明日世界が終わるとしても   作:ぺぺヘペペ

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落ちてきたモノ
プロローグ


『グリモトム社による新モデルのアンドロイド! 発売中!』

 

 そんなデカデカと映るネオンの広告を見つめ、俺はタバコに火をつけ歩き出す。

 行き交う人々の合間を縫って進み、古くなったサングラスを掛けて目線を隠した。

 何か後ろめたいということがあるわけでもないのだが、ただ……街の景色がやたら眩しくて、見ていられなかっただけだ。

 

 2041年、ガキの頃と比べて街の様子は様変わりした。

 日本の各地ではビルがそびえ立ち、ネオンが夜を照らし、人を模した機械が闊歩する。

 技術は一つ二つと新たな段階へ、俺のような鈍臭い人間ではついていけないような次元に達していた。

 

 昔はこんな街ではなかった。

 変わってしまったのは『祝福』が空から落ちてきた日からか。

 

 あれは2025年の話……だったか、あの日世界に革命が起きた。

 空が降って落ちてきた物、『祝福』と呼ばれる液体によって。

 どういうものか一般人には明かされていないが、ありとあらゆる金属を『次』の段階へ進めるものとだけ説明されている。

 

『次』に進んだ金属は新たな特性を生み出す。

 それまで常識では考えられてこなかったようなものが次々と実現していったのだ。

 昔漫画で読んだような世界、それが瞬く間に出来上がって行き。

 そして現在、かつてサイバーパンクと呼ばれていた世界が現実になったわけだ。

 

「……ったく。最近じゃタバコも手に入らねぇ……」

 

 最近では昔ながらのタバコは手に入らない。

 必要なくなったからだ。

 もっと簡単で健康で、それでいて安いものがあるから、なくなるのも必然ではあるのだが。

 

 俺はため息を吐きながら、吸いきったタバコを地面に投げ捨て強く踏みつけ磨り潰す。

 そこから立ち去ろうとしたところに、小うるさい警告を鳴らしながら一体の機械が近づいてきた。

 俺が磨り潰したタバコを片付けると俺の前に立つ。

 

『ゴミのポイ捨ては禁止されています!! ちゃんとゴミ箱に捨ててください!』

「……」

 

 それを避けて進もうとするが、その前に前に動いて退こうとしない。

 ポイ捨てするんじゃなかったな……と軽く後悔しつつ、機械に手をついて触れる、

 少しするとコインのような音が聞こえて機械は去っていった。

 

「ったく……何でもかんでも罰金かよ」

 

 今じゃ手をかざすだけで金銭取引ができるような、埋め込み式のICチップが存在している。

 埋め込みは義務で、していない人間はそもそも何もできないとのことで。

 俺も嫌々ながら埋め込む羽目になった。

 社会は変わりゆくものだから、仕方ないとしか言いようがないのだが。

 

「……アンドロイド、か」

 

 ふと足を止めてショーケースを見つめる。

 人の形をした機械、アンドロイドの入ったショーケースだ。

 一昔前ならば妄想の産物だ、と切って捨てられる存在だったはずなのに、今こうして現実に存在している。

 

 価格は安くて一万、高くて数十万程度。

 買おうと思えば買える値段ではあるが、好き好んで買うようなものでもないだろう。

 そもそも俺はアンドロイド自体あんまり好きじゃない。

 

 理由は……まぁ、色々あったとしか言いようがない。

 とは言え、特に嫌いなところを、と言われると、人間らしくない無機質なところが苦手だ、と答える。

 

 コートから新しいタバコを一本取り出し、古くなったライターで火をつけるとまた歩き出す。

 しばらく足を止めることもなく歩いて、家のある裏路地に。

 

 少し古びたビルがいくつも立っており、その下にはアパートも乱立している。

 階段で上へ下へとあっちこっち進んで名もなきアパートの一室、自分の部屋へ。

 

 いつも変わらない日々。

 仕事も何もないから、タバコを吸って放浪する、つまらない日々。

 

 今日も昨日も、そして明日も。

 これからもずっと送って行くのだろう。

 そう思っていた。

 

 その日、その時、ドアを開けるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 四畳半の腐った狭い部屋の中心に、黒く無機質な機械の箱のようなものが一つ置かれている。

 天井ぎりぎりのサイズでかなり大きく、普通に考えて部屋に入るようものではない。

 壁でも壊さない限り。

 

 だが壁は壊れていないし、直したような跡もない。

 まるで元々そこにあったかのように黒い箱は存在していた。

 

「……箱、っつーより……棺、か?」

 

 明らかに普通ではないそれに、俺は警戒しながら部屋の中に入る。

 入ってまず最初に出た感想は。

 

「寝るとこ、ねぇな……」

 

 それどころではないのは確実なのだが、少し混乱しているせいか、そんな言葉が出てしまった。

 そんな感想が出て少し呆然としたのち、正気に戻った俺はコートを脱いで黒い箱に近づく。

 

 触ってみた感じは……なんだろうか、これは。

 鉄、のような……だがそれでいて、硬さと柔らかさを両立させているような。

 

『祝福』によってもたらされた『次』の金属とは違う。

 かと言って、今まで存在していた金属のどれかに当てはまるか、と聞かれると違うと答えられる。

 

 不明、ただそれだけが頭の中に思い浮かぶ。

 わからない……幾千という金属を触ってきたが、こんなもの見たことも触れたこともない。

 少なくとも表社会に出回っているものではないことだけは確かだ。

 

「どうなってやがる……」

 

 近くの灰皿でタバコをすり潰し、タンスから埃を被った工具を持ち出す。

 工具を箱の前において、もう一度触りながら全体の確認。

 そこで横の方に小さく何か刻まれているのを見た。

 かなり雑めなところを見るに、急いで掘られたような感じだ。

 

「F.T3.E-Ls……? なんだそりゃ……」

 

 これは……名前、なんだろうか。

 どちらかというと型番かもしれないが……しかし聞いたことのない型番。

 基本的に型番は『与えられた名前』と『世代』と言った風に分類される。

 例えば『CuT-12』だと、CuT型アンドロイド12代目、と読めるわけだ。

 

 とは言ったが、アンドロイドと決めつけるのはよくない。

 

「取り敢えず中身を見てみないことには……ん?」

 

 刻まれている部分を軽くなぞっていると、少しだけ凹んでしまう。

 もう少し強く押してみると、どうやら蓋になっていたようで取ることができた。

 中には歯車と電気回路が複雑に絡みあっており、『次』に行った金属もかなり含まれている。

 だがどれ一つとしてまともに動いていない。

 

「この歯車……炭裂鉄(ダイマナアイアン)でできてるのか? 炭があるだけで爆発する危険物だぞ……確かに耐久力は爆弾を簡単に耐えれるモノだが……」

 

 俺は回路の歯車の中に手を入れ、慎重に動かして調整を始めた。

 これがまた……かなりの重作業で、久々の作業ということもあって、上手くいかない。

 

 と言うか、中身自体がかなり無茶苦茶だ。

 誰が作ったのか知りたいぐらいには頭のおかしい作りになっている。

 間違いなく、これを作ったやつはイかれているだろう。

 

「ったく……! なんで俺の部屋なんだか……!」

 

 置いた奴の顔が見てみたい。

 などと思いながら作業を続けること一時間。

 カチッ! とハマったような音が響く。

 それをキッカケとして歯車が見事に動き出し、電気が箱全体に回り出す。

 その瞬間だった。

 

「なっ……」

 

 突然音を立てながら箱が変形して行く。

 と言うより()()()()()

 

 俺は急いで距離を取って、玄関ギリギリのところに行く。

 だがそんな俺に対し箱は容赦なくその形を広げた。

 そして一分もしないうちに、羽のように大きく横を広げ、壁を突き破ったそれは、煙を出しながら開き始める。

 

「……んなァ。マジかよ……」

 

 そして開いた箱の中にいたそれは。

 ケーブルのような黒と銀色の髪、金属のような硬さでありながら人と同じ肌を持ち、そして完成されたとしか言いような顔をしている。

 

 

 

「おはようございます。今日は第七周期、一週間後……()()()()()()()宣言します」

 

 

 箱から出てきたそれは、一人の、一つの、アンドロイドだった。

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