料理料理〜
山海経高級中学校、玄武商会。
その1店舗に、とある料理人が店員としてやって来た。
その名は、
「えー、というわけで。
本日、緊急で手伝いに入ってもらうこととなった愛清フウカちゃんです。
さ、みんなに挨拶を!」
「は、はい…愛清フウカです。
臨時ですがこの度、玄武商会のお手伝いをさせていただくこととなりました…よ、よろしくお願いします!」
と、可愛らしい挨拶の後頭を下げる
いやあ、案外馴染めているようで何よりだハハハ。
「………シエル。
何がどうしてこうなってるの」
「おや、気づいていたのかフウカ先輩。
まあそうだな。事情を知らぬ何処かの誰かたちの為にも話すとしよう。
忘れもしませぬ、アレは拙僧が例の如くゲヘナの給食部でフウカ先輩の料理に舌鼓を打っていた頃…」
「その話し方は何なの!?」
「ふむ、きょうの料理も絶品だ。流石はフウカ先輩。
あ、ご飯おかわり。大盛りでな」
「ハイハイ…相変わらずよく食べるわね…」
「育ち盛りなものでな。
加えて、こんなにも美味な料理を出す場所が近くにあるのだ。
存分に味合わぬ者はバの字と言われても過言ではないだろう」
「失礼だからやめなさい!」
とかなんとか言っても満更でもなさそうじゃないですかヤダー。
これだからフウカ先輩は嫌いになれないのだ。
一般生徒から幹部クラスに至るまで問題のある連中ばかり(ただしヒナやその他約数名を除く)なゲヘナ学園において、これほど信頼を置ける相手もそういないだろう。
「失礼いたしますわ〜本日のお料理は」
「出ていけェ!!!」
八極拳が炸裂した。
良いやつではなかったよ。
「ちょ、ちょちょちょっと!!何やってるのよシエル!
いくらなんでも…」
「普段の連中の行いを鑑みてみろ先輩。
残酷でもないし妥当、いや寧ろこれでも大分優しい方だと思うが?」
「…………………………
それもそうね(諦め)」
納得してくれたようで何より。
食事を再開しよう。
「ご馳走様でした。本日も素晴らしい味だった」
「………」
「おや、どうしたフウカ先輩。
手元が危ういぞ?」
「え…ひゃっ!?
あ、危ない…ありがとうシエル」
「突然ぼうっとしてどうした?
常日頃料理において手など抜かないフウカ先輩らしくもない。
ナニカ悩みでも?」
「………ねえシエル。まだお腹に余裕、ある?」
「? まあ、それなりには」
「じゃあ、これ。
ちょっと試食してみてほしいの…」
…出てきたのは、麻婆豆腐だった。
ふむ、そう言えば…ゲヘナで中華料理が出ることは私の知りうる限りなかったな。
ふむ、量もそれほど多くない。
ありがたくいただくとしよう。
「いただきます」
…うむ。流石はフウカ先輩。
中華料理でも存分に腕前が表れているな。
…だが、何だろうか、この物足りなさは。
辛さ…いや違う。何か…
「…あんまり美味しくないかしら」
「いや、味は申し分ない。これは私個人の問題だろうか」
中華料理に関してはどうあがいても山海経が先を行っているからな。
そこに通い慣れている私では物足りなさを感じるということか。
フウカ先輩が作るもののレパートリーは大概家庭的な物が多いのも理由の一つか。
「じつは、この間先生に『なにかリクエストはありますか』って聞いたんだけど…その時に『中華料理とか』って言われて…
でも、どうしてもそっち方向はその…玄武商会のあの人に一日の長があるっていうか…気が引けるっていうか…」
「ルミ会長か。たしかに彼女の中華料理の腕前は天下一品のものだが、先生が求めたものは『フウカ先輩の作った中華料理』なのだろう?
ならば、それに応えればいいのではないか?
先生は少なくとも生徒の料理に優劣をつけるような人物ではないだろう」
「………でも…」
…ふむ。ここまで奥手なのは珍しいな。
いや、料理に一家言持っているからこそ、満足のいかぬものは出したくないわけか。
まして、その相手が先生となれば…ふむ。
「ならば先輩。ここで一つ、料理の研究のためにも修行をしてみるのはどうだろうか?」
「修行?」
「そうだ。その道の人間の傍らでそれを見、そしてこなし己が身に叩き込む。
そうして中華料理の腕前を上げ、不安な要素を無くせば良い」
「そ、それはそうかも知れないけど…でも、私にそんな知り合い…」
「そこは私の人脈の出番だ。まあ任せてくれ。
さて…ああもしもし?少し頼みがあるのだが…」
で、現在に戻る。
レイジョの口利きで玄武商会の手伝い(アルバイト)としてひとまず1日、その技術を学ぶということとなったのだが…
『注文入りました!麻婆豆腐、油淋鶏、揚げ蕎麦とそれから…』
『焼きそば注文のお客様!』
『炒飯が遅いって催促が!!』
「ひぃい〜!!でも、ゲヘナの給食部に比べたら…」
「何うじうじ喋ってるの!口より手を動かす!」
「は、はいぃ!!」
…涙目になりながらも懸命に仕事をこなすフウカ先輩の姿がそこにはある。
むう、やはり経験が一番の勉強と思ったのだが…いきなり主戦場に放り込むのは気が早すぎたか。
「あの…師匠、本当にあの人大丈夫なんでしょうか?
その…なんというか、ついていくのに精一杯というか…」
レイジョも心配そうな…というかジト目でフウカ先輩を見つつ話しかけてきた。
ううむ、荒々しい食卓ならばゲヘナの給食部でそれなりに慣れているはずなのだが…やはり勝手が違うのか。
これならば直接ルミ会長に頼み込んだほうが…「おい!なんだこの料理は!!」…ん?
「料理に髪の毛が入っていたぞ!?
玄武商会はこんなものを平然と出すっていうのか!?」
…何やら騒ぎの予感だな。
あの料理を出したのは確か…
「も、申し訳ないです…!」
フウカ先輩だ。だが、あの先輩が料理にそんなものを入れるようなミスを犯すとは思えない。
普段の彼女の働きっぷりを見ている私が言うのだ、間違いない。
だが、あのクレーマーはそんなことは知る由もなく、文句を垂れている。
ここは一つ助けに入るとしよう。
「師匠、そういうことなら私も…」
「いや、いい。少し見ていろ」
「しかし…!」
「この手の相手には淡々と事実を突きつけるのが最適解だ。
幸い、うちにもその手に強いものが加わっている」
「失敬する」
「ん?何だお前!私は今この店員に話して」
言葉を紡ぎ終わる前に黒鍵を振り上げる。
料理から出てきた髪の毛が宙を舞い、黒鍵でわずかに切断されたフウカ先輩の髪の毛もまた宙へ。
それらをキャッチし、懐から取り出した小型の機械の中へ。
これは、
『解析完了。解析の結果、サンプルAとサンプルBの遺伝子は
「「「!!!」」」
遺伝子鑑定機だ。
コレにより、先程『髪の毛が入っている』と出てきたものはフウカ先輩のものではないことが判明したわけだ。
「と、いうことだが。
さて、これはどういうことなのでしょう?」
「ば、バカバカしい!!ただ、こいつのじゃないと分かっただけの話だろう!!
他のものの可能性は」
「うちはそういったものは入らないよう徹底してるよ。
厨房には髪の毛の一本だって落ちてやしない。
何なら、今すぐ全員分の検査しよっか?」
「あっ…」
「おや、ルミ会長。
わざわざ出てきてもらって済まないな」
「かまわないよ。それで、検査しよっか?」
「う、うるさい!そんなことしなくても、そっちが一言謝罪すれば」
「先程からフウカ先輩は謝罪していたが?
それに対して罵詈雑言を浴びせていたのはどこの誰だったかな」
「ぬ、ぐ…!」
「というか、髪の毛が入ってたって訴えたのはそっちでしょ?
検査すればその主が見つかるかも知れないのに、どうして拒むのかな?
…検査してほしくない理由でも?」
「な、何をバカな!私を疑うのか!?」
「なら、早々に検査を行おうか。
それでこちらのものと照合すれば…」
「おい、やめろ!余計なことを…!」
「「余計なこと?」」
「――――――っ」
「せっかく協力を申し出ているというのに、それを『余計なこと』とはどういうことだ?」
「もしかして…『調べられたらまずい』のかな?」
「む、ぐ、う…!」
もはや何も言えないようだな。が、残念ながら容赦も慈悲もないぞ。
「まさかとは思うが…自分で持ち込んだ毛を入れたわけではあるまいな?」
「……………!!!」
当たりか。なんの目的でそのようなことをしたのか知らないが…料理に傷をつけた挙げ句、フウカ先輩にこのような仕打ちをしてただでは済まさん。
「その反応だと、どうやら図星のようだが?
何を考えているのかは知らないし知る必要もないが、このようなことを―――」
「ううううるさい!!私は客だぞ!!」
「「……………」」
「―――――――!」
「先程から黙ってやってれば調子づいて…!
髪の毛が違うものだった!?だからどうした!?
私は!客なんだぞ!
客が不快に思ったらそれを償うのが筋というものだろう!!」
「てんで的はずれな意見だな。
お前が客ならば貴様の過ちが赦されるとでも?」
「ふ、ふざけるな!お客様は神様だろ!!
それをこんな「なんですって?」…ひっ!?」
あ。フウカ先輩の様子が…
「お客様が…神様…?」
項垂れ、いつもよりも低く暗く重い声で呟く。
そして、両角にかかっている髪の毛を掴み…
それを引っこ抜いた!!
「「!?」」
服装が黒く染まり、髪と肌が銀と白に変色する。
そして、その角はより禍々しくなり…
「そちらこそ黙って聞いていればなんだ…お客様は神だと?
神は死んだ!!!」
「…ふ、フウカ、ちゃん?」
「師匠!?何なんですかアレ!?
何がどうなって…」
「――――――――“オルタ化”だ」
「おる、た?」
「オルタナティブ…すなわち“反転”。
或いは黒化…その衣服は黒く染まり、肌と髪は白く脱色され、そしてその性質は反転する。
フウカ先輩の場合は…見ていれば分かるか」
「おい。よくよく見れば料理に対して箸もつけていないではないか」
「な、そ、それは髪の毛が「それは貴様が用意したものだろう」う…」
「それともなにか。
貴様はこの店にいちゃもんをつけたいがために対して料理も口にせず文句を垂れたと?」
「だ、だったら何だ!」
「馬鹿者!!ならばせめて料理を半分も食ってから言え!!
対して食わずして文句など料理に失礼であろう!!」
「な、何なんだお前は!?私の母親がなにかか!?」
「可愛いかわいい、1日中華店員だ!お客様ァ!!!」
「アッ、ナンカスイマセン…」
こうして、その者はその後もフウカ先輩(オルタ)の説教フルコースを喰らい、ずこずこと半泣きになりながら退散したのであった。
…このままめでたしめでたしでも良いのだが、それはそれで物足りない。
スペシャルゲストに声をかけておくことにしよう。
「ふう…そろそろ閉店時間だね。フウカちゃんも1日お疲れ様!」
「気にするな。私は私の役目を全うしたまでの話。
それに…」
(…いつまであの状態なんでしょうか)
閉店も近くなった夜。
フウカはその後もオルタ化状態で働き、見事お客を捌き切って見せた。
その時、ガラリと扉が…
「む、お客様、本日はもう閉店で…な!?」
「こんばんは、フウカ。
ちょっと様子を見に来て…ん?」
先生の姿を見た瞬間、ボン、と小さく爆発したフウカ先輩がいつもの姿に戻った。
合わせて伸びた髪の毛がへなり、と頭の角にかかった。
「こ、こんばんは、先生。その、もう閉店で…」
「よく来たな先生。
呼び出しに応じてくれたこと、感謝しよう」
「って
「すまない、どうしても済ませておきたい用があったのでな。
それで先生、腹は?」
「言われたとおりたっぷり空かせてきましたとも。
どうしてこんな…」
「「………!」」
「…フウカ先輩。今こそ、今日学んだことを発揮するときではないかね?」
「………うん!」
「なら、あたしは…様子見に徹しといたほうがいいかな?」
「そうだな。今回はそうしてもらおう。
が…念のため、後でフウカ先輩と先生の話を聞いておいてもらえるか?」
「了解」
ルミ会長に挨拶し、自分の料理の金を置いて…レイジョを連れて店を出た。
…まあ、会話は聞かせてもらうのだが。
『なるほどね。それで1日私のとこで働いて技術を盗もうとしたわけだ』
『そ、そんなつもりじゃ…あれ、でも結果的にそうなるのかな…』
『まあ、フウカは悪気があったわけじゃないんでしょ?
単に美味しい料理を作れるようになりたかっただけ、ね?』
『…誰のためかは、聞かないんですね』
『え?』
『…フウカちゃん、ちょっとあたしの考えを言ってもいいかな?』
『ルミさん?』
『フウカちゃんの料理の“おいしい”はさ、あたしのそれとは別物だと思うんだよね』
『べつ…』『もの?』
『うん。あたしの料理は、この通り、ザ・店の料理!って感じのやつで。
味付けもガッツリしたのとか、結構奇抜なものもある!
で、フウカちゃんの料理は…その、なんというか、安心感がある味なんだよね』
『あ、それ分かるかも。
おふくろの味…って感じ?』
『うんうん。心が落ち着くっていうか、定番っていうか…優しい味がするんだよ。
まあその…つまり。
フウカちゃんの料理にはちゃんとした良さがあるんだから、他のと比較する必要なんてないんじゃない?ってこと!』
『………私の、良さ』
『そうだね。フウカの作ってくれるご飯とかお弁当、とっても美味しいよ。
あ、もちろんルミの料理も美味しいからね!?』
『ふふ、ありがと』
『…あの、ルミさん。
今日はありがとうございました!』
『お礼なら、今回の件を提案したシエルに言ってあげなよ』
…うむ。わだかまりも無く、フウカ先輩の悩みも解決され、先生の腹も満たされたようだな。
これにて一件落着。めでたしめでた
『ふふ、それにしてもフウカの料理は美味しいなぁ。
ルミの中華も…
本当、どっちも毎日食べられたらどんなに幸せか…』
『『は?』』
…あっ。
『…ん?二人とも、どうしたの?』
『…先生。まだお腹に余裕、あるよね?』
『へ?まあ、その、はい。
シエルのお陰でお昼も食べそこねてたし』
『なら良かったです!私達で追加の料理を作りますので、少々待っていてくださいね!!』
『あたしも協力するよ、フウカちゃん。
ええと、スッポンはこっちに…』
『ルミさん、こっちのニラと牡蠣使っても大丈夫でしょうか?』
『そっちの長芋もいいよ。
…それと、休憩室は向こうだから。ベッドもそれなりに良いのおいてあるよ?』
『ふふ、またまた。
自分だって使うつもりなのに…』
『『フフフフ………』』
『…?』ゾクリ
…自業自得、だな。あいも変わらずのクソボケっぷりには感服する他ない。
まあ、それだけ二人からの後押し(意味深)があるのだ。
加えてあの先生なら問題はないだろう。
翌朝を楽しみに待つとしようか、ハッハッハッハ!!
翌朝。
先生とフウカは朝帰りをし、ルミは久々にスッキリとした顔で朝のシャワーを浴びたそうです。
先生はグッタリした顔でした。