ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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とりあえず初戦闘です。ゲーム実況動画などを参考にして書いてみました。

うまくできてるかな・・・・・


Session 2: 初めての界渡り(プレインズウォーク)

何も考えずに馬を走らせるというのは、剣の型の練習、オイルや霊薬各種の調合に通ずる部分が少なからずある。というのも、これら全ては没頭できるだけの時間を必要とすると言う事で、時を忘れて勤しむ事があるのだ。無心でただひたすら西方へ馬を走らせ、休ませ、時折モンスター退治を合間に挟む工程を都合七日の間繰り返した。

 

雪花石膏(ポンター)河沿いに荒鷲山脈を超え、八日目にはついに馬を走らせられる陸地の限界地点である自由都市(ノヴィグラド)に到着した。これより西は海となっており、更に突き進むとなると、南下して諸島の方に向かわねばならない。

 

果たしてあの女魔術師はこの世界最大の都市のどこで事に及ぶつもりなのだろうか?馬を引きながら頭の中で候補に入りそうな場所とそうでない場所を整理し始める。街中で魔術を使うとなるとかなりの騒ぎになる。ならば商業地区、住宅地区、そして相変わらず人で犇めいている貧民街はあり得ない。

 

なら残るは船渠ばかりの港地区しかない。ちょうど今は日が一番空高く昇っている時間で船乗りや港の作業員は昼餉の為にいなくなっている。となれば、数ある倉庫の中のどこかだ。

 

女魔術師はどこまで行けばいいかはすぐ分かると言っていたが、目印となるような物は常人以上に研ぎ澄まされた五感をもってしても、影も形も見えやしない。仕方なしに辺りを一度ぐるりと馬で見て回ったが、やはり何もなかった。

 

「・・・・・・ゴドリングにでもつままれた気分だ」

 

旅は別に嫌いではないが、とんだ期待外れの無駄足だった。だがやられてしまった物は仕方ない。夢の中だけとはいえ別嬪に会えただけでも儲け物だ。魔法剣士は気持ちを切り替えて港地区を後にしようと馬の手綱を引いて回れ右をした途端、夢に出て来た魔術師が目の前に現れた。食事をしていたのか、右手には林檎酒が入った瓶、左手には切った肉を乗せたパンの食いかけを持っている。

 

ムグムグと咀嚼した一口を酒で流し込み、服のパンくずを払い落した魔術師はやあ、と笑いかける。

 

「来てくれたんだね、嬉しいよ」

 

「来ないものと思っていたぞ」

 

「いやあ、すまないすまない。小腹が空いていたからちょっと食事をね。腹が減っちゃ魔術は出来ぬって言うでしょ」

 

言わんだろう、そんな風には。そう言いたい気持ちを押し殺し、小さくため息をついた。

 

「で?何が望みだ?」

 

「ん?」

 

「俺をモンスターで犇めいているお前の故郷に招待すると言ったが、そんな大掛かりな術を何の代償も無しに行使できる筈が無い。それに、世の中タダほど高い物は無いと言う。俺を別の世界に連れて行く何らかの対価、代償、交換条件の類がある筈だ。少なくとも袋一杯の金で賄えるようなものでないと予感はしている」

 

「まったく、疑り深いなあ君は」

 

「疑うのが仕事の内でな。あるんだろ?」

 

「無いよ」

 

魔術師は肩を竦めてそう答える。

 

「君のその頭の中では魔術の類は行使の際に時間、手間、材料、体力と様々な対価が必要となる物だという価値観が当たり前だと固定されている様だ。まあその考えは概ね間違ってはいないが、何事にも例外は存在するのだよ。価値とは相対的な物であり絶対的な物ではないからね。界渡り(プレインズウォーク)は君が思っているほど難しくはないのさ。私ぐらい修業を積む事が出来れば、の話だが」

 

フフン、とその豊満な胸を惜しげも無く張って見せたが、特に気にした様子も無く魔法剣士(ウィッチャー)はもったいぶらずに話を続けろと手振りで促す。

 

「まあ、見ていてくれたまえよ」

 

楽団の指揮をするように手を動かし始め、呪文と思しき聞いたことも無い言語で何やら唱え始めた。すると、桟橋の手前が風につられて揺れる水面の様に波紋が起こるのが見えた。声音が高くなればなるほど波紋は激しく、大きくなっていく。

 

詠唱も手振りも途切れさせず、魔術師はくいっと顎でそれを指し示す。

 

宮廷で魔術師が使う門の術によく似ているな、と魔法剣士(ウィッチャー)は思った。そうと分かれば急がねば。潜る最中に中途半端に門が閉じて腕や馬の脚を落とされてはたまったものではない。

 

「はぁっ!」

 

愛馬の脇腹に踵を押し込み、そこを目指して駆け出した。

 

「君の旅路に幸あらんことを、魔法剣士(ウィッチャー)

 

魔術師の言葉はまるでやまびこの様に反響し、彼の視界は、太陽の光がより一層増した、刺すような光によって塗りつぶされた。

 

 

 

速足で駆ける馬の振動はまだ感じる限り続いている。どうやら一際強い能力を持つゴドリングに化かされたわけではなかったようだ。でなければ桟橋からそのまま海に馬ごと落ちていた所だ。

 

視界が晴れるとやんわり手綱を引き、馬を止めて辺りを見回した。港町の石畳の道や潮の匂い、海の潮騒も跡形もなく消えている。土地勘も行く当てもない以上、とりあえず太陽の傾きから凡その方角を割り出して北上を始めた。深く生い茂る木々の間を抜け、時には下馬して立ち塞がる蔦や枝を剣で切り落として進んでいくうちに日は傾き、空が橙色に染まり始めた。

 

その時になってようやく細い街道らしい道筋が現れる。細道の割にそれなりの頻度で往来はあるのか、行き来する足跡だけでなく荷馬車の轍、更には牛馬の蹄の痕跡も残っている。

 

だが、同時に見慣れない形の足跡も踏み荒らされた道の端に数人分あるのが目の端に止まる。馬の手綱を木に結びつけるとその跡を調べる為に近づいた。自分が出てきた所の向かいにある森から出て、戻っている。足跡は裸足で子供の物らしく小振りだが、どうにも数が多い。こんな町村から離れた所で大勢の子供が行ったり来たりしているとはどうにも解せない。

 

「ネッカー、か・・・・・?」

 

決めつけは良くないが、少なくとも自分が知る限りでは足跡を大量に残す怪異は群れで襲い掛かるネッカーやドラウナー、そしてグールなどだが、ここは陸地。付近に沼などの湿地帯は無く、死臭もしないい。よって後者の二つである可能性は限りなく低い。

 

しかしあの女魔術師が言ったように何事にも例外は存在するのだ。

 

疑惑を持てば気が晴れるまで徹底的に調べねば見つかる物も見落としてしまう。それが生死を分けるのだぞ、と言う師匠の教えに従い、自分が出た側の真向かいにある木々の隙間を縫って分け入った。

 

足跡を荒らさないように足運びに注意しながら鋼の剣を片手に歩を進めていくと、破れた布切れやナイフで切り開かれたであろう大小様々な袋、丈夫な木製の杖、右の長靴などが目に入る。

 

更に奥へと踏み込むと数本の指と、血と泥で汚れた、踏み潰された帽子も見つかった。

 

帽子に付けられた足跡は件の裸足の子供の大きさしかなく、指の断面は粗い。切り落とされたのではなく、噛み千切られたのだろう。加えて何かが引きずられた後も足跡と重なっている。いよいよもってネッカーの巣が近くにあるという仮説が現実味を帯びて来た。その証拠に首から下げる獅鷲のメダルが微かにだが胸元で震えている。

 

「ネッカーだけではない、のか?」

 

ネッカーは怪物とは言えオーガ種に分類される生き物であり、間違いなく悪知恵は働くが術を使う事は無い。精々が群れのリーダーによって統率された動きを取り、数に物を言わせて相手を引き裂くのが定石だ。たまに石ころを拾って投げつけてくることはあるが、それは手負いか不利と分かった時だけだ。

 

「また例外、か」

 

歩くスピードを速め、大股で邪魔な枝を落としながらさらに深く森へと踏み入ると、盛り上がった斜面に楕円状の穴が開いているのが見えた。大きさからして熊が楽々出入りできるほどの大きさだ。

 

そして反響する悲鳴が中から聞こえる。当たりだ。

 

腰の雑嚢の中から瓶を一本取り出してコルクを歯で引き抜き、中身を飲み干した。強い酒でも味わえないような強い衝撃が脳を突き抜け、体が一瞬痙攣した。しかし再び自由が利くようになると、ウィッチャーの姿は変わっていた。元々色白だった肌が更に蒼白になり、猫のような目も瞬きする間に宵闇に勝るとも劣らぬ漆黒に染まる。

 

更に叫び声が反響する。今の所道なりに進むだけの経路しかないが、この調子だと更に奥にいるだろう。だが洞穴の中ならば二次被害――屍鬼の類が餌場にしにくい。

 

剣先を地面に押し付け、落とし穴などの類の有無を検分しながら反響する気味の悪いゲラゲラ笑いや悲鳴を追っていく。

 

数分後、大きな焚火が中心に据えられた大部屋に辿り着いた。そこからは大小さまざまな横穴が更に三つほど掘ってあり、そこから小汚いモンスター達が出入りしていた。そしてやはりと言うべきか、その姿はネッカーによく似ていた。

 

見た目は人間の子供並み程度で、大きく耳が左右に突き出し、黄色い目が嬉々として輝いている。ネッカーと違うのは手に鉤爪は無く、体が気色の悪い緑色でそのうちの何匹かは短剣や棍棒、手斧と言った雑多な武器を手挟んでいる事ぐらいだ。

 

そんな見てくれの奴らが十数匹、頭から血を流して昏倒している女一人と縛り上げられて弱々しく抵抗する男二人を取り囲んでいた。

 

深呼吸と共に、ウィッチャーは飛び込んだ。すぐさま罠陣(イャーデン)の印を結び、手を地面に押し付けて発動した。ぼうっ、と紫色の閃光が円状に地表を駆け巡り、ネッカーもどきの過半数がその中に納まる。

 

ウィッチャーの鋼の剣が闇の中で空を切り、虚を突かれた化け物達の切り飛ばされた肉体が血や脳漿と共に宙を舞う。途中破れかぶれで石や槍を投げつけて来る者もいたが、碌に狙えもしない恐慌状態で、それも印の力で動きを阻害されているのだ。当たる物も当たらない。

 

その場にいたネッカーもどき達は皆撫で斬りにされ、ひとまず静寂が訪れた。両腕を縛られた二人の戒めを解き、その間に三つの横穴に一発ずつ(イグニ)で炎の奔流を迸らせ、熱と煙に耐えきれずに飛び出してきた奴らに止めの一撃を食らわせる。

 

「まだいるのか?」

 

頭から血を流し、上半身の衣服を引き裂かれた女性を労わる男にウィッチャーは尋ねた。しかし男そのうちの一人は気が動転したままなのか、頭を抱えたまま蹲り、嗚咽が止まらない。良く見ると、左手の指が三本欠けている。

 

一旦剣を収めたウィッチャーは一度軽くその男の横っ面を張り飛ばし、即座に暗示(アクスィー)の印で落ち着きを取り戻させた。

 

再び、「奴らは、まだいるのか?」とウィッチャーは問う。

 

「い、いや・・・・・襲って来たゴブリンは十匹程度、だった・・・・・さっき、ので多分全部だ」

 

ネッカーではなくゴブリン。目にするのは初めてだが、ねぐらを探したり略奪する相手を選んだりと中々に悪知恵が利くらしい。一先ずその情報を頭の中にしまい込むと、さっき進んだ道を指さした。

 

「歩けるなら早くここから出ろ」

 

「勿論そのつもりだ。あんたはどうするんだ?」

 

「爆薬でここを崩落させて、もし生き残りがいれば全滅させる。必要な物と、可能なら武器も持っておけ」

 

少なくとももうゴブリンの気配や動く音はもうしないが、他に横穴を掘っている奴らがいないとは限らない。幸い今よりひどい目に遭う前に救出できたからか、男二人は奪われた荷物を回収してそれぞれ手斧や棍棒を手に取り、未だぐったりして動かない女の腕を肩に回して入り口を目指した。

 

三人組が視界から消え、街道あたりにまで辿り着いたのを確認するとウィッチャーは懐から球状の包みを取り出し、そこから延びる導火線を近くの岩場にこすりつけた。着火し、三つ数えてから洞穴の中に投げ入れ、耳を塞ぎつつ後退する。

 

ドゥン、と一瞬大気が震え、洞穴が崩落を始めた。

 

 

 

応急手当を済ませる頃には日はとっぷり暮れてしまっており、ウィッチャーも一旦その場に残る事にした。女は意識を失っただけでしばらくすると目を覚まし、男達から事情を聞くと頭を下げ、何度も礼を述べた。

 

「お前達は運が良い。それと、助けたばかりで申し訳ないが道に迷っている。町か村が近くにあるならそこに行きたい。今回はその情報を報酬として要求する」

 

「あ、あんた、冒険者じゃないのか?」

 

「冒険者?」と、オウム返しにウィッチャーは聞き返した。「いや、違う。だが俺は怪物退治を生業としている」

 

「それでしたら!ここから東に馬で二時間の所に辺境の町があります。私達は配達の途中でしてそこまでの道中、護衛をお願いできないでしょうか?お礼は勿論致します!」

 

 

地面の草を千切って馬に食べさせながらウィッチャーは一頻り考えた後、小さく頷いた。

 

「良いだろう。彼女を俺の馬に乗せてやれ。荷物も少しは積載できる」

 

ウィッチャーはたとえどの流派であろうとタダ働きはしないのが掟の一つだ。しかし手負いの女を救った直後に歩かせる程鬼ではない。途中で休憩と包帯の取り換えなどを挟みながら夜道を渡り、四人は辺境の町に到着した。

 




ちなみにグリフィン流派の設定ですが初期の魔法剣士らしくより騎士道精神やエチケットも剣術と同じように叩き込まれたらしく、印の使用に重きを置いています(もちろん武器術も達者ですが)のでそのような描写を盛り込みました。
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