愉悦部 in キヴォトス   作:山崎五郎

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キリエ・エレイソン(お気に入り登録&UA&高評価&誤字報告&感想ありがとうございます)

前回から引き続きイベント編です。
『陽ひらく彼女たちの小夜曲』シナリオを先んじて読んでおくことをオススメします。
イベント終わりまで間に合いませんでした(小声)


月光に舞う愛のビッグバンド その①

 

ある2月の日のこと。

温泉開発部による万魔殿議事堂の破壊…正確に言うと温泉開発部部長の鬼怒川カスミの直感による温泉開発の余波なのだが。

 

とにかく、破壊活動を行う温泉開発部を追撃するため我々埋葬機関と風紀委員会は彼女らのアジトまでやって来た。

そして制圧のため戦闘を開始した…のだが。

 

「なんであいつらこんなに強いのよ!!」

 

苦戦を強いられていた。ノエルの悲鳴ももっともだ。

いくら温泉開発部の総勢が二百名を超える大人数であるとはいえ、普段の我々ならばここまで押されることはない。

やはりこの場が彼女らの根城であり、地形や構造を知り尽くしている彼女らに地の利があるか…。

 

となれば、どうにかこうにかして温泉開発部(連中)の戦意を削ぐのが手っ取り早い解決法だろう。…まあ、そんな方法があればの話なんですがね。

うーむ、温泉開発部…温泉…あっそうだ(天啓)

 

「アルハ!タマキ!ついて来い!

それ以外はもう少し粘れ!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇   

 

 

 

「ハーッハッハッハ!!良いぞ良いぞ!!

この調子で風紀委員会と埋葬機関を押し返してしまえ!!

恐れることはない!我らには温泉がついているのだから!!」

 

「「「おおおーーーーっ!!!」」」

 

温泉開発部はまさしく破竹の勢い…いや、一度敗走したことを考えると捲土重来(けんどちょうらい)と呼ぶべきだった。この拠点は数多くの温泉が湧き出る、まさしく温泉開発部からすればオアシス同然の場所であり、地の利も相まって彼女らの士気は高まる一方であった。

 

そしてつい先程まで天敵たる風紀委員長(空崎ヒナ)にビビり散らかし、どこぞの小さくて可愛い生き物のように泣きじゃくっていた部長の鬼怒川カスミもまたその例に漏れず、意気揚々と指揮を執っていた。

 

「今こそ数々の借りを風紀委員会に返すとき!

そしてゲヘナのみならず、このキヴォトス中に温泉を……!」

 

「ぶっ部長!!た、たた大変です!!」

 

「ん?どうした!今の我々には風紀委員長だって怖くな…」

 

「温泉がみんな凍りついてるんです!!」

 

 

「――――えっ?」

 

「こ、これドローンからの映像です!

この拠点の、お、温泉という温泉が…!!」

 

「……………う、ぅう、う…」

 

 

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇    

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?お、おおお温泉がああああああっ!!?!?」

 

おっ、カスミの狼狽(うろた)え気味の悲鳴が聞こえてきた。

作戦が成功した証拠だな、やったぜ。

そしてその情報は温泉開発部全員にすぐさま広まり…先ほどまでの勢いはどこへやら。

 

揃いも揃ってこの世の終わりかのような表情に様変わりし、数少ないそうでないものもあからさまに狼狽え気味である。

こうなれば後は攻め立てて主犯格のカスミや下倉メグを引っ捕らえるだけの簡単なお仕事だ。

 

…せっかくなので、制圧までの間に『温泉が凍った』手品についてのネタバラシでもさせてもらおうか。

 

 

 

まず前提として、温泉自体は凍っているわけではない。

 

バッチリ凍っているように見えるだろうが、これは温泉に触れないように張った水面をアルハの原理血戎(イデアブラッド)による凍結の原理で凍りつかせただけである。

 

…ん?『高温の温泉の上に氷なんて張っても熱で溶けるだろう』? そんな事は分かっている。

そもそも前提として温泉の上にきれいに蓋をするような氷…もとい、それの元となる水など普通に出すことなど出来はしない。

 

そこでタマキと彼女の発明品の出番だ。

フラッシュフィールド*1によって熱と温泉の水分を弾く特殊電子膜を張り、その上に激流葬送(ハイドロザッパー)の放水で水を確保。

後はそれをアルハに凍らせてもらえば、あたかも温泉そのものを凍りつかせたように見せられるわけだ。

 

もっとも近づいてしっかりと確認すればこんな手品など簡単に見抜けそうなものだが…温泉第一主義な温泉開発部(あの連中)にはそれどころではなかったようだ。

 

 

 

…とかなんとか解説しているうちに制圧完了。

幹部格も揃って捕らえられ、連行されていったのでありました。

 

 

 

   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇   

 

 

「………あ゛ー」

 

場面は変わってシエルの教会。

温泉開発部の捕縛任務を終えた埋葬機関の面々は、その後指令もなく待機を命じられていた。

 

ただし、普段の彼女らと違う点が一つ。

その場に局長…教会の主である清川シエルその人と、技術顧問である嵐タマキの姿はなかった。任務を終えてすぐ『用ができた』と言いその場を去っていたのである。

…それだけならば特別問題ではなかったのだが。

 

「何時間待たせるつもりよ…もう日暮れちゃってるんだけど!?」

 

「もう今日は解散で良いんじゃないですかね…」

 

先ほど如何にも怠そうな声を上げたノエルが、彼女の隣で大人しく待っていたエミリがそう口にする。

実際既に日は地平線…ないし様々な建物の向こうへとその姿を隠してしまっていて、陽光に隠れていた月がその顔を出していた。

 

流石のゲヘナの不良児と言えども、こんな時間に動き出そうとするもの好きは早々いないだろう。仮にいたとしてもまず埋葬機関(自分たち)が駆り出されることはない。

 

…少し話が逸れたが。温泉開発部を拘束し終えたのはまだある程度日が照っていた頃であり、それが沈むこの時間までノエルらは待機を命じられていた。

そんなことをされれば当然不満の言葉の一つや二つ出るものである。

 

「あ~…でも、もし勝手に帰ってシエル(アイツ)に何かされたら溜まったもんじゃないし…でも…」

 

ノエルの脳内には不敵な笑みを浮かべるシエルの姿が。

 

 

「…今帰った」

 

「ん、おかえ、り………?」

 

噂をすれば何とやらか、教会の扉が開かれシエルが帰宅した…

が、その姿を見たノエルとエミリは思わず硬直せずには居られなかった。

睡魔にあっけなく敗北することを選んだアマロ、おやおやとおかしなものを見るような笑いをこぼしたシルベ、そしてこの場にいなかったタマキを除いた他の面々も、おそらく同じ様な顔をしていたことだろう。

 

シエルの顔は…さながら実写版の世界一有名な電気鼠のようなしわくちゃな顔になっていた。普段ならば凛々しく伸びている背も猫のように曲がって項垂れており、その有り様からは明らかな疲れが見て取れた。

 

「ちょっ…!?アンタどーしたのよ!?」

 

「何故にそんなにぐったりと…今の今まで何してたんですか!?」

 

「済まないが諸々の用は明日にしてもらおうか…今は泥のように眠りたい気分だ」

 

普段のように嫌味を返すこともなく、かといって真剣に答えるでもなく。力のない声でシエルは答えた。

 

「ああそれと…タマキ」

 

『はいよォ〜』

 

この場に無かったタマキの声がドローンから響く。

ノエルの前まで飛んだドローンがリストを一束渡し…一束、また一束と埋葬機関の各面々に渡していった。

トドメにアマロの顔に投げつけるように渡し終わると、

 

「全員そのリストから好きなドレスを選んでおけ。話は以上、解散」

 

「あの、私は…」

 

「エミリ、お前には別の衣装を用意してある。それに関しても明日だ…私は寝る」

 

「ちょっ」

 

引き止めようとするエミリの声が届くことはなく。

シエルは寝室へと駆け上がり、そのまま扉を閉め切ってしまった。

 

『ま、そういうワケだからよ。

できるなら今晩中に各自選んでおいてくれよなァ』

 

そう言ってタマキのドローンもその場を去ってしまった。

…その後、十数秒経って『あ、このドレスはノエルに似合いそうじゃないかい?』とシルベが言い出すまで場を静寂が包んだのであった。

 

 

*1
39話・41話(43・45)参照





今年最後の投稿です。
詳しいことは次回に。
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