ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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少し短めですが、こちらの方を書き進めていたので投稿しておきます。

2023/05/02:間違って一話飛ばしてしまったので投稿いたしました。このエピソードとは特に関係は無いので読まずとも楽しめます。つまらない凡ミスをしてしまって申し訳ない


Session 5: 小鬼(ゴブリン)退治の専門家

初の冒険を終えた次の日、ウィッチャーは今日も今日とて依頼を張り出す掲示板の人垣が無くなるまでギルドの蔵書や近隣の地図を借りて地形や出没しやすいモンスターの特徴を覚えようと励んでいた。

 

昨日は下水道と言う閉塞的な空間にずっといた。なので、今回はもっと開放的な環境で出来る仕事を探したい。そこで目を付けたのが依然余っていた薬草採取の依頼だ。依頼主は近隣の村の薬師で、普段は自分が行く間際に足を負傷してしまい、後釜の弟子もまだ一人で行かせるには幼な過ぎるそうだ。弟子が行く場合は父親か母親が付き添いで一緒に行くらしいが、運悪くどちらもその日仕事が重なってそれが出来無い故の折衷案らしい。

 

集める薬草は三種類で、取り置きしている分を増やしたいからと、ウィッチャーは多めに採取を頼まれた。見た目とそれが咲いている大まかな場所を説明してもらい、収納する為の小さな編み籠を受け取ると馬を走らせた。

 

村の端を流れる川を上流から辿り、連なる二つの三角岩を目印にして川から離れていくと四半刻も経たぬうちに目当ての薬草の群生地に到着した。色とりどりの花で草原を鮮やかに染め上げるその光景は実にのどかで安らぎを与える物だった。薬師が言うには、今日の様に天気が良い時には子供達が親と共にそこをピクニックなどの為に訪れるとか、訪れないとか。

 

「懐かしいものだな」と、ウィッチャーは愛馬に話しかける。まだ一人前と認められるはるか前、薬草の採取や薬の調合法を座学と採取の実地訓練をやらされたのは今となってはいい思い出だ。言われた物とは違う物や只の野草を間違って持って行った時はこっぴどく叱られ、薬草ではなく毒草を摘んだ時には晩飯抜きにされた、などと言う事もあった。

 

「これか・・・・・」

 

紫で縁取られた白い花は毒消しの材料、裏面が白い産毛に覆われた枝分かれする若葉の茂みは潰して水に混ぜれば傷の塗り薬に、内側に曲がる黄色い花と平行脈の葉をつけた植物は褐色の根が解熱と鎮痛の効能を併せ持つ。

 

それらを摘んでは籠に入れていくのは、普段の血生臭い、切った張ったの仕事をしている時より遥かに楽だ。そして以前いた世界よりも、ここは実に住み易い。白い目で見られようがウィッチャーは慣れているので気にする事は無いが、魔術や奇跡と言った超常の能力を大っぴらに仕事で使えて邪魔をされないというのが快適だ。そして魔女狩りに遭う事もなければ報酬を出し渋られる事も無い。おまけに仕事はギルドと言う組織体系のおかげで途切れない。

 

至れり尽くせり、願ったり叶ったりとはこの事だ。他のウィッチャー達にこの世界を見せる事が出来ないのが残念でならない。ケィア・モルヘンの連中は、多少慣れるのに時間はかかっても真っ当な暮らしを営む事も出来るだろう。白狼と呼ばれる最高峰のウィッチャーに出来るなら、他のウィッチャーにできない道理はない。

 

日が高く登り詰めた頃には三つの籠は一杯になりそれらを馬と共に運びながら村の方へと戻った。

 

戻った頃には丁度村では各々昼餉の支度をしており、薬師を始め村人達は大量に集められた籠一杯の薬草を見て大層喜んだ。村の衆は狩人や大工、牧畜などの力仕事をする者が多く、また未だ免疫力が未成熟な子供が多い。それ故傷薬や解熱剤などの備蓄は多い方がいいのだ。

 

「おう、戻ったか。にしても、随分採ったな」

 

「多めにと言う依頼だったのでな。取り過ぎていなければいいが」

 

「なあに、他の採取できる場所は心得とるでな、問題は無い。ほれ依頼書を寄越しな、完了の署名をしてやる」

 

差し出された手に依頼書を握らせ、「ああ、頼む」と頷いた。

 

「だが嬉しいねえ、こんなに早く依頼を受けてくれる人がいるたぁ。白磁等級でもゴブリン討伐の方がいい下積みになるってんでそっぽ向いちまうってのに」

 

「そういう奴に限って痛い目を見るんだ。俺の主義は『仕事に貴賎なし』だ。仕事は仕事、金は金だ」

 

「へへっ、地母神様にお祈りでもしておくか、あんたみたいな冒険者が増えりゃあええなあって」

 

「是非そうしてくれ、手は万年足りていないそうだからな。ギルドの受付も愚痴っていたぞ」

 

こう言った割の悪い依頼を進んでする冒険者よりしない冒険者の方が多い。掲示板に残された依頼書と対象等級を見れば分かる。冒険者が子供のお使いの如き依頼をこなすなどプライドが許さないのだろう。その気持ちは分からないでもない。ウィッチャーも仕事を受けるかどうか選ぶ権利はあるし、出された依頼を断った事もある。よほど困窮していない限りは、と言う但し書きがつくが。

 

貴族の次男、三男坊などの様に余程の元手が無い限り、冒険者登録を済ませたばかりの奴らは基本的に少ない金をやりくりしなければ生きていけない。選り好みをしている立場にはないのだ。ならば、受けた依頼は完璧に遂行する事とその仕事に関しては無用な嘘をつかない事を誇りとしていればいずれは己を高く売れる。霊薬の調合と同じで、焦って順序を違えれば手酷いしっぺ返しを食らうだけだ。

 

依頼完了の署名を確認し、再び馬に跨った所で集会場らしき石畳を大きな茅葺屋根で覆った区画で、村長が鎧兜に身を包んだ人物と何やら話していた。

 

体格からして男なのは分かるが、それだけだ。頭には元は一対の角があったであろう兜、鎧も革と鎖帷子で遠目からでも使い込まれている物だというのが見て取れる。腰には中途半端な長さの剣とウィッチャーとは形状が違う雑嚢、左腕には丸楯、更に投擲用のナイフと思しき物も数本鎧をつけても手が届く所に隠し持っている。

 

「あいつは?あれも冒険者か?」

 

「お前さんは新人だから知らねえだろうが、おありがたい冒険者さ。酔狂な奴でな、小鬼退治の依頼しか受けねえんだと。そんで誰が呼んだか、巷じゃ小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)なんて呼ばれてんだ」

 

「ゴブリン、スレイヤー・・・・・・あいつが村にいると言う事はつまりゴブリンが出た、と?」

 

「ああ、つっても作物を持ち逃げされたぐらいでぇ」とまるで他人事の様に薬師は懐からパイプを取り出し、鉄と火打石で煙草に火を点けた。木製の何の変哲も無いパイプだが、施された細工は実に精巧で漆も間違いなく一級品だ。

 

「随分と雅な道具だな。買ったのか?」

 

「いんや、こいつぁ俺のじっさまの代から持ってるモンさ。何でもこいつを作った鉱人(ドワーフ)の職人との博打で勝ったんだとか」

 

「ほう、そりゃまた面白いな。俺も似たような物を持ってる」

 

そう言いつつ、ウィッチャーも自分の煙管を見せてやる。それを見た薬師は紫煙を吐き出しなが

らおお、と目を見開いた。

 

「そいつぁまた結構な道具を持ってんなあ。羨ましいねえ」

 

「売らんぞ?こいつは正真正銘ドワーフ謹製だからな。そして俺の場合、割引なしで買ってる。似たような物を安価で見つけたら持って来てやる」

 

「ああ、そうそう。コイツぁおまけだ。持ってきな」

 

薬師は作業場の小屋へと引っ込んで薄緑の軟膏が入った瓶と小さな袋を渡した。

 

「傷薬の軟膏と匂い袋だ。何かと入用だろ?」

 

「ありがたく頂戴する」

 

「代わりに煙管の方、頼むでな」

 

軽口を交わしながらウィッチャーは別れを告げ、村長との話を切り上げたゴブリンスレイヤーの方へと手綱を引いた。

 

並足でゴブリンスレイヤーと歩調を合わせながら訪ねた。「ゴブリン退治か?」

 

「ああ」

 

「始めて何年になる?」

 

「しっかりとは数えていない」

 

「そうか。俺も先日登録前にゴブリンの巣を偶然潰してな。玄人がどう対処するか後学の為に見ておきたい」

 

「構わん。ゴブリンは皆殺しにするだけだ」

 

なるほど、とウィッチャーは心の中で得心する。()()()()来る前から色んな依頼人と話し、色んな依頼をこなしてきた。勿論他のウィッチャーと組んだことも一度や二度ではない。

 

この男は間違いなくゴブリン退治においては完璧主義者だ。

 

——実に惜しい。こんな男が()()に臨んでウィッチャーになれば、どれだけ化けていただろうか

 

そう思わずにはいられなかった。

 




ゴブスレさんがウィッチャーになったらゴブリンの勝ち目が更に薄く・・・・・
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