ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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ウィッチャーのセリフが一部若干説教臭くなってないかなーと思ってますが、ゴブリンロード戦の話はGoblin's Crownのエピソードと同じぐらい個人的に好きなので精一杯書かせていただきました。二部構成です。


Session 19-1: 冒険者、夜半にて斯く戦えり

正午を少し回った時、ゴブリンスレイヤーが相変わらず冒険者達で賑わうギルド支部のドアを開いた。そして皆が屯する食道区画の中心に立って声を上げた。

 

「すまん、聞いてくれ。頼みがある」

 

『頼みがある』

 

最近は一党を組んではいる様だが、それでもほぼ一貫して単独(ソロ)で活動するあのゴブリンスレイヤーが。雑談であれほど騒がしかったギルド内が一瞬にして静まり返る。

 

「ゴブリンの群れが来る。狙いは東にある街外れの牧場だ。時期は恐らく今夜。斥候の数の多さから見て、ロードがいる筈だ。正確な数は分からないが、最低でも百は来る。ロードは統率力に特化した変異種でゴブリンの中では最上級種、冒険者で言えば白金等級だ。そいつが率いる群れがすぐにやってくる。時間が無い。洞窟やその他の閉所ならば兎も角、野戦となれば俺一人では手が足りん。手伝って欲しい。頼む」

 

普段は不気味なほどに寡黙なゴブリンスレイヤーがこれまた気持ち悪い程に饒舌に喋ったのを聞いた冒険者はいないだろう。だがそうなってしまう程に事態は急を要していると言う事の裏返しにもなる。

 

「どうする?」

 

「どうするたって、なあ?」

 

「ゴブリンだろ?それこそゴブリン退治の専門家に任せるべきじゃねえか」

 

「俺はごめんだぜ」

 

「私も。あいつら汚いし・・・・・・」

 

ゴブリンスレイヤーの予想通り、ほぼ全員懐疑的だ。そんな様子を二階から見ていた妖精弓手は目尻を吊り上げてそこから飛び降り、ぐずる奴らを一喝してやろうと手摺に足を掛けるが、蜥蜴僧侶に猫の如く首根っこを摑まえられてしまう。

 

白磁から黒曜へと昇進したての女武闘家と女魔法使いも顔を顰めて何か言ってやろうと立ち上がろうとしたが、共に昼食をとっていたウィッチャーは二人を無言で止め、座るように目配せで促した。いつも通り何か考えがあるのだろうと踏んだ二人は何も言わずに頷いた。

 

「お前、何か勘違いしてねえか?」ゴブリンスレイヤーの一番近くに座っていた槍兵が立ち上がる。「ここは冒険者ギルドで、俺達は冒険者だ。お前の頼み事なんざ聞いてやる義理はねえ。手を貸して欲しけりゃ依頼を出せ。つまり、報酬だ。ゴブリン百匹と戦うのに手を貸す報酬は、一体何だ?」

 

そう尋ねられ、ゴブリンスレイヤーはそうかと頷く。

 

「なるほど、至極尤もな意見だ。答えは、『全て』だ」

 

「なに?」

 

「もう一度言う、『全て』だ。俺の持つ物全てが、報酬だ。俺の裁量で自由になる財産、装備、知識、能力、時間、そして――」

 

「命、か?」

 

迷わずゴブリンスレイヤーは頷く。「ああ、そうだ。命も含めて全てだ」

 

「聞いていられんな」

 

ここでようやくウィッチャーは立ち上がり、話の腰を折った。

 

「おい、ウィッチャー。てめえ何を――」

 

「黙れ小僧」

 

普段の柔らかな口調が剃刀すらなまくらに感じる程低く、冷え切った。それが舌鋒となってウィッチャーの口からまろび出る。気迫はありつつも優し気な目も瞳孔が限界まで開き、まるで腐乱死体にたかるゴキブリでも見る様な最上級の侮蔑が籠もった目つきに変貌する。

 

「あ?てめえ、喧嘩売ってんのか?」

 

長柄の槍を握る力が強まり槍兵の語気が荒くなる。

 

「いかにも。頭蓋骨の中身が綿とおがくずが詰まっているわけではない様で一安心だ。だが貴様だけではない。ゴブリン退治ごときに尻込みする、雁首揃えるだけで殿様商売しか能が無いこの場にいる全員にだ!」

 

事態は一気に緊迫した。冒険者の中でも気性が荒い事で知られる者達は既に柳眉を逆立てた。中には武器に手をかけている輩までいる。

 

「貴様らこそ盛大に勘違いをしている様だから小指の先程も無い、臓器と呼ぶのも烏滸がましいそのハリボテ脳味噌でしかと理解しろ。牧場が陥落すれば、次はここだ」

 

強調する為に指先でテーブルを叩く。

 

「即ち、お前達の仕事を斡旋している建造物が立つこの街だ。支部が無ければ、仕事は当然斡旋されない。ゴブリンの慰み者を繋ぐ畜房に成り果てる。貴様らが冒険者になった理由は各々あるだろうが、ここが無くなって困るのは路頭に迷う貴様らだ。上位等級の奴らならばまあ少しは凌げるだろう。だが金が底をつくのは時間の問題。他の都市に身を寄せても所詮は問題の先送りだ。最終的には国の正規兵なり勇者なりが出張って鎮圧するだろうが、そこまでする必要がある時点でもう手遅れだ。ギルドを運営する連中が所属する冒険者の手綱を握れなかった廉で処罰されるのは間違い無い。が、お前達とて責任を取らされる可能性も十分にある。冒険者とは国が派兵できない状況を打破し、国の届かぬ目端で起きる事件を解決する存在だ」

 

ウィッチャーは一度ここで深呼吸をし、更に続ける。

 

「なのに、免れる筈であろう被害を金払いが悪いから目溢ししたなどと知れてみろ。それはこの国の法では死刑に値する、国家転覆罪が適用される。つまりは国賊として扱われる。逃げ切れたとしても一生お尋ね者だ」

 

仮面の様に眉根一つ動かさぬウィッチャーの顔と語気は俄かに和らぎ、手を叩く。

 

「だが腰抜け集団の貴様らが気にする必要は最早無い。ゴブリンスレイヤーと俺、最近昇格した一党の二人、そして二階でじたばたしてる姫様御一行が丸く収めてやる。当然、不参加の意思を表明した貴様らにはたとえ報酬が糞の欠片であっても渡さない。こちらは成功すれば一攫千金、失敗しても仕事場すら碌に防衛せず、ゴブリンに戦わずして負けた無能の誹りは付いて回らん」

 

「てんめえ・・・・・・言わせておけば――」

 

「あの!やります、私!ゴブリン退治!」

 

女神官が錫杖を握り締め、挙手して立ち上がった。神官服の裾に膝の震えを隠しながらも立つその姿は、不思議と頼もしく見える。

 

「報酬は、その・・・・・・も、貰いますよ!?貰いますけど、品目は一旦保留って事で!」

 

「私もやるわ!」と蜥蜴僧侶の拘束から抜け出した妖精弓手も飛び降りざまに高らかに宣言する。「その代わり、また一緒に来なさい。今度こそ本当の冒険をさせてやるわ、オルクボルグ。それとテューラマイカ、言いたい事全部言ってくれてありがとね」

 

「わしゃあ酒を一杯・・・・・・」と鉱人道士は言いかけたが訂正した。「うんにゃ、とても足りんな。樽で寄越せや、かみきり丸。それが儂の考える相場よ。所で耳長の、その冒険には儂もついて行ってもいいかのう?」

 

「当然でしょ、仲間なんだから」

 

「ならば、拙僧も行かぬ訳にはいくまいて。友人の頼みだ、だが報酬ならば――」

 

「チーズと、アイスクリンか」

 

「然り、然り。あれらは実に美味だ」

 

「俺の物ではないが、両方ともゴブリンが狙う牧場で原料が作られている」

 

ほう、と蜥蜴僧侶の目つきがゴブリンスレイヤーの言葉により一層鋭さを増した。「なれば、地の底から這い出た悪鬼共を許す道理は無いな」

 

「保留の貸し一つ、酒樽一つ、望む形での冒険一回、チーズとアイスクリン一人前。全て手配しよう。お前達はどうだ?報酬は何が欲しい?」

 

参加を表明したが未だ要求する報酬を提示していないウィッチャー達にゴブリンスレイヤーは向き直る。

 

「あ、じゃあ・・・・・私は投擲武器の稽古をつけて欲しいです!ナイフとか、投石紐とか!」

 

「魔法や錬金術に関する書物をあるだけ見せてください。無ければ私もそれで」

 

「俺は、そうだな。長丁場になるが本を書くのを手伝って欲しい。当然内容は俺が決める」

 

「了解した。ありがとう。これで八人か」

 

「いや、十人だぜ!」とまた声が上がる。立ち上がったのは棍棒剣士と相方の聖女だ。「ウィッチャーさんとこの二人には世話になってるからな。ちなみに俺は予備の防具一式と剣一本で頼む」

 

「そうそう。こういう時こそ義理を通さないと、至高神様に怒られちゃうもの。私も蜥蜴人(リザードマン)のお坊さんと同じくそのアイスクリンって奴を貰おうかしら。水の街じゃ評判の氷菓子、試さない訳には行かないわ」

 

自分よりも等級が下の者達に後れを取り始めるベテラン冒険者達は不安そうに目配せする。そんな中、書類を両手に抱えた受付嬢が食堂区画に慌ただしく駆け込んだ。

 

「ギルドからも依頼を出します!ゴブリン一匹につき、金貨一枚の懸賞金を出します!」

 

チャンスですよ、と声を張り上げた直後、ギルド内は一気に色めき立った。手間がかかる割に薄給な依頼の代名詞と言えるゴブリン退治が破格の物に大化けしたのだ、逃す手は無い。我も我もと冒険者達は声を上げて参加する。

 

「新米共に後れを取るな!」

 

「てめえなんぞに言われなくてもゴブリン程度やってやんぜ!てめえよりも多くな!」

 

「お嬢、まさに天の配剤とも言える素晴らしいタイミングだ。弁舌のネタが切れる二歩手前だったぞ」

 

「申し訳ありません、上の者を説得するのに少し時間がかかりまして。でも銀等級の方からの情報だという事でしっかり依頼募集の認可と支部の貯蓄からの支払いが許可されましたから。ところでウィッチャーさん、冒険者の前は法務官か役者さんだったんですか?」

 

「役者・・・・・?」受付嬢の言葉に槍兵ははっとした。

 

「まさか、てめえ国家転覆罪だの国賊だのってのは、あれ全部嘘か!?」

 

のせられたと気づき、掴みかかろうとするが受付嬢がいる手前強くは出れず、ただその場で歯を剥き出しながら奇妙に指先を曲げ伸ばしするだけになった。

 

「え?そうなのテューラマイカ?!」

 

「千両役者じゃな、へしきり丸。すっかり騙されたわい」

 

「迫真の演技でありましたな、まさしく」

 

「さあ、どうだろうな?」

 

悪戯を成功させた腕白坊主の様なしたり顔でウィッチャーはくつくつと笑う。

 

「国家転覆罪は死刑と言うのは本当だ。それに諸侯や国を巻き込む規模の不祥事は必ず詰め腹を切らされる奴がいる。貴族ってのは気位ばかり高くて責任を取りたがらない奴が多いから、後ろ盾が無い冒険者に責任をかぶせる可能性が一番高いという推量に基づいてそれらしく言ってみただけだ。あくまで俺の経験上だから立証は無理だがな」

 

「てめえ・・・・・覚えてろよ?後でぎゃふんと言わせてやる」

 

ぎゃふん、と間髪入れずウィッチャーが返す。「おめでとう、最速で成し遂げたな」

 

これ以上言い負かされたり丸め込まれたりする前に槍兵は鼻を鳴らして踵を返し、一党を組んでいる魔女の元へと戻っていった。絶対にいつか仕返ししてやると心に固く誓って。

 

「さて、どうするゴブリンスレイヤー?策はあるのだろう?」

 

「勿論だ。人手が潤沢ならばやりようはいくらでもある。以前一緒に倒した・・・・・・む、何と言ったか?」

 

人喰い鬼(オーガ)か?」

 

「そう、そいつだ。そいつと遭遇した所で使うかもしれないと持って行ったが結局使わずじまいの切り札をここで使う。問題は至近距離か閉所でなければ効力が半減するのだが・・・・・・使い時の調整は可能だ」

 

「なら指示を出せ。お前は確かに勇者じゃないが、今日だけは一手の大将だ」

 

「まずはこの一帯の地形を示す地図がいる。それと冒険者の中に大工仕事が得意な者、野良仕事、鉱夫、建築普請の経験がある者を集めてくれ。俺が地図で示す位置に阻塞としてまず柵を作って設置してもらいたい」

 




暑い日々が続きますが、皆様水分・塩分補給をお忘れない様に
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