い。ヒナは出来得る限り足止めを最優先しろ。

アレ(・・)が確保出来るまで、ヒナをたどり着かせるな』

 

「りょ、了解です…!

え、えへへ、そ、そういうわけなので…」

 

「…退きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォオオオオオオオオオオン!!!

 

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

通功の古聖堂。

そこで行われていたエデン条約調印式…その最中。

 

突然耳の奥を激しく震わすような爆音が響いた。

 

 

それからほんの僅かに遅れ、大きな揺れが襲ってきた。

建物の内外問わず突風の音に混じって悲鳴が聞こえてくる。

 

揺れや轟音が収まると、建物の中がざわめき出す。

 

 

「…何だったんだ、今の」

 

思わず言葉が溢れる。

とにかく、状況を確認しよう。

 

「あっ、先生!?待って下さい、今動くのは…!」

 

「…ごめんヒナタ。でも、せめて外の状況だけでも…」

 

「……………分かりました。

ならせめて、私が同行することを許して下さい」

 

「うん、もちろん。

よろしくね、ヒナタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまずホールを出て、廊下に出る。ここから外を確認できれば…

 

 

 

…待て。いま視界の端に写ったものは何だ?

 

 

頭が2つ、身体は一つの偉業の木人形。

それはいい。何となく察しがつく。

 

問題は、その後だ。

 

ガスマスクを着け、完全に顔を隠した生徒。

髑髏と薔薇の校章。

 

…アリウス分校。ついこの間、自分が補習授業部と撃退したはずの…

 

 

「先生っ!!」

 

 

ヒナタが突然声を上げる。声の方向には、また別の…

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ…!?」

 

「ヒナタ!」

 

 

 

「…こちらチームⅢ。『先生』を発見した。

チームⅤは地下に侵入したことを確認したよ」

 

『…巡航ミサイルが撃墜されたのは流石に驚いたが、思わぬ収穫だな。

周りに生徒は?』

 

「一人」

 

『殺れ。

シャーレの先生は確実に障害になる。その場で排除しろ』

 

一つの確信にたどり着いた。

聖園ミカと結託し、トリニティに攻め込んだアリウスは尖兵に過ぎなかったのだと。

 

今、…己の目の前に居る少女達こそ、アリウスの本隊…!

 

「…」

 

「っ!」

 

黒いマスクを着けた少女と、その周りのガスマスクを着けた少女達。

その銃口が、一斉に自分に向けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

「…!?」

 

 

突然、アリウス生徒の一人が頭をノックバックさせて倒れる。

そして、さらに一人、また一人と倒れていく。

 

 

「先生!ご無事ですか!!」

 

「せ、先生…!」

 

「ツルギ、ハスミ…!」

 

「…ちっ。正義実現委員会が合流したか。

となると、この狙撃も…」

 

そうか、マシロが…と、その答えを示すようにハスミが「マシロからの連絡を受けてきてみれば…」と呟いた。

 

「貴方達は、アリウス分校…先程の爆発や一部倒壊した建物も、貴方達の仕業と見て良いのですね?」

 

「……………」

 

「…そうですか。

ならば、その償いをここで…!」

 

「ハスミ。…落ち着け」

 

「…っ。すみません、ツルギ。

今最優先とするのは…」

 

「…先生の避難、ですよね…」

 

「ヒナタ!大丈夫なの?」

 

「はい、まだ…私も、力添えを!」

 

 

「きひひっ、さぁ…

 

 

 

蹴散らしてやるぜ虫ケラ共!かかってきなァ!!」

 

「先生、指揮をお願いします!!」

 

 

 

平和のための条約を結ぶ場で、新たな火蓋が切って落とされた。

 

それは、果たして何のために。





書いたら思ったより長くなったのでもう少し話分けるゾ(ガバ作者)

ゆるして




抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

クー・フーリン オルタの宝具。
本来ならば崩壊していく肉体をルーン魔術で再生させながら半ば無理矢理放つというトンデモ宝具。

今作では少しばかりマイルドになった。
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