エデン条約編、第六話です。
今回はちょっとショッキングです
あと戦闘描写ヘタクソなので許して…許して…
「…清川、シエル」
錠前サオリ…アリウススクワッドは、その名に覚えがあった。
ゲヘナ風紀委員会の一員にして、警戒すべき生徒の一人。
だが、彼女のことはさしたる脅威ではないと、どこかそう思っていたことも事実だった。
所詮ゲヘナ風紀委員会など空崎ヒナ以外は一般生徒に毛が生えた程度の実力しか無いと。
空崎ヒナさえ無力化してしまえば、後は殲滅戦に持ち込めると。
どこか、そう思っていた。
…しかし、今まで生きるか死ぬかの世界で生きてきたアリウス生徒達の本能は、その様な甘い考えを打ち壊した。
目の前に現れたその少女は、空崎ヒナ…それと同等の危険因子であると。
ヒナのみならず、彼女もまた優先し始末する対象に数えるべきだったと。
そう確信した。
「お初にお目にかかる、アリウス分校…
いや、それともアリウススクワッドと呼ぶべきか?
ゲヘナ学園風紀委員長代行、清川シエルだ」
「………敵を眼前に呑気に自己紹介とは。
ゲヘナの重鎮とは思えないな」
「そう言うな。会話を円滑にするためにも身分をある程度明かすのは基本だ。
出来るならばお前達の話も聞かせてもらいたいが…」
「貴様らに聞かせる話など無い。どうしても聞きたいというのなら、地獄でお前の共柄と存分に話してこい」
「………随分と嫌われているな、私は」
「………」
空崎ヒナは、ただその場を大人しく見ていた。
その隙をついてアリウスを撃てばいいのに、先生を逃がせばいいのに。
何故か身体は、その思考を実行に移そうとしない。
…それとも
彼女が地面に降り立ったとき、一瞬見えた彼女の顔。
それが、自分が知っている『清川シエル』という存在とあまりにも乖離していたから。
「…なあ、シエルの右手…なんかおかしくないか?」
自分の隣に立っていたイオリが呟く。
彼女の表情に呆気にとられていたからか、身体の方に目を向けていなかった事実に今更気づいた。
件の右手に目を向けると、下に向かって垂れていた。
…掌には、普段つけていない革の手袋と、その隙間からは朱く染まった包帯が見え隠れしている。
「…シエル、まさか負傷しているのですか!?
そんな状態でこんな所まで来たと言うんですか、あの子は…!」
「…シエル」
同じくシエルの異常に気づいたのであろう。
先生とアコもまた、シエルに対して苦い表情を浮かべ言葉を溢す。
…しかし、彼女は、
「――――――アレは、そんな生易しい状態ではないです」
「…チナツ?」
火宮チナツは、この中で誰よりも顔色を蒼く染め、驚愕に打ち震えながらそう言葉を紡ぐ。
「本来なら、手を使っていない状態でもある程度力を込められるよう、多少なりと構えを取るはずなんです。
でも見てください。
…シエルの右手は、明らかに
恐らく、筋繊維が切れているか、神経に異常をきたしているか…」
「………嘘」
それが事実だとするのなら、一体どれほどの苦痛だろう。
ここに来るまで処置を施した結果があれだとして、その時点でどれだけ痛かったのだろう、どれだけ苦しかったのだろう。
…なのに、なぜ。
「………ユスティナ聖徒会の
…清川シエル。貴様、一体この場に何を施した」
「何の話だろうか?」
「シラを切るつもりか?
先程複製達を撃ち抜いた十字剣…あれが現状、キヴォトスでお前のみが所持、使用しているものであることは把握済みだ。
…空崎ヒナや剣先ツルギが銃で撃ち抜こうと即時顕現する複製が、ただの剣で貫かれただけで現れなくなるというのは不可解以外の何物でもない
………お前が何かしらの細工を施したと考えるのが道理だろう」
「フ。私はしがないゲヘナ生徒の一人だ。
異能人でもあるまいし、そのようなことが出来るとでも?」
「……………まあいい。この際、それは大した問題ではないだろう
…お前をこの場で始末すればいいだけの話だ」
その声と共に、残ったアリウス生徒がシエルに、そしてその後ろのヒナや先生達に銃口を向ける。
「クッ、そうだ。
こっちにも居たんだ…!」
「………!」
「…突然の介入には驚かされたが、どのみち戦力差は変わらない。
お前が実力者であることもまた確かな事実なのだろうな、清川シエル。
…だが、たった一人。それも、その右腕は使い物にならない。
そんな貴様に何が出来る」
「お前達を鎮圧するくらいは出来るだろう」
―――――――余りにも。
当然のことのように、その手札など持っていないかのように。
それが真実であるかのように、その少女は答えてみせた。
…錠前サオリは、ふぅ、と一息を漏らし、
「…自分を客観的に見ることができないようだな。
そんな状態で、お前たった一人が加わった所で、戦況を覆せるだと?
――――――傲慢も程々にしろ」
と、怒気を孕んだ声で自らもまた銃口を向けるサオリ。
数秒の静寂が広がり、それを打ち壊すように彼女は引き金に指を掛け―――――――
ズドォンッ!!!
「「「ぐわあああああああああああああっ!!!?!?」」」
「…な、んだ?」
「―――――――来たか」
『こ、こちらチームⅤ!
て、敵が、敵が現れて…!!』
「数は?」
『そ、それがたったのぎゃあああっ!?』
その断末魔を最後に、通信機からの声が途切れ、またしても土煙が上がる。
その土煙は、音を上げるたびに自分達に近づき…
「…アツコ、こっち」
「………」
思わず、戒野ミサキと秤アツコ。
及び彼女達のチームのアリウス生徒数名が先生たちを素通りし離れざるを得ない状況まで追い込んだ。
「ま〜〜〜〜〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜〜〜〜〜タぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???
聞いてた話と違うんですけどぉ?
張り切ってお仕事に来たのに、目的のものの皮を被った模造品しかなかったんですけどぉ?
どうしてくれるんですかぁ?」
「な…なんだ、アイツ?
アイツが、あのアリウス達をぶっ飛ばしたのか?」
「というか…何です、アレ、剣…?」
土煙の中から現れたのは、自身の身の丈の3倍もある巨大な蛇腹剣を肩に担ぎ、怒気をはらんだ笑顔を浮かべた金髪の少女だった。
それは先生たちには目もくれず、足をドスドスと踏み鳴らしながらマスター…シエルの前まで歩き、停止した。
「そう気を悪くするなセブン。
『ユスティナ聖徒会』は確かに居ただろう?」
「ええ、居ましたね?
生気もない肉体もないただの力の塊の
でもマスターは如何にも本物が居るかのような言い方をしてくれましたよね!?」
「嘘は言ってないだろう?」
「『言ってないだけ』ですよね!?!?
如何にも私を騙して乗せるために複製であることは言ってませんでしたよね!!?!?!?!?」
「そんなつもりはないが?
被害妄想も大概にしたほうが良いな」
「自分の普段の言動をもう少し顧みたら良いんじゃないですか????
そう思われても仕方ないことばっかりしてますよね?????????」
―――――――何やってんだあいつら。
思わず、そんな感情を抱かずにはいられない会話がこの場で繰り広げられている。
「おい…何だお前達。ふざけているのか」
「敵を目の前に呑気なものだ………死にたいようだな」
アリウスの生徒が思わずそう漏らし、銃口を改めて構える。
が、シエルはそれでも不敵な笑みを浮かべ
「そう急くな。どうせ後はただの掃討戦だ。
「――――――――――は?」
それは、誰の言葉だったか。
先生か、その傍らのゲヘナ風紀委員会の誰かだったが、あるいは…アリウス生徒の誰かか。
「………愚者?それは、誰のことを言っている」
「この場においてその様な言葉を関するに相応しいものが、お前達以外に存在するとでも?アリウス諸君」
「何を…何を持って私達を愚者と謗る!
かつて、私達からすべてを奪った貴様らが!!」
「………「
それがお前たちの教義であったな、アリウス
だが、それこそがお前達を愚者たらしめている何よりの証明だ」
「………?」
「全てが虚しいものであると語りながら、お前達はさも己の行いが正当なものであるかのように動いている。
それも、己のものではない、数百年も前の復讐のために」
「………!」
「他者には虚しさを説きながら、自らの行いは真っ当なような理由をつけて正当化し、さも意味があるかのように演出して見せる。
これが愚かと呼ばずに何だというのだ」
「……れ」
「お前達に教えておいてやろう。
―――――無価値な物はあるが、無意味な物などない。
お前達の愚かしい行いにすら、神は理由を与えるのだ」
「…まれ」
「我ら人に出来るのは、常に己の行いを是とすることだけだ。
たとえそれが真に虚しい、その先に何も残らぬ愚かな行い………
――――――くだらない復讐であろうともな」
「黙れッ!!!」
そのサオリの激昂とともに、銃弾がシエルに雨霰の如く撃ち込まれる。
いくら頑丈なキヴォトス人だとしても、幾度となく弾丸を撃ち込まれ続ければ
…だが案ずることはない。
そもそも弾丸は私に到達することすら無いのだから。
「っ、弾切れか…!次を」
「なぁ…何か、おかしくないか」
「は?可笑しいって…」
「だって、もうこれだけ撃ってるのに…あいつ、微動だにしてない…」
やがて、不可解に思ったアリウス生徒が一人、また一人と撃つ手を止めていく。
そして、銃弾と粉塵で見えなかったシエルの姿が現れた。
「……………なんだ、それは」
シエルは常日頃身に纏っているロングコートを脱ぎ捨て、脚にロングブーツのような脚部装甲が纏われていた。
しかし、問題はそこではなかった。
数多撃ち込まれていたアリウスの銃弾は、シエルに接触すること無く弾かれていたのだ。
「―――――――――第七聖典。第六死因・
纏うものが衰弱死するまで死に至る概念を払い除ける概念武装」
「第七、聖典?概念武装だと…?」
「お前達が理解する必要はない。
語った所で理解できるとも思わん
ただ…この力は、お前たちを埋葬する」
断言したシエルの左手に巨大なアサルトライフルが出現する。
「―――――――第一死因・
その銃口をアリウス達に向け、引き金を引く。
「…っ!」
「ぐあっ!?」「がっ!?」「ぎゃあ!!?」
本能的に危険を感じ取ったサオリ、アツコ、ミサキ、ヒヨリは咄嗟にその弾丸を回避。
が、対応の間に合わなかったアリウス生徒の十数名が銃弾をまともに喰らった。
「――――――
アリウスの中心に一飛びし、そこで片足を軸に回転しながら発砲。
アリウス生徒達が中心から徐々に、渦巻きのように倒れていく。
「……………」
何だ。何だこれは。
何が起こっている。
数十名、数で圧倒的に上回っていた我等が。
あの地獄で藻掻き、足掻き続けてきた我等が。
たった一人。それも右腕の動かぬ負傷兵に…圧倒されている。
「ふざ…けるな…
そんな…そんなことが…あるものかッ!!」
中央で舞うその女に、サオリは自身のアサルトライフルを発砲。
しかし、それもまたシエルに辿り着く直前にナニカに阻まれ、落ちる。
「…第七の聖典。
神の名を騙るものを打ち払う為の物でありながら、神を犠牲にし産み出された矛盾。
人間の手で産み出された奇跡の産物。
…数百年前、ユスティナ聖徒会が作り出した人為聖遺物。
まさか、それを一介の生徒が手にしようとは…」
通功の古聖堂、その地下。
頭部が2つ、その身体は木人形という異形。
名をマエストロ。
――――――――清川シエルとアリウスの戦いを、彼は眺めていた。
「驚いたな。
ユスティナ聖徒会が産み出した当初、犠牲にされた少女と利用された神の怒りにより聖徒会の多くを討ち滅ぼし、その後姿を消していたアレが今になって現れようとは。
…そして、複製が現れないこともまた不可解だ。
先程あのシエルと呼ばれた少女は、キヴォトスの建物を飛び回りながらなにか細工を施していたようだが…」
「………“黒鍵”による擬似的な聖堂の形成。
“あってはならぬもの”を打ち払う力を応用した、封印結界によるものでしょう」
「…お前がここまで出てくるとは。
そこまでまずい状況ということか?
…ベアトリーチェ」
「…ええ。
…正直、あの生徒の存在は想定外でした。
異端祓いの聖遺物。何百年も前に歴史の影へと消えたはずの…我等の命すら脅かしかねない力…
元々ゲヘナやトリニティなど私の眼中にはありませんでしたが…計画を変更せざるを得ませんね」
赤い肌と幾数の目、白いドレスの女…ベアトリーチェは、その手に持った扇を指揮棒のようにはためかせ…口…と呼べるのかわからないそれを吊り上げた。
「…これで、再び複製は顕現できる。
アリウスの防壁も確保できますね」
「…ほう、アリウスを複製で庇うのか?」
「役に立たない猟犬など必要ない…ですが、私の計画のためにもアリウスにはもう少しばかり生きていてもらわなくては。
…特に
「……………」
「くっ…」
「形勢逆転だな、アリウス諸君」
シエルとアリウススクワッドの戦闘開始から数分。
アリウススクワッドはサオリ、アツコ、ミサキ、ヒヨリを残しほぼ全員がシエルによって倒されていた。
「さて、こちらとの力量差も分かってもらえたかと思いたい…加えて、次期に風紀委員会の予備戦力も到着することだろう。
今のうちに投降することを強く推奨するが?」
「…ふざ、けるな。
この程度で、勝った気でいるのか………!!」
「………憎悪もここまで来るとむしろ称賛にすら値するな。
しかし…心苦しいが、お前達も………………」
キィィィン。
「………?」
何だ。今聞こえた音は。
キィィィン。
少しずつ近づいている。この音は。
キィィィン―――――!!
「………
バカな。そんな事があるのか?
それとも、コレは私の招いた結果なのか?
…思考は後にしろ。
今は、ソレがどこに落下するのか、そして迎撃を………
その姿を視界に捉えた。
それは、だんだんと近づいている。
………………………
空を裂くような音が、より強く響く。
鼓膜を震わせ劈く音が、だんだんと近づく。
この状況で守るべきものなど、1つだった。
「第七聖典第六死因・
瞬間。
世界は真っ白に崩壊した。
「……………く、ぁ」
「ヒナ委員長、ご無事ですか!?」
「アコ…大丈夫。今、何が」
「…巡航ミサイルですよ。風紀委員長」
…いつの間にか目の前に立っている、シエルをマスターと呼んだ金髪の少女が私に語りかけた。
そうだ。
あの時、ほんの一瞬だけ見えた巡航ミサイル。
それが、今度は目の前に落ちてきた。
そして、私はその爆風に…
「…っ!先生は!」
「私はここ…傷一つないよ。
理由は…君が知ってるのかな?」
先生の姿を見つけた。
先生が無事だった。その事実に安堵した…のもつかの間。
「…ねえ、シエルは?」
イオリも居る、チナツも居る。
なら、シエルは?
私達の前でアリウスと戦い続けていた、あの子は?
「…マスターもなかなかにお人好しですよね。
それも底抜けの」
「………どういう意味」
「自分の為の準不死の鎧を、あなた達を守るための防壁として展開しちゃったんですから」
「…シエルは、今、どこ」
金髪の少女は視線を向ける。
その視線の先。
誰かが倒れている。
…足はあらぬ方向へと歪曲し、露出していた肌や髪は爆風でところどころ焼け焦げ。
その目は、普段の光なき瞳が優しく見えるほどに、虚ろだった。
…それは、もはや…
「……………シエル?」
亡骸だった。