ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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UA五万突破、並びに今まで書いた作品の中で一番高い評価を頂いています。

皆様のご愛読、感謝の念が絶えません。




Session 12: 再戦(リベンジ)、開幕

日が暮れ、空が赤紫の、濃い血の色に染まる。洞穴の入り口に陣取るゴブリンと狼達は示し合わせたかのように大欠伸を噛み締め、重い瞼を擦り始めた。

 

それが永遠の眠りの前触れとも知らずに。

 

一の矢がゴブリンの喉を、遅れて続く二の矢が狼の眼孔を捉えて射殺した。瞬く間に色めき立つゴブリン達。

 

——敵だ、どこだ、どこにいる。

 

——いた、木の上。いや、飛び降りて来た。

 

ウィッチャーは口笛でゴブリン達に向かって手を振ると、森の中へと駆け込んだ。

 

――しめた、逃げるぞ。背中に剣を生意気にも二本背負っている。あれも、あの弓も、首飾りも全部俺の物だ。

 

狼の背に飛び乗って蹴り起こし、少し遅れてゴブリンライダー達が我先にとウィッチャーの後を追う。しかし奴らは走っている間も気付かない。普段ならこれ程の距離を走れば普通の只人(ヒューム)は疲れる筈なのに一向に距離が縮まらないことに。

 

投石紐を持ったゴブリンの何匹かが石を装填しては振り回して投げつけるが、自ら移動しながら移動する的に当てるだけの技量など持ち合わせていない。どころか、見当違いの方向に飛んで行ったり、木に当たったり、ひどい時は前方にいるゴブリンライダーの頭や狼の尻尾を掠める。痛打を与えるどころか痒くもない。

 

ウィッチャーは後ろを向いて速度を緩めずにゴブリン達の方を見やり、憎たらしい笑みを浮かべてかかって来いと手招きして見せる。そして投石のお返しとばかりにクロスボウで狼一頭を騎手ごと撃ち抜いてから再び前を向いて走り始める。

 

そして丁度二本の大木の間に差し掛かると、躓いて転んで見せた。

 

——今だ!馬鹿め、間抜けめ、好い様だ。血祭りにあげてやる!

 

ゴブリンライダー達の勢いが更に速まる。狼達を全力疾走させてウィッチャーを八つ裂きにせんと向かっていく——が突如先頭のゴブリンライダー達の狼がつんのめり、騎手を空中に放り出した。後ろに続くライダー達も何事か分からず、狼達を止めようとするが、一度速度を上げた物は急に止まる事は出来ない。

 

「騎馬の使い方も知らん間抜け共が。いっちょ前に騎馬兵の真似事をするからそうなる」

 

ウィッチャーは抜刀し、左手を地面に叩きつけて罠陣(イャーデン)を発動。未だ起き上がれていない狼やゴブリン達に止めを刺していく。さくり、さくりとまな板上の野菜でも刻むように、至極無感動に殺していく。

 

立ち上がった所で印の所為で力が入らず、動きも鈍重になってしまう。そんなのろまな敵などウィッチャーの剣術の前ではかかしも同然。首を刎ねられ、胴を貫かれ、喉を裂かれる。かくしてゴブリンライダー達は日の光すら沈まぬうちに全滅した。

 

「すご・・・・・・!」

 

圧倒的過ぎる。女魔法使いと女武闘家は、ただウィッチャーの指示通り転んだふりをしたのを合図に仕掛けた縄を張り詰めさせただけだ。たったそれだけで十数騎はいたゴブリンライダー達は動きを止められ、陣形を崩され、最後には魔法で動きを封じられて一方的に壊滅させられた。

 

「本は色々と読んでおく物だぞ。案外使える物が眠っている。今回はギルドで埃をかぶっていた兵書の写しを参考にしてみた。森人(エルフ)が自陣にて騎馬兵を滅するのに使う常套手段らしい。もっとも、あいつらは縄だけでなく網や鎖も使ったそうだが」

 

「たった一本の縄で・・・・・・」

 

そう。たった一本の縄を銀貨一枚で村人から譲り受けたのだ。たった一本の縄で一対多と言う明らかに不利な戦況を見事にひっくり返して勝利したのだ。

 

「さて、次はお前達の出番だ。洞穴のゴブリンを倒しに行け」

 

 

 

——遅い。

 

人骨と木片で出来た椅子に腰かけ、右手に骨製の持ち手の石斧を持ったホブゴブリンが苛立たしげに足を揺らす。

 

侵入者を見つけてゴブリンライダー達が追い立てて行ったそうだが、待てど暮らせど戻ってくる様子が無い。恐らく冒険者だろう。きっとそうだ。鼻持ちならない奴らはいつも自分達の邪魔ばかりしてくる。自分に長になることを勧めた奴みたいなのがもっといれば更にやりやすいというのに。

 

まあ、いないのならいい。冒険者など物の数ではない。これだけのゴブリンを相手に何が出来るというのか。武器も食い物も、数を増やす手段も潤沢だ。冒険者が踏み込んでくるならば勝手知ったるこちらの領域、どうとでも処分できる。ライダー共がいなくても問題は無い。むしろ自分の巣穴の長としての立場を簒奪しようとする卑怯者共が消えて清々した。このまま王国作りに勤しめばいい。

 

そう、王国だ。このままどんどん地下深く掘り進めて巣穴を拡大し、畑を奪い、家畜を奪い、女を奪い、数を増やす。そしてその頂点に君臨するのが自分だ。

 

そんな夢を見ながら舌なめずりをするホブゴブリンの鼻に焦げ臭い匂いが漂って来た。手下のゴブリン達がまた女共を玩具にしているのだろうと思ったが、あそこは自分の玉座の間より距離がある。これ程煙が届くことは無い筈だ。

 

加減を間違えて火を焚きすぎているのかもしれない。ならば見せしめに一匹痛めつけてやらねば。まったく、王でいるのも一苦労だ。

 

女達がいる通路を通って辿り着くが、火の気などどこにもない。ぐったりした女の一匹を玩具にしている奴を引き離し、この煙は何だと問い詰める。

 

答えの代わりに、さっき通ってきた通路から燃える薪が放り込まれた。

 

矢・点火・射出(サジタ インフラマラエ ラディウス)――火矢(ファイアボルト)!」

 

胸にゴブリンの頭ほどもある大穴を開けられたホブは、死の闇に意識を沈められながらもその答えを悟った。

 

火を焚く二人の冒険者である。

 

「てりゃあああああ!!」

 

更にダメ押しとばかりにそのうちの一人、女武闘家が抜き放った幼馴染の形見の剣がホブゴブリンの喉笛を鍔元まで深々と貫いた。ゴリゴリと肉と筋、そして骨を削る感触に思わずえずいたが、気合と共に胃液を腹の底に押し留める。

 

「ホブは倒した、一旦退くよ!」

 

「うん!」

 

松明や燃えさしなどを様々な通路の中に投げ込んでゴブリン達の注意を引きながら、入り口を目指す。殿を務める女武闘家はちらりと背後を振り返ってみると、想像以上のゴブリンがこぞって自分達を目指して我先にと通路を駆けあがってくる。

 

計画は既に決めてある。ウィッチャーは手を貸すが作戦立案に助言はしないと宣言した以上、知恵は二人で絞るしかなかった。結果思いついた策は、こうだ。

 

まず、先程の騎馬殺しの策を参考に、入り口に杭と縄で足を引っかける仕掛けを作っておく。

 

次に火を焚いて松明や燃えさしを持って巣穴の中に静かに入り込む(当然匂い袋を使ってゴブリンの嗅覚を誤魔化してからだ)。罠を警戒しつつ、藁や枯れ草を束ねた物も一緒に置いて行き、徐々に燃え広がるようにする。虜囚がいた時の為に急激に火の手が上がらないように考慮しての事だ。

 

そしてわざと見つかり、出来るだけ音を立てながら脱出する。全員を引きつけることは出来ないだろうが、見た限りではかなり多い。二十匹はいるだろうか。ホブゴブリンがいきなり出て来たのは誤算だったが、煙と匂い袋の相乗効果で鼻が利かなかったのか、見つからずに不意を打って始末できた。

 

「ウィッチャーさん!」

 

「お願いします!」

 

洞窟から出て横に跳んだ二人の合図に「はいよ」と呑気に煙管をぷかぷか吹かしながら導火線に火を点け、飛び出して来た所に『サマム』と呼んでいた目潰しの爆薬をお見舞いする。そして女武闘家と共に目を潰され、足を引っかけられた無防備なゴブリン達を一匹ずつ確実に始末していく。その間女魔法使いはゴブリンの後続を警戒して残り一回の術をいつでも使えるように死角に目を光らせる。実際そのおかげで二匹目のホブゴブリンを火矢(ファイアボルト)で葬れたのだ。

 

ここで、ようやく三人一緒に塒へと踏み込む。

 

ゴブリンライダーの騎馬殺しと塒の入り口での釣り野伏せにも似た策略で大部分のゴブリンは殺せている。後は堀られた横穴を片っ端から調べて切り捨てていくのみ。

 

正確な数は数えていないが、ゴブリンライダーでの十二匹、釣り野伏での十五匹以降は数えていない。虜囚を発見した後は優先的に彼女達を外に連れ出し、殿を攻撃力が最も高いウィッチャーに任せて、討伐は完了した。

 

「勝っ、た・・・・・・?」

 

「みたい、ね」

 

駆け出し二人は虜囚達を洞穴から少し離れた所に寝かせた後に一気に体の力が抜けたのか、その場に座り込んだ。今度は成功した高揚感からか、目頭に熱がこもる。

 

「なんだよ、やれば出来るじゃないかお前ら」

 

ウィッチャーは只一人拍手を送るが、だがしかしと続ける。

 

「満点はやれんな」

 

「え?」

 

「何でですか?」

 

()()()()()()

 

そう言うや否やクロスボウを引き抜き、発射する。二人の間を縫う様に矢が通り抜け、ぎゃおっ、と断末魔の声が上がる。声がした方へ向かうと背中から胸まで貫通したそれを食らったゴブリンシャーマンが死体となっていた。

 

「あ・・・・・・!」

 

「シャーマンがいたのね・・・・・・」

 

「休んでいる間に逃げ果せてしまう所だったぞ。敵影の確認不足と注意力散漫、呪文使いを真っ先に潰さなかったのを減点して十点満点中七点ってところだな。まあ俺も含めた計画の立案もしっかり実行したし、全員損耗、及び手傷は無し。一応及第点より少しは上を行ったな。()()()()()()としては大成功なんじゃないか?」

 

「そう、ですね」

 

疲れながらも、二人の駆け出し冒険者は互いに目に涙を湛え、笑みを交わし合った。生き残ったのだ。ゴブリン達に一矢報い、自分達なりの方法で失った仲間の弔い合戦を仕掛け、勝利したのだ。これで彼も少しは浮かばれるだろう。

 

「あれ?」

 

月明かりに反射して、ゴブリンの手に光る物がある。女魔法使いは顔を顰めながらゴブリンの指からそれを抜き取った。

 

「これ、もしかして魔法の指輪かもしれないわ。流石に鑑定してもらわないと分からないけど、多分呼気(ブリージング)の指輪ね。煙が効いた様子が無く逃げ切りかけていたのもその所為かもしれない」

 

呼気(ブリージング)って?」女武闘家が尋ねた。

 

「水中とか瘴気の渦中でも呼吸が出来る様になる魔法よ。指輪をつけている限り発動するの。学院で先生が一つ持っていたのを見た事はあるけど、こんな形の物もあるのね。ウィッチャーさん、これは差し上げます」

 

「何故?」

 

「だってこのゴブリンを倒したのはウィッチャーさんじゃないですか」

 

「だが指輪を見つけたのはお前だ。毒は余程の物でない限り俺には効かん体質でな。それに言った筈だぞ?金目の物を見つけたらそれをどうするかはお前達の自由だと。ゴブリンを殺したのは俺だが、指輪に気付いたのはお前だ。よって、契約上指輪はお前の物だ。好きに使え」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・・お言葉に甘えて」

 

女魔法使いは涙を拭って立ち上がると、その指輪をポーチに押し込んだ。

 

「じゃあ、帰りましょうか」

 

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