TS転生したけど、引きこもりニートしてネトゲやってます。ギルメンに兄がいるんだけども………   作:布団から出られない

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義兄との邂逅

おれ、葉風 深沙季(ハカゼ ミサキ)は、引きこもりだ。

一日中自室に滞在し、24時間、分にして1440分、秒にして86400秒を全てゲームや動画投稿サイトの動画視聴で潰している穀潰しだ。

そんなオワコンな生活を送っている元男の女子中学生のおれは今、陽キャの女の子2人と共にお買い物中です。

 

1人はおれの双子の妹こと葉風 舞(ハカゼ マイ)。栗色の綺麗な髪に、くりくりとした小動物を彷彿とさせるような瞳に、どんな人でも一瞬で魅了するような天使の笑みを放つことのできるスクールカースト最上位のチート陽キャ女子だ。

 

そしてもう1人はそんな妹の友人の由良 美雨(ユラ ミウ)。舞の親友らしく、明るい茶髪に高いテンション、幅広い人脈、運動神経抜群、などの欲張りセット持ちの、スクールカーストTOP系バリバリ陽キャ女子だ。

 

うん、びっくりするよね。おれもびっくりしてる。はっきり言って、今すぐ帰りたい。部屋に篭りたい。ゲームしたい。寝たい。ダラダラしたい。

 

いや、舞も美雨って子もいい子なのよ。

美雨ちゃんは舞からおれが男性恐怖症で引き篭もってるって聞いて協力してくれているのだ。おれが外に出れるようにと。彼女らは中学1年生、さらには、スクールカースト最上位のバリバリ陽キャで、友達も多い。休日はできるだけ友人との遊びの時間として使いたいはずだ。そういう年頃でもあるし。にも関わらず、舞や美雨ちゃんは毎週休日が来るとおれの部屋の前まで来てお出かけに誘いに来てくれていたのだ。

 

当然、おれに外に出る勇気など微塵どころかミジンコ程もなかったので、毎週丁寧にお断りさせていただいていた。オトコノココワイヨーなんて言えば、舞も美雨ちゃんもそれ以上踏み込んでこなくはなるからね。

だが、断っても舞と美雨ちゃんはおれの部屋の前でおれに話しかけたりして、気にかけてくれていたのだ。それも、おれが気まずくならないよう気をつけてくれながら。

 

まあ、そんな風に毎週来られると、ちょっとぐらいなら外出てやってもいっかな、なんて風に思ったりすることもあったりするんですよね。

たまには運動した方がいいだろうし、っしゃ出てやるかぁなんて意気込んで出てきたのはいいものの……。

 

今まで家に引きこもっていたような奴が、いきなり外に出て無事で済むはずがなく。

 

家を出た当初は少しわくわくすらしていたくらいだったのが、今じゃ気分は最底辺。

本当に帰りたい。今すぐ家に帰ってネトゲしたい。いや、もう寝たい。嫌なこと全部忘れたい。

 

「ごめん、深沙季ちゃん。無理矢理連れ出しちゃって。疲れたよね、帰ろっか」

 

おれの限界を察したのか、美雨ちゃんは申し訳なさそうにしながらおれにそう話しかけてくる。

本当に良い子すぎる。こんな子がおれのクラスにいてくれたら、小学生生活も少しはマシだったかもしれない。小学校の時のクラス替えってどうやって決めてるんだろうな。アレ、もしかしてわざとおれのこといじめるやつをおれと同じクラスにしてたんじゃないかな。おれ美雨ちゃんと同じクラスになったこと一度もなかったもん。

 

結局、この日はおれは何も買うことはなかった。2人とも色々おすすめの服だったり化粧品だったりを薦めてきたりもしたのだが、はっきり言っておれには女の子らしい部分などミジンコレベルどころかゾウリムシレベルもない(あんま変わらん)ので、2人のおすすめに心惹かれるものは一切なかった。服自体は可愛いと思っても、『自分が着たい』という感情が一切湧いてこないのだ。

 

それに、視界に男が入るたびに、入学式のあの日、あいつに襲われた時のことがフラッシュバックして、その場で倒れてしまいそうになるのだ。分かってる。世の中の男の人達が、皆そんな奴なんかじゃないってことくらい。むしろ、あんなことする奴なんてほんのごく一部なんだって。でも、怖いものは怖い。おれは本能には逆らえないのだ。本能が怖いと認識してしまった時点で、おれの手も足も、脳も、全身がすべて恐怖に支配されてしまう。

 

本当に、おれだって克服できるならしたいんだよ男性恐怖症(こんなの)

 

そんなこんなで、母親、妹、妹の親友、さらには学校の先生と、色々な人に心配されながら毎日を過ごしている。が、いまだにおれが不登校クソニートから脱出することはできていない。おれのことを襲った男子生徒は保護観察処分だか何だかで今も元気に学校に通っているらしい。一応謝罪の手紙みたいなのも貰ったが、はっきり言っていらない。思い出したくないので、今後一切関わらないでほしいと頼んで、それ以降やり取りはしていない。

 

そもそもおれをいじめたのも、最初は構ってほしかったからとか、そんな理由だったらしい。おれのことが好きだったんだと。だからって襲うか? 普通。ありえんだろ。本当に好きなら、もっと相手のことを思いやれよと言ってやりたい。お前のそれは恋だとか愛なんかじゃなく、ただ欲望のままに振る舞っているだけなんだと。

 

まあ、おれも子供じゃない。あのクソ野郎のやったことは許せないが、子供だから仕方ない部分もある。これがおれ以外の女の子が被害に遭っていたら、仕方ないじゃ済まされなかったかもしれないが。

と、こんなことを言っても、結局1人の人生潰してるんだから擁護はできないな。おれだけじゃなく、結果的におれの周囲の人にも迷惑をかけることになってしまっているわけだし。

 

まあいいや。さっさと帰ってネトゲでもしよう。

こんなことを考えていてもしんどくなるだけだ。おれは妹の舞と一緒に、自宅の扉を開ける。ただいま、久しぶりに言う、たった4文字のその一言。

それを言った時、少し悲しくなった。改めて、自分がずっと引き篭もってるという事実を、叩き込まれたような気がした。

 

おれは手を洗い、さっさと部屋に戻ってゲームをしようと、スタスタ歩いていく。

しかし、途中でおれの足は止められることになる。

 

家の中に、見覚えのない男性がいたからだ。

 

「えーと……深沙季ちゃん?」

 

一切面識のないはずのその人は、おれの名前を見事に当ててみせる。ああ、そうか、この人が、おれの兄となる人か。母親の再婚相手、その連れ子。それが彼の正体だ。

 

挨拶、しないと。

一応、これから家族になるんだから、最低限言葉を交わせるようにはならないといけない。

でも、相手は、男。

上手く、話せるのか………。

 

「は……はじめ……まして……み、深沙季………です……」

 

どもりながらもおれは、何とか言葉を紡ぐことができた。印象はあまり良くないかもしれないが、挨拶しないよりもマシなはずだ。

 

「はじめまして。えと、これから兄になる、無月(ムツキ)です。別に畏まらなくても大丈夫だから、気軽にお兄ちゃんとか、無月って呼び捨てにしてくれたりすると嬉しいかな」

 

無月(義兄)は、おれに気さくな笑顔でそう自己紹介をしてくれている。おれに関わりたくないだとか、面倒臭いだとか、そんな感情、もとい悪意は、彼からは一切感じない。人柄も良さそうだし、チャラチャラしてる感じでもないからあまり心配な点など見当たらない。

 

だけどやっぱり、彼も男だ。おれの体は、相手が誰であろうと、それが男ならば、無意識のうちに拒絶してしまう。

 

彼には悪いが、正直言ってもうかなり限界だ。ここはさっさと自室に帰らせてもらうとしよう。

 

「そ、それじゃ……わたしはこれで……」

 

何も言わずに去るのは失礼だと思うので、一言だけそう告げてから、足早に自室に滑り込むようにして入る。いくら何でも愛想のなさすぎる妹だなと思う。双子の舞はあんなにもキラキラしていて接しやすいのに。

そんなおれの様子に、戸惑う無月(義兄)の姿が見えた気がしたが、そんな彼に対してできることなど、おれにはなにもなかった。

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