エウリュディケ救出作戦〜先生を、取り戻せ〜   作:立日月

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カロンへの渡し賃~シッテムの箱の沈黙~

 

 

「……というわけでシッテムの箱が唯一の手掛かりなんです!」

 

 サンクトゥムタワーにやって来たゲーム部一行は、リオから伝え聞いた内容を力強く訴えかける。背後には少し遅れてやって来たアビドスの面々も並んでおり、ゲーム部の言葉に頷いていた。

 

「……なるほど、理解しました」

 

 七神リン生徒会長代行は特に驚きも見せず、そう答えた。リンは続けてこう告げる。

 

「あなたたちほど明確に根拠があったわけではありませんが、シッテムの箱に何かしらの手掛かりがあるのではということは連邦生徒会としても考えていました」

 

「それなら……!」

 

「しかし、問題があるのです」

 

「問題って……?」

 

「これは、連邦生徒会が……ひいてはキヴォトスが連邦生徒会長の失踪以降、常に抱えている問題でもあります」

 

 連邦生徒会長の残した「先生」という人材。彼が連邦生徒会長の一部権限を肩代わりすることで、今のキヴォトスは成り立っている。その権限の最たるものが、それだ

 

「つまり――シッテムの箱は、先生でないと起動できないのです」

 

 サンクトゥムタワーの制御権を得ることのできる、シッテムの箱。それを起動できることこそが先生が先生足る最大の権限だった。

 しかし先生がいなければシッテムの箱は起動できない。だがその先生を探すためにシッテムの箱を起動する必要がある。鶏が先か卵が先かの堂々巡りだ。

 

「じゃあ……私たちには、できることがない……?」

 

 その言葉を聞いたミドリは絶望したようにそうつぶやく。しかし、リンは横に首を振って否定する。

 

「いえ……ここまで情報が揃えばできることがあります」

 

「というと……?」

 

 アヤネがリンの言葉を促す。リンはそれに頷き、続けて言った。

 

「非常対策委員会の、設置です」

 

 それは、かつて張りぼてに終わった、連邦生徒会の権限で実行できる最大の切り札だった。

 

 非常対策委員会。それはつまりキヴォトス中の自治区から責任者を招集し、キヴォトスの抱える非常事態への対応を検討・実行するための組織。虚妄のサンクトゥムが発生した際には自治区同士の軋轢や諍いのためにまともに機能しなかったが、先生の失踪という事態であれば手を取り合えるはず。

 

 連邦生徒会の呼びかけに応え、ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ、アビドス。その他の自治区からも有力者、技術者が集う。前回の招集時とは異なり、学園間のいざこざなども起きなかった。

 

 そんなことをしている場合じゃないと、全員が理解していた。彼女らは皆、一刻も早い先生の帰還を望んでいたのだから。

 

 しかし一致団結したからと言ってすべての問題が解決するほど、世界は甘くない。

 

 エンジニア部によるハード解析、ヴェリタスによるハッキング、トリニティ図書委員会による叡智。さらには個々の生徒の持つ知識や技術、神秘を駆使してもシッテムの箱は沈黙を保ったままだった。

 わかったことはシッテムの箱については何もわからない、ということだけ。

 

「一見普通のタブレット端末なのに何で作られてるかすら全く検討つかないよ〜」

 

 エンジニア部のマキが頭を抱えながら悶えている。

 

「この超天才清楚系病弱美少女ハッカーが、ハッキングどころかOSやシステム構造の特定すらできないなんて……!」

 

 全知の学位を持つヒマリは、しかしその能力が今何の役にも立っていない悔しさで身を震わせる。

 

「古書館にもシッテムの箱についての情報は、何もありませんでした……」

 

 トリニティからの通信には肩を落としたウイが映っていた。

 

「……まさかキヴォトス中から人を集めても何もわからないなんて」

 

 キヴォトスの実力者たちが何の成果も挙げられずに気落ちする様子を見たアビドスの面々は思わずそうこぼす。

 

 アトラ・ハシースにおいて先生がシッテムの箱を行使する姿を最も近くで見ていたシロコがぽつりと呟く。

 

「……あれは、たぶん私たちではどうにかすることのできないもの。だからこそキヴォトスで絶大な権限を発揮できる、んだと思う」

 

 それはシロコなりの慰めの言葉だったのだろうが、同時に非常対策委員会に絶望という名の重たい空気を充満させた。

 

 会議室を包む絶望を感じ取ったリンは、かつてフランシスが先生に語っていた言葉を思い出していた。

 

『この物語は、一つのジャンルを掲げていたが故に、「先生」が主人公でいることができた。物語であったから、あなたは無敵であった』

 

「やはり、先生がいなければ……」

 

 かつて先生がいた時であれば、これだけの生徒たちが集まれば何かしらの突破口が見えたはずだ。しかし、今の非常対策委員会には希望すら垣間見えない。

 

 かつて連邦生徒会長が失踪し、先生が来訪するまでの間の閉塞感。すなわちキヴォトスを引っ張る人間の不在。自分がその座に立つには力不足であることをリンはひしひしと感じていた。

 

 手詰まり。

 

 非常対策委員会に招集された全生徒の頭にその単語がよぎる。

 

 だが、でも、けれど、しかし。

 

 諦めきれない。

 

 先生はどんなに危険で絶望的な状況になっても諦めなかった。その背中を見てきた彼女たちもまた、安易に諦めることを選択できない。それは先生に教わったことに反することだから。

 

 それに……

 

 私たちは、まだ先生に何も返せてない――!

 

 その瞬間だった。

 

 会議室中央の空間が、裂ける。

 

「これって……」

 

 この場にいた生徒のうち、何人かはその現象に見覚えがあった。それはプレナパテスによる侵略時、彼のたった一人の生徒が行使していた権能。

 

「……ん。揃ってるね」

 

 空間の断裂が現れたのは、漆黒の衣装を身に纏う銀狼。こことは異なるキヴォトスからやってきた、砂狼シロコだった。

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