愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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行き詰まった本編に、休息の外伝を。

というわけで
・孤児院にやってきていたのがヒナではなくナギサ様だったら
・シエルが執着していたのがナギサだったら

以上の前提から始まるifルートでございます。
本編とは特に関係はありませんので、ちょっとした気分転換としてお楽しみいただければ幸いでございます。



【ifルート】謎解きはティータイムのあとで(前)

 

―――――生まれる、前から、知っていたような。

 

そんな歌を知っていたような、あるいは知らなかったような。

いずれにせよ、あのとき自分を助けてくれたあの人を、私は追いかけた。

 

死にものぐるいの勉強と努力を重ね、勉学においても肉体労働においても自身の周りよりも数歩…いいや、数百歩は先を行ったという自負を持って、その名門のトビラを叩いた。

 

 

『私を、ここで雇ってはいただけませんでしょうか』

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

それから数年の月日が経ち。

トリニティ総合学園、ティーパーティーのテラス…

 

その場所で二人の人物が何かを話していた。

一人はこの学園都市キヴォトスにおいて現在ほぼ唯一と言って良い『先生』と呼ばれる男性。

そしてもう一人はこのトリニティ総合学園において生徒会に当たる組織のトップの一人…桐藤(きりふじ)ナギサ。

 

二人は現在、このトリニティ内の成績に問題のある生徒…という建前の生徒たちの中にいるかも知れない『裏切り者』を探してほしい、という話が本来の目的であるのだが…それに関しては別のお話であり、これからしばらく後の話でもためここでは省かせていただく。

 

そこに新たに一名、執事服に身を包んだ長身の女性が歩いてきた。

 

 

 

「失礼致します。

お嬢様、お茶をお持ちしました」

 

「あらエレイシア、ありがとう。

こちらのお方にもお願いしますね」

 

「おや、ミカ様もこんにちは。

相変わらず太陽のように眩しく能天気な笑顔でございますね」

 

「んん?褒められてるの?ディスられてるの?」

 

「…?ナギサ、この子は…」

 

「こちらは私の幼い頃よりの専属の使用人でして。

名前は…」

 

エレイシア、と申します。

宜しければ、ナギサ様ともどもお見知りおきを」

 

「うん、よろしくねエレイシア。

…それで、このお茶は…」

 

「遠慮なさらずどうぞ召し上がってください。

彼女は大概のことは一流以上にこなせますので、味も保証いたします」

 

その言葉を聞き、おずおずとではあるがカップを手に取り中身を口に運びゆっくりと飲む。

小さくん、という声をもらしたのち、先生の顔が明るいものに変わった。

 

「美味しい…!」

 

「かの『シャーレの先生』にお褒めを頂けるとは。

恐悦至極に存じます」

 

「まあ、美味しいのは上等なお茶だからってのが…まあ、確かにこんなに美味しく淹れられるのはエレちゃんぐらいだよね☆」

 

「…それで、先生、補習授業部に関してのお話を、進めさせていただいてもよろしいでしょうか…」

 

「ああ、うん。

えっと…私が成績的に問題のある生徒の面倒を見るんだよね?」

 

「はい。しかし先生の本来の業務もあります。

全てをトリニティ内で執り行ってもらうのも難しいでしょう…ですので。

 

こちらのエレイシアを先生の補佐として付けます」

 

漫画ならばぎょっ、と効果音につけられそうな驚いた表情で、先生はエレイシアを視線を向けた。

当の本人は何事もない様子でその場に立っている。

どうやら承知の上のようだ。

 

「業務上の問題はありません。

ティーパーティーの仕事の補佐も問題なく行えますし…優秀さは私が保証します。

ただ…」

 

「ええ、私も先生に協力することになんの異存もございません。

ただ、私としても不安な要素が一つ…」

 

「?」

 

先生の頭に?が浮かんだ。

ナギサは顎に手を当てうんうんと数秒唸った後、「まあさすがに今回ばかりはやむを得ませんよね…」と自分を納得させるように一言呟いた。

 

先生はなんのこっちゃと言わんばかりにやはり頭に?マークを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

そして、それから暫く。

補習授業部のメンバーに招集をかけるため、先生とエレイシア、そしてナギサ直々に部長に任命されたヒフミはメンバーの内2名が居るという正義実現委員会の部室に訪れ…幸か不幸か、その場で全員を見つけることができた。

 

少し前に連行され捕らえられていた浦和ハナコ、つい先程捕縛され連れてこられた白洲アズサ、そしてまさか自分が選ばれるとは思ってもいなかったであろう下江コハル。

 

「そして、直々に部長に任命されました阿慈谷ヒフミ様。

この場の4名が補習授業部の部員でございます」

 

「うう…こんなの嘘だぁ…絶対何かの間違いよ…」

 

「下江様、残念ながら結果は何より雄弁というものでございます。

これまで3度連続の赤点となり、留年目前…

いくら正義実現委員会の活動が忙しいと言えども限度というものがございます。

 

加えて下江様の活動は書類整理…その、このような言い方はアレかと思われますが…学業に差し支えるほどの活動とは、正直言えません。

そもそも、何故2年生用の試験をお受けに?」

 

「な、なんでも何も…私は将来正義実現委員会を背負う立場になるわけだし……」

 

「ふむ…しかし下江様、こう言ってはなんですが…

己の力量も正しく測ることのできぬ者が、そのような立場になれるなど…荒唐無稽な願いとしか言い様がございません」

 

「う…で、でもそれは2年生用のテストを受けたからよ!

ちゃんと自分の実力にあったテストを受ければ…」

 

「ふむ…では、お手並み拝見といたしましょうか。

皆様も、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「「「………」」」

 

「おや?先生、阿慈谷様、浦和様、そんなに妙な視線を私にお送りになって…一体どうなさったのですか?」

 

「いえ、そのぉ…」

 

「………」

 

「…ナギサが心配してた意味、ちょっとだけ分かっちゃったかも…」

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで第一次試験が終了いたしました。

結果は…

 

阿慈谷ヒフミ様――72点。合格

白洲アズサ様―――32点。不合格

下江コハル様―――11点。不合格

浦和ハナコ様―――2点。不合格

 

と、残念ながら補習授業部の続行が決定。

合宿による集中勉強を執り行うことが決定されました。

 

いやはや、なんとなく予想していた(・・・・・・・・・・・)とはいえ、これ程無惨な結果に終わるとは…

 

 

「先生も流石にショックのご様子で、この通り項垂れながらここまでいらした始末でございます、お嬢様」

 

「………まあ、結果は先んじて聞いてはいましたが。

先生がここまでになっているとは少々予定外でしたね…」

 

「は、はは…まあ、あまり気にしないで…

あぁ、そうだナギサ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

 

「はい?」

 

「補習授業部のテストは第三次まであるって聞いたんだけど…もし、その3回とも不合格になっちゃった場合って…」

 

「………そうですね。不合格を繰り返し、落第を逃れられそうにない、その上このような状況になっても支え合う事もできない。

もしそうなれば、皆さんには退学していただく他ないでしょう」

 

「………!」

 

「無論、ただ黙って退学処分とするわけではございません。

各々の学力を測り、それに見合った学園への編入手続きはこちらで執り行わせていただく予定でございます」

 

「…エレイシア。今は私と先生が話しているのですよ」

 

「申し訳ございません。

先生の気が少しでも休まればと思ったのですが…」

 

「いやいや!それじゃ流石に休まらないよ!

退学って、どうしてそんな…」

 

「………そうですね。いずれ話さなければならないことです。

そもそも補習授業部は…生徒を退学させるために作ったものですから」

 

「…理由があるなら、聞かせてもらってもいいかな」

 

「勿論です。…私は、あの4名の中にトリニティの裏切り者がいると考えているのです」

 

 

 

そして、ナギサは語りだした。

近く、トリニティ総合学園とゲヘナ学園の両校で結ばれる条約…『エデン条約』の締結式が執り行われる事。

 

そして、それを妨害しようとしている者がいること。

補習授業部は、その容疑者の可能性がある者たちを一箇所に集めるためのものであること。

 

 

 

「…今更ですが、先生にも申し訳ないことをしてしまいました。

こんな、身内の血生臭い諍いに巻き込み、利用する形になってしまって…」

 

「…でも、本当にただ利用するつもりなら、こうして話してくれないでしょ。

何か頼みがあって呼んだんじゃない?」

 

「さすが、先生はご理解が早いですね。

…先生には、補習授業部にいる裏切り者を探し出して欲しいのです。

 

エデン条約はトリニティゲヘナ両校の平穏…ひいてはキヴォトスにおける大きな安寧に繋がるもの。

それを壊そうとするものは、我々は見逃すわけにはいかないのです」

 

「……………」

 

 

 

 

「お嬢様、先生。少しよろしいでしょうか?」

 

「…エレイシア?」

 

それまで横で二人の会話を黙って聞いていたエレイシアが、突如として口を開き会話に割って入ってくる。

ナギサはやや顔をしかめているが…先生は残念ながらそれに気づかづかない。

 

「もしかして、エレイシアも補習授業部に裏切り者が…」

 

「いえ、ただ私はお嬢様に申し上げたいことがあるだけでございます。

先生には少しお待ちいただきたく…」

 

「何です、エレイシア。

言いたいことがあるなら、この場ではっきりと言いなさい」

 

「畏まりました。では…」

 

エレイシアはナギサに数歩近づき、顔をさらに近づけ………

 

 

 

 

 

「これほどの情報を集めながら未だあの4名の中に裏切り者がいるとお考えでいらっしゃるとは、やはりお嬢様は“ド”阿呆にございますね」

 

「え」

 

「お嬢様にお仕えし早数年、まさかこれほどまでに成長が見られぬとは、まさに青天の霹靂でございます。

もし本当に本心からあの4名が怪しいとお考えならば、私本気で、うーwけーwwるーwwwでございます」

 

「「………」」

 

先生はあまりの衝撃で、ナギサはおそらく怒り…を一周通り越して黙ってしまった。

ナギサは手元のカップを手に取り、中の紅茶を一息で飲み干し、丁寧にテーブルに置き…

 

 

 

 

「あなたなんてクビですクビ!!絶対クビ!!!」

 

「お嬢様、どうかお気をお沈めになってくださいませ。

私はお嬢様をバカにしたわけではありません」

 

「ええそうですね、なにせあなたは私を“バカ”ではなく“アホ”と言いましたものね!!

それも“ド”を付けて!これ見よがしに“ド”をわざわざ付けて!!

それもよりによって先生の前で!!!」

 

 

「な、ナギサ落ち着いt…」

 

 

「先生は黙っていてください!!!」

「ハイ」

 

「…分かりました。あくまでもこの方法を貫くとお嬢様がお望みなのであれば、このエレイシアは暇をいただくことといたしましょう。

数年という月日ではありますが、お世話になりました」

 

そのままエレイシアは歩き去ろうとし…ナギサがそれを慌てて止めた。

 

 

「待ちなさい。

…まさか、あなたは裏切り者が誰なのか分かっているの?」

 

「残念ながら、そこまでは。

しかし、少なくともあの4名の中に居ないことは確実と言えるかと」

 

「………なら、……な、らぁ〜」

 

「お嬢様。願いはハッキリと口に出さなければ分からないものでございます。

何か仰りたいことがあるというのであれば、どうかハッキリと」

 

「………さい」

 

「「?」」

 

 

 

 

「なぜあの4名が裏切り者でないのか、根拠を教えてください!!」

 

「……畏まりました。お嬢様がそこまでお望みであると言うなら」

 

「うわあ…」

 

屈辱。ナギサの現在の心境を示すのに、これ程相応しい言葉もないだろう。

先生は思わずドン引きで言葉が漏れてしまった。

 

「しかしお嬢様。おそらくお嬢様も先生も、先程の会話で気が立ってしまい冷静な話し合いができるかどうか」

 

(誰のせいだと…!!)

 

「たとえそのような状態で私の推理を聞いても、冷静に受け止めることはできないでしょう。

まずはこちらをお飲みになり、一度冷静さを取り戻していただきたく。

 

 

謎解きは、ティータイムのあとにいたしましょう」

 




エレイシア

本編のシエルのifの姿。
捨て子として孤児院で拾われ育ったのは同じだが、前提の通りナギサに執着していた為にトリニティに進んだ。

本編と違い神職者ではない。
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