ほら骰子だよ、ウィッチャー   作:i-pod男

8 / 30
UA一万突破と高評価、ありがとうございます。

この調子で『龍戦士』の方も書き進める励みにさせて頂きます。

今回のお話は二部構成の前編、ウィッチャーの単独ミッションです。


Session 7―1: 思いがけない陰謀

「ご老人、邪魔するよ」

 

「俺を年寄り扱いすんじゃねえや、若造が」

 

武器屋の翁が金床から顔を上げてウィッチャーを睨んだが、彼が持っているジャムが入ったガラス瓶と気に入っている銘柄の酒瓶の二つを見て僅かに表情が和らぐ。

 

「で?何を探してる?」翁はそれらの品を受け取りながら訪ねた。

 

「ゴブリン退治用の安い手頃な寸法の剣とナイフ、後はクロスボウを一つ」

 

「最初の二つは何とでもなるが、クロスボウなんざお前さん使うのかい?」

 

「ああ。それも片手で扱える大きさの物を探してる」

 

「そんなちっこいクロスボウ、圃人(レーア)鉱人(ドワーフ)でも使わんぞ」

 

「やはり無いか?」

 

「少なくとも俺の店にはねえなあ。よしんばあったとしてもそんなちっこいのじゃあ倒せる相手なんぞたかが知れとる。注文すりゃあ何ぞあるかもしれんが――」

 

「その分時間もかかって取り寄せる値段は張る、と」

 

「ああ。木材だけで作る長弓(ロングボウ)ならまだしも、それだけ小型化させるとなると木だけじゃ耐久性にも問題が出る。しなやかな動物の骨や角、後は金属板を張り合わせた複合弓なら何とかなるが――」

 

「作る手間暇は探すより面倒、か?」

 

「良く分かってんじゃねえか、初心者の若造の割には」

 

こっちじゃ素人でも地元じゃ玄人だからな、と言う言葉は胸の内にしまっておく。

 

「なら、材料を持ち込めば多少は安くなるか?」

 

「そりゃあな、まあどんな材料持ち込むかにもよるが・・・・・」

 

「グリフィンやアウルベアならどうだ?」

 

それを聞いた翁は腹を抱えて豪快に笑い始めた。

 

「へっ、てめえ如きに殺れる様なもんじゃねえだろうが、まあそれぐらい上等な素材があればいいもんが作れらぁな」

 

「そうか。参考になった、礼を言う。金は置いておくぞ、後砥石も一つ貰って行く」

 

「おう、グリフィンやアウルベアの死骸が手に入ったらまた来いや」

 

ウィッチャーの去り際に閉まる扉に向かって作業をしながらしっしっと追い払う。

 

「親方、いいんですかい?あんな適当なこと言って。あの人多分持って来ますぜ?今んとこ受けた依頼、一つも失敗してねえって聞きます。年が明ける前に一足飛びで鋼鉄、いやさ青玉まで行くんじゃあ?」

 

丁稚が置かれた代金を数えて金箱にしまい、台帳に売れた分の記入を済ませた。

 

「アウルベアやグリフィンなんぞ単独(ソロ)で冒険してて倒せるようなら誰も苦労はせんわ、バカタレが。おら、炉の火勢が弱まっとるぞ、くっちゃべっとる暇があるならもっと炭を持って来んか、炭を!」

 

 

 

「どうでした、ウィッチャーさん?」

 

「やはりだめだった。俺が思っている寸法のクロスボウは特注品になってしまうらしい。高級素材のグリフィンやアウルベアの死骸を持ち込めば安くなるとの事だが、まあしばらくは我慢しないとな」

 

「まあ、人生そう何事も上手くは行きませんからね」

 

「こう言っちゃアレだが、下水道の害獣駆除も飽きて来た。ゴブリン退治は基本専門家の先生様について行って見学だしな」

 

「でも依頼主さんからの評判は良いですよ、とても。特に薬草採取の依頼なんかは多めに採ってくれるから助かっているらしいですし」

 

事実、先日拉致された少女を救ってくれたことを深く感謝する手紙がギルド宛に村長から来ており、ウィッチャーの冒険者としての経験点の加点に大きく貢献している。なんでも、彼女は隣村の村長に次ぐ豪農の縁者であるとか、ないとか。ウィッチャーも深くは聞かなかった為、真偽は定かではない。だが手紙と共に干した木の実の包みに銀貨が十枚同封されていたことから、恐らく本当の事である可能性は高い。

 

「あれは自分で作る分も取っておきたいから多めに採った後、納品を一部ケチって上前を撥ねてるだけだ。換金した元手がまだあるとはいえ白磁等級だから貧乏性が板についてしまっている。良いんだか悪いんだか」

 

「でもその都度依頼主さんから許可を取って報告書でもそう申告してくれてますから、何も問題はありませんよ?いつもありがとうございます。あ、それと等級ですが、もう昇格試験を受けられる程度にまで達していますから、もしお時間があれば面談審査が出来ます」

 

「もうそんな所まで行ったか。受けたいところだ、と言いたいが、まだ遠慮しておこう。片付けておきたい仕事があるから、それが終わった後にもし余裕があれば、是非とも」

 

「そうですか、分かりました。今度はどんな依頼ですか?」

 

「薬草採取だ。今度は少しばかり希少価値が高い種類らしいから、日帰りでは戻れない。ゴブリンスレイヤーに会ったらよろしく伝えておいて欲しい。また共に仕事をしたいとも」

 

「はい、会ったらお伝えしておきますね。お気をつけて」

 

「では後程」

 

ギルドを後にしたウィッチャーは馬屋に繋いである愛馬の手綱を取り、地図を広げた。依頼主は村の薬師ではなく、れっきとした錬金術師なのだ。それも小さいとはいえ領地を持った名主のお抱えらしいので報酬は白磁等級並みでもそれなりには期待できる。

 

依頼書の指示通りギルドの前に馬の手綱を握った依頼主の小間使いを名乗る女性が来ており、案内を始めた。

 

移動中に依頼の詳細を聞くと、名主は現在病に臥せっており、薬の効き目が薄くなってきている。その為、既知の仲である錬金術師に頼んで別の薬を調合して貰う為に呼び寄せたが、肝心要の材料が一つ足りない。年を取った錬金術師ではそれが生えているとされる険しい地帯を超えた先にはいけない。代わりに冒険者に依頼を出して採取を頼みたい、との事だ。

 

そこで初めてウィッチャーは白磁等級向けの割には報酬が多めな事に合点が行った。確かに金は命に代えられないし、死ねば使えなくなってしまう。

 

多少は分別が利き、金の使い方を良く分かっている依頼主の仕事を受けられた運の良さに安堵したウィッチャーは、小さくため息を漏らした。

 

馬を二日と少しの間飛ばして辿り着いたのは小さな山の麓を一部開拓、開墾して作られた村落とその一段上の平らに切り崩された土地に建てられた小さな庭園付きの屋敷だった。

 

「ただいま戻りましてございます。こちらが今回の依頼を受けて下さった冒険者の方です」

 

小間使いを出迎えたのは男女入り混じった二、三人の使用人と、錬金術師と思しき初老の女性だった。

 

「お初にお目にかかります。どうぞよしなに」認識票を取り出して見せると手を胸に当て、ウィッチャーは錬金術師に向かって小さくお辞儀をした。

 

錬金術師は腰こそ曲がってはいないが、それなりの年らしく白髪が多く、杖をついていた。皺だらけの皮膚は随分と日に焼けている。身に付けているローブの袖の中から丸めた羊皮紙を引っ張り出し、差し出した。ウィッチャーはそれを受け取って開くと、そこには精巧な植物の絵が描かれており、端の方には色などの特徴を細かく記載した走り書きもある。

 

「目当ての植物はこれか・・・・・量はどれ程必要に?」

 

「取り置きもしますので、多い方がよろしいですな」と錬金術師は咳払いをしてしわがれた声で返答する。「ここから西に向かいますと、先に苔むした岩に囲まれた大きな池があります。そこにこの絵に描いた花が。本にあった物を書生が可能な限り似せて描いた物でしてな。本来なら私めが行く所ですが、寄る年波には勝てませなんだ。途中まですら案内も出来ず、申し訳ない限りです」

 

「お気になさらず。ここから先はこちらの仕事。馬もあるので日暮れまでには戻れるかと」

 

「嗚呼、ありがたや。名主様は、かれこれ二十年にもなる付き合いでして。長生きして欲しいのです」

 

「では、直ぐに発ちます。失礼」

 

羊皮紙を懐にしまい、西に向かって馬を駆った。途中岩場が多く馬に乗ったままでは走破出来ないような道とも呼べない険しい獣道を通り、初めてこの世界に来た時の様に茂みや枝を切り落としながら進む道を切り開いていった。

 

池を囲む岩は天然の物か、はたまた人足を雇って見栄えを良くする為に運ばれたのかは不明だが、確かに藻類に混じって淀んだ水面から突き出ている植物が複数ある。

 

ウィッチャーは思わず、「ドラウナーかウォーターハグでも出てきそうだな」と零した。実際これだけ池の岸に近づいていれば鼻が利く水場のモンスターはすぐにでも群れを成して飛び出してくるが、水面は未だ微風に撫でられて揺れるばかりだった。メダルも無反応で屍鬼特有の魚の腐った腸を連想させる悪臭もしない。試しに池の中心から端に向かって石や泥の塊を投げ込んでみるが、水音と共に波紋が広がるだけで何も姿を見せる様子は無かった。

 

おかしい。

 

長年の化け物退治の勘が、そう告げていた。依頼があまりにも簡単過ぎるのだ。命には代えられないとはいえ、ここまで来る労力は馬があろうと無かろうと村の若い衆なら多少苦労はしても走破できない程の事は無い。地元の人間ならば半日もあればどうにかなるだろう。だのにわざわざ割高の報酬を用意してまで冒険者を雇っている。

 

どこかで辻褄が合わない。何かを見落としているが、その何かが分からない。

 

懐から絵を取り出し、池に生えている植物で最も酷似し、書かれた特徴に近い青紫色の花弁をつけた、蕾が赤子の拳ほどもあるその花を引き抜いた。しかし、引き抜いた際に水が跳ね、それが羊皮紙にかかってしまう。インクが滲んではいけないと思わず羊皮紙を振り回して水気を払おうとするが、濡れた所から羊皮紙に変化が現れた。

 

目に見えていた黒いインクとはまた別の字が、赤いインクで見え始めたのだ。

 

ウィッチャーはその場にしゃがみ込み、指先を水で濡らして余白の部分をなぞり始めた。右下の端の余白に赤いインクの走り書きが現れる。もしやと思い、(イグニ)で小さな種火を掌に作り、羊皮紙を乾かすと、より赤いインクがはっきりと見え始めた。

 

『毒草』、『名主』、『妖婆』と小さく書かれた文字が浮かび上がる。

 

——畜生め、見落としはこれか!

 

今にも感情に任せて怒号を上げたくなったウィッチャーは一度深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 

「よりにもよって妖婆とはな」

 

クルックバック湿原の自称『森の貴婦人』の三人の話は今でも覚えている。風の噂で狼流派最強のウィッチャーとその弟子が三人を葬ったと聞いてはいるが、まさかここにもいるとは想定外だった。だがいる以上は斬らねばならない。

 

だが相手の能力の限界値は不明だ。どこまで目を光らせ、耳を澄ませているか分からない以上、気取られるのはまずい。ならば今はひとまず出された依頼通り()()を持ち帰るとしよう。

 

しかしどうやって妖婆を探す?あの場にいたのならばたとえ姿を変える変化や幻惑の魔術を使っていようとメダルが反応した筈だが、震えなかった。探知を搔い潜る絡繰りを看破しなければ逃げられるだけでなく、腹いせに名主を含む屋敷の使用人をも皆殺しにされかねない。

 

いや、そもそも魔術を使っていたのか?使っていないならばメダルが反応しなかったのも頷ける。ならば霊薬などを使って姿形を変えている可能性が高い。霊薬の効果を中和する『白い蜜』はあるが、ウィッチャーが持つ霊薬はウィッチャーしか飲めないようにできている劇薬だ。他の者が飲めば死んでしまう。妖婆でない人に飲ませてしまえば取り返しがつかなくなる。

 

「案があるなら言ってくれてもいいんだぞ?」

 

とうとう馬にまで意見を求めてしまうほどに計略が思い浮かばない。答えの代わりに馬は鬣を振り乱してぶひひん、と嘶くだけ。

 

ウィッチャーはメダルをいじりながら再び策を巡らせ始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。