愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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また長くなりました、ゆるして

エデン条約編、第五話です


24話

「けひゃあああっ!!!」

 

「「「ぐあああっ!?」」」

 

剣先ツルギの二丁の散弾銃(ショットガン)から放たれた弾丸達が、複数のアリウス生徒達の肉体を捉え吹き飛ばす。

 

本来ならば散弾銃でこれほど吹き飛ぶことはいかにキヴォトス生徒といえど有りえないことなのだが、それを可能としているのはツルギ本人の力故か。

 

 

「調子に乗るなっ!!」

 

「ぎっ…きひゃあっ!!」

 

「うああっ!?」

 

 

アリウスもやられっぱなしで居るものかと言わんばかりに手にしていたサブマシンガンを至近距離で撃ち込む。

が、そんな特攻も剣先ツルギをほんの一瞬怯ませる程度の威力にしかならず、反撃の蹴りを喰らい吹き飛ばされた。

 

 

「どうしたァ!?てめぇら、その程度で私達をどうにかするつもりだったのかァ!?

笑わせんじゃねェぞ!!」

 

「ひっ…!?」

 

「こ、このっ…!!」

 

 

一人のアリウス生が懐に手を入れ、一つの爆弾を取り出す。

 

それは、とある異端者(ゲマトリア)の協力によって作られた凶器。

並の人間より遥かに頑丈なキヴォトス人の命すら奪う、ヘイローを破壊する爆弾。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

しかし、投げつけようとしたその手は狙撃手…羽川ハスミの銃撃により弾かれ。

 

「…そこ!」

 

宙に舞った爆弾もまた、正義実現委員会の狙撃手…静山マシロの銃撃により無意味な花火となった。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…」

 

アリウス部隊チームⅢの隊長格たる戒野ミサキは焦っていた。

まずそもそも、自分たちの作戦が初歩から躓いたことだ。

 

本来あの巡航ミサイルは、自分達の支配者たるマダム…ベアトリーチェを伝として渡ったキヴォトス外の技術力の代物。

 

キヴォトスの防衛システムでも撃墜できないほどの代物だった。

それをキヴォトスの特記戦力である空崎ヒナと、エデン条約

調印式の会場である通功の古聖堂に撃ち込む。

 

その混乱と爆撃で大幅に減った戦力を、自分達(アリウス)あの人形(・・・・)との契約によって現れるユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)で殲滅する。

そういう計画だった。

 

だが現状はこうだ。

 

 

 

撃ち落とせぬはずのミサイルは何者かの手により二機とも撃墜。

契約のために既に地下に秤アツコと人形が向かったにも関わらず、それから十数分経過した今でも聖徒会の複製(ミメシス)達は現れない。

 

 

加えて…本来大幅に数を減らすか、負傷により弱るはずだった戦力はほぼ全てがまともな状態で自分達と戦闘している。

 

自分達が弱いとは思っていない。

思うものか。あんな日々を過ごしてきた自分達が、弱いはずが無い。

 

だが、敵側の実力者…剣先ツルギ。

彼女を先頭として戦う正義実現委員会。

彼女らは予定の数倍厄介だった。

 

幾度弾丸を撃ち込もうと、いつの間にかその傷は治り再びこちらに向かってくる。

 

それを無力化しようと爆弾を取り出せば、二人の狙撃手に阻まれる。

そして、出来た隙をツルギが確実に突く。

 

…いくらキヴォトスの最前線で戦い続けているとはいえ、自分達とそう歳の変わらぬ少女達がこれ程の連携で自分たちを圧倒できるのか。

 

是とも言える。否とも言える。

 

…それを可能としているのは、必然的に。

 

 

「…やっぱり、厄介だね。『先生』の存在は」

 

先生()の指揮に他ならない。

いくら正義実現委員会の主力が揃っているとはいえ、人数や装備はこちらが上のはず。

 

先生の指揮は、それをあっさりと覆しているのだ。

 

このままでは…

 

 

 

 

「きえええええええええっ!!!」

 

「っ!もうここまで…!」

 

「死ねぇエエエエエエええええッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ?」

 

戒野ミサキの至近距離で放たれたツルギの散弾銃の弾丸は…突如現れた青白い聖職者服の何かに阻まれた。

 

 

 

「…ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の顕現を確認。

 

…人形との契約、上手く行ったんだね、アツコ」

 

「…何です、これは…人…?

 

ユスティナ、聖徒会…?」

 

「…あの姿、本で見たことがあります」

 

「シスターヒナタ、知っているのですか…?」

 

「…ユスティナ聖徒会。

 

数百年前に存在したシスターフッドの前身でもある、『戒律の守護者たち』…それが、どうしてここに!?」

 

「「「………」」」

 

人の形をした『それら』は、呆然とするツルギ…及び、その後ろに控える正義実現委員会らに銃口を向け発砲。

 

「ぎっ…けひゃあっ!!!」

 

それらを受けたツルギもまた銃口を複製達に向けて発砲。

強烈な攻撃を受けた複製のうち3体が霧散する…

 

 

…が、その直後。

 

霧散したはずの複製が、先程の倍の数顕現した。

 

「きひっ…!?」

 

「なっ、そんな…!?」

 

『…!ハスミ先輩!先生の後ろにも…!』

 

「なっ…!先生!!」

 

マシロからの通信。

 

先生の背後にはまたしても複製が数体、秒刻みで顕現していく。

 

「くっ、こっちにも…!」

 

 

 

 

「…形勢逆転。

最初は焦ったけど…こうなったら、あとは殲滅戦だね」

 

「くっ…!」

 

「うう…どうにか、先生だけでも…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、耳を割くような轟音。

 

無数とすら錯覚する弾丸達に、ユスティナ聖徒会の複製達は一瞬のうちに数十体が霧散した。

 

 

 

「先生っ!!」

 

「…ヒナ?」

 

「ご無事ですか!?というか、無事でないと困るのですが!!」

 

「ゲヘナ、風紀委員会…なぜここに?」

 

「走ってきたんです!先生は私達で逃がします!こちらに!!」

 

 

 

「…ヒヨリ、ヒナを止められなかった?」

 

「うう、すみません…やっぱりヒナさん、思ってた以上に元気で…聖徒会の複製も顕現が間に合わなくて…」

 

 

 

「…正義実現委員会!先生をこっちに!!

風紀委員会ができるだけ安全を確保できるところまで護衛する!!時間がない!」

 

「…分かりました。

 

正義実現委員会!今はこの場で敵の足止めに専念します!!」

 

「…行ってください、先生。退路は私達が守ります」

 

『敵は誰一人として先生の元に向かわせません!』

 

「ハスミ、ツルギ、マシロ…でも…」

 

「現在、トリニティゲヘナ両校は混乱状態にあります。

これでもし、先生まで失うことになれば、本当に手遅れになってしまう…」

 

 

「先生!こっちに!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…皆、ここを頼んだよ!!」

 

「…お任せを。

 

風紀委員長……!先生を、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…任せて。

アコ、イオリとチナツは?」

 

「先程連絡済みです!間もなくこちらに…っ!!」

 

逃亡を図る先生達の真正面に、またしてもユスティナ聖徒会が顕現する。

1体、2体、5体、10体…青白い聖職者の亡霊が、波のように押し寄せる。

 

 

ダァンッ!!

 

「銀鏡イオリ、及び風紀委員会、合流した…!

 

取り敢えず撃ったけど、何なの、コレ…」

 

「今は、そんな事を考えている暇も無いかと…!」

 

「イオリ、チナツ…風紀委員会の皆も、無事で良かった」

 

「あのなぁ!先生がソレ言うのか!?

真っ先に外に飛び出してったときは背筋がどんなに寒くなったか…その後もトリニティが突っかかってくるし、万魔殿もうるさく連絡してくるし…!」

 

「愚痴は後にしなさい!!今はサッサと先生を逃がしますよ!!

風紀委員会総員、先生の防衛を最優先事項に!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲヘナ風紀委員会が先生を連れ、古聖堂を離れて数分後…

 

 

「………」

 

「…アツコ、出てきたんだね」

 

「………(スッ、ススッ…)」

 

「…ごめん、先生は取り逃がした。

正義実現委員会もほぼ健在だし、予想以上に計画が狂ってる…」

 

「………」

 

「…そうだね。

 

アリウス部隊。この場はユスティナ聖徒会の複製達に抑えさせる。

私達は先生を追撃するよ」

 

 

 

「っ、待ちなさい!くっ…!」

 

「けひ、ぎっ…!」

 

『くっ、倒しても倒しても数が減らない…!!』

 

「それどころか、どんどん増えていって…!」

 

先生を逃がすための時間稼ぎ。

しかし如何にキヴォトスで一二を争う実力者の集まりである正義実現委員会でも、無限に湧き出る敵達には防戦一方とならざるを得なかった。

 

その結果、アリウスの本隊はその場を離れ、先生の追撃へ。

 

今度はユスティナ聖徒会の複製により、こちらが足止めを喰らうこととなった。

 

「…っ、もうアリウスの姿が…!」

 

『はぁっ、もう、弾丸も数が…』

 

「げへぁ……」

 

さすがの精鋭達も、もはや体力も戦力も底をつきかけていた。

しかし、こればかりは相手が悪い。

 

いくら撃ち倒そうと無限に現れ、その上武装に限りはない。

人でない以上、体力という概念すら存在していないのだ。

 

仮にも『人』の分類に収まっている以上、キヴォトス人でも勝ち筋はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――見つけた。

 

 

 

 

青白い亡霊の群れの中に、一つの金の閃光が走った。

 

亡霊達に相対していた正義実現委員会の前でその光は停止し…その姿を遅れてきた暴風とともに晒す。

 

 

「…っ!?貴女は…?」

 

それは、異端の少女。

 

白いワンピースに美しい金髪(ブロンドヘア)、澄み切った蒼い瞳。

そして、鋭く尖った耳。

 

しかし、その頭上に天輪(ヘイロー)はない。

 

その両の手には、二本の十字架を模したサーベル。

 

 

 

 

そして、少女の姿を確認して数秒、ユスティナ聖徒会の複製達の約十数が霧散した。

 

「…!まさか、先程のアレで…!?」

 

『でも、それでもすぐに…アレ?』

 

「………顕現、しない?」

 

 

何故か、複製達は現れない。

残った数十体は…動かない。

 

しかし、先程と違うのは。

 

 

(…………震えている、のですか?

あの、金髪の少女に?あの複製達が?)

 

 

聖徒会の複製達は、金髪の少女を見据え、震えて動こうとしない。

先程の機械のような立ち振る舞いとは売って変わり、まるで人間らしいそれであった。

 

「…あの、貴女は」

 

 

「…見つけたァ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたァァァッッッ!!!!」

 

 

「「「『!?』」」」

 

少女は表情を悍ましい憎悪の色に変え、複製達に向かい駆け出す。

咄嗟に構えた複製の銃を腕ごと切断し、もう片方の剣で脳天から真っ二つに切断した。

 

更に流れるようにまた一体、一体と次々と複製を切り刻んでいく。

 

 

 

ダァンッ!!

 

「がッ………」

 

「なっ、あの娘…血が(・・)……!」

 

ハスミの驚きようは、キヴォトス人ならば最もである。

銃弾を受けても痛い程度で済み、爆撃を受けても大した負傷にならないキヴォトス人。

 

だが、あの金髪の少女は違う。

撃たれた箇所は出血し、血が垂れ流れる。

 

それは、彼女がキヴォトス外の人間…『先生』と同程度の防御力しか持っていないという証明となった。

 

 

 

 

「痛ったぁ………なんちゃってェ!!!」

 

しかし金髪の少女はほんの少し怯んだ程度。

再び憎悪の表情で複製達を切り刻み始める。

 

「ほら死ね!!すぐ死ね!!サッサと死ね!!

 

スーパー懺悔タイムの始まりだァ!!!!

産まれてきたことごめんなさいしながら苦しんで死ね…あら?」

 

数十体居た複製を残り数体まで追い込んだ少女は、突然なにかに気づいて動きを止めた。

…そして、「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」と、先程と打って変わってすっとぼけた声を上げ。

 

 

「何ですかコレは!?こいつら本物(・・)じゃないじゃん!!

うわーん騙したなーー!!マスターのバカ!!鬼畜シスター!!

妖怪外道カレー!!」

 

「………?」

 

「ああもう、やる気失くした!!マスターに文句言いに行ってやるーーー!!!」

 

「えっ、ちょ…ちょっと待ってください!!!」

 

「んぇ…何ですか、おっぱいの大きいお姉さん?」

 

「は、はい………………………?

 

って、それはいいんです!それよりも、貴女、出血が…!」

 

「…あ、そういえば。えっと、ちょっと待ってくださいね!

 

ううーん…!!!」

 

少女は何故か力を込めて踏ん張り始める。

すると、少女の傷口から流れていた血が止まり…

 

 

 

「…!?傷が、塞がって…!?」

 

「…ふう、これでよーし!!じゃ、わたしもう行きますね?

…あ、ソレと。ユスティナ聖徒会(そいつら)、その剣で刺してやったらもうこの場には出てきませんよ!それじゃ!」

 

…少女はまたしても、金の閃光となって何処かに飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

「何なんだ、こいつら…!倒しても倒しても出てくる…!」

 

一方、ゲヘナ風紀委員会。

 

耐えること無く現れ続ける複製達に、彼女らもまた苦戦を強いられていた。

 

「退路を開こうとすれば次々現れ、別のルートを使おうとすればそこを塞がれる…どうなっているんですか…?」

 

「泣き言は後にしなさい!!

相手が物量押しならこちらは質です!」

 

「そ、そうは言われても、行政官…!」

 

「あいつらどんどん数が増えて…!しかも普通のやつじゃなくて、何か大きなヤツが…!」

 

「ああもう、言ってるそばから…ッ!?

新たに敵反応です!これは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ようやく追いついた。複製での足止めが効いたみたいだね」

 

「………」

 

「アリウス、分校…ううん、アリウススクワッド、かな」

 

 

「…そうだ。ようやく会えたな、シャーレの先生」

 

先程古聖堂で出会った少女…戒野ミサキと秤アツコとは別の声が、自分たちの背後から(・・・・・・・・・)聞こえた。

そこには新たなアリウス生徒が二人。

 

…錠前サオリと槌永ヒヨリが、複製達の間を縫って前に立った。

 

「え、えへへ、ヒナさん、アコさん、また会いましたねぇ…」

 

「!さっきの…!本当にしつこいですね…!」

 

 

 

「…巡航ミサイルが落とされ、正義実現委員会も風紀委員会も健在。

油断を許さない状況ではあるが、戦況はこちらに傾いているのも事実か」

 

「…君達が、アリウススクワッド…なんだよね?」

 

「…ああ、そうだ。私達が『アリウススクワッド』。

ようやく会えたな、先生」

 

「………」

 

「アズサが世話になったと聞いている。あいつにも後で会いに行く予定だ

…その前に、お前達を片付けさせてもらう」

 

「随分と自信満々に話すのですね。『はいそうですか』と片付けられるとでも?」

 

「…天雨アコか。

今この状況を見て、まだそんな口がきけるとはな。

 

………我々はトリニティに代わり、『通功の古聖堂』で条約に調印した」

 

「……条約?調印?何言ってんだ?」

 

「私達アリウススクワッドが、楽園の名の下に条約を守護する新たな武装集団…「エデン条約機構(ETO)」になったということだ」

 

「なっ…!」

 

「…!」

 

 

「コレは元々、私達の義務だった。本来ならば第一回公会議の時点で、私達アリウスが行使すべき当然の権利。

だがそれを、トリニティが踏みにじった。私達を紛争の原因…即ち「鎮圧対象」として定義し、弾圧を行った。

 

………これからはアリウススクワッド(我々)エデン条約機構(ETO)としての権限を行使し、「鎮圧対象」を定義し直す。

 

もとより敵であったゲヘナ、そして我等を踏みにじったトリニティ。

この両校こそエデン条約に反する紛争要素であり、排除すべき対象だ」

 

「それは、つまり」

 

トリニティとゲヘナを、キヴォトスから消し去る、文字通りに。

…この、条約の戒律。その守護者達と共にな」

 

 

 

「「「………」」」

 

「黙って聞いてれば…何勝手なことばかり言ってるんだ!」

 

「そうです、貴女達の今の行いはただのテロリストのそれです!

それを、さも当然の行いのように…!」

 

イオリとチナツは怒りを顕に、アリウスの少女達に反論する。

 

…が、戒律の守護者達は、それを許さない。

 

 

「うわっ!?」

 

「くっ…!?」

 

「…貴様らが何を喚こうと、我々が条約に、戒律に認められた事実は何ら変わらない。

貴様らは我々が第一回公会議以来、数百年に渡って積み上げられてきた恨み…我らの憎悪を確認することになるだろう。

 

…お前達は、その幕開きとなるのだ、ゲヘナ風紀委員会」

 

 

サオリがそう言い終わるとともに、戒律の守護者達が歩みを始める。

2方向から挟み撃ち。加えて味方は戦意も武装もほぼ底を尽きかけている。

 

もはや、敗色濃厚という状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――『告げる(セット)』」

 

 

どこからか聞こえたその声に呼応し、守護者達のもとに十字架の剣が降り注ぐ。

 

…銃弾でもそうそう倒れぬ守護者達は、その剣の一撃で呆気なく霧散した。

 

「…何?」

 

驚きのあまり、思わずそう一言漏らしたアリウス生徒…錠前サオリの上空を、一つの人影が通り抜けた。

 

その影は、自分たちを阻むようにゲヘナ風紀委員会の前に立つ。

…彼女が身に纏うロングコートにもまた、ゲヘナの校章が刻まれていた。

 

 

 

「無尽蔵の敵が相手とはいえ、酷い有り様だな。

ゲヘナの秩序維持組織の名が泣くというものだ」

 

 

降りてきた少女は、早々に皮肉めいた口をきく。

…それは、彼女を最もよく知る空崎ヒナが、幾度となく聞いてきた声。

 

 

 

「――――――シエル」

 

 

その顔は、あいも変わらず不敵な笑み。

 

…しかし、その夜の帳のように黒く塗られた瞳の奥には、確かな憤怒の炎が揺らめいていた。






長え

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