ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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Session 1-2: 収穫の秋の後夜祭

「まったく、祭りで折角の静養期間だと言うのにゆっくりできやしない」

 

ブーツに足を突っ込みながらウィッチャーは立ち上がり、文句をこぼした。午前中に本に書き連ねる目次とその内容の一部を書き上げ、昼は立ち並ぶ屋台や見世物に金を落とし、午後には休みを取った冒険者達と祝詞を捧げる地母神の奉納演舞を見物し、酒を飲んでいたのだ。その途中で長大な鉞を得物とする女戦士と意気投合し、どこぞの宿にしばらくの間しけ込んで大いに()()()()()()

 

存分に彼女を味わい尽くしたから消化不良ではないものの、明日の朝までこの高身長な美女とベッドを共にしたいのが偽らざる本音だ。しかしメダルが震え始めてしまった以上、無視して()()()()交えるわけにもいかない。

 

「すまない、何か嫌な物が街に近付いて来ている。片付けたら改めて飲み直して、()()()()()

 

女戦士はあんたの奢りなら構わないと寝返りを打って早く行けと手を振った。

 

「勿論だ」

 

剣二振りを背中に括りつけ、メダルの震えが強くなる方角へとウィッチャーは走り出す。既に日は暮れており、涼しくなってきた。空気の匂いも変わっている。ウィッチャー並みの嗅覚が無くても分かるほどくっきりと雨の香りが漂ってくるのだ。そしてチカチカと不規則に暗い空が稲妻で彩られている。まだかなり距離があると言うのに、メダルはかなり激しく震えていた。

 

祭りの後だから良かった様なものの、数時間早ければあの時雷雨が来るなんて言うから、と女魔法使いと女武闘家から説教を食らう破目になっていただろう。

 

雨雲が近づいている所にある建物と言えば、ゴブリンスレイヤーが下宿している地主の牧場と自宅だ。となれば、ゴブリンスレイヤーといつもの顔触れがそこに既に揃っているだろう。本来なら馬を駆って急行したいところだが、今は蹄鉄を替えてその感触に慣れて貰う為に今は馬房で休んでいる。

 

坂の上がり下りはあっても緩やかで道もしっかり固められている為、辿るのは容易だ。とにかく牧場を目指して走ると、丁度ゴブリンスレイヤーと一党が竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)二体と何やら作業をしているのが見える。そして近づけば近づく程何かが腐ったような悪臭が強くなってきた。港の市場の臭いが更にきつくなった物だ。恐らく魚介の類だろう。

 

 

「あ、来たわねテューラマイカ!遅いっての!」

 

「うるさい年増、休んでいい気分だったのが今日のコレで全部吹き飛んでしまって機嫌が悪いんだ。戦いには間に合ってるから問題なかろう」

 

「あんですってぇ!?探しても見つからないような所にいるアンタが悪いのよ!てかまた年増って言ったわね!?今度こそ二度と歩けないように両膝に鏃喰らわすわよ!!」

 

「前回一度も俺に当てられなかった奴が良く言う」

 

今度こそ目にもの見せてくれると矢を引っ張り出そうとする妖精弓手の手を竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)が抑え、蜥蜴僧侶がどうどうと彼女をなだめる。

 

「まあそう言うなや、耳長の。人手は多い程こちらに有利に傾く。駆け出しなら兎も角、へしきり丸の参陣なら大歓迎じゃ!」

 

「で?今どういう状況だ?あの近付いてくる嵐が何らかの術が原因と言うのが分かったからここで運良く合流出来たんだが」

 

誰よりも早く状況の解決に乗り出したゴブリンスレイヤー手短に説明した。

 

辺境の街の四方をゴブリンが囲んでいたのを事前に仕掛けていた罠で数を減らし、託宣(ハンドアウト)を受けた女神官を始めとする一党と合流し、共に残らず討滅。

 

殺したゴブリンの整った装備と以前の依頼で救った女、子供が手を付けられていない事から何かしら別の目的があると推測できる、ゴブリンではない黒幕の存在。

 

そして現在、その黒幕と残存するゴブリンの手勢を迎え撃つ為に干し魚を使って連中を燻そうと燻製小屋の前で準備をしている。女神官が今まさにそれらを万遍無く吊るし始めた所だ。

 

「なるほど。まあやる分には構わんが、服に臭いがつくのがどうも、なあ。この後飲みの約束があるんだが」

 

「もしか、女かや?」

 

ニヤニヤ笑いながら鉱人道士が尋ねる。

 

ああ、とウィッチャーは頷いた。「上背があって髪も手足も長い気風の良い女だ」

 

それと尻の形が良い、と心の中で更に付け加える。

 

「そりゃあ急がねばならんな。耳長の、どうじゃ?」

 

「どうあったってこっちが風上ね、嵐はもうほぼ真上に来てる。ゴブリンも近づいてるから、時間はあんまり無いわ」

 

「なら急ごう。念の為だ、術に余裕があるなら風勢を増させろ。可能な限りでいい」

 

「ほい来た」

 

「小鬼殺し殿、竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)の準備は万端整っておりまする。しかし生憎竜牙刀(シャープクロー)と合わせて、拙僧の術は品切れでしてな。二体分の武具をお借りしたく」

 

「納屋に予備の物がある。好きに使え。それと、一緒に持って来てもらいたい物がある」

 

「承知」

 

ゴブリンスレイヤーが案じた計略はこうだ。

 

まず干し魚と燻製小屋で毒煙を作り出し、風に乗せてゴブリン達を燻す。ここまでは単独での依頼でもやる常套手段だ。同時に武器を持たせた竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)を伏兵として先行させる。

 

次に敵兵が怯んだ所で竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)を突撃させて攪乱、隊列を乱し、落ちた士気を更に削ぐ。

 

最後は妖精弓手、女神官、鉱人道士の矢と術による援護を受けながらゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶、そしてウィッチャーが首魁を含めた残敵に接近し、確実に仕留める。

 

「前にも思ったがゴブリンスレイヤー、お前生まれる時代と場所を間違えたな。世が世なら軍団の長か将軍付きの筆頭軍師だぞ。まあお前の場合軍師なのに前線で戦ってしまうだろうがな」

 

「そうか?」

 

「ああ。思う様に巡らせた策が成った時の気分は、はっきり言って気持ちが良い。余計に『ゴブリン退治の勧め』を書かせたくなる」

 

「それって、ウィッチャーさんがロード戦の時に欲しいって言った報酬ですよね?」

 

干し魚を吊るし終えた女神官が燻製小屋から顔を出す。

 

「ああ。午前中に考え付く限りの目次の項目と今までの依頼で覚えたゴブリンに関する事をざっと箇条書きにしてある。後でそれをゴブリンスレイヤーに見せて、逐一詳細を加筆修正していく」

 

「ゴブリン退治の手引書、ねえ。良いんじゃない?少なくとも新人達が初めての依頼で手酷くやられるような事態は避けられるんなら冒険者ギルドも大助かりでしょ。あたしなら里の森人(エルフ)達に広めてあげなくもないわよ?割引で譲ってくれるなら、だけど」

 

「私も、神官長様から今回の収穫祭の儀式を執り行う様に任命されたので、他の神殿にも可能な限り広めて下さる様に頼みます!」

 

「本がどれだけ分厚くなるかにもよるが、その時は頼む。それと坊さんの竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)を前に出して作戦中盤に差し掛かった所で。勝手に変更を差し込む無礼を承知で頼む。俺もあれらとは別の第二の伏兵として出たい」

 

「理由は?」

 

ゴブリンスレイヤーの疑問にウィッチャーは理由を上げつつ指を立てた。

 

「頭目の顔を拝みたい。報酬の代わりに戦利品を分捕りたい。それと、相手が魔法を使うなら距離を詰めて使わせないようにしたい。さっきから時間が経つにつれこいつが反応を強めている」

 

認識票と同じ鎖から下がっているグリフィンの頭を模したペンダントを引っ張り出し、掌に載せた状態で震えているのを見せた。

 

「いつもつけとるそいつは、何ぞ効果があるんか?」

 

「魔法や魔法を帯びた物を探知できる。何らかの厄介な小道具を持っているなら、使われる前に対処したい」

 

ゴブリンスレイヤーは腕を組んでしばらくの間黙っていたが、小さく頷いた。

 

「深追いはするな、可能な限り数を減らすだけでいい。退く必要があるなら迷わずやれ」

 

「了解した。感謝する」

 

しかしウィッチャーが踏み出す前に何か嫌な予感を感じ取った女神官は彼を押しのけ、詠唱を早口で半ば叫びながら前に飛び出した。

 

「いと慈悲深き地母神よ、か弱い我らを大地の御力でお守りください!」

 

直後、熱を伴う奔流が女神官の聖壁(プロテクション)を襲った。まるで巨大な炉の中心の様な眩いその光は体に張り付いた雨と濡れた地面の水分を蒸気に変える。

 

「クソが、出遅れたか!」

 

しくじりを取り返す為にウィッチャーも防御の一助にせんと最大出力の(クエン)を張り、聖壁(プロテクション)に重ねた。(クエン)聖壁(プロテクション)を大木のような太い熱線が押し込める。ならばと『ペトリの魔法薬』を飲み下し、印の出力を底上げした。

 

しばらくの間押し合いへし合いが続いたが、やがて熱線はその効力を失い消えて行き、一党の周りを煙と蒸気が包む。

 

「神官のお嬢、すまん。おかげで助かった。怪我は無いか?」

 

「いえ・・・・・一党の仲間、ですから」と息絶え絶えに女神官は返す。見た所外傷は無いが、かなり消耗している。「体は大丈夫ですけど、使える奇跡は後一回です」

 

「さっきのありゃあ、分解(ディスインテグレート)の魔法だな。連発出来んのが唯一の救いじゃが」

 

「小父御はその術、使えるか?」

 

ウィッチャーの問いに鉱人道士は無理だと首を横に振る。「あっこまで大仰な手妻は流石に、な。お主こそ、火球(ファイアボール)みたくぶった切れんのか?」

 

「威力が高過ぎる。先に刀身が消し飛んでしまうな」

 

「各々方、過去の格言曰く、罠は嵌って踏み潰す物だそうですぞ?こうなれば真正面から切り込んで事を成すのが良手と思いますが。如何かな?」

 

「賛成だ」

 

竜牙刀(シャープクロー)を両手に構える蜥蜴僧侶の言葉にゴブリンスレイヤーは即答した。毒煙が消し飛ばされ、講じた策が根底から覆されてしまった以上、敵が完全に立て直してしまう前にこちらから仕掛けた方が有利だ。何より、後ろには丸裸の牧場がある。どちらにせよここで皆殺しにする以外、道は無い。

 

「さっき出遅れた詫びだ、俺が切り込もう」

 

「援護は任せろい!鱗の、飲み比べの勝負はまだついておらんからな。気張れよ?」

 

「あい分かった術師殿。ご照覧あれ!恐るべき竜よ、我が父祖よ!ご照覧あれ!今宵は宴也や!」

 

蜥蜴僧侶の叫びと共に、前衛三人は走り出した。間合いに入ったゴブリン達を片端から切り伏せていく。更に丘の上から鉱人道士が足を絡め取る泥罠(スネア)と恐慌状態に陥れる幻惑魔法の恐怖(フィアー)で士気の低迷を維持継続し、妖精弓手が前衛達の討ち漏らしを狙い撃つ。

 

無残にも消し飛ばされた竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)達の最初の働きもあってか、残るゴブリンは最早二十匹もいない。

 

「ここは拙僧らにお任せを!小鬼殺し殿、魔法剣士殿、行かれませい!」

 

「頼む」

 

「任せた」

 

ゴブリンスレイヤーはたった今殺したゴブリンが使っていた棍棒を拾い上げてウィッチャーの三歩後ろについて走りだす。そして近づくにつれ、首魁がかぶっていたフードが風に煽られて外れ、姿が稲妻に照らされた。

 

長い耳に、浅黒い肌、そして顔に張り付いた鬣の様な銀髪。ゴブリンスレイヤーとウィッチャーも会うのは初めてだが、その容姿の組み合わせが当て嵌まる種族は考える限り一つしかない。闇人(ダークエルフ)だ。

 

二人が突貫してくると見るや掲げた手を即座に腰にやり、剣を引き抜いて切り結ぶ。鼻先に迫るゴブリンスレイヤーの棍棒を半歩下がって回避し、続いて鳩尾を狙ったウィッチャーの突きを更なる後退で凌ぐ。

 

 

「よもや計画に感付く手合いがこの街にいるとはな。何者だ、貴様ら?」

 

闇人(ダークエルフ)の見立てでは辺境の街にいるのは銀等級止まりと聞いている。だが、剣を持った黄金色の瞳の男は兎も角、鎧の男が第三位なら小鬼の棍棒ごときを使うとは思えない

 

「・・・・・・ゴブリンではないな」

 

「見れば分かる」

 

「我こそは混沌の神々より託宣(ハンドアウト)を受けたる無秩序の使徒よ!更に率いるは四方のゴブリン軍!貴様ら楽に涅槃に行けると――」

 

「それはこちらの台詞だ、祭りの夜を狙うなど無粋にも程がある。一日予定をずらした所で罰は当たるまい?それともお前が祈る神は、それほどまでに狭量なのか?」

 

「その口ぶりでは他に伏兵がいる様子も無さそうだ。ゴブリンロードの方が余程手間がかかったな」

 

口上を遮るどころか、小物と断じられ、侮られる始末。闇人(ダークエルフ)は怒りで唸り声を上げながら剣を構えてまずゴブリンスレイヤーに飛び掛かった。

 

学んだ通り、踏み込む事で剣からもたらされる衝撃を殺して反撃しようと棍棒を振るうが直後に左肩が刺す様な痛みに見舞われる。見ると、闇人(ダークエルフ)の剣が有り得ない方向に曲がり、左肩を背後から穿とうとしていたが、光の壁に阻まれる。

 

ウィッチャーの(クエン)の印だ。

 

「やるではないか。だが鈍いぞ、薄汚い只人(ヒューム)ども。確かめるがいい。()()が小鬼に劣っているかどうか、とくとその目でなぁ!おお、大腕の君、暴風の太子!吹けよ風、呼べよ嵐!」

 

闇人(ダークエルフ)が懐から自身の腕ほどもある物体を取り出して掲げ、詠唱が始まった。それに呼応するように、雨足と風勢が増していく。

 

詠唱が完了する前にウィッチャーは雑嚢から何かを取り出し、投げつける。一瞬だけゴブリンスレイヤーが見たのは輪状の奇怪な刃物だった。確かに円盤型の物ならばただの投げナイフより飛距離は伸びるだろうが、費用対効果が良いとは思えない。

 

だが少なくともゴブリンが見ただけで使い方を覚えられるような代物ではなさそうだ。

 

「――我に力を与えたまえ!」

 

ウィッチャーの投擲武器が届くより一瞬早く詠唱が完了し、二の腕が骨ごと半分近く切断されるほどの重傷を負わせたそれも即座に引き抜かれ、傷が塞がった。外套を突き破り、背中から大木ほどもある巨大な手が五本、苦悶の叫びをあげる闇人(ダークエルフ)の背中から生え始めたのだ。

 

ウィッチャーは懐の震えが強まるのを感じて確信した。「あれだ」

 

「む?」

 

「奴が手に持っているあれにペンダントが反応している」

 

何かの書物でちらりと見た覚えがある。神代の時代に生きていたドラゴンなどの御伽噺でしか聞かないような怪物の肉体は切り離されて尚権能の一部を封入しており、相応の代償と引き換えで使い手に齎す事が可能と。

 

「・・・・・・触媒か」

 

「今日の俺は失態続きだな、詠唱を先に終わらせられてしまうとは。当てたは良いが俺の()()の効果が出るかだな・・・・」

 

「効くのか?」

 

「あれだけでかくなられると、なんともな。出るまで凌ぐか、隙を見て()()()()()()かすれば早まる筈だが、魔法で姿を変えてきた以上、断言はできん」

 

ゴブリンスレイヤーは「ならば俺が仕込もう」と棍棒を捨て、剣を引き抜いた。「()()が混ざれば多少はやりやすくなるだろう」

 

再び二人は前進した。数の利も今やあって無い様な物。加えて今は巨大な手の所為で間合いも不利だ。そしてその手も外皮が硬く、刃が通らない。ウィッチャーも本当なら何らかのオイルを使って相手を弱めたいところだが該当する種が分からない以上、貴重なそれを考え無しに消費することは出来ない。

 

妖精弓手の矢とウィッチャーのクロスボウが二方面から襲うが、それらは例外無く闇人(ダークエルフ)の新たに生えた手によって掴まれ、折られ、打ち捨てられる。

 

矢避(ディフレクトミサイル)か、とゴブリンスレイヤーは呟いた。

 

「どうした?私の相手をするには腕が足りんぞ?!貴様らは大かた第五位の紅玉、いや六位の翠玉程度とみた」

 

「そう見積もってくれるのは素直に嬉しいがそれは違う」

 

ウィッチャーはクロスボウに再び矢を番え、放った。しかしそれは闇人(ダークエルフ)どころか、何かに当てるつもりもない、明後日の方向に飛び、嵐の中に消えて行った。矢が飛ぶ最中にピューウ、と口笛の様な音が生じる。

 

「鏑矢・・・・ぬっ?!」

 

射放つと音響を生じる鏑矢は、合戦場で合図とする為に使われる物。

 

「いと慈悲深き地母神よ――」

 

闇人(ダークエルフ)は突如生じた光に目を焼かれた。

 

「あれは黒曜級で、隣は青玉だ」

 

直後、腹と左腕に激痛が走る。

 

「何故だ!?っぉおのれえええええええ!!!」

 

何故この様な無様を晒している?自分は混沌の神々から貴重な託宣(ハンドアウト)を授けられたのだ。言わば神に選ばれた使徒と言える。その自分が中堅どころか駆け出しの冒険者風情に後れを取るなど、あってはならない。

 

「かくなる上は巨人の威によって街を滅ぼすだけでは済まさん!貴様らの一党の女共の手足を落とし、死ぬま、し、あ、しぬぅ・・・・・っが?!」

 

頭痛に吐き気、熱に鼻血、動悸に息切れ、そして全身を駆け巡り始める痺れで、体の自由が効かない。

 

「やっと効いて来たか、『首吊りの毒』が。ゴブリンスレイヤー、お前も毒などの搦め手も使うんだな」

 

「ああ。だが手持ちの武器に仕込むのは初めてだ。ゴブリンに奪われて利用されないとも限らん。今回はこいつが手配していた圃人(レーア)の刺客が使っていた物を拝借した。効能は知らんが、合併症状を引き起こした所を見るに、即効性はあるようだ」

 

――これまでか。

 

闇人(ダークエルフ)は最早立ち上がるのがやっとの有様だ。これだけの症状を引き起こせるのならば恐らくもう助からない。だがただではやられない。

 

万物(オムニス)結束(ノドゥス)

 

鉛のように重くなり、腫れぼったくなった手を掲げ、分解(ディスインテグレート)の呪文を唱え始める。光が集まり始め、同時に遠方から矢が降り注ぐが腕がそれらを苦も無く防いでくれる。

 

(リベ)――」

 

促進(エクスペダイト)

 

しかし詠唱が残す所後一音で完了する刹那、闇人(ダークエルフ)の首と右腕が切り飛ばされた。

 

――畜生め(ガイギャックス)

 

それが混沌の神々の敬虔な信徒だったとは思えない闇人(ダークエルフ)の今際の際の掠れた言葉だった。

 

「お前のそれは何だ?普段使いの物ではなさそうだが」

 

「武器屋のご老体に押し付けられた、東にかつてあった王国で使われていた武器らしい。大きさは様々あるらしいんだが、それらを総じて環刃(チャクラム)と呼んでいたとか。お前こそ投げたアレは何だ?余分な枝分かれする刃を鎌に取り付けた様にしか見えないが」

 

「武器屋で貰った。南洋式の短剣らしい。重心が刃先に偏っている事から投げる事も出来る。数回しか練習していなかったが、うまく飛んだ。研ぐのは多少手間だが」

 

ゴブリンスレイヤーとウィッチャーはそれぞれ武器を回収し、腕の形をした不気味な触媒を焼却すると、一党の皆が手を振る丘を目指して引き上げて行った。

 

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