最終編第三話です。
ごった煮状態です。
「…なんだ、コレ」
背負った先生が何かを見て声を漏らした。
内容など確かめるまでも無い。先程からビルの上を飛び回っている間にも街からの音は聞こえていた。
「おそらく連中が手を回したのだろうな。
それにしても指名手配とは。ヴァルキューレにも通じていると見える」
「でも、シエルは私を助けて…!」
「この状況で果たして誰が信じる?
本当に連れ去りがあったかどうか知らないとしても、『そういう事があった』という情報は自然と鵜呑みにされるものだ。
それを否定したいのならば『やっていない』という証明か、『こういう理由があった』と弁明を図るしかあるまい。
…まあ、指名手配犯とそれに連れられた人間の言葉を素直に聞くものなど、今のキヴォトスにも両手で数えられるだけいれば良いほうだろうがな」
「そんな…」
とにかく私の目的は先生を連邦生徒会に到達させることだ。
私の言葉は信用されないだろうが、先生の言葉なら信頼されるだろう。たとえ同じ証拠を提示したとしてもな。
…己で言っておきながら納得がいかないが、とにかくそれが事実なのだから仕方あるまい。
「あ、見ーつけた☆」
―――――殺気!!
すぐさま片手で黒鍵を取り、殺意の方向に一本を投擲。
がきん、と弾かれた音に続いて降ってきた鉄拳を足で薙ぎ払うと、近くのビルの屋上に着地した。
それと同時、殺意を向けてきたであろう者も緩やかに着地した。
さながら銀河を彷彿とさせる光が溢れるのを幻視するようなそれが先程の一撃を放ってきたかと思うと、改めて背筋が冷えるな。
「聖園ミカ…」
「やっほー、シエルちゃん。早速だけど…先生のこと、渡してくれる?」
まあ、この女がわざわざやって来る目的などそれしか無いだろうな。…とはいえ、この女は
私が先生を連れているよりも安全を保障できるだろう。
「ちょっと待ってミカ!シエルは私を助けようと…」
「構わん。早く連邦生徒会に連れて行け」
「シエル!?」
先生を降ろし多少荒っぽくはなったがミカのもとへ。
それと、これを渡しておかなくては。
「先生。これを。
私は暫く下で連中を引きつけよう」
「…ふーん。何かおかしいとは思ったけど、やっぱり訳ありかぁ。それで、この端末にその『答え』があるってことでいいのかな?」
「随分と理解が早いではないか、聖園ミカ。
まさかどこかで監視でもしていたか?」
「ただの女の勘ってやつだよ。でもそう言うのってよく当たるもんじゃんね?
…先生は私が送り届けるから、存分に暴れてきなよ」
「…今回ばかりは、お言葉に甘えるとしよう」
何のことはない。
今の世間にとって私は『先生を連れ去った悪党』であり、先生は被害者だ。その“事実”が揺らぎようのないものであるならば…せいぜいうまく利用しつくしてやるだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「通信設備の遮断を?」
「ああ。これで一部のヴァルキューレ生徒が事実を突き止めようとそれが世間に広まることはない。
市民が知るのは『ゲヘナ生徒が先生を連れ去った』という事実のみ。そもそも大衆は情報が広まろうが、自ら進んでそれが真実かどうかなど探ろうとはしないものだ。
世間からの『正義』の認知はこちら側にある…先生たちに逃げ場はない。指名手配犯をこちらで捉えた後、先生は『安全な場所』で大人しくしてもらうとしよう」
…この二人は知らない。
彼らが定めた標的は、既に『仕立て上げた悪』の元を離れていること。知らず知らずのうち、標的は逆転の一手に近づいていることを。
『ジェネラル、応答を!』
「…どうした?」
『目標を発見、現在市街にて交戦中!
ですがこちらに想像以上に被害が出ており…』
「ならば兵器の投入も惜しむな。
相手は『指名手配犯』だ、捕えることに遠慮をする必要はない」
「…あまり街を壊されるのは防衛室長として感心しないのですがね」
『ジェ、ジェネラル!応答を!!』
「…?急に態度が変わったようですが?」
「いや、これはD.U.からではない…アビドス砂漠の方からか?
どうした?」
『そ、それが突然…ぎゃあああ!?』
ジジッ、プツッ。という音が断末魔を無理矢理断ち切った。
…物語は形を変え始めている。いや、とっくの昔にねじ曲がり、その行先を変えてしまったという方が正しいのかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もう一つの事の始まりは十数分前に遡る。
『清川シエルによるシャーレの先生の誘拐』という作られた事実が報じられるよりも少しだけ前、アビドス砂漠のとある発掘現場にて。
「…しっかしさあ。一体この砂漠に何があるって言うんだろうな?
もうとっくの昔に調べ尽くして『大したものはない』って言われて皆撤退しちまったんだろ?」
「お偉いさんの考えることなんて分かるかって。
俺らはただ言うこと聞いて、貰うもん貰ってその繰り返しだよ。
そういう面倒事や難しいことはそれこそ上の人間の仕事なんだから」
「うえ〜…我ながら本当に機械みたいだなソレ」
なんでもない雑談をしながら発掘作業をこなすオートマタたち。
これほど流暢に言葉で会話し、人間らしい行動をしながら行っていることは姿通りの『機械』的なものというのはなんとも皮肉なものである。
ぶに。という感触が伝わってきた。
それは地面の下、まさしく自分たちが掘り進めている地面からであり…
「なんだ、今…妙に柔らかい…」
「お、とうしたどうした?本当に何か掘り当てたのか?」
掘削機とシャベルを手放し、感触があった地面を手で掘り起こす。
その感触の主であろう白いそれを掘り起こした。
「なんだコレ…ウナギ?」
「いやソレにしてはデカくないか?眼もないし真っ白だし…あと口デカすぎてちょっと気持ち悪いっていうか…」
「いずれにせよおかしなもんが出てきたなぁ。
とりあえず上役に報こ」
バキッ、バリッ、メリメリ
ギャアァアァァ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…清川シエル、彼女の存在が物語を大きく歪めてしまった…その事実は確かでしょう。彼女が完全に
「馬鹿な。あの少女の大元はむしろ惑星の守護者たる立場のはずだ。その彼女の覚醒が惑星の滅びに繋がると?」
「いいえ、マエストロ…よく思い返してください、彼女の今の在り方を。守護者でありながら、世界を喰らい尽くす『獣』…それが清川シエルの状態です。
その力は汎人類史の在り方にすら作用する…
つまり、そう変容するに足る理由があった、ということです」
「そういうこった!!」
「……ふむ、一理ある、か。物事にはそれにたるだけの理由がつきものだ。時に『手段のために目的を選ばない』という輩もいるが…彼女は少なくともそれではあるまい。
だが、それならば“変容する理由”とは何だ?惑星の守護者であり代弁者であるそれが、その歴史を喰い潰すだけの理由…」
「それについては私の方である一つの仮説を考えています。
かつてこの惑星に降り注いだ厄災…正確に言えばその
コン、と音がした。
それは一つ、また一つ、続けざまにおなじ音を鳴らす。
その場に居た異形のモノたちはその音の方角に視線を向ける。
そこには、先程まで姿も形もなかったはずの誰かがいた。
地面を這うほどの長い白髪、思わず振り返ってしまいそうなほどの美麗な肢体。そして、禍々しく恐しく大きく生え伸びた頭部の角。そして…開かれた双眸からは獣を思わせるような赤い瞳が覗いていた。