愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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吹雪アルハ、彼女の過去と今。


45話

私は生まれながらに、凍える世界の最中にあった。

 

母は訳あって元いた場所を追われたらしい。

父は知らない。知る必要もない。

 

私が生まれた時に既にそばに居なかった。

理由などそれで構わないだろう。

 

 

 

 

 

 

そんな母と私を救ってくれたのは。

とある狩人にして館の主だった。

 

母は男の十一番目の妻となったのだという。

 

そして彼の者の城に召し抱えられた私は、彼の従僕として十数年の時を生きた。

 

 

 

 

いつの間にか、母は消えていた。

そして…ある時。

 

ご当主は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ある時。

私はこの地にやってきた。

 

いや、帰ってきたと表する方が正しいのか。

まあ、どうでもいい。

 

ご当主を失った私に、世界などこの上なく退屈な虫籠同然なのだから。

…にも関わらず、私はこの世界に留まり続けている。

 

人の身とは難儀なものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粛清!粛清!!粛清ーーーーーっ!!!」

 

「ちぇ、チェリノ会長、お鎮まりを…!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!

よくも…よくもおいらのプリンを平らげてくれたな!!

 

いや、プリンだけでは飽き足らず昼食まで…今日は特製のオムライスとハンバーグだから楽しみにしてたのにぃ!

うわぁぁあん!!」

 

「………」

 

レッドウィンター連邦学園。

元々私が所属していた学園。

 

このキヴォトスと呼ばれる箱庭において、いずれかの学園に所属することは必要不可欠なことなのだと聞いた。

 

なので、フラリとそこに居た生徒から入学届を奪い取り、自分のものに中身を書き換えてひとまず名前だけ登録した。

 

 

 

しかしその後は色々不便なものであった。

学園はそこの長たる女(連河チェリノ)の気に入らぬ行いをすれば粛清…という名の罰が下るという、何ともどうしようもない場であり、

他ならぬ私も山で熊狩をしたところを発見され、『よくもおいらにそんな…そんな…』という反応を示されたかと思えば、

勢いのままに追放された。

 

まあ、私個人としては学園など正直どうでもよかった。

ひとまず身を寄せられればそれでいい。

 

必要なものは狩って調達すればよいのだから。

 

 

 

 

 

…そして現在よりも少し前のこと。

 

 

 

とある女が私に声をかけ、ある組織へと誘った。

身を寄せるのに都合が良いこともあり、その言葉に応じた。

 

 

 

そして私は、あの女に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。お前のその力…原理血戒(イデア・ブラッド)か。

ならば、お前の言うご当主とは…』

 

女は、私の力の根源を即座に看破してみせた。

そして、私が何者によって育てられたのかも。

 

 

 

あの女は何者なのだろうか。

まるで冥底の泥沼のように光のない瞳、万物をあざ笑うかのようなほくそ笑みを常々浮かべた表情。

 

そして…私の中の本能に強く訴えかけるナニカ。

 

 

 

清川シエルという女。

あの者だけは、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

その女のもと立ち上げられた組織“埋葬機関”の一員となった私は。

 

レッドウィンターの中、連河チェリノの指示で私を追跡する生徒たちから逃げ回っていた。

理由は…何だろうか。

 

フラフラと散歩しているさなか、腹が空いたので適当な場所を襲撃して、適当な食料を狩っただけなのだが…

 

 

 

 

「…アルハ!?どうしたのそんな慌てて…」

 

「……………先生」

 

 

 

たまたま出会ったこの男は、『シャーレ』という組織の者。

キヴォトスの者ほぼ全てから『先生』と呼ばれている男。

 

…丁度いい。

 

 

 

「ちょっ!?アルハ何を…!?」

 

先生を担ぎ上げ、背に乗せ、懐から荒縄を取り出し。

自分と彼を括り付けた。

 

「……………」

 

「…えっと。アルハさん…?」

 

「いたぞこっちだ!撃て…って先生!?」

「あ、あいつ先生を人質に…」

「なんてことを…!これじゃ迂闊には撃てない…!」 

 

 

 

…作戦成功。

後は…

 

 

 

 

窓を蹴破り外へ。

 

幸い外は吹雪いている。

先生の上から毛皮のコートを被り、そのまま駆け出す。

 

すぐに追ってを巻くことは叶った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…凄いねアルハ。

この猛吹雪の中で真っ直ぐ歩けるなんて…」

 

「…吹雪の中の狩りにも慣れている。

私がかつて居た場所は毎日のように雪景色だった」

 

「…かつて居た、って…」

 

「……………先生には、話したことはないか。

私は、キヴォトスの外から来た」

 

「…!」

 

「とは言え、他に誰か多くのものと関わっていたわけではない。

私が外で見知っていたものと言えば…私を生み育てた母、

 

…このコートと、狩りの術を教えてくださったご当主。

そして―――――――」

 

「アルハ。

…話したくないなら、無理に話さなくていいよ」

 

「?」

 

何を言っているのだ、先生は。

私は至って普通に話そうとしただけだというのに。

 

「いや、その。何となくなんだけどね。

そのご当主の先を言おうとした時、何だかアルハ、苦しそうだったから」

 

「……………先生を背中に抱えているから、とは考えないのか」

 

「う。まあ、その。それはそうかもしれないけど。

…これでも人を見る仕事だからさ。何となくそういうのは分かるんだよね」

 

「……………人によっては不快と思われそうだな」

 

「はは、確かに。

でも、踏み込んでほしくない時は弁えるよ。

 

まあ…どっちかと言えば存分に頼ってほしいけど、ワガママかな」

 

「……………」

 

不思議な男だ。

シエルの言葉の意味がわかった気がする。

 

人の心を見通し、見透かし。

その上で寄り添い、手を差し伸べ、導く。

 

この世に『聖人』というものが居るとするのなら、まさにこの男のようなものを言うのだろう。

 

 

 

 

…だが、それは同時にとてつもなく危ういものだ。

この者はそれが『未来ある子供』であるのなら誰であろうと救おうとするのだろう。

 

例えその先に待つものが、どうしようもない破滅でも。

 

 

加えて。

この男は導いたその先に

自らの存在を(・・・・・・)頭数に入れていない(・・・・・・・・・)

 

文字通り、子供たちが生きる未来を守り、導く。

この男の根幹はそのためだけに動いているのだ。

 

それは、まるで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴゥゥゥウ…」

 

「…!アルハ!」

 

「ッ!」

 

いつの間にか熊が近くに来ていた。

私の匂いを嗅ぎつけたのか、それとも…

 

 

 

 

 

 

「…ッフゥ」

 

とっさに距離を取った。

荒縄を外…さない。

 

この状況で襲える対象を増やすのは得策ではないだろう。

 

先生には少しばかり付き合ってもらう。

 

 

 

 

「…久方ぶりの狩りだ。

お前は良い腹の足しになる」

 

…懐から得物を抜く。

真っ直ぐに、眼の前の標的を射抜く。

 

「10秒。私を仕留めるのに全霊をかけろ。

 

それが貴様に残された、砂時計の最後の砂だ」

 

まるでその言葉に応えるが如く。

獣は私に向かってくる。

 

勢いのまま。

右腕を振り下ろしてきた。

 

 

 

 

 

横薙ぎに得物を振り抜く。

 

獣の右腕をぞる、と抉り切り落とした。

掌は後で料理に使えるため、血抜きも兼ねて先んじて切り落として起きたかったが、都合好く腕を振り下ろしてくれて助かった。

 

獣は激痛からかしばしの間のたうち回り、痛みに慣れたところで激昂し再びこちらに向かってくる。

片腕を無くしているのに大したものだ。

 

が、時間をかけると肉の質が落ちる。

手早く片付けるとしよう。

 

 

 

 

…獣の動きは怒りで更に単調となった。

こうなってはもう だめだ。

 

どう足掻こうが動きは読み取れる。

どう暴れようが合わせることができる。

 

もはやどうしようも、何の問題もなく。

 

 

 

ヤツは 私に 殺される。

 

 

 

 

怒りで暴れまわる獣の急所。

その八つの急所に狙いを定め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――!!!」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

獣から弾けたそれらが白い絨毯を赤く汚す。

ドサリ、と重々しく、

されど白く広く高く積もり上がったそれらの上に音を立てず。

 

獣は横たわり眠った。

 

 

ひゅん、と得物を振り血を払う。

飛び散ったそれらが雪の上に染み、溶けていった。

 

 

 

さて、この熊はここで食してしまいたいところだが、この吹雪の中では料理もおぼつかない。

出来得る限り雪の少なく、吹雪もない場所に移動しなくては…

ひとまず熊を凍らせ、状態を保存するか。

 

 

 

 

 

 

…あれ。

何かを忘れている気がする…

 

 

「きゅう…」

 

 

…先生はいつの間にか気絶していたようだ。

後で詫びの熊鍋を御馳走するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『が、あ、が………!!』

 

『主を殺した我が憎いか?』

 

『が、あ、あ………!!』

 

身体が動かない。

さながら貼り付けにされた救世主(イエス)の如く、指先、爪先、髪の一つすら己の意志に従わない。

 

原因など一つ。

 

ご当主を殺した、眼の前のこの女が…

 

そして、開いた私の口に、女は…!

 

 

『が、あ………!!』

 

『―――――我が憎ければ、お前が本来いるべき世界を訪れるがいい。

 

 

 

―――――キヴォトス。

そこに、我は…お前の望むものがある。

 

これは、我から貴様への、門出の祝と思うが良い…』

 

『ァアアアァ―――――――――!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐちゃり、と、女が心の臓を握りつぶす。

開かれた口に鉄の味が広がる。

 

それとともに、ナニカが、わたしノなかにナがれコンでクる。

 

 

 

キオく、さむい、アつイ、イたい。

 

 

 

ジぶン゙のモノジャない、ダれかノきおク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

目を覚ました。

ご当主は死んでいた。

 

 

 

 

茶色かった私の髪は、ご当主と同じ銀に。

黄色い瞳は、やはりご当主と同じ紅に。

 

そして私の血には、ご当主と同じ氷の力が。

記憶を探せば、それが『原理血戒』と呼ばれるものだと分かった。

 

…それは、私の記憶ではなく。

血を飲んだときに刻まれた、ご当主の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、ご当主と同じものになったのだ。

本能的に理解した。

 

だが、私は所詮まがいもの。

 

たまたま力を継げてしまっただけの、同じものを持ち使えるだけの贋作。

 

だが、せめて。

あなたの仇を討つため、その名をこの身に刻むことを赦してください、ご当主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの女は何としても見つけ出す。

蒼き髪、紅い瞳。

 

令嬢のような黒いドレスの女。

 

「――――――――――私は…吹雪アルハ」

 

ご当主の名を半分だけ受け継いだ、復讐鬼。

 




あぁ、本当にここは寒い―――――――…
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