ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

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Session 6: 玄人のお手並み

「ゴブリンの数は?」

 

「探してみない事には分からん。だが足跡は二、三匹分と言ったところだ。困窮してはいないが潤沢に物資を揃えた群れと言うわけでもない。恐らくはホブゴブリンかシャーマンが統率を担っている」

 

「ホブゴブリンはゴブリンの亜種か何か、か?」

 

「ああ。先祖返りをして体格も膂力も増している、群れの用心棒みたいな奴だ。シャーマンは普通のゴブリンと姿形は変わらんが、術を使える。小規模の群れを統率しているのが十中八九そいつだ、優先的に潰せ」

 

ちょっと待て、とウィッチャーは表情を硬くする。「ゴブリンでも術を使える奴がいるのか?」

 

「ああ、いる。方法も理由も知らんが、いる。奴らは徒党を組んだり糞尿で即席の毒や罠を作ったりするだけの知性と学習能力を持っている。一匹でも生き残ればその学習した奴の知識がまた別の群れに還元される」

 

「日光や炎、銀みたいなこれと言った弱点は?」

 

「無い。あるとすれば、人体と同じ急所だな。後は短絡的な思考。奴らは馬鹿だ。が、間抜けではない。死んだふりからの奇襲は勿論、罠や人質の有用性も理解している」

 

ネッカーやドラウナー、レイスが魔法を使えるようになればどうなるかなど想像したくもない。ブルクサやレーシェンが魔法を使えるようになるなどと言う話が出たらそれこそ一大事だ。名うてのウィッチャー四、五人が相手をしに行かなければ勝てないだろう。

 

「繁殖は?」

 

「する。それもかなり早い。だがゴブリンは雄しかいない。そして奴らは物を作るという思考は持ち合わせていない。必要な物が無いなら奪えばいいと考える」

 

その答えだけでウィッチャーは全てを察した。ピクリとこめかみが引き攣る。

 

「全員ぶっ殺すぞ」

 

「当然だ。あの村の村長は以前ゴブリンの襲撃を子供の頃に受けた事があるからその危険性を理解している。だから人的被害が出る前に自腹で依頼を出した」

 

「そうか。っと、ちょっと待て」

 

「何だ?」

 

「見ろ、足跡が二手に分かれている。こちらも二手に分かれるか?俺は暗所でも見えるし、毒は効かない。術も使える」

 

「向こうの数が分からない以上、下手に分かれれば各個撃破される。数の利を自ら削るべきではない」

 

「ではどっちを辿る?」

 

左に行く足跡は二組、右には一組ある。ゴブリンスレイヤーはしばらく沈黙を貫いていたが、左に行く二組の足跡を指さした。

 

「多い順から潰していく。奇襲を食らったとしても数が少なければ対処は比較的容易になる」

 

ウィッチャーは頷き、すんすんと鼻を鳴らす。臭い。勿論ゴブリンの残り香が残留しているわけではなく、それとは別の酸っぱい臭いだ。

 

「分かった、その手で行こう。それと足跡二組の方だが、恐らく一人は連れて行った筈だ。」

 

「そうか、ならば急ぐぞ」

 

左に続く二組の足跡を追った先は、今や朽ち果てて植物に覆い尽くされた煉瓦と木で出来たあばら家だった。屋根は無事だがそこかしこの壁が朽ちている。扉も蝶番から外れており、壊れた椅子などの調度品同様、ゴブリン達の焚火の燃料となり果てていた。

 

そして予想通り、半裸の幼い少女が猿轡を噛まされて焚火の近くに転がされており、脚や腕、腹には痛々しい痣や火傷の痕がいくつも残っている。僅かに肩が上下している事からまだ息はあるようだが、痛みのあまり気を失ってぐったりとしたまま動かない。

 

「人質の方を頼む」

 

「分かった。では、お手並み拝見」

 

「ああ」

 

ゴブリンスレイヤーの第一手は腰の投げナイフを抜き取って外周を見回っているゴブリンの殺害だった。そこそこの距離があるにもかかわらず見事喉を穿つ。喉に血を詰まらせ、まともな声も上げられないままゴブリンは喀血し、やがて絶命する。

 

「まず一つ」

 

死骸を片手で持ち上げ、無造作にあばら家の中に投げ込んだ。死骸は焚火の真上に落ち、もうもうと灰が舞い上がった。一瞬のうちに目を潰されたゴブリン達は恐慌状態となり、ある者は目を覆いながら持っている雑多な武器を闇雲に振り回し、またある者は即座に逃げようと目を擦り、転びながらもあばら家を出ようと逃げを打つ。

 

しかしそうは問屋が卸さない。逃げようとしていた二匹のゴブリンは見ていない為知らない。敵が二人組であると言う事を。何故急に視界が足元だけになったのか、何故首のない己の胴体が横たわっているのが見えるのか、分からないまま屠られた。

 

あばら家の中から汚い悲鳴と断末魔が聞こえる。覗くと、ゴブリンスレイヤーは剣を、棍棒を、槍を振るい、武器を数匹殺す毎に変えてはゴブリン達を叩き伏せていた。その無駄のない動きは、修練に裏打ちされた、歴戦のウィッチャーも顔負けの戦いぶりだった。

 

倒れた少女を担ぎ上げ、一旦下がるウィッチャー。息こそあるが浅く、微かだ。傷の手当てを早めにしなければ化膿してそこから肉が腐り落ちてしまう。十分に離れた所で傷口に軽く水筒の水をかけ、薬師に持たされた軟膏を慎重に傷に塗っていく。

 

「しかし見事な物だったな」

 

思わず声が漏れた。人の身で良くぞあそこまで練り上げたものだ。足跡を辿る間に横目で観察したが装備も全て対ゴブリン戦を想定して選ばれている。動きやすさと柔軟性を損なわず、されど最低限肉体を守る革鎧、鎖帷子に兜、そして打撃武器も兼用している丸楯。

 

並びに使う武器の耐久値の理解の深さ、あらゆる武具の扱いに習熟とまでは行かないまでも、満足に戦える練度と武器に対するこだわりの無さ。

 

しかもこれらの装備は恐らくゴブリンに奪われ、逆に利用されるかもしれないことを想定しているため、安価な物をあえて選んでいる。

 

どれもこれも、全て正しく生き残る為の知恵に基づいた選択と装備だ。雑嚢の中身は知らないが、恐らく別の自作武器や道具が入っているのだろう。界渡り(プレインズウォーク)をする前にモンスターハンターを生業とするのはウィッチャーだけだったため、そうでない冒険者がそれで生計を立てる姿は新鮮に映る。特にゴブリンスレイヤーは当たりも当たり、大当たりだ。

 

「あの巣は潰した。十七匹。娘の方は?」

 

「生きている。応急で傷薬を塗っておいたが、やはり術を使った方が良いんだろうな」

 

「ああ。何故虜囚がいると分かった?」

 

「小便の臭いがしたのさ。見た所あの草むらのどこかで用を足している間に不意を打たれたんだろ。鼻も利くんでな」

 

「そうか」

 

「で?一旦戻るか?」

 

「・・・・・そうだな。頼む」

 

「分かった。出来るだけ早めに戻るから、俺の分もゴブリンを残しといてくれ」

 

「いや、ゴブリンは皆殺しだ。万一撃ち漏らした奴がいれば、頼む」

 

「承知した。それと、良ければこれを使ってくれ。相手の動きを短時間封じる爆薬だ、導火線は硬い石にでも擦り付ければ点火する。威力は折り紙付きだ」

 

「そうか」

 

少女を毛布で包んで馬に乗せ、チチッと舌を鳴らして速足で走らせる。ゴブリンスレイヤーの戦働きをもっと見れないのは残念だが、収穫はあった。銀剣を使う必要は無く、悪霊の様にオイルもいらないのだ。ゴブリンを相手にする時は自分も数打物を買って使えばいい。

 

「爺さん!急患だ!」

 

馬をそのまま薬師の小屋に突撃させんばかりの勢いで走らせたウィッチャーは戸口に出て来た薬師を危うく轢き殺す所だった。

 

「おお、危ねぇっ!!どうし――って、隣村の嬢ちゃんじゃあねえか!まさか小鬼共に!?」

 

「ああ。早速軟膏が役に立った。あれで応急処置をしておいたが、熱がある。消毒も道具が無かったからできないまま連れて来た。頼めるか?」

 

「おう、若ぇ弟子にも薬の調合ぐらいは出来らぁ。任せとけィ。隣村のよしみだ、金もいらん。代わりに、小鬼共をぶっ殺して来てくれ」

 

「承知した」

 

彼女が薬師の弟子二人に戸板に乗せられて担ぎ込まれるのを見届けると、即座に馬の横腹に蹴りを入れて取って返した。

 

 

 

もう一方のゴブリンの足跡は、まだ新しい丸太小屋へと続いていた。そしてゴブリンスレイヤーの予想通りと言うべきか、そこには普通のゴブリンよりも一回り以上の体躯を持つホブゴブリンがふんぞり返って座っている。

 

人質、なし。弓、投石紐、共になし。シャーマン、なし。ホブゴブリン、一匹。ゴブリン十二匹。合わせて十三。

 

ウィッチャーに渡された導火線がついた青い球状の包みに目を落とす。どんな効果を持つかは分からないが、爆薬と言っていた以上、そこそこの威力は期待できる。説明通り摩擦で導火線に火が点き、それをゴブリンが一番密集している所に投げ込んだ。

 

爆発の直後、ゴブリンスレイヤーは凄まじい寒波と刺すような痛みを肉体の芯まで感じて思わず呻き声を上げそうになった。今はまだ気候は暖かく、冬などまだまだ先だというのに、突如吹雪にでも見舞われたかのように辺りが寒くなったのだ。改めて爆薬を投げつけた先を見ると、ホブを始め、ほぼ全てのゴブリンが()()()()()()()()()

 

氷を作り出す爆弾。炸裂と同時に相手を砕くだけでなく、威力範囲内にいた者を氷漬けにして動けなくする。初めて使ったが中々どうして、使い勝手がいい。

 

「十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五――」

 

氷漬けになったゴブリンは恐らく凍え死んだだろうが、念には念を入れなければいけない。ゴブリンはしぶとい。ホブの様な上位種ともなれば猶更だ。ゴブリン達の喉を裂き、脳天をかち割り、心臓を抉ると剣を捨て、落ちていた手斧を拾い上げる。それで未だ爆風で目を回した討ち漏らしを血祭りに上げに足を進めていく。

 

ウィッチャーが戻った時には、ちょうど二十八匹目のゴブリンの頭を踏み潰している所だった。

 

「どうだ、『北風』の爆薬。良いもんだろ」

 

「ああ。幾らだ?」

 

「人質がいて中途半端にしか仕事ぶりを見れなかったからなあ・・・・・・」と、ウィッチャーは目を閉じてメダルを指先でいじりながら頭の中で計算を始め、妥当な金額が出た所で目を開けた。「次の仕事にも随伴させてくれれば、初回限定で銀貨七枚ってところだ」

 

「分かった、ギルドに戻ったらこの仕事の報酬分から渡す」

 

「決まりだな。乗っていけ。こいつなら二人ぐらいは運べる」

 

「そうか」

 




馬に相乗りするウィッチャーとゴブスレと言うシュールな最期の絵面で本日のお話はおしまいです。
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