やはり奉仕部にシェイクスピア(偽)がいるのはまちがっている。   作:ひきがやもとまち

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第6幕

「ご機嫌よう、八幡殿! いやー、今日もいい天気ですなぁハッハッハ!」

 

 奉仕部の部室に入るなりシェイクスピア(偽)が、朗らかな笑顔と笑い声で比企谷八幡を迎えてくれた。

 いつも通りの胡散臭さ極まれりな笑顔と笑声ではあるのだが、この男の場合はこれが普通であり、むしろ彼がテンション下げて挨拶してくる方が異常事態である。何を企んでいる?と警戒した方がいい奴なので、いつも通り胡散臭いのは彼に限って良いことである。

 なんか色々と人としてダメな気がするが、実際に人としてダメなのでどうしようもない。諦めるのが大吉。

 

 

 一方で、いつも通りでない反応を示した者がいる。奉仕部部長の雪ノ下雪乃だ。

 彼女はいつも八幡が部室に入ってきたときには読んでいる本を見下ろしたまま顔を上げず、しばらく間を置いてから辛辣な一言ともに声をかけるのが常なのだが。今日に限っては定石を無視して、八幡が入室してきた瞬間から顔を上げて彼を見て、しばらくと言うより一拍の間だけ置いてから疑問の声を投げかける。

 

「・・・一緒に来なかったの?」

「・・・?? なにが?」

 

 唐突すぎる雪ノ下からの主語を省いた質問に対して八幡が反問したとき。

 

「あー! こんなとこにいたー!」

 

 今さっき八幡が通り抜けてきた部室の入り口から由比ヶ浜結衣が入室してきて非難がましい大声を上げる。

 どうやら来るのが遅い八幡を探すため、学校中を探し回っていたらしい。なんと言うか、飼い主を探してさまよい歩く犬みたいなところのある少女だった。

 どうせ放浪するのであるなら、リア王的な要素を求めたいのだが、まぁどう考えても無茶振り過ぎるのでボツネタにしておこう。王座を失って転がり落ちた先での放浪生活が待っていたからこそ悲劇たり得るのであり、最初からあんまし持ってるものの多くない脳天気な少女が絶望しても可愛そうなだけである。

 シェイクスピア(偽)は悲劇が好きだったけど、陵辱調教SM系のは好みではなかった。せめて源氏物語ぐらいに押さえて欲しいものである。穏便に・・・ね?

 

「わざわざ聞いて歩いたんだからね。そしたら、みんな『比企谷? 誰?』って言うし。超大変だったんだからね!」

「その追加情報いらねぇ・・・。まぁ、でもそのなんだ。悪かった」

「べ、別にいいんだけどさ・・・。その・・・、だからえっと・・・け、携帯教えて? ほら、わざわざ探して回るのもおかしいし、恥ずかしいし・・・。どんな関係か聞かれるとか、ありえ、ないし・・・」

 

 指先を胸の前で組んでモニョモニョさせながら、それでも精一杯の勇気を振り絞って気になっている男子生徒の携帯番号を入手する偉業をなし遂げた由比ヶ浜結衣を微笑ましいものを見守る父親の視線で穏やかに見つめるシェイクスピア(偽)。

 

 その心は――この微妙すぎる少年少女たちによる甘酸っぱい三角関係、どのように弄くれば感動的なバッドエンドの悲劇に仕上がるだろうか・・・と。

 

 完全なクズ思考だったが、元々の性根がひねくれておらず歪みきっているこの男の場合だけは、これは善意からくる想いである。やっぱコイツ頭おかしい。

 

 そんな中、それまでは余り多くを口にせず沈黙を保っていた雪ノ下雪乃が、あることに気づいて近くに立ってる安田を座りながら見上げる。

 

「そう言えば安田くん。あなたは携帯番号の交換し合いに参加しなくてもいいのかしら? 

 偏見かもしれないけど、私はあなたがこういう時には誰よりも先に自分の分を登録してくれるよう自己主張してくる鬱陶しい人だとばかり思っていたのだけれど?」

「え・・・?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解できなかったときのように呆けた表情を浮かべた後。

 「おおっ!?」と、驚いたように大声を上げて目を見開き、自らが達した根本的な疑問への命題を手にした敬虔なる信徒の如く、彼は感謝と感動の面持ちを浮かべながら雪ノ下雪乃に一礼する。

 

「『我らは夢と同じもので紡がれる。その儚き一生は眠りに始まり、眠りに終わる』――と言うわけで。

 ええ、もちろん忘れておりましたとも! 親に買ってもらった携帯電話のことなど一切合切綺麗サッパリ思い出すこともなきままに!

 確か最初はキーを叩いただけで一文字打てる機械があれば執筆も捗るだろうなーと思って買ってもらったところ『やはり文字は紙にペンで書くべきものである』という真理に気づき、以降一度も使わなくなって適当な場所に放りっぱなしにしたまま失念していたのですが・・・あの携帯、今はどこでどうしているのでしょうな? さっぱり予測も見当もつきません」

「・・・ここまで悪びれずに親不孝ぶりを自慢げに自白できる人も珍しいのは確かでしょうね・・・」

 

 思わず頭痛を覚えながら額に手をやり、嘆くしかない雪ノ下。安田のご家族はさぞ大変な想いをなさっているのだろうなと、心中察せずにはいられなかったのだが、八幡にしてみたら『いや、今更過ぎるだろその反応は』としか批評しようがない辺りに付き合いの長短が影響しているのかもしれない。単に相性の問題なのかもしれないけれども。

 

 

 そんな風にいつもと同じく、混沌とした奉仕部の部活動をメンバーが全員そろったところで始めようとしていた矢先のことである。

 

 なんの前触れも先触れの使者もなく、“彼”が奉仕部の部室にやってきた。

 

 

 トントン。

 ガララ・・・・・・。

 

「あ、ちょっとお願いがあってさ。奉仕部ってここでいいんだよね? 平塚先生に悩み相談するならここだって言われてきたんだけど・・・いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて―――」

「おお! これは葉山殿! 先日振りでございますな! そのスポーツバッグから察するに、テニス部には入部することなく、サッカー部に残る選択肢を選ばれたようですな!

 困っているテニス部のみんなではなく、古巣で気心の知れているサッカー部のみんなを選別するという苦渋の決断・・・断腸の思いだったことでありましょう! よろしければ決断の際に思われていた感想を一言だけでも吾輩にお聞かせ願いたい!」

「・・・・・・・・・」

 

 この前会ったばかりの、相性最悪トラウマスイッチ連打男と思わぬ場所で再会してしまったリア充代表、葉山隼人は頬肉をわずかに震わせて思わず沈黙せざるをえなくされてしまった。

 

 そんな彼を見ながら、比企谷八幡は心の中で葉山のためを思って十字を切ってやる。

 

(葉山・・・どうしてお前はここに来ちまったんだ・・・。わかるだろ、コイツがここにいる時点で相談事とやらが解決してもしなくても、お前の心にトラウマが増えるだけで終わるってことぐらいなら・・・。

 もしかしなくてもコイツ、頭良さそうで要領よく見せてるだけで実際にはメチャクチャ不器用で無骨で、ついでに言えば融通きかないバカだったりするんじゃねぇのか・・・?)

 

 八幡、知らないうちに偏見だけでニアミスのファインプレー。

 ひねくれボッチの勘は時としてよく当たるときも希にある。

 

 が、ボッチだから答え合わせをしてもらえることが少ないせいで、大半は当たっていたことに気づかないまま終わりを迎える。

 

 

 

『人生は歩く影法師、哀れな役者だ。

 出番のあいだは大見得切って騒ぎ立てるが、その後はぱったり沙汰止み、音もない』

 

                    シェイクスピア作【マクベス】から抜粋

 

 

つづく

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