ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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Session 15: 尖兵潰しと魔法斬り

蜥蜴僧侶の持っていた地図を頼りに一党はゴブリンの住処の入り口であろう箇所を見つけた。入り口前には大欠伸をかます槍持ちのゴブリン二体と、既に居眠りをしている狼が一頭お粗末ながら見張りとしてその場についていた。

 

妖精弓手が肩にかけた弓を外し、「出番ね」と矢を番える。なら自分も、とウィッチャーもクロスボウの用意をするが、止められた。「大丈夫。ちゃんと全部倒すから見てなさい」

 

「外すなよ」

 

道士の言葉を無視し、彼女はしゃがんだまま弦を口角まで引き絞り、細く、ゆっくりと息を吐き出しながら軽くて首を捻り、ゴブリンがいる方向とは全く違う所に向かって矢を解き放った。明後日の方向に飛んでいく矢を見て道士はどこを狙っていると憤慨するが、矢はやがて大きく弧を描く。

 

そして一匹目のゴブリンのこめかみを、続いて勢いそのまま二匹目のゴブリンの目を撃ち抜き、一瞬のうちに絶命させた。異変に気付いた狼は立ち上がって吠えようとした瞬間、口の中に矢が突き刺さり、貫通する硬い木の芽で出来た鏃に脳味噌を撹拌され、息絶えた。

 

思わずため息が漏れ、ウィッチャーは軽い拍手を贈る。

 

「妙技だな。目隠しをしたら掌に載せた林檎を撃ち抜けるか?」

 

「当たり前でしょ、それぐらい。見た、鉱人(ドワーフ)?十分に熟達した技術ってのはね、魔法と区別がつかないものなのよ」

 

「ったく、呪文使いが四人もおるのによう言えたもんじゃわい」

 

「ところで森人(エルフ)の姫様は匂い袋を持ってるか?」

 

「無いけど、何で?」

 

「・・・・・・・なら、観念するんだな」ウィッチャーは丁度ゴブリンの腹を裂いて布に血を染み込ませている所を見て苦笑した。女神官は一度ゴブリンと遭遇していて後からゴブリンスレイヤーから直々に講習を受けた時にその()()を受けており、諦めた様に溜息をついた。

 

 

 

「・・・・・・うぇぇ、気持ち悪いよ~」

 

女神官同様、ゴブリンの血を頭からぶちまけられた妖精弓手は半泣き状態だった。覚えてなさいよ、と涙目で、覚えておこうと頷くゴブリンスレイヤーの方を睨み付ける。

 

しかしその程度の非難も何のそのとゴブリンスレイヤーは松明を左手に、剣を右手に持って前進した。朽ち果てた遺跡は木の根や雑草などが床や壁を割って生え出ており、打ち捨てられて如何ばかりの時が流れ過ぎたかを思い知らせた。

 

「この遺跡、元は人が住んでいたのか?この壁の模様、イコン画か何かに見える。それも宗教的な印と思しき物もちらほら・・・・・・よく残っている物だ」

 

「本当ですね。神代の頃にこの辺りは戦争があったそうですよ」ウィッチャーの言葉に女神官が付け加えた。「その時ココは砦だったのかも。人の手によるものであることは間違いないかと」

 

「兵士は去り、代わりに小鬼が住まう、か。残酷な物だ」と蜥蜴僧侶が呟いた。

 

一行は進むにつれ、徐々に道が螺旋状の下り坂になっていくことに気付いた。地下となれば暗く、隠れる場所も多く、ゴブリンが住処とするには都合が良い所である。表の見張りからして十分余裕がある群れの巣であることをウィッチャーが皆に伝え、全員の気が更に引き締まった。

 

「待って」

 

「止まれ」

 

道が左右に分かれるところに差し掛かった所でウィッチャーと妖精弓手が同時に声を上げ、全員が足を止める。

 

「どうした、耳長の、へしきり丸?」

 

「罠が張ってある。まだ新しいわ」

 

腹ばいになった妖精弓手が指し示したのは丁度足首の高さにある土や泥、埃などで汚して暗闇の中でより目立たないように細工された一本の紐だった。

 

「鳴子か何か?」

 

「多分ね。でも、貴方も良く気付けたわね。野伏(レンジャー)斥候(スカウト)ってわけでもなさそうなのに」

 

「俺はゴブリン同様、暗所でも問題なく見えるんでな」

 

「妙だな」とここまで終始無言だったゴブリンスレイヤーが沈黙を破った。「ここに来るまでの間、トーテムを一つも見なかった」

 

「トーテムとな?」聞き慣れない言葉に鉱人道士が不思議がる。

 

「ゴブリンの呪文使いが作る装飾品だ、自分は知恵者であるという事を他のゴブリンに強調する為に。冒険者への示威行為も兼任している」

 

「あら、スペルキャスターがいないなら楽でいいじゃない」

 

だが楽観的な妖精弓手をたしなめるように蜥蜴僧侶が反論した。

 

「野伏殿、この場合は察するにいない事こそが問題である様に見受けられる。小鬼殺し殿、いかがかな?」

 

「そうだ。ホブゴブリン程度にこれ程の大規模な巣を纏め切るだけの能力や仕掛けを作る知恵は無い。チャンピオンか、統率特化型のロードが仕切っている可能性が高まって来た」

 

「小鬼殺し殿は以前にも大規模な巣を一人で潰したと伺ったが、その時はどの様に?」

 

「燻り出して個別に潰す。後は火をかける、川の水を流し込むなど、手は色々あるが、ここではどれも使えない。足跡は分かるか?」

 

「洞窟とかならまだしも、床が石造りじゃあ、ちょっとね・・・・・・」

 

「なら、ここは儂の出番じゃな。どれどれ」

 

しかめっ面の妖精弓手を尻目に鉱人道士が進み出て片膝をつき、床を見つめる。そして数瞬もしないうちに左を指さした。

 

「塒は向こうじゃわい」

 

「どうして分かるんですか?」女神官が尋ねる。

 

「床の減り具合から見て、奴らは左から来て右に行って戻るか、左から来て外に向かっておる」

 

「なあ、ここまででかい空間に収まる数のゴブリンがいるって事は――」

 

ウィッチャーの言葉にゴブリンスレイヤーは頷き、剣先を右に向けた。「ああ、ほぼ間違いなくいるな」

 

「どうしたね、魔法剣士殿、小鬼殺し殿?」

 

「左が塒なら右にはまた別の何かがある。可能性が高いのは、虜囚。それも女だ」

 

それが何を意味するのか悟った一党は、足音を殺しつつも小走りで右に曲がった。進むにつれ、鼻が曲がり吐き気を催す様な凄まじい悪臭が強くなり、ゴブリンスレイヤーとウィッチャーを除くほぼ全員がそれに怯んだ。

 

「鼻で呼吸しろ、じきに慣れる」

 

しかしゴブリンスレイヤーはどんどん奥へと進み、木製の扉を蹴り破った。途端に強かった悪臭が更に倍増し、妖精弓手は込み上げてきた吐き気に抗って口を手で押さえる。蜥蜴僧侶に至っては両手で鼻腔を強く抑え、涙目にならずには進めなかった。

 

蛆がたかり、蝿が大量に舞うその部屋は、ゴブリンの汚物溜めだった。乱雑に見つけた道具や即席の武器がそこらに置かれている。それらを手近な樽に浸して毒にするのだろう。

 

壁にかかった鎖が、ガチャンと弱々しく鳴る。音のする方を向くと、そこには金髪の森人(エルフ)が枷に繋がれてぐったりしていた。服を剥ぎ取られており、右半身が腫れ上がるほどに殴られた痕がある。

 

その痛々しい姿を見た妖精弓手の胃はついに我慢の限界を迎え、逆流した。

 

「殺して・・・・・殺して・・・・・・・」

 

これほど痛めつけられて未だ意識を保っているのが不幸中の幸いだろう。それとも上の空なのか、その一言しか繰り返さない。

 

ウィッチャーはクロスボウを引き抜き、矢を一本装填して撃ち放った。

 

「ウィッチャーさん!?」突然の凶行に及ぶ彼に女神官が動揺する。

 

「心配するな。的当ては得意だ」

 

上手く闇に紛れて隠れたつもりだろうが、ゴブリン以上に夜目が利くウィッチャーにその手は通じない。矢は暗がりから飛び出したゴブリンを直撃し、矢の勢いを殺さぬまま元来た闇の中へと吹っ飛ばした。

 

「三匹目、と。誰か彼女を外まで運べないか?流石に守りながら進むのは厳しい」

 

「かと言ってここにほうっておくわけにもいきません」

 

「しからば、拙僧にお任せを」合掌して蜥蜴僧侶が進み出た。床に指先程もある猛獣の爪や牙にも見える骨の欠片を数個懐から取り出し、床に落とす。「禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ」

 

光と共に牙が消え、その場に跪く蜥蜴人(リザードマン)の骨格が現れた。

 

「これなるは、父祖より授かった奇跡、竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)である」

 

「これを。事情をしたためた手紙です」簡潔に事情を纏めた紙切れを畳んで女神官が竜牙兵に渡し、一度目の奇跡で可能な限り傷を治した。

 

「うむ」

 

「傷口も洗っておいた。不衛生な所から運び出してからやるのが一番なんだが、まあ少なくとも破傷風にはならないだろう」

 

竜牙兵は森人(エルフ)を毛布に来るんで抱き上げ、そのまま出口を目指して走り出した。

 

「これで無事に森人(エルフ)の里に辿り着きましょうや」

 

「何なのよもう!こんなのわけわかんない!」

 

座り込む妖精弓手の前に膝をついたウィッチャーは彼女の肩に手を置いてやんわりと握った。そして空いた手で密かに暗示(アクスィー)の印を結んだ。

 

「大丈夫だ」ウィッチャーは彼女の耳元で囁く。「もう彼女は坊さんの術で外に連れ出された。ゴブリンの手にかかる事はもうない。あの森人(エルフ)の事は、もう何も心配する事はない。彼女は無事に送り届けられる」

 

「そう、ね・・・・・・もう大丈夫よね。ごめん。うん、もう大丈夫」

 

「よし、なら先を急ごう。左の回廊にもっといるかもしれん。ゴブリンスレイヤー、先導を」

 

「分かった」

 

 

 

避難させた森人(エルフ)の背嚢に入っていた地図を頼りに、一党は引き返して左の通路へと進んだ。鉱人道士の読み通り、左は回廊になっている。見張りもいるが、ゴブリン達は互いから距離を離れている。恐らく自分はうまい事さぼれるとでも思っているのだろうが、二匹、三匹、四匹と、皆

妖精弓手の弓の餌食になった。

 

一旦足を止め、全員の使える術の残数を確認した。

 

女神官は小癒(ヒール)を一度使い、残り二回。

 

蜥蜴僧侶は三回、触媒が必要な竜牙兵は残す所後一回。

 

鉱人道士も呪文は手付かずだったおかげで、四、五回は使える。

 

「お前はどうだ?」ゴブリンスレイヤーはウィッチャーに尋ねる。

 

「いくらでも使えるぞ」

 

「馬鹿を言っちゃいかんぞ、へしきり丸。呪文っつーのは回数制限が付き纏うモンだ。さっき一回耳長に使ったろうが」

 

「え?!」

 

「流石は小父御、気付いていたか。だが実際俺の印は使用に回数制限はない。気力が続く限り幾らでも撃てる。縛りがあるとすれば、一つの術を使ったらまた使えるまでに幾らか時間がかかるのと、最低でも手が片方空いていなければ使えない事、そして二つの印を同時に使う事は出来ない事、ぐらいだな」

 

証拠に天井に向けて(イグニ)を五回ほどぶっぱなし、まだ余力がある事を見せてやる。

 

「ほっほっほっほ、凄いのう、凄いのう!流石はへしきり丸よ、歌の通りじゃ。鋼鉄等級にしておくのが勿体無く思えて来たわい」

 

「お褒めにあずかり光栄だ、小父御」

 

進んだ先は吹き抜けのある塔になっており、その隙間から登り行く朝日が階下を照らしていた。雑魚寝する三、四十匹前後のゴブリン達も含めて。

 

「かなりの数よ」

 

「問題にもならん。ここで術を二つ使う。出番だぞ」

 

「ほいきた。呑めや歌えや酒の精(スピリット)、歌って踊って眠りこけ、酒吞む夢を見せとくれ」

 

「はい。いと慈悲深き地母神よ、我らに遍くを受け入れられる静謐をお与えください」

 

鉱人道士の酩酊(ドランク)の術と女神官の新たなる奇跡、沈黙(サイレンス)で眠っているゴブリン達を更に深き夢想の世界へと追いやり、万一抵抗できた者がいても音を遮断する事によって応援を呼べなくする。眠ったまま起きず、音を立てられることを心配せずに済むゴブリンは的に成り、成って果てた。

 

殺しの流れ作業は、一匹残らず息の根を止めるまで止まらない。一党は基本ゴブリン達がそこら辺に乱雑に置きっぱなしにしている短剣などの雑多な武器を活用し、己の得物の摩耗を防いだ。

 

そして続く回廊へと目を向けた瞬間、ウィッチャーはその中に向かって散弾入りの爆薬を投げ放った。炸裂音と共に鬱陶しそうな大きく野太い唸り声が聞こえたが、規則正しい地響きの如き足音が一党に近づき始め、声の主がその姿を現した。

 

「う、噓でしょ・・・・・・! 人喰い鬼(オーガ)!?」

 

角をはやし、一番高身長の蜥蜴僧侶の五、六倍はある人型の巨大な青黒い怪物は、右手に鉄の棍棒を引っ提げて爆薬が命中したであろう脇腹を空いた手で掻いていた。

 

「やけに静かだと思えば・・・・・・まったく、やはりゴブリンでは物の役にも立たんか。貴様ら、先の森人(エルフ)とは違うな。ここを我らの砦と知っての狼藉と見た」

 

「なんだ、ゴブリンではないのか」至極無感動にゴブリンスレイヤーは呟く。心なしか少しばかり残念そうにも聞こえる。

 

「オーガよ、オーガ!人喰い鬼!!まさか知らないの!?」

 

「知らん」

 

にべもないゴブリンスレイヤーの返事にウィッチャーは思わず腹を抱えて笑ってしまう。それが神経を逆撫でしたのか、オーガの額にピキリと筋が浮かぶ。

 

「貴様!この我を、魔神将より軍を預かりしこの我を、侮っているのか!?」

 

「上位種がいるのは分かり切っていたが、お前も、魔神将とやらも知らん」

 

「ならばその身をもってして我が呪文の威力を思い知るがいい!火石、成長、投射(カリブンクルス クレスクント)――」

 

呪文を唱えるオーガの空いた手に人の頭ほどの大きさの火の玉が宿る。それは徐々に大きくなり、やがてオーガ自身の体躯すら超える程の大玉へと成長する。

 

火球(ファイアボール)が来るぞ!」

 

「散って!!」

 

だがここは遺跡。逃げられる場所など限られているし、あの大きさの火球が炸裂すればどうなるかなど想像するまでもない。しかし、ウィッチャーの余裕の笑みは更に深くなった。銀剣を抜き、手首を返しながらくるりと二、三度回す。

 

「久方ぶりのオーガ種だ。精々楽にくたばってくれるなよ」

 

女神官が作り出した光の防壁の後ろに固まる一党を尻目に、ウィッチャーは突撃した。その奇行を止めようと皆が口々に叫ぶ。

 

「ちょっとテューラマイカ!?」

 

「魔法剣士殿!」

 

「無茶じゃ、へしきり丸!」

 

「戻ってください、ウィッチャーさん!!」

 

「――投射(ヤクタ)!」

 

「行くぞ、師匠。教えた通りやるから、俺を死なせるなよ?」

 

詩を口ずさむ様に口中で何かを呟き、ウィッチャーは迫りくる火球に向かって大上段から銀剣を振り下ろし——真っ二つに断ち割った。

 

「何ィッ!?」

 

火球(ファイアボール)を——」

 

「切り裂きおった!?」

 

二つに割れた火球は勢いを失い、一党の背後で小規模の爆発を起こしたが、遺跡が一度、二度と大きく揺れて瓦礫を落とすばかりで本来出る筈の威力の半分も出ていない。一党の被害も爆風に煽られ、土煙を大量に被るだけに留まった。

 

「これぞ高純度のディメリティウムを混ぜた銀剣でしか使えない対魔術師用に編み出した師匠直伝の秘技、通称『魔法斬り』だ。流石に刃渡り以上の術相手では完全には決めきれなかったが、斬る位は出来る。さあ、オーガよ。次の一手を出せ。まさか一発で手妻が尽きたわけではあるまい?」

 

オーガ種用のオイルを刀身に塗り付け、未だ煙を上げる銀剣の切っ先をオーガの顔に向ける。

 

「貴様のそっ首叩き落してから剥製にしてギルドで飾られる栄誉をくれてやる。かかって来い」

 

怒りに顔を歪めるオーガは突進するが、棍棒を振り上げた瞬間左目を矢に潰される。それに追い打ちをかける様に顔面に向かって鉱人道士が術を放った。

 

「仕事だ仕事だ、土精(ノーム)ども!砂粒一粒転がり廻せば石となる。石弾(ストーンブラスト)!」

 

一党は的を絞らせない為に一度散り、蜥蜴僧侶も手数を増やす為に最後の竜牙兵を召喚してオーガの足場をウィッチャーと共に切り崩しにかかる。

 

しかし強靭なオーガの足は大木の幹のように固く、刃が思い通りに通らない。

 

「よっ、と」だがオーガ種用のオイルは四方世界のオーガ相手にも効くらしく、チーズでも切るようにさくりと銀剣は踵に深い刀傷を刻んだ。「踵の腱を切られればまともには立てまい」

 

「達人の御業、見事なり魔法剣士殿!」

 

「坊さんも出来るぞ、剣を突き出せ!」

 

「応とも!」

 

蜥蜴僧侶の鎌のような曲線を描く剣の腹に自らの銀剣を滑らせてオイルを塗りこみ、二人は竜牙兵と共に傷を負わせた足に狙いを定める。オーガの振り回す棍棒は間合いを詰めた二人には当てられない。虚しく空を切り、更なる隙を晒すばかりだ。

 

入れ替わるようにゴブリンスレイヤーがオイルの光沢をもつ剣をもう片方の足に深々と突き刺した。

 

「おのれ、小賢しい羽虫ごときが!!」棍棒をめちゃくちゃに振り回しながら遺跡を破壊していき、次々と階上の通路を崩していく。

 

「うわっとととと?!なんのぉ!!」

 

走っていた足場をいきなり潰された妖精弓手は宙に放り出された事で一瞬慌てたが、冷静に受け身を取って立ち上がり、再び二の矢、三の矢を番えて迎え撃つ。

 

しかし石弾(ストーンブラスト)も矢も精々鬱陶しがらせる程度の事しか出来ず、痛痒には程遠い。

 

「坊さん、もう一発仕掛けるから離れといてくれ」

 

「承知!」

 

懐から取り出すのは、青い包み。オーガの踵とふくらはぎの傷を左手で強引にこじ開け、中にそれを突っ込み、(クエン)の印を結ぶ。

 

直後に爆発と共に寒風が吹き荒れる。

 

「あ、がっ・・・・・・・!?」

 

オーガの右脇腹から足、そして付け根までの指三本が完全に氷に包まれ、その刺すような痛みに声も上げられない。まるで右半身だけが猛吹雪に長時間晒されたように痺れている。足先の感覚が消えて行く。

 

「小父御!凍らせた足を崩せ!」

 

「よっしゃ、わしゃあこれで後一回じゃからここから先は一旦頼むぞい!石弾(ストーンブラスト)!」

 

石礫が氷を砕き、オーガの体は傾いて地響きと共に倒れた。吹雪に晒された様に体が強張り、握っていた棍棒が手を離れ、指が割れ、膝から下が硝子細工の様に砕け散る。

 

「こちらは切り札を晒さずに済んだ。すまん」ゴブリンスレイヤーが倒れたオーガの胴体をよじ登り頭の方へ向かって行く。

 

「切り札、あったんだな。いや、お前なら普通にあるか。まあそれが何にせよ、取っといてくれ。今回は使うまでもなかった、終わり良ければ総て良しさ」ウィッチャーもオイルを塗り直した銀剣を引っ提げ、同じく頭の方へ歩いて行った。「気を楽にしろ。首はスパッと一撃で獲ってやる」

 

「さて、お前は・・・・・・・何と言ったか?」

 

だがゴブリンでない事がはっきりしている以上、ゴブリンスレイヤーはオーガを『ゴブリン以外のその他』に分類し、どうでもいいかと記憶の片隅へと追いやった。

 

——お前なぞより、ゴブリンの方が余程手強い。

 

それが、二本の剣が脳を抉る前にオーガが聞いた最後の言葉だった。

 

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