キリエ・エレイソン(お気に入り登録&UA&評価&誤字報告&感想ありがとうございます)
埋葬機関の元アビドス生徒ととある生徒のお話。
――――は?過去の財産…ですか?
――――うん!
――――ユメ先輩。この間痛い目見たのにまだ懲りてないんですか?
――――う。
――――はぁ…揃って日焼けして、足は砂の熱で焼けてヒリヒリするってシャワーで涙目になってたのはどこのどなたでしたかね。
――――う、うぅ…
――――はぁ、全く…ホシノ。あなたからもなにか言ってやってくれませんか?
――――ユメ先輩。
――――ほ、ホシノちゃん………
「こうしちゃいられません!!今すぐ出発しましょう!!この間のリベンジです!!」
「は?」
「――――――うん!行こう、ホシノちゃん!レッツゴー!!」
「……………あの二人は、どうしてこう、アレなんです?本当に――――――!!!
この、どこへ出しても恥ずかしいバカコンビがーーーーーーーッッッ!!!」
「…ぁ」
瞼を開く。
強い日差しは容赦なく瞳に飛び込み、今日も今日とて新たな日の始まりを告げる。
「ぅ…う、ん」
日差しが飛び込んでいるのは何も私に対してだけの話ではない。
窓から部屋に飛び込みくまなく染め上げている。
「ん、ぅ…うぅー、ん」
意識が少しずつ覚醒するのに合わせ、強い日差しが心なしか和らいでいく。
煩わしい日差しもしだいに柔らかく温かいものに変わり、そのままゆっくりと意識を手放…すとまた怒られるのは目に見えているので、やむを得ず体を起こす。
体を伸ばす。
緩みきった四肢に、頭部に、その内側の血管たちが流動し、その機能を叩き起こさせる。
今日はどうあっても寝坊するわけにはいかないのだ。
だって………
「おはよー先生。
今日も頑張ろうね〜」
「ん、あ…いらっしゃい、ホシノ」
今日はシャーレの当番の日だ。
今やキヴォトス中の生徒が喉から手が出るほど欲しがるその数少ない順番が、私に回ってくる日。
そりゃあ寝坊なんてしてられるわけもない。
………あれ?
「先生、なんだか今日は割と片付いてない?」
「え?…ああ、あのね。
ついさっきお客さんが来てさ。
“せっかくだからお仕事も手伝わせておくれよ〜”って言うから…ちょっと手伝ってもらってたんだよね」
「…うへ〜。
もしかしておじさん、お邪魔虫だったりするのかな〜?」
「いやいや、そんな事ないって。
ホシノが来てくれて嬉しいよ」
「………ふーん。そう言ってくれるなら私もお手伝いしようかな。
二人よりも三人のほうが早いってね~」
「ありがとう。
そう言ってくれると助かるよ」
まさか先客がいたとは。ちょっと予想外…
先生と二人きりになるチャンスだったから、残念というのが正直なところなのだが。
しかし、仕事のお手伝いってことはやっぱりどこかの生徒?
連邦生徒会か、もしくは何だかよくやってくるミレニアムの…
「ただいま〜先生。
いや〜すまないね、ついつい買い物が長引いてしまったよ。
新作のお菓子がよりどりみどりだったものでね♪」
ん?この声は…もしかして例の手伝いに来た子だろうか。
聞き覚えのあるような、無いような…
もしかして初めて会う子だったり?
それなら一応ちゃんと挨拶を…
「あ、お帰り
「―――――――――は?」
今、なんて言った。
なんで、その名前が出てくるんだ。
なんで、先生がその名前を、アイツを知ってるんだ。
そんな疑問がとめどなく溢れる。
冷静を保たなければ、落ち着かなければと
ゆっくりと、振り向いて、それを見る。
それは、
確かに、私の知る、
「――――――――やあホシノ。久しぶりだね」
「――――あ」
気の抜けた返事が出た。
先生の心配する声も、左から右へ流れていく。
眼の前の事実を受け止めきれず、ただただ呆然と立ちすくんで動けなくなる。
せめてなにか言葉を返さなくては、と思いながら何もできない。
思考だけが早歩きして、身体が反応しない。
ピピピピピピピピピ
「はっ」
「ん…アヤネから?もしもし」
『もしもし先生ですか!?
今、突然ヘルメット団が…予想以上に数が多くて、おまけに戦車まで…忙しいところ申し訳ないのですが「すぐに行く。待ってて」…はい!』
「…というわけで急ごう。
ホシノとシルベも来てくれる?」
「え、あ…でも、ここからアビドスに戻るとちょっと時間が」
「そういうことなら私に任せておくれよ、二人とも。
「「乗り物?」」
「行けば分かるさ。
シャーレの地下ベースにレッツゴー!」
場面は移り、アビドス自治区。
アビドス高等学校にて…
「ん…あいつら、今回もしつこい」
「どっからあんな勢力かき集めてきたんだか…!
アヤネちゃん、先生たちまだ来ないの!?」
「一応連絡はしたけど、もうしばらく…あれ?
…何が近づいてきてる!?」
「嘘!?まさかあいつらがまた何か…
…ん?何アレ?」
セリカのその言葉と視線の先には…砂煙を上げながら、勢い良くこちらに向かって走ってくる巨大なバギー。
そしてその上には…
「おーい!皆、無事ー!?」
「「――――先生!?」」
「…何だ、アレ!?」
「シャーレの先生か!?今日は留守じゃなかったのかよ!?」
「ってかあのバギー、何キロ出してんだ!?
つか、こっちに来る!?」
「はっはっはー!!さあ突撃だ、『我らが行くは恩讐の彼方』号!!」
「シルベ…もしかしてこのバギーの名前?」
「そうだけど?」
「ええー…ところでさっきからすごいスピードだけど。
ブレーキとかは?」
「眼の前に止めてくれるものがあるから大丈夫さ!」
「何がどう大丈夫なの!?」
「おいあいつらやっぱ突っ込んでくるって!!」
「冗談だろ!?流石にシャーレの先生が乗ってるのにそれは…」
「いや運転してるの先生じゃないし!!
運転してるやつ明らかにブレーキ踏む気配ないだろ!!」
その通り、シルベはブレーキなどまるで使おうとしない。
それどころかアクセルを思い切り踏み込んで未だに加速している。
「まじで吹っ飛ばされるぞ!!
さっさと撃って止め…」
「バカ!!ソレこそ間に合うか!!
それよりも…」
「揉めてる場合か!とっとと逃げるんd…」
その言葉も虚しく、未だに群がっている間の抜けたチンピラたちに勢いよくバギーが突っ込む―――――
―――――ことは無かったのであった。
「「「「「………アレ?」」」」」
チンピラたちは愚か、それを見ていた一部のアビドス生徒も素っ頓狂な声を上げた。
まあ無理もない。
時速100kmにすら至っていたであろう高速突進してくる鉄の塊の衝撃が、まるでやって来ない。
…いや、来ないと言うよりも。
「………
「撥ねられるどころか、そもそも車すら見当たらねぇんだけど…」
「やあやあ後輩クン達!
大事無いようで何よりだ!」
「「「!?」」」
チンピラたちは驚愕の表情で背後に向かって振り向く。
先程までこちらに全速力で向かってきていた車の主と思しき声が聞こえたのだ、無理もないだろう。
「て、テメェらいつの間に!?」
「んー?いつの間にと言われてもねぇ…私達はさっきからこちらに来ていたよ?」
「う、嘘つけ!!
さっきまで私達に向かって思い切り走って来てただろうが!!」
「あー、そうだったね。
――――ま、アレ偽物なんだけどね」
「「「はあ!?」」」
「ホログラムって知ってる?
限りなくホンモノに近い映像で、君たちの注意を引き付けたのさ。
「それ、シルベが胸を張ることでもないんじゃ…」
「この野郎…さっきから舐めやがって!!」
とうとうプッツンしたのか、銃を突きつけてくるチンピラたち。
しかし当のシルベはいぜん涼しい顔である。
「あ、そうそう。そういえばこのバギー、ホログラム機能以外にも面白い機能があってね…」
ポン!!
と、音を立てて煙幕が周囲を包む。
その煙幕が晴れると…
先程までのバギーはどこへやら。
キャタピラーのついた重厚な二本爪のクロウラーアーム、風通しの良いボディーは装甲に覆われ、そこから生えるはぶっとい砲門とミサイルポッドの群れ。
その道のものならば思わず食いついてしまう、ご立派な戦車に早変わりしていたのでございました。
チンピラ達も思わず唖然とし、あ、とかぇ…とかそんな声しか出せません。
「………♪」
当のシルベはそれを愉快そうに眺め、一つ軽く笑みを浮かべると指パッチン。
砲門はそれに応えるように全稼働。
ビームや砲撃、ミサイルによってチンピラたちは残らず吹っ飛んだのでありました。
「というわけで改めましてこんにちは!後輩諸君!
朧シルベ、元アビドス高等学校生徒です!
良ければ仲良くしてね?」
「先輩…初めて聞いた。
ノノミは知ってた?」
「いえ、私と多分、初対面のような…でも…あら…?」
なにか引っかかることがあるのか、頭を抑え唸るノノミ。
「…疲れてるから思い出せないんじゃない?
ほら、皆ってばさっきまで頑張ってたんだしさ〜少し休んできなよ」
「………ん。そうだね、そうする。
先生も、疲れてるみたいだから一緒に」
「え、いや私は別に…あっちょっ、分かったよシロコ、一緒に行くから服を引っ張らないの…!」
先生はアビドスの面々とともに教室に入っていく。
その場に残ったのは二人。
「元気な後輩たちだねぇ。
あんな子達が入ってきてくれるなんてちょっとびっくりかも」
「うへ〜確かに。
よくよく考えたら皆よく入ってきてくれたもんだよ〜」
「ふふ。
…にしても、やっぱり変わるもんだね、この校舎も。
前より砂、積もってるかな?」
「うん。おかげで色々大変だよ〜」
「ま、それでも何だかんだ元気にしてるみたいだし、安心したよ。
私が離れてからどうなったか、これでも心配だったから」
「ふーん。そっか。
じゃ、ちょっと聞こうかな」
「ん?」
「キミ一体誰?」
「じゃあ、今日はこれで。
皆もお疲れ様」
「ん…先生、もういい時間だし、いっそ泊まっていっても」
「コラコラ〜ダメだよシロコちゃん。
先生は明日もお仕事なんだし〜
それはそうと…結局当番らしいことできてないや。
先生、ごめんよ〜」
「気にしなくても大丈夫。
シルベも手伝ってくれてたし…明日にちょっと回るぐらい問題ないよ」
「ふふ、事務仕事は昔から得意だったからね。
それじゃあ、私も失礼するよ、可愛い後輩さんたち?」
そう言って軽く投げキッスをこちらに一つ。
もとに戻ったバギーでシルベと先生は去っていった。
「…行っちゃったわね。
にしても、ホシノ先輩の同級生かぁ…」
「今の今まで何をしてたんでしょう…」
「………まぁ、シルベにもきっと色々あったんだよ。
ホラホラ、早く中へ戻って休も〜」
「ん…」
先生達の帰った方角に背を向けて、校舎に歩みを進める。
そして、玄関に入ろうとして…少し立ち止まる。
「…ホシノ先輩?」
「…ごめんノノミちゃん。
やっぱりちょっとだけ見回りしてくるね」
「―――分かりました。
ちゃんと
「……………うん」
『…名前も見た目も本人なのに『誰』って聞くのもおかしな話かな?
でもさ。私にはどうもあなたが朧シルベだとは思えないんだよね』
『―――――』
『で、実際のところどうなの?
嫌なら嫌で…』
『ごめん。それは私にもわからないのさ』
『…わからない?』
『うん。私が今ここにいる『私』を自覚したのは、本当につい最近のことなんだ。
…ソレより前の記憶は朧気で。
――――本物の『朧シルベ』の記憶は、
『―――――。』
『ただ、一応記憶を見ることはできるからね。
私は『朧シルベ』を演じる事はできる訳さ』
『………うーん。知ってる側から言わせてもらうとさ。
あんまり似てないよ?正直』
『そうかい?』
『うん。そもそもシルベがそうなったのは―――――』
最初に彼女が目に写った時。
いろんなことを考えた。
今までどこに行ってたんだ、とか。
迷惑をかけてごめん、とか。
出会ったら言おうと思ってたことが、頭の中を駆け巡って。でも。
『――――――――やあホシノ。久しぶりだね』
嫌が応にも、理解した。してしまった。
こいつはシルベじゃない。
そして、私の知ってるシルベは、もう。
どこかに、行ってしまったんだ。
「………は、はぁは、はは」
おかしくもなんともないのに、乾いた笑いが溢れる。
何となく覚悟はしてた、けど。
ああ、やっぱり。
「―――――いざ、そうだって見せつけられたら。
やっぱ、キツイねぇ…」
ああもう、何だよ。
こんな、最低な日に限って。
月が、うんざりするぐらい綺麗だ。
「………」
「シルベ?どうしたの?」
「いやぁ。別に?」
ふぅ、と大きめのため息をついて。
再び車を走らせた。
ノルマ達成
次回はまたトンチキやります。