突然だが紹介しよう。
ここはシャーレ。
いくつもの学園が複合し生まれたこの都市キヴォトスに置いて最もホット…いや、煉獄の炎の如く年がら年中燃え盛っている場所だ。
ついでに名乗らせていただくと…私の名は
ゲヘナ学園中等部1年…まあとりあえずそれだけ今は覚えておいてくれればいい。
さて、なぜ私がこんな獄炎の如き場所に足を運んでいるのか、読者の皆様も気にかかっていることであろうが…
「………シエル、貴方さっきから何をブツブツ言ってるの?」
「ああ済まないねヒナ、ちょっとした独り言だ。あまり気にしないでくれると助かる」
せっかくだから説明しておこう。
彼女の名前は空崎ヒナ。
ゲヘナ学園の実質的なトップを務める風紀委員長であり、キヴォトスでも一、二を争う実力の持ち主だ。
この世界を詳しくご存知の先生も、そうでない先生もあの小さい体であの馬鹿デカい銃だか大砲だか分からない武器を扱うさまには度肝を抜かれた事だろう。
「…というか、なぜ貴方もシャーレに?
元々私が先生に個人的な用事で来ただけなのに、話を聞いた途端『私も付いていく』だなんて」
「ふっ、何。私も個人的な用事があるだけだ。気にすることはない。
…ああそれとも何だ、先生と二人きりになる口実を奪われたのがそんなに不満かな」
「…………………」
「………済まない、悪かった。謝るからどう考えてもその体格にしまえそうにないデストロイヤーを引っ張り出して向けるのはやめてくれ。
照れ隠しにも限度というものがだな…」
「……………はあ。
全く、
もう少し慎みを持ってほしいわ」
「そうか?私としてはヒナの方こそ堅苦しすぎると思うがな。
その頭には鉛でも詰まっているのか………分かったヒナ、ひとまずお互いの考えを話し合おう。
頼むからデストロイヤーをチャージして安全装置を外すのはやめてくれ………!」
と、まあ私と年の離れた幼馴染みはシャーレ…先生の居る場所に到着した。
隣に立っているヒナの表情筋がごくごく僅かではあるが綻ぶのを私の目は見逃さない。
彼女の微笑みに心を握りつぶされた先生は
この表情を見るために生きていると言っても過言ではない。
…だが、こんなものは序の口だ。
「…ふぅ。よし。
さ、シエル。入りましょう…
シエル?何で壁に耳を当てて立ってるの?」
「……………………ヒナ。悪いことは言わない。しばらくどこかで時間を潰してから来よう」
「………は?」
ヒナの綻んでいた表情筋がまたしてもこわばる。
が、今回の私は譲らない。
…まあ、私ごときが止めた所で彼女は止まってくれないのだが。
まったく、先生が絡むといつもこれだな…私が言うのもアレだが、困った女だ。
「なんのつもり?先生に用事があるなんて付いてきておいて、直前で時間を潰そうなんて、どう考えてもおかしいでしょう」
「いや、まあ…それはそうなのだがな。
とにかくいま入ろうとするのはマズいんだ。
ホラ、近くにゲームセンターもあるし、コンビニも」
「……………」
「待つんだ!………どうしても行くと言うなら、ひとまずこれで聞いてくれ」
「…何これ?」
「セナから盗…拝借…借りてきた聴診器だ。これで壁の向こうの声を聞いてからにしてはくれないか。頼む」
「……………色々と言いたいことが増えたけど、まあ、そこまで言うなら」
そう言って私の手から聴診器を取ったヒナは、それを着けて壁越しの音を聞く。
…しばらく音を聞いた彼女はカタカタと震えだし、目を大きく見開いて膝をついた。
「……………シエル」
「………………………」
「………ごめん。今日は、帰る。
先生に、ごめんって、いっておいて」
そう言ってフラフラと立ち上がり、ヨロヨロと力なく項垂れながら歩いていった。
まあ無理もない。
先生がよりによって、便利屋の社長とあんなことやそんなことをしている声なんて聞いてしまえば。
ショックでおかしくなってしまっても仕方がないだろう。
……………ああ、素敵な姿だ。
おそらく彼女はこの後、ゲヘナに一人弱々しく帰り部屋に閉じこもって年相応の少女らしくシクシクと泣きじゃくるのだろう。
たまらない。
さて、読者の皆様は色々と驚かせてしまっただろう。申し訳ない。
念のため少し断らせてほしい。
私は元々、この世界…『ブルーアーカイブ』と呼ばれるゲームのセカイを心から愛していた『先生』の一人だった。
そして、その中でも先程の、この世界での幼馴染み…
空崎ヒナを、私は愛している。
とても強く、とても愛らしく、とても気高く、しかしとても年相応の少女らしい…
そして、それ故にエデン条約編3章のあの姿を見て、私は…この上ない胸の高鳴りを覚えた。
私は、空崎ヒナのすべてを愛しているのだ。
彼女が先生と戯れる姿も、笑う姿も、苦しむ姿も、嘆く姿も、脳を破壊される姿も。
故に私は彼女のすべてを見るために行動する。
先生とヒナが出会う時間を調べ上げ、それと被るように便利屋の社長(彼女本人に言うとうっかりバラしかねないのでカヨコに頼んだが)をけしかけ、更にその上でそういう雰囲気を作るための物も事前にシャーレに持ち込んでおいた。
全ては彼女のためだ。男女が幸せになるためには、いくつか困難があって然るべきだろう?
…決して私が彼女が嘆いている姿を見て愉悦に浸りたかったとか、そういう理由ではない。断じてない。
口角がつり上がっているのは偶然だ。
…と、まあ話が脱線したが。
この物語は、空崎ヒナの幼馴染みに転生した私が、彼女と先生を幸せにするために時に優しく、時にイジワルをする物語だ。
お前のどこが清いんだと言わんばかりの性癖を見せつけた主人公。
元先生。
多分愉悦部一歩手前。