愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

38 / 62
キリエ・エレイソン(お気に入り登録&UA&評価&誤字報告&感想ありがとうございます)


エデン条約編vol.4編…なのですが。
今作ではやりたいことを優先するため、大まかなストーリーはダイジェストでお送りします。


先生なら知ってるもんね…ね!(目そらし)


ゆるして


34話

 

 

―――――――――――暗い。くらい。クライ。

 

ここはどこだ。

何も見えない。

何も聞こえない。

 

手も足も、身体一つ動かない。

 

ただ、落ちる。沈む。

 

 

 

真っ暗などこかを、ひたすら、おちて、おちて、しずんで、しずんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲヘナ学園。

 

救急医療部 病棟

 

 

 

「…あ、ヒナ委員長。

お疲れ様です」

 

「そちらこそお疲れ様。

…それで、シエルは…まだ…」

 

「…はい。

相変わらずずっと昏睡状態で。

 

栄養点滴で必要なものはとれていますが………

 

このまま眠り続けると、肉体的な衰えも…」

 

 

「………そう」

 

 

 

 

 

 

また、眠っている彼女の元までやって来た。

点滴の管が真っ白なベッドとシーツの間から伸び、部屋の中は清潔を保つための消毒液の匂いで満たされている。

 

 

アリウスによるエデン条約襲撃から暫く経った。

幼馴染(シエル)は一定の呼吸を保ちつつ、身動き一つ無くシーツの形を綺麗に保ちながら、眠り続けている。

 

 

一体今風紀委員会がどれだけの業務に追われているのか、この子は分かっているのだろうか。

アリウスと裏で繋がっていた万魔殿(本人達は自分達も騙された被害者だと訴え続けているが)の問題行動の後始末、トリニティとの関係修復のための奔走、あいも変わらず問題が起こり続けるゲヘナ領内の治安維持。

 

それと、優しいシスター様が居なくて困り果ててるシエルの教会のお客様の対応、とか。

 

上げていけばキリがない。

問題行動が目立っていたこの子でも、居なければ困るとこんな事になって思い知らされるとは。

 

 

 

…シエルの手を握る。

 

 

 

そうして、暫く手を握って。

隣に座るでもなく、何かを側に置くでもなく。

 

握った手を離して、

 

 

「――――――――また、来るからね」

 

 

そう一言だけ。

そうして、部屋を後にする。

 

これが、最近の空崎ヒナの習慣。

先生も相変わらず忙しく、なかなか出会える時間も取れないことから、いつの間にかこうしてシエルの無事を確認することがルーティンとなっている。

 

 

 

 

―――――――まるで、それに縋っているかのように。

 

本人も知らぬうちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ここは、どこだ。

 

私は、誰だ。

 

何があって、こんなところでこんなことになっているんだ。

 

 

思い出せ。

私に、何があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は…

 

 

 

 

清川シエルだ。

 

 

 

何故こんなところにいる…

 

 

 

あの時飲み込まれたからだ。

 

 

 

 

飲み込まれた…

 

 

 

 

お前が余計な真似をするからだ。

 

 

 

 

 

 

余計な真似…

 

 

 

 

知ろうとするな。

 

 

 

 

何故そんな事を…

 

 

 

 

知ろうとするな。

 

 

 

 

何の権利があって…

 

 

 

 

 

知ろうとするな。

 

 

 

 

 

お前は

 

 

 

 

 

 

知ろうとするな

 

知ろうとするな

 

 

 

 

 

お前は…!

 

 

 

 

 

 

 

知ろうとするな知ろうとするな知ろうとするな知ろうとするな知ろうとするな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は誰だ!!」

 

 

…目が覚めた、のか?

だが、ここはどこだ?

あいも変わらず周囲は真っ暗な闇だ。

 

 

…自身の周りを手探りで捜索する。しかし、やはり手に何かドロドロとしたものが手に纏わりつくだけ。

 

 

…このままでは何も変わらない。少し身体が重いが…ひとまず立ちあがる。

 

…服もこの泥のような何かを吸っているのか、あるいは纏わり浸かれているのか。

とにかく立ち上がり、辛うじて動く両足で歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…歩いている最中。何枚か、絵画のようなものを目にした。

 

 

 

長い剣と短い剣を十字のように重ねた、黒い制服を纏った背の高い…胸元に黒い泥のようなものを塗られた少女騎士の絵。

慈母のような微笑みを浮かべた、白い制服を着た…しかし、その顔の半分に黒い泥のようなものを塗られていた絵。

快活剛毅を絵に書いたような、どこかで見覚えのある制服を着た、大柄な…前進に細やかな斑点のように、胸に大きく泥のようなものを塗られた少女の絵。

………どこかで見たような、水色の髪の少女の絵。

 

 

 

 

 

 

 

…水色の、髪

…水色の、髪?

水色の(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

何故水色だと分かる(・・・・・・・・・)

 

こんな、自身の姿すらろくに視認できないような空間の中で、何故絵の少女の髪の色を判別出来ているんだ?

 

他の絵に関してもそうだ。

 

 

何故こんな真っ暗闇の中で、制服の色や少女の姿や、泥の塗られている位置をハッキリと確認できる?

 

 

 

 

 

 

違う

 

 

見えているのではなく。

 

 

 

私はこれらを知っている(・・・・・)

 

 

 

 

何故知っている?

分からない。

 

 

どこで知った?

分からない。

 

私は

わたし(シエル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何を忘れている(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…せん、せい?

 

顔つきが違う。

服装も、違う。

 

だが、この絵は、

間違いなく、先生の絵だ。

 

 

 

 

なぜ?

何故先生の絵が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…光だ。

 

光が見える。

 

その光に向かって、走り出す。

泥で重い足を上げて。

纏わり付く泥を振り払って。

 

 

 

 

その光を目掛けて、ただ真っ直ぐに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そこにあったのは、一冊の本。

 

真っ暗な中で光輝く、一冊の本。

 

 

その本に駆け寄る。

 

 

 

先程の絵や、見える見えないの問題などもうどうでも良くなった。

この本を開いて、中を見れば良い。

そうすれば全て解決する。

 

そんな確信が、私の中にあった。

 

 

 

 

 

「やめておけ。後悔することになるぞ」

 

 

 

 

 

 

…誰だ

 

 

 

 

「わたしが誰かなど些末な問題であろう。その本を開くことのまずさに比べればな」

 

 

 

 

 

 

 

何を言っている

 

 

 

 

 

 

 

「その本を開けばお前は逃げられなくなるぞ。今度こそ縛り上げられる」

 

 

 

 

 

 

 

…だから。

さっきから、何を言っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いことは言わん。まだお前がキヴォトスを愛すというのなら…」

「何の話だと言っているのだ!!」

 

もういい。

誰とも知らぬ声に構っていられるか…!

 

 

 

本が泥で汚れることも厭わす、それを手に取る。

そして、その表紙を捲りあげ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

これは、何だ。

そこにあるのは、紛れもなく。

「…ああ、だから」

 

 

 

…そこに居たのは。

 

 

長く、蒼い髪。

獣のような、真紅の眼。

 

 

 

 

 

あまりにも、ちがう。

だが、そこに居たのは。

紛れもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめておけと言ったのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が開かれた。

 

我が身よ、顕現せよ。

我が力よ、氾濫せよ。

我が記憶よ、忘却せよ。

我が力よ、蒐集せよ。

我が命よ、生殖せよ。

我が姿よ、変生せよ。

 

 

 

人よ、者よ。

我が誕生を喝采せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類悪 覚醒

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。