愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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今回は少し短いです。ごめんなさい


36話

「………シエル」

 

「………」

 

黒い姫君は何も言わない。

ただこちらを見下ろすように見つめるだけ。

 

黒い姫君は何も動きはしない。

ただ、こちらを見ているだけ。

 

離れようと思えば離れられるはずだ。

アリウスの皆を逃がそうと思えば出来るはずだ。

 

だが…できない。

 

 

 

 

 

もし動いてしまったら…彼女から離れようとしたら。

 

 

 

 

 

何をされるか(・・・・・・)分からない(・・・・・)

 

 

そう、本能的な直感が告げていた。

 

 

 

さながら蛇に睨まれた蛙。

猫に見張られた鼠のように、私も、その傍らのサオリもアツコも。

底から少し離れたミサキも、ヒヨリも。

 

ただの一歩すら動けずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――かつん。

 

黒い姫君の靴が、音を鳴らした。

 

 

先生に向けて、一歩を踏み出し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そのまま真っすぐに倒れ込んだ。

 

 

 

 

「…っ!?シエル!?」

 

前向きに倒れるシエルを受け止める。

仰向けにして揺すってみるものの、まるで目覚める気配もない。

 

 

まるで人形のようだ。

 

目を閉じた姫君は、王子の口づけでも目覚めることはないだろう。

そんな嫌な確信があった。

 

 

 

…だって。

 

黒い姫君は、異様に冷たい上に呼吸も脈もなかった(・・・・・・・・・)のだから。

 

「シエル!シエル!!」

 

「あ、あわわ…な、何が起こってるんでしょうかぁ…!?」

 

「…っ、先生、その生徒は…」

 

「クソ、何だ、何で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身に纏われていた黒いドレスが泥水のように戻って何処かに流れていく。

長く伸びていた髪は、少しずつ短くなっていく。

 

なにかに手を加えられるでもなく、もとに戻るかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は普段の装いに戻り、そして…

 

「………ぁ」

 

「…シエル…?

 

シエル!私が分かる!?しっかり!!」

 

「………………せん、せい」

 

 

 

彼女を抱える手に力を込めたまま、ふうぅ、と大きなため息をついて項垂れる。

彼女が目覚めた嬉しさと安堵に加えて、これまでの緊張感がようやく解けたのだ。無理もないだろう。

 

 

 

「………先生、ここは…私は、何を」

 

「…お前、自分が今何をしたのか覚えて…」

 

「サオリ。今は…ね」

 

「…分かった。

さて、ひとまずアツコは取り戻せた。マダム…ベアトリーチェも倒せた。

 

ここからどうしたものか…」

 

「ああ、それなんだけどね…」

 

 

 

 

 

 

 

先生がアリウススクワッドの四人と話し始めた。

これは確か…サオリが先生に向いているという話だったな。

 

とはいえ、その話に私は関係ないし、関係するつもりもない。

ひとまず、状況の整理をしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

…ベアトリーチェはいつの間にやら倒れている。

その半身は消し飛んでおり、血痕や肉塊らしきものも近くにはない。

 

半身が文字通り消えている(・・・・・)のだ。

一体どれほどの兵器を使えばこのようになる?

 

第三者の介入があったとしか思えないが…

 

 

 

 

 

…ここはバリシカ…アリウス分校の者達が生きてきた場所の一角にして、ベアトリーチェの拠点としていた場所。

いつの間にやら私はここに来ていたようだが………

 

…念のため、装備を確認しておく。

黒鍵………幸い数本残っているか。後で補充するとしよう。

 

セブン…そうだ、彼奴は。

 

 

 

 

「わたしならここですよ、マスター」

 

「何だ。居たのか」

 

「ま、先生を助けるためにかっ飛んできただけですよ。

元々“私が動けなくなった時は何においても先生を守れ”ってマスターがいったんですしおすし?」

 

「フ。そう言えばそんな事も言っていたな。

 

…さて」

 

 

先生のもとに近づく。

 

どうやらアリウスと今後について話し合ったらしく、それぞれが安らいだ表情を浮かべていた。

 

 

 

「…何かあったら、また連絡してね、遠慮なく。

すぐに飛んでいくからさ」

 

「………感謝する」

 

 

 

そうして、アリウススクワッドは其の場から姿を消した。

しかし、彼女達にもう植え付けられた復讐心は無かった。

 

きっと今後…主にメインストーリー最終編に当たる話で先生の助けになってくれることだろうな。

 

 

 

 

 

「…これで、終わった、のかな」

 

「先生。ココに来るまでに誰かの助けを借りたことを忘れてはいないか?」

 

「……………あ。

 

そうだ、ミカ…!」

 

「ハァ。

セブン、先生を担いで行ってやれ。

 

そのほうが速い」

 

「了解ですマスター!

 

ほいっと…失礼しますね先生!」

 

「うお…うん、ありがとうねセブン。

 

ここで待っててシエル、すぐに戻ってくるから…」

 

 

 

…こんなときにまで私の心配も欠かさないとは。

相変わらずだが…安心した。

 

 

 

 

「先生」

 

「ん?」

 

「………いや、何でも無い。さっさと助けに行ってやれ」

 

「…分かった、行ってくる。

セブン!お願い!」

 

「はーい!!」

 

 

 

 

 

先生を背中に背負ったセブンが駆け出す。

 

直後に声にならない悲鳴を先生があげていたような気がするが…まあ気の所為だ気の所為。ワハハ。

 

…さて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁああああああああああああああああああ!?」

 

後方へ向けて黒鍵を一本投擲してみれば、女のものらしき悲鳴があがった。

どうやらベアトリーチェはしぶとく生きていたようだ。

 

しかしまさかあんな状態にされてまで生きているとはな。

やはり、確実に消滅(・・)させるしか無いか。

 

 

 

「き、キサマ、あああああああああ…!!」

 

青白い炎を上げながら、まだ恨み節を吐こうとするベアトリーチェ。

ここまで敵意を顕にし続けられるのは、いっそ感嘆にすら値するな。

 

まあ、そんな無駄な時間を使うつもりはない。

さっさと送って(・・・)やるとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダアンッ!!

 

「がハァ!?」

 

「―――――――祈りの時間だ、ベアトリーチェ」

 

異形のモノの頭を鷲掴みにし、後ろにあった十字架に押し付ける。

ものの序でに両の腕にも黒鍵を突き刺しておき、肉体を固定した。

 

 

 

 

 

「――――――告げる」

 

光が場を包み始める。

 

「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。

我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬものは一人もいない」

 

「お、のれ…キサマ、貴様…!」

 

「打ち砕かれよ。

敗れたもの、老いたものを私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。

 

休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず。

私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる」

 

「ハ…ここで、私を殺して何になると…!?

そんなところで、貴様にもあの男にも、救いなど訪れることはない…!!」

 

「装うなかれ。

赦しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」

 

その力(・・・)を持ったものが…幸福など得られるものか…!」

 

「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。

永遠の命は、死の中でこそ与えられる

 

――――――許しはここに。受肉した私が誓う」

 

 

「キサマの行く末に未来など――――――」

 

 

 

 

 

 

「――――――“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”」

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