遺跡に向かう旅の途中の野営で、何故冒険者になったかと言う議論が醸し出された。
妖精弓手は未知を知り、冒険を楽しむ為。
蜥蜴僧侶は祈らぬ者達を殺して位階を高め、父祖たる『恐るべき竜』へと至る為。
鉱人道士はこの世の美味い物を食べる為。
「・・・・俺は――」
「あんたは大体分かるから皆まで言わなくてよろしい!」ゴブリンスレイヤーも皆に倣って答えようとしたが妖精弓手にぴしゃりと撥ねつけられた。
「時にへしきり丸よ、お主の背中にある差し量を見せて貰いたいんじゃが」
「差し量?ああ、剣の事か。何故また?」
「そりゃあお前さん、歌にもなってる二刀を操る騎士の鑑がどんな剣を使っとるか、
「騎士の鑑って柄じゃあないんだがな・・・・・・まあ、いいぞ」
ウィッチャーは背中の鋼の剣を抜き、鉱人道士に差し出した。それを受け取り、柄頭から棒鍔、刀身に彫られた樋に記号、そして切っ先まで視線を右往左往させた。
「ふぅむ。魔法の剣ではないが、こりゃ中々良い造りだわい。刀身の腹にある彫刻も惚れ惚れする腕前じゃ。伸び伸びと楽しゅう彫っとる」
「
「ほほう、そりゃええことを聞いたわい。お前さん、物の価値がよう分かっとるのう!剣も斧も鎧も、
鋼の剣を返しながら道士はせがんだ。世界は違えど、同族の拵えた武具を見れてそれが一端の使い手の元にあるのを喜ぶのは、やはり魂に根付いた職人としての気質だろう。
「構わんが、こっちのは造りが繊細だから丁寧に扱ってくれ。作るのは勿論、材料探しも一手間かかったんだ。完成に一月半は待たされてな」
ウィッチャーが銀剣をゆっくりと受け取った鉱人道士の目つきはそれを見れば見るほど険しい物になっていく。両刃の鋭さ、刀身の歪みの有無、部品の固定具合等々をまるで整備するか否かを決めあぐねている鍛冶師の様に点検している。
「のう、へしきり丸。こいつぁ一体何なんだ?この・・・・・・十重二十重の鉄の層に青みがかった色彩、一体何をどうしたんじゃ?それにこの軽さ、もしや銀を使っとるのか?そんな柔っこい鉄を歪み無い刀身になるまで仕立て上げるとは、はー、これは見事なもんじゃのう。眼福、眼福」
「惜しいな。銀だけじゃない。芯鋼に隕鉄、そして皮鋼にディメリティウムと銀無垢を折り返し鍛錬した物を使っている。その組み合わせで出来た業物でな、銘は色にもちなんで『氷爪』と言う」
「銀と隕鉄は分かるが・・・・・・ディメリティウムとやらは聞いたことが無いのう。もしか、
「ええっ!?テューラマイカ、あんた
妖精弓手が色めき立つ。
「いやいや、流石にそれはない。が、まあ、希少な鉱物である事は間違いない。一応手枷足枷に出来るぐらいには丈夫だしな。こっちは基本モンスター相手に用いるが、幸いと言うべきか今の所コイツを使わなければならない事態には大して出くわしていない。傷み易いからあまり使いたくなくてな」
「そういえば、ウィッチャーさんは何で冒険者に?」女神官が尋ねた。彼とゴブリンスレイヤーを除いて、皆は既に己の答えを披露している。
「ああ、俺か・・・・・・そうだなあ、仕事が必要だったから、じゃあ安直すぎるが、まあそれしか能が無いからだな。俺の出身地は冒険者ギルドなど無い。俺みたいな奴が剣と魔法で流しの怪物退治屋をやってる。報酬を渋るわ足元見るわ、果ては仕事終わって金を受け取ったんならさっさと帰れなんて言う始末さ」
「何よそれ!?恩知らずな!」妖精弓手が柳眉を逆立てる。
「まあ、あっちじゃ魔法は稀少でな。市井の人間の印象は最悪さ。良くて必要悪、悪くて同じ化け物扱いで、地域差こそあるが
今の所は、だが。
「よしんばそんな所に居たとしても、拙僧、タダではやられませんぞ?されど、いやはや、とんでもない土地からまかり越した物ですな。ここではそのような心配は無用に願いたい。思想、宗派は違えど我らは一党。種族を超えた同胞でありますれば。父祖に誓って拙僧はそのような事はしないと約束しよう」
「儂もじゃよ、鱗の。
「私だってそうよ、テューラマイカ。種族差別なんて悉く滅べばいいわ!」
「わ、私もです!地母神様に誓って!」
「そうだな」
皆の言葉にウィッチャーの表情が僅かばかりだが和らいだ。
「・・・・・・そうか。いや、それならいいんだ。俺は、仕事柄誰が嘘をついているか、顔や目つきを見れば分かるが、お前達の今の顔つきにはそれが無い。その気持ちだけで十分だ。礼を言う」
「はい、じゃあ湿っぽい話はこれで終わり終わり!食べましょ!」
妖精弓手が大きな葉に包んだ乾パンを取り出した。
「はい、これ、
女神官はそれを一つ受け取って小さく割ると、一党の皆にも分け与えた。
「美味しいです!クッキーみたいでほんのり甘い!」
「確かにこれは美味いな。惜しむらくは木の実の香りと楽しめる高級な茶が無いことぐらいだ」
「だーかーら、保存食だって言ってんでしょ、保存食!旅の糧秣!何茶菓子にして美味しく頂こうとしてんの!?」
まあまあ、と女神官が彼女を諫め、乾燥豆のスープをよそった皿をお返しにと渡した。
「儂もエルフには負けておられんの」道士が後ろに手を回して小さな壺と杓を取り出し、焚火の前に下ろす。
「これ、何?」
「
「馬鹿にすんじゃないわよ、お酒ぐらい」と杓一杯の酒を飲み下した。途端に激しく咳き込み、火が点いたように赤面し始める。見かねたウィッチャーが即座に
「強い香りだな、だがほんのり甘い香りが・・・・・・何を原料にしてる?麦か、トウモロコシ?いや糖蜜か?」
「おお、分かるか、へしきり丸。こいつぁな、芋と磨り潰した甜菜、そして察しの通り糖蜜で作ってあるのよ」
「甜菜か、なるほど。芋の土臭さが上手い具合に消えている。興味が湧いた、俺にも一杯くれ」
「ほい来た」
杓に火酒を掬い取って香りを立たせる為に手で煽ぎ、まず香りを楽しむ。そして酒を口に含んで舌の隅々で味わう様にゆすぎ、ゆっくりと嚥下した。ふーッと細く息を吐き、燃える石炭が食道から胃に収まるまでの感触をじっくり味わい、ウィッチャーはにやりと笑った。
「美味い。これは美味い!」
「おお、行けるのう、お主」
ゴブリンスレイヤーも火酒を小動もせずに飲み、お前も何か出せと酔いで目が据わった妖精弓手にせがまれ、一塊のチーズを取り出した。鉄串に刺し、焚火で炙って食したところ、大好評であった。特に蜥蜴僧侶にとっては牧畜で採れる食品は初めての体験だったらしく、それを甘露と称え、褒美を与えられた犬の様に歓喜のあまりぶんぶん尻尾を振り回す。
更にその後ゴブリンがどこから来るのか、と説が挙がった。地底深くにあるゴブリンの国から来る、誰かが何かを失敗すればゴブリンが出る、岩だらけの緑の月から来るなど、有り得るかもしれない説から子供のしつけの為と分かり切った物まで物議が醸し出された。
「魔法剣士殿は、これと言った説をお持ちかな?」
「俺は、そうだな・・・・・・ゴブリンスレイヤーと少し似ているが、『天体の合』という魔法の力で引き起こされた大変動によってゴブリンの様な異界の生物が他所の世界に流入して定着する切欠になったんじゃないかと思っている」
「天体の合?それに魔法の力って、そんな大規模な魔法、百年生きた大魔法使い千人が束になっても無理じゃありませんか?」
女神官の言葉にウィッチャーは頷く。
「ああ、言葉が足りなかったな。『天体の合』は人為的な物ではない。自然界には嵐や津波、土砂崩れに山火事と言った現象があるだろう?それと同じで、つまり魔法と言う偶発的な大災害によって発現した、と言いたいんだ。だがそれは数百年どころか千年に一度あるかどうかという度合いで稀少な現象だと俺は聞いている」
「へー、これだけ違う種族が揃うと諸説は多くある物ね。果たしてどれが正しいか分かる日が来るのかしら?」
「まあ、今夜中に分かる事でもあるまい。明日も早いんじゃ、さっさと寝るぞい」
「で、ありますな。寝不足でつまらぬ失敗をしてしまえば、小鬼ばらが増えるやもしれませぬ。見張りは取り決め通りに」
酒盛りを交えた小さな夜の異文化交流会はそれでお開きとなった。
以前の感想でさらっと流した残りの妖婆退治のエピソードや別行動を取った女武闘家と女魔術師の話も別枠の番外編で書こうかなーとちらほら思ったり。