ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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UA七万突破、お気に入り登録1500に到達しました。書き貯めしたストックを小出しにして投稿していますが、ここまで伸びるのは久しぶりに見ました。

皆さんありがとうございます。


Session 16: 広がる名声と重なる難事

一党六人がオーガを撃滅した話題は瞬く間に辺境の街の冒険者達に伝わった。特に伝播したのがウィッチャーの活躍である。と言うのも、ギルドに帰還した後の一党揃って報告した際、看破(センス・ライ)でその一部始終が本当の事であるというのを確認されたのだ。受付嬢や監督官はにわかには信じられなかったが、奇跡が嘘に反応を示していない事とウィッチャーが討伐証明として切り取った角と牙から真実であると受け入れざるを得なかった。銀等級の冒険者達が大半を占める一党に身を寄せていながらそれだけの活躍をしたという快挙は最早歴史的とも言えよう。

 

と言うのも、オーガが魔神将の手先であるという事も加味され、一党にはギルドより追加報酬が支払われただけでなく、それぞれ鋼鉄、白磁等級だったウィッチャーと女神官はその場で等級が一つ繰り上がる旨を伝えられたのだ。

 

白磁から黒曜に上がるのは冒険者によっては遅かったり早かったりでまちまちだが、ウィッチャーの場合は違う。鋼鉄から青玉に登り詰めるまでに要する最短記録が半年から一ヶ月と少しに塗り替えられたのだ。最早記録を破れる者は次代の白金等級の勇者となる選ばれし者が現れない限りいないだろう。

 

二人の昇格を祝う為にその追加報酬で一党のみの小さな宴を催す事になったのだが(ゴブリンスレイヤーは半ば強制的に参加させられた)、鉱人道士や妖精弓手が何度目かの乾杯の音頭でその事を声高らかに宣伝してしまったのだ。

 

その瞬間、酒場は数瞬水を打ったようにしんと静まり返り、直後、嵐のような歓声で大きく揺れる。

 

歌にもなっている英雄の魔法剣士がここで飲み食いしている。

 

その魔法剣士が妖婆に続いて今度はオーガを討ち取った。

 

そんな話題を英雄譚好きな市井の者が放っておく筈も無く、是非その時の話を聞かせて欲しいとせがむ者、村を救ってくれた冒険者に一杯奢りたい者などがひっきりなしにやってくる。

 

「・・・・・姫様、恨むぞ」

 

「ごめんってば、テューラマイカ!でも本当に凄かったから仕方ないじゃない。まさか――」と、同じ轍を踏まぬように妖精弓手は声を落として続けた。「――まさか火球(ファイアボール)を野菜みたいにぶった切れるなんて想像だにしなかったんだもの」

 

「剣が傷むからあまりやりたくはないんだがな。でもまあなんとかなって良かった。誰も大して傷を負わずに済んだし、俺もあの棍棒の一部を貰って新しい剣を作って貰っている」

 

それを聞いた妖精弓手はふふっ、と笑った。「三本も持ってどうするつもりよ、あんた。曲芸師にでも鞍替えする気?」

 

「まさか。予備として取り置きしてもらうだけだ。今持っている奴は気に入っているから出来上がったらしばらく代わりに使おうと考えている」

 

「ウィッチャーに乾杯!」

 

「乾杯!!」

 

「なあ、誰かウィッチャーさんの歌、歌える奴いねえか!?」客の一人が叫ぶ。

 

「知ってる知ってる!あれだろ、『さすらいの魔法剣士』だろ?」

 

「ばっか、違ぇよ。そっちじゃなくて、あー、アレだ、森の賢女と自由騎士に育てられた魔法の御子がどうのって奴だよ」

 

それを聞いた楽器を持った旅芸人がすくっと立ち上がる。「それなら私が知っている、是非歌わせてくれ」

 

「おー!やったれやったれ!」客が酔いに任せてピューピュー口笛を吹き、拍手し、囃し立てる。

 

ウィッチャーは飲んでいたワインを思わず吹き出しそうになったが注がれた瓶のラベルを見て我慢した。そこそこの値段の酒だ、吐き出すなど勿体無い。ゆっくり呑み込んでから口を開いた。「待て待て、何だと?森の賢女と自由騎士に育てられた魔法の御子?一体何の歌だ?誰の歌だ、それは?」

 

「いやいやいや、旦那ぁ!とぼけちゃいけませんぜ!あんたの歌に決まってるじゃあないスか!」

 

「俺の?」

 

知らぬ間に新しい歌がまた何者かの手で出来上がってしまっている。それも尾鰭どころか尻尾に翼まで生えた完全なる創作だ。自分は貴族の生まれであったことに違いは無いが、それだけだ。森の賢女など知らないし、騎士ではない父親は公務ばかりでほとんど顔も覚えていない。上に兄姉が一人か、二人いたような気もするが、こちらも朧げな記憶しか無い。記憶の大半を占めるのは血反吐を吐くような厳しい訓練と座学の日々と、連日連夜のモンスタースレイヤーとしての殺しの記憶と言う、思い出とも呼べるかどうかすら怪しい思い出の数々だ。

 

そうこうしているうちに、旅芸人が他の逗留している吟遊詩人や芸人と共に演奏を始めた。

 

「傷つき、倒れ伏す自由騎士

裏切られ、捨て置かれた清廉なる男

故郷を焼かれし哀れな男

母が誰とも知れぬ小さな命を

生かさねばと這って藻掻く、藻掻く

たとえ我が命に代えてもこの子だけはと

 

命の灯が尽きる正にその時、掬い上げる救いの手

籠と杖と角灯持ちし碧眼の美女

通りかかりし彼女こそは深き森の賢女

獣を手懐け小鳥と話し、薬を煎じて日々過ごす

倅の為に生きよ、生きよ、騎士よと

修めし叡智の誇りにかけて彼の者癒す

 

運命の骰子に導かれし二人はかくして出会い、誰とも知れぬ一粒種を共に育てようと誓い合った

母は火と風の魔術と薬学を、父は剣術、馬術と騎士の在り方を、それぞれ生涯を賭して授ける

 

かくして鍛われし御子、育ての親に報いる為、

学びし秘術と形見の宝剣を持ち

当て無き尽忠の旅に出る

病を治し、毒を制し、獣を狩り

人喰らいし化外の物を退治せり

 

その男は、魔法の騎士

青鹿毛駆る魔法の騎士

その名もウィッチャー、(ああ、ウィッチャー)賢女の御子

人呼んでウィッチャー、(おお、ウィッチャー)騎士なる長子

 

剣の円舞にて強きを挫き

魔法の輪舞にて弱きを癒す

いざ往かん、いざ往かん

いざ馳せよ、いざ馳せよ

父にかけ、母にかけ

騎士の誇りにかけて」

 

弾き語りも交えた歌が終わり、楽士達は拍手喝采と共におひねりをそれぞれの帽子に集めていく。

 

「中々面白い曲ではないか、のう、へしきり丸よ?」

 

「旋律自体は悪くないが、いくらなんでも歌詞が大げさ過ぎる」

 

「何を言う、多少大袈裟なぐらいで丁度良いんじゃよ、それに氏素性をそこらにいる連中にいちいち説明するわけにもいくまいて。何故そこまで誇張や尾鰭の有る無しに拘る?」赤ら顔の道士が不思議そうに尋ねた。

 

「情報という物は正確であればあるほどいい。創作と事実の区別もつけられんような輩の手で不純物が混じった情報の拡散は根も葉もない噂同様、迷惑だ。出来る事とできない事がはっきりあると分かって貰わなければ後の仕事に差し支える」

 

ウィッチャーの経験上、勝手な期待程迷惑な事はない。出来ない事を出来ないと断った結果何度唾を吐きかけられ、石を投げつけられ、罵倒された事か。言っても分からない子供を相手にしている気分になる。モンスターを退治するのは既に襲われた人間を死の淵から救い出す事とは何の関係も無い。可能であれば吝かではないが、頼まれた仕事以上の事が出来るのはそれを可能とする余裕があってこそ初めて成せる物だ。

 

屁理屈を言うようだが、ウィッチャーは与えられた仕事をこなすだけでそれ以上依頼者への過干渉はしないし、するべきではない。だのに近頃は己の奉仕の精神が目に余る所がある。

 

「そうは言っても、ウィッチャーさん、依頼者さんや関係者の人を助けている時、とても生き生きした目をしていますよ?実は案外人を助けるのが好きなんだと思います」

 

自分のペースでゆっくりワインを啜る女神官は頬を朱に染めて反論した。

 

「人助けが好き?俺がか?」

 

「だって、妖婆を倒した時は脅されていても共犯者だと伝える事も出来たじゃありませんか。それをそうしなかったのはウィッチャーさんが元来慈悲深い人であることの証左ですよ。お金まで渡したんですし」

 

「馬鹿を言うな。そう伝えなかったのはあいつらが妖婆を炙り出す手引きをしてくれたからだ。銀貨もあくまでその手助けとなってくれた謝礼だ。言っておくが、もし本当に共犯者であった場合皆殺しにはしなくとも手足の一、二本は飛ばしていたぞ」

 

ワインの残りを飲み干し、ウィッチャーは言い返す。つまみのチーズと焼き魚を引き寄せ、かぶりついた。

 

「そうは仰いますが魔法剣士殿、確か出立する前に若き駆け出しの冒険者達に金貨を渡していたのを覚えておりますが・・・・・・はて、あれは如何様な心積もりでしたのかな?」

 

うむ、甘露なり、とチーズの盛り合わせを頬張りつつ蜥蜴僧侶が尋ねる。

 

あれも必要最低限の謝礼だ、と彼の指摘にウィッチャーは即答する。煙草を煙管に詰め、燭台の蝋燭で点火してぷかぷか煙を吐き出し始めた。

 

「固定でないとはいえ一時的に一党を組んでいた二人と組ませているからな。貧乏な駆け出しで必要な道具が無いから死にましたじゃ命を拾ってやった俺の沽券に係わる。貸している金も未回収だしな」

 

「素直じゃないわね」

 

「うるせえほっとけ、年増」

 

酒が回って来たのか、はたまた外野のしつこさに嫌気が差したのか、妖精弓手に対してついそんな罵倒がウィッチャーの口から漏れる。

 

「としっ!?あんた、言ったわね!?言ってはならない事を言ったわね!?もう怒った!テューラマイカ、あんた表に出なさい!矢で串刺しにしてやるわ!」

 

「上等だ、やれるもんならやってみろ」ウィッチャーも負けじと妖精弓手を睨み返しながら立ち上がる。それぞれの得物をおっ取り、二人は酒場の入口へと駆けて行く。

 

「あ、あの!お二人とも喧嘩は――」

 

「おぅし、なら一勝負と行くか皆の衆!銀等級の耳長の矢が先に当たるか、魔法剣士が凌ぎ切るか!さあ、賭けた、賭けた!」

 

しかし女神官の仲裁も空しく、鉱人道士の賭けの胴元を名乗り出る調子づきも相俟って話はどんどん大きくなっていく。

 

「拙僧、賭け事は好まぬ故勝負を見るだけに留めておく。んむ、このカビが生えたチーズも中々味わい深い。パンとよく合う。甘露なり」

 

翌日、二日酔いに頭を抱えながらも金の詰まった袋二つを持ってほくほく顔の鉱人道士とウィッチャーの姿があったとか、なかったとか(その後女神官に叱責された為、怒りを治める為に勝った金の何割かを地母神の神殿に寄付する事となる)。

 

 

 

「ウィッチャーさん!おはようございます!」半端な鎧に身を固めた女武闘家は相方の女魔法使いと共に手を振って恩人に挨拶をする。二人の駆け出しと組んだ先の冒険は実りがある物らしく、笑みが顔一杯に広がっている。「聞きましたよ、オーガを倒して青玉に昇格したって!おめでとうございます」

 

「いやいや、流石に俺一人じゃどうにもならない手合いだった。周りに銀等級がいてくれて助かった。今日は俺と来る気か?」

 

「勿論です。暫定とは言え、契約上私達は一党なので」と魔法使いは眼鏡を押し上げる。よく見ると服と帽子が新調されている。先の冒険でかなり貢献して報酬を上乗せでもされたのだろう。

 

「分かった、じゃあ依頼を選びに行くか」

 

「その事なんですが、実は受付の人から名指しで依頼が来ているから渡すように言われていまして・・・・・」

 

「名指しで?俺にか?」

 

「はい、これです。今朝早馬で来たそうで」女魔法使いは赤い蝋で封をされた手紙を見せた。六角形の封には金床とツルハシの意匠が中心にある。

 

「どこから届いたかは分かるか?生憎こちらの紋章学にはまだ疎くてな。」

 

「あ、これなら私、知ってます。ここから北西に四日行けば山の一部を切り崩して作られた鉱山都市があるんです。人口の大半は鉱人(ドワーフ)が多いですけど、その次に只人(ヒューム)、その更に次に圃人(レーア)も。授業を受け持っていた客員講師がここの出身だったので」

 

「鉱山都市か。掘り出し物の武具が見つかるかもしれないな。で、肝心の依頼の内容は、と」

 

封を破って手紙を読み始めたウィッチャーは最初何やら理解を示して普段の沈着な表情を保っていたが、読み続けていくうちにその表情はどんどん険しくなり、やがて手紙をぐしゃりと握り潰した。

 

「クソが」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「ありがた迷惑ですらない内容だった。お前らを連れて行くつもりだったが、予定変更だ。危険過ぎるから却下する」

 

「そんな!」と女武闘家は抗議した。「せめて依頼の内容を教えて頂けないと納得できません」

 

「お前らには荷が重すぎる。俺もほぼ確実に無傷では済まない奴だ。実際に行ってみない事には何とも言えないが・・・・・・」

 

ゾンビやレイスと違い、人間並みの知性を併せ持ち、姿を消す能力に加え、血肉の摂取によって命を長らえ、己の肉体を再生させる事もできる。生半可な装備や準備では返り討ちに遭ってしまう、モンスターの中でも上位に座する危険度。

 

それも陽光に弱い物からそうでない者、透明になれる者、人間に姿を変える者、メダルに反応しない者と、持ちうる能力にも幅がある。駆け出し冒険者を二人援護しながら戦うのは、はっきり言って不可能だ。

 

「勿体ぶらないで言ってください!」

 

「文書によれば依頼は調査だが、経験からして今度の手合いは吸血鬼だ」

 

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