やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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最新話が完成はしたんですけど……出していいのか微妙すぎる内容だったので躊躇ってたのですが、判断つかないため一先ず投稿してみることにしました。出たとこ勝負です。
原作尊重派およびアニメ版ファンの方ごめんなさい(謝罪)


27話

 俺の口から語られた問題“解消”策を聞いてから僅かに時間が流れ、肝試しが開始されて既に30分が経過していた。

 雰囲気を出すためだろうか、スタート地点には篝火がたかれている。生木に火が移ると「ぱちり」と音を立てて火の粉が飛ぶ。

 

 どうしたって後味が悪くなるし、上手くいっても良い事なんて一つもない計画と知りながら、それでも誰も止めることができず、止めようとする者も出てくることないまま、事態はゆっくりと俺の計画通りに進行していたのである。

 

 まぁ、もっとも――。

 

 

「・・・よぉ~~し・・・・・・じゃあ次に出発するのは、この班だーっ!」

 

『きゃあ~~~っ♪♪』

 

 

 小町なんかはノリノリに小学生たちを指名して「きゃー♪」とか盛り上げまくりながら、事態の進行役を担っちまいながらなのが実情だったけどな。

 コイツも一応、後味悪くなって良いこと一つもない俺の作戦計画を聞いてた内の一人だったはずなんだが・・・・・・どう解釈したって楽しみながら事態を効率よく加速させたがってるようにしか見えん妹の、ハイブリッドぼっちな割り切りの良さに感心しつつ。

 

 俺は、どよめきを上げながらグループ全員揃って出発していく小学生たちの横をすり抜けて、予定通り計画の最終段階がおこなわれるポイントまで先回りしておくことにした。

 葉山の提案通り、行く順番を決めずに、その場で指定する案はうまく機能して、数えてみれば7割近くのグループが出発した状態にまで減ってきていた。

 

 夜中に友達同士で集まって、ノリの良い女の子から指名されたグループが適当な順番で、夜の山道へと送り出す形式での肝試しは、ある意味で合コンと似たような感情を小学生たちに与えていたのかもしれない。

 だから細かいことは考えず、疑う気もなく、王様ゲームの勢いとノリで俺の計画に気づくことなく利用されることになったのだろう。

 

 さすがは葉山だと感心させられる。内輪受けとか内輪ノリとかのツボを心得ている点で、俺がヤツに勝てる日は一生涯訪れることはないだろう。

 やはり良い奴でもアイツとは友達になれないな、悪の青春を謳歌するリア充筆頭だから。

 

 

 

「す、スタートしたら森の奥にある祠から、御札を取ってきてください」

 

『キャ~~~~ッ♡♡』

 

 そんなことを考えながら進んでいくと、森への入り口辺りで出発した直後の後発グループにルール説明している戸塚を見かけた。

 懐中電灯を顔の下から照らして言った説明セリフだったが、最初の方と違ってトチらなくなって油断してた結果だったのか、一言目で噛んでしまったセリフを聞かされ、再び小学生たちから「きゃ~きゃ~♡」言われていた。

 ・・・・・・小町の時とは別の意味だったように聞こえたけどな。小学生女子の性癖はマニアック。

 

 

 

「がおー、食べちゃうぞ-!」

 

 そして木立に紛れながら歩いてった先にいたのは、最初の脅かし役の由比ヶ浜だ。

 あの格好でのお化け役で、しかも何この脅かしセリフ・・・・・・。

 

『あはははッ☆ アハハハ~♪♪』

 

 当然ながら小学生たちは笑いながら通り過ぎるだけで、「がおーがおー」と吠えてるつもりの由比ヶ浜は、お化けとしてはガン無視されるだけの存在に。

 

「なんか・・・・・・、あたしバカみたい・・・・・・」

 

 愉快そうに笑いながら小学生たちが歩き去った後、子供たちから笑い物にされた由比ヶ浜が「ガクッ」と肩を落として鼻をすすりながら呟いてるのが聞こえてきたけど・・・。

 

 いいじゃないか、由比ヶ浜。バカ扱いされただけで済むなら、まだマシなんだし。

 夜の森の中で、エロコス着た胸デカい女子高生がいきなり現れて、小学生たちに「食べちゃうゾ♪」とか言い出す光景と遭遇しちまったら、通報か売春かの二択しか解釈してもらえない可能性高いんだからさ。

 俺の父ちゃんだったら、美人局の可能性も考えるから三択目もあるだろうけれども。

 

 まぁ、あれだ。――やっぱ胸が原因だろうと思うぞ、胸が。笑って歩いてったの女子だったし。

 小学生とは言え、女は女。小町は同類サイズで、戸塚は男の娘だからで好感わいても、自分より優れたスタイルの年上女は見下したい。プライド守りたい。

 そういう女の矜持とかあるんだろうきっと。多分だけれども。

 

 

 

 そして、ゴール地点の祠で待ってる海老名さん。

 正確には『本来のゴール地点』だが、まぁ正規ルート的には間違ってねぇから、この表現で良いだろう。どうせ不正規ルートの方はゴール地点決めてねぇし。

 

「たかまがはらにーかしこみーかしこみー」

 

 と、青々とした枝を榊のつもりで振りながら、周囲を腐らせる呪文を祝詞みたいに唱えている。

 まぁゴールまで到着した直後で油断しきってた所に、いきなり巫女さんが出てきてコレなんだから怖いっちゃ結構怖いかもしれんのだが・・・・・・。

 

 ――ミニスカ巫女服だからなぁ・・・・・・しかもメガネっ娘。

 

 由比ヶ浜のときと同様の心配をせざるをえん・・・・・・出来れば、オタクが妄想膨らませ過ぎて変な犯罪犯した系の偏見に晒されて、無実の容疑者扱いされるようなことがないよう切に願う。

 もっとも、本当にやっちゃってた場合には、是非とも名前だけ知ってる他人として巻き込まれないことだけ願うに変更するんだけれども。

 この人の場合は、本当にあり得るのかないのかが、よく分からん・・・・・・変な恐怖に駆られた俺は、とりあえず挨拶だけしてその場を去って全力で逃げ出して。

 

 そして―――目的のポイントまで辿り着く。

 

 

 

 

「そろそろだな・・・」

 

 スマホを取り出して時間を確認。

 順番こそ、その場の指名制でバラバラだが、1つのグループに割り当てられている出発時間のタイムラグは決まっており、最終グループの出発時刻はおおよそ予測できるようになっているのが、このシステムの特徴だ。

 

「お? あれは・・・」

 

 葉山たちの仕込みなんかも込みで、時間調整できるよう考えられたスケジュールでも最終段階に入った頃合いであることを確認してスマホをポケットに戻した瞬間。

  

 頼りない月明かりと星影に照らされた先に――白い影が、あった。

 枝の間から差し込む月光に白亜の肌を照らされながら、吹く風に儚き姿を揺らめかせる――。

 

 声が出なかった。恐ろしいほどに冴え冴えとした美しさに魅入られてしまって、禁忌にも似た美に触れるどころか近付くことも口にすることすら憚られる。そんな気持ちにさせられてしまったのである。

 

 止まっていた時は、おそらく数秒にも満たない極小の短時間。

 彼女は人の気配を感じたのか、ゆっくりと振り返って木陰に跪いて隠れ潜んでいた俺と目が合う。そして――

 

「ひゃうっ!? ・・・・・・ひ、比企谷、くん?」

「おう。お疲れ」

 

 幽鬼さながらに、ただボウッと清けき月光と凜とした冷ややかな風を一身に浴びたように登場してきた雪ノ下雪乃が、幽鬼だったら絶対やりそうもない反応と悲鳴上げて飛びすさる姿を見物してから、俺は普通に声を掛けた。

 

 ぱちぱちと目を瞬いてから、安心したように「ほっ」と胸を撫で下ろすリアクションは無駄に可愛くて、不覚にも「ドキッ」としてしまわなくもなかったが――幽鬼っぽさとか冴え冴えとした禁忌の美って印象はもうねーなー。

 

 やはり雪ノ下雪乃の見た目だけ青春ラブコメのヒロイン級なのは男を間違わせやすい、と俺はつねづね思わんでもない。

 

「幽霊かと思ったわ、目が死んでいたから。

 似合っているわよ、そのゾンビ姿も。目の腐り方なんてハリウッド級ね」

「そーいうお前は、平塚先生からも同じような評価もらった事あるのを繰り返す、審査員としての評価が素人喉歌自慢コンテスト級なんだな」

「キッ!!」

「ささっ!!」

 

 と、即座にいつも通りのやり取り躱し合って、さっきまでの雰囲気雲散霧消。

 こういうときには便利で都合の良い、ボクたち私たちによる奉仕部の平常運行ライフっす。

 

「・・・・・・はぁ。それで? 計画の方は」

「開始の合図がきた。今、葉山たちの方へ向かい始めてる。俺はいったん来た道戻りながらルート調整しなきゃならんけど、お前はどうする?」

「当然行くわ。――最後まで見届ける義務ぐらいは、私にもあると思うから」

「――さいですか」

 

 雪ノ下に頷かれて、小町からのメールを受け取った俺は肩をすくめながら頷き返すと、来た道を戻りながら途中に立っていたカラーコーンの位置を調整しつつ。

 

 意図的に最終グループとして割り当てられた、留美たちのグループを正規のルートから外れるように誘導し、いったん隠れてやり過ごしてから、葉山たちを待たせている場所まで迷わず行くよう充分な距離を取りつつ、気配を殺して後からゆっくり付いて行く。

 

 最初はカラーコーンで塞がれた道を興味深そうに一瞥しただけで、大して疑うことも問題視した様子もなく歩を進めていく5人の――いや、『4人と1人の』女子小学生グループたち。

 

 だが、やがて途中で出てくるべき脅かし役の俺たちにも出会うことなく、自分たちが最後のグループということもあって他のグループにも擦れ違うことなく、ただただ沈黙と暗闇だけの状況に段々と恐怖心を抱いてきたのか大きな声で会話するようになり、終始おしゃべりに興じることで恐怖を追い払っているのが見え見えの醜態を見物しつつ。

 

 4人の内の誰かが、「あ」と声を上げるのが聞こえて―――目的の場所まで到着した事実を俺は知らされることになる。

 

 

 

「あ、お兄さんたちだ!」

「超普通の格好してるー!」

「だっさー! もっとやる気出してー!」

 

 グループの前方に人影を見つけ、そこに立っているのが三浦と戸部であることを確認した小学生女子たちが駆け寄りながら、一斉にくだけた感じなのか、罵倒なのか判然としない調子で楽しそうに語り出したのだ。

 

 今まで怖さを抑えてた所に見知った顔を見つけて、それが普段通りの姿をしていたことで一気に緊張感が解けたからというのは分かる。

 だが緊張が解けてた直後に、『相手を罵倒する』という行為によって安堵感を得ようとする彼女たちの姿に、留美を虐め続けてきた今までの結果が現れているようで、俺は少しだけ胸に靄がかかるのを自覚させられずにはいられなかった。

 

 

「この肝試し全然怖くないしー!」

「高校生なのに頭わるーい!」

 

 

 他人を罵っても、反撃されないという状況に慣れ過ぎている。 

 自分たちが心の平穏を保つため、相手を悪く言うのに慣れ過ぎている。

 自分たちは怖かったから、少しぐらい相手を悪く言っていいのだと、許されるのに慣れ過ぎている。

 

 それが今の、こういう言動に表れている。

 自分たち同士が先ほどまで怯えていたことを誤魔化すために、『怖くなかったアピール』をするため相手を罵倒し、周囲の仲間たちに示したがる見栄や虚栄心も含めて、コイツらは『誰かを攻撃して“自分を”守ること』に慣れ過ぎてしまっているのだ。

 

 それら全てが、彼女たち自身が元から持ち合わせていた悪性だった、とまでは俺も思わない。葉山ほどじゃないが、俺もアイツらはそこまで人でなしじゃないと信じたい。

 

 単に、一方的に虐めれるという状況に慣れ過ぎて、感覚がおかしくなっていることを自覚できなくなっただけなんだと、俺は心からアイツらの『こころ』を信じていたから――。

 

 だが、その幻想も今日この場で終わる。終わらせられる。

 

 

「あぁ? 何タメグチ聞いてんだよォ? あ?」

『・・・え・・・?』

 

 突然に近付いてくる小学生たちを、戸部が乱暴に振り払い、低く攻撃的な声で吠えるのを聞かされた瞬間。

 小学生いじめグループの面々が浮かべていたであろう表情は、俺の位置からでは見えなかったが経験則から言っておそらく『しまった・・・』と疑問付きで表示されたときと似たような物ではなかったろうか。

 

「ちょっと、あんたらチョーシのってんじゃないの? 別にあーしら、あんたらの友達じゃないんだけど?」

『え・・・・・・えっと・・・その・・・』

「つーかさー、なんかさっき超バカにしてた奴いるよねー? あれ言ったの誰?」

 

 問われたところで、誰も答えられない。答える度胸も勇気もない。

 抵抗できない相手にだけ横暴な女王様グループでいられた彼女たちは、自分たちの暴言に反撃してくる存在と出会ったことで、ようやく本来の自分たちを思い出したのだ。

 

 自分たちは暴君でも圧制者でも何でもない。

 ただの、相手の弱味につけ込んで一方的に叩かせてくれるから叩けてただけの、被害者に依存する『主観的な強者』に過ぎない。限定的な狭い世界だけの暴君。

 相手と同じ平凡な小学生。それだけでしかなかった現実の自分たちの姿を・・・・・・。

 

「誰が言ったのかって聞いてんの。誰か言ったじゃん。誰? 答えられないわけ? 早く言いなよ」

『・・・ご、ごめんなさい・・・・・・』

「何? 聞こえないんだけど?」

『だ、だからその・・・・・・ごめんなさ―――』

 

 ガンッ!!

 

「誰が言ったか聞いてんのッ!!」

『ひぃっ!?』 

 

 相手の煮え切らない様子に苛立ったように、三浦が舌打ちしながら問いを重ねて、誰かが弱々しい声で謝ってきたところで、足を木に叩きつけて大きな音を鳴らし、音によって小学生たちを更に怯えさせる。

 

「舐めてんのかァ? あぁ? オイ」

「戸部、やっちゃえやっちゃえ。ここで礼儀を教えとくのも、あーしらの仕事っていうの~?」

 

 そこに戸部も追撃を掛け、前後を挟まれて逃げることも許されず、小学生たちはジリジリと追い詰められていく。

 

 直接的な粗暴さを醸し出す戸部と、言葉の一つ一つに鋭利な棘を仕込んで追い込んでいく三浦。

 昨日までは一緒にはしゃいで、正直バカっぽい奴らだと見下していたであろう二人の変貌ぶり。

 見下していた相手たちが本性を現した、この落差はキツイだろう。

 

 

 しかし、どうでもいい事だとは思うが、戸部に三浦よ。

 

 お前ら・・・・・・不良役、ハマり過ぎだろう。

 

 いや、やらせてんのは俺だし、計画立てたのも俺なんだけど正直ここまでとは思ってなかったわ。

 普段は本職やってる人たちだから巧いって言われても違和感ないほどに。

 おかげで、「脅かすための演技でした~」ってことで終わらせるつもりだった俺の予定が、キチンと達成できるかちょっと心配になってきたぞオイ。

 

「葉山さ~ん、コイツらヤっちゃっていいッスか~? ボコっていいッスよねー?」

 

 パキッと。小枝を踏み折る音を響かせながら、ここで真打ち登場。

 昨日まで一番優しかった本当はいい人、葉山隼人の出現である。

 

 この人ならば助けてくれるんじゃないか?――そんな期待が小学生たちの表情と態度にうっすらと湧き上がってくるのを俺は見逃さなかったが・・・・・・その期待は直後に裏切られて、残酷な事実を目の当たりにすることになる。

 

「――そうだな。こうしよう、半分は見逃してやる。

 後の半分は、ここに残れ。誰が残るかぐらいは、自分たちで決めていい。

 良かったな。半分は助かるんだ。感謝してくれていいんだぜ?」

 

『そ、そんな・・・・・・』

 

 皮肉げに口の端を吊り上げて、雪ノ下の脚本を俺が編集し直した打ち合わせ通りのセリフを口にする、昨日まで一番優しかったお兄さん葉山隼人。

 

 希望を抱いて、助かると思った直後に裏切られるからこそ、人は絶望して恐怖する心は更に強くなる。

 そういう狙いをこめて、戸部と三浦による包囲網の三局目に、『黙って冷たい視線を投げかけ続ける得体の知れない怖さを出す葉山』を配置して不良トライアングルを形成させる。

 

 そういう計画ではあった。その予定ではあったんだけれども。

 ・・・・・・正直ここまで、戸部と三浦がハマり役過ぎるとは思ってなかったからなぁー・・・。補助として葉山を入れた三角形で逃がさないつもりだったんだが・・・・・・最後のは余計だったかもしれない。

 

 葉山のヤンキー役が、『黙って冷たい視線を投げかけ続ける怖さ』ってのも、単にコイツに不良役無理だろうからボロ出さないようセリフ少なくても出来る役柄やらせただけだったし。

 

『・・・・・・すいませんでした』

「謝って欲しいんじゃない。半分残れって言ったんだ。・・・・・・選べよ」

『そんな・・・私たち―――』

「ねぇ、聞こえなかったの? それとも聞こえてて無視してんの?」

「早くしろよ、誰が残るんだよ。お前か? おい!」

『ひぅっ!?』

 

 冷たい言葉が森の中に響くたび、小学生たちの肩が「びくっ、びくっ」と痙攣したように震えるのが見える。

 正直、あまりにも強すぎる恐怖は暴走を招くものではあるんだが・・・・・・今この段階で止めさせてしまっては元も子もない。

 もうしばらく様子見だ。どーせ、それほど長く待つ必要はないだろうし。

 

『鶴見、あんた残りなさいよ・・・』

『・・・・・・そう、そうだよ』

『・・・・・・・・・』

 

 そして俺が予測したとおり、予定通り、小声で囁きはじめた小学生の虐めグループは、生贄を求め始めて生贄を決める。

 生贄役を押しつけられた留美は無言のまま、是とも否とも言わない。

 

 まぁ、こうなるだろう普通に考えて。

 留美自身も半ば予想してたらしく、諦めたように顔を俯かせて黙って前に出て行くだけ。

 

 普段から使っていた生贄が、藁人形に代わったところで大した違いはない。

 どちらにしろ、犠牲を捧げさせる側に立ち続けられる者にとっては、生贄も藁人形も自分たちを守るためのイケニエという点で同じ物でしかないのだから。

 

 当然ながら、犠牲になることを要求してくる側が、犠牲にされる者の意思や都合など考慮してくれるはずもない。留美が黙ったまま反論も肯定もしないのは、「言うだけ無駄だ」と思い知らされている。それだけが理由の全てだろう。

 

 普段通りの展開だったなら、コレで終わりだ。

 みんなのための生贄である鶴見留美が犠牲になって、みんなを守らせ、みんなは守られ、今まで通り平和で幸せに暮らしました。――そうなれる所だったろう。

 

 だが、今回はそうじゃない。

 その理屈が通じてたのは、腐った子供たちの王国内だけのローカルルールの中だけだったからだ。

 今この場でルールを決める権限を持っているのは、留美じゃないし、アイツらでもない。

 

 

 留美の側に付くと決めて、お前たちの腐った世界を壊すと決めた―――新世界の神という黒幕な、この俺だ。

 

 

「ここからが、あなたの狙いなのね?」

「ああ。鶴見留美を取り巻く人間関係をぶっ壊す」

 

 とりあえず、ここまでは計画通りに進めたことで思わず息が漏れた俺の横で、同じように息を吐いていた雪ノ下が確認するように問いかけてきた質問に対して、俺は先頃と同じように明快な答えだけを返しておく。

 

 丁度そのタイミングで、遅れてやってきた由比ヶ浜の耳にも聞こえたのだろう。

 「ぽしょっ」とでも擬音が付きそうな声と口調で、彼女が小さく呟くのが俺にも聞こえた。

 

「・・・・・・壊していいのかなぁ」

「あん? いいに決まってんだろ、あんな薄気味悪い繋がり。むしろ壊さない方が尾を引いて後々面倒になるだけだけだ」

「そうかもだけど・・・・・・壊せるの?」

 

 まだ何か不満そうではあったが、一端それは引き下げた由比ヶ浜が、今度は不安げな声で実務面での問いを投げかけてきたのに対して、俺は逆に力強く首肯して肯定を返す。

 

「間違いなく確実にな。仮に葉山が言うように、あの子たちが本当は仲良かった場合でさえ、今の関係が壊れるって結果だけは変わらない。絶対にだ」

「・・・・・・どうして、そこまで断言できるの? あの子たちが悪いことしたって気づいて謝って、それで本当に友達同士になれる可能性だって・・・・・・」

 

 どうやら先程は、それを言いたかったらしい由比ヶ浜が言葉を続けようとするのを、俺は黙って首を振って断言する。「ありえない」と。

 

「だから、どうしてそこまで自信が・・・・・・」

「見てりゃ分かる」

 

 とだけ答えて、俺は葉山たちと小学生たちの会話を聞くのに戻るよう手振りで指示すると、由比ヶ浜はまだ不服そうだったが、一先ずは従ってくれて彼女たちの話を聞く姿勢に戻る。

 

 

「一人決まったか。さぁ、あと二人だ。早くしろ」

 

 留美だけが押し出されるように前に出されたが、葉山の口から求めさせた生贄の数は「半分」一人だけ出したところで意味はない。

 5人の内から2人。一人の生贄を選んでも、まだ一人選ばなければいけない。

 正確には半分だから端数が出ることになるが、その曖昧さも彼女たちを惑わせる材料となる。

 『必要な生贄は、あと二人だけ』なのだ。今の時点ではまだ。

 相手が余計なことを言い出す前に、二人だけ見捨てて残りは助かりたい。時間もまた彼女たちを焦らせて余裕を失わせる。

 

 誰が悪いのか? 罪咎を負うべきは誰なのか?

 魔女裁判が始まる―――ことすら出来ないところに、彼女たちの関係が壊れてもいい理由があったと断言できてしまえるのが微妙にキツイ。

 

「・・・・・・由香がさっき、あんなこと言わなければ」

「由香のせいじゃん・・・」

「・・・そうだよね・・・・・・」

 

 誰かが名を挙げれば、それに続く声が上がる。

 断頭台に送らせる者と、縄を切る者と、それを期待して待つ者の3役になりたがる者たち。

 とは言え、それに対して唯々諾々と「みんなを守るためなら」で、切り捨てられる弱者の側に立てる人間なら最初から、この場にいない。留美の代わりの身代わりに立候補すりゃいいだけのことだったから。

 

「違う! 仁美が最初に言い出した!」

「あたし、何も言ってない! 何も悪くない! 森ちゃんの態度が悪かったの! 森ちゃん、いつもそう。先生とかにもそうだし」

「はぁ!? 普段のことなんて関係ないでしょう! 最初が仁美で、そのあと由香だったじゃん! なんで私のせいになってるの!?」

「もうやめようよ! みんなで謝ろうよ・・・・・・」

 

 過去の失言が誰からのものであったかという議論から、普段の生活態度と先生への受け答えへと飛び火して、話を戻そうとしたら泣いて謝れば許してもらえる子供の常套手段に訴え出るという提案にまで話が飛ぶ。

 

 一見するだけなら、恐怖と絶望、そしておそらく憎悪がない交ぜになり鳴き始めた哀れな女の子に見えなくもなかったが・・・・・・

 

 留美を一番最初に生贄として差し出すのには、全員が賛成して送り出した後だからなぁ・・・・・・。

 

 生贄の一人だけじゃなく、自分たちの中からも確実に犠牲を払わなきゃいけないとなった後になってから、『みんなで謝ろうよ』とか言われても、留美は「みんな」にカウントしてねぇって自白しちまってるぞオイ。

 

 

「要するにアイツらは、『留美を虐めるためのグループ』なんだよ。

 それとも、『留美を虐める友達同士』って言った方がいいのか?

 最初から留美をグループの一員として考えてない関係だから、留美と仲良くなれた場合でも『今の関係』は維持できない。維持したままだと仲良くなれることはない。

 だから最初に言ったじゃねぇか。

 “鶴見留美を”、“取り巻く人間関係をぶっ壊す”って」

「――あっ!?」

 

 由比ヶ浜もようやく、俺が言い回しの意味を理解できたようで、小声になるよう自制しながらも驚きの声を上げる。

 そして、それがコイツらの遣り取りが魔女裁判にすらなれない理由でもあった。

 

 結局こいつらは、『自分が助かるなら何でもいい』で言い合ってるだけなんだよなぁ。

 誰が悪いとか、罪咎を負うのが誰かなんて別にどうでもよくて、生贄役を押しつけられて周りに賛成してもらえそうな口実だったら何でもよく、無ければ捏造するか、別のモンを理屈でこじつける。――今さっきみたいな感じで、あんな風に。

 

「そうね。誰かを陥れて喜んだり安心したりしている人間の傍らには、そういう人間しか集まらないもの。彼女たちだけが、そうでないとする理由はどこにもない」

「まあな。もっとも、誰かを陥れて喜ぶ奴の傍らに集まってきたのか、誰かを陥れて喜ぶ奴らが一カ所に集まっただけかは、よく分からんが」

 

 叩きたいけど、殴り返されたくない奴がいて。

 叩いても、殴り返してこない奴がいた。・・・・・・それだけで成立しちまえるのが虐めってもんだからな。

 せいぜいが、殴られないため自分より弱い奴虐めに協力して自分を守ろうとする子分が1人いるかどうかの違いがある低度なもの。

 

 叩きたいだけの側にとって、叩く理由が正当かどうかなんてどうでもいいし、口実として使ってるだけでしかない。そんな人間がクラスに1人だけのリーダー役だけしかいないと決まっているわけでも無し。

 似たもの同士だったら、憎み合って共食いするより、手を取り合って弱い者イジメと隠蔽に協力し合う方が都合がいい。・・・・・・子供ってのは、その程度は考えれる知能は持ってる狡猾な生き物なんだよ。俺のガキの頃みたいにさ。

 

 

「あーし、泣けばいいと思ってる女が一番嫌いなんだけどぉ? 隼人~、どーする? まだあんなこと言ってるみたいだけど~」

「・・・・・・あと二人。早く選べ」

 

 そして涙を見ても態度を変えないっつーより、むしろ本気でそういう奴嫌ってそうな三浦が不機嫌さを露わにして、小道具に弄っていた携帯を勢いよく閉じながら「謝って済ます逃げ道」を断ち。

 感情を押し殺した葉山が、機械のように追い打ちを掛ける。

 

「葉山さ~ん、もう全員ボコッた方が早いんじゃないっスかねぇ~?」

「そうだな。・・・だが、あと三十秒だけ待ってやれ。最後の情けだ」

 

 如何にもな威嚇行為として、戸部がシャドーボクシングを見せ始め、このままでは埒が明かないと思ったらしい葉山がタイムリミットを設けることで、時間という縛りも彼女たちに強くのしかかるように仕向けさせる。

 

「――謝っても許してもらえそうにないよ・・・・・・・・・先生、呼――」

「あ、チクったらどーなるか分かってんべ? 顔覚えたかんな?」

 

 小声でバレないように行われていた提案も、戸部の一言で簡単に封殺されてしまい万事休す。

 

「残り二十秒」

 

 打てる方策がなくなって、口数が減った静かになる。

 静かになった少女たちの頭上に、葉山の声だけが響いて落ちる。

 

「・・・・・・やっぱ由香だよ」

「由香残んなよ」

「・・・・・・私もそれがいいと思う」

 

 やがてグループの誰かがポツリと呟き、続く声が乗っかるようにして少しだけ大きな声で賛成し、最後の声は更に大きく冷静なものになる。

 

 グループの中で真っ青な顔になった一人が、未だ口を開いていない最後の一人の顔色をそっと伺う。

 多分というか確実に、あれが由香って子なんだろう。

 

 普通に考えたら、既に多数決の結果は出ていて、自分が突き出される生贄役なのは確定した後なんだけど、それが分からないくらい焦ってんのか。

 それとも友達だと信じていた相手が、一人ぐらい自分を弁護してくれるはず――そんな淡い期待でも抱いた故での行動だったのか。

 

 はてさて、視線を向けられた少女の方の反応はと言えば。

 

「・・・・・・ごめん。でも、しょうがないから」

 

 小さな声でトドメを刺し、民主的に決まっていた結果の死刑執行役として一番ヒドい役目を実行するのみ。

 言われた由香も、その言葉を聞いて唇を戦慄かせている。

 何が起きているのか全く把握できていないという風に。

 あるいは、何が起きているのか全く“理解したくない”とでもいう風に。

 

「しょうがない、か・・・・・・」

 

 その姿を見て、俺の横にいた由比ヶ浜が押し殺したように溜息を吐く音が鼓膜に響く。

 そう・・・しょうがないことだった。誰だって空気には逆らえない。空気や雰囲気には逆らえない。

 そのせいで誰かが辛い思いをしていると理解していても、どうにもならない事だってある。

 “みんな”が言うから、“みんな”がそうするから、そうしないと“みんな”の中に入れてもらえなくなるから。 

 

 でも、“みんな”なんて奴は、どこにも存在していない。

 個人のちっぽけな悪意を隠すために集団の魔力で作り出した幻想でしかない。

 

 “みんな”という言い方をすれば多数派のように聞こえるから。“みんなそう言っている”と言われた方は少数派だと誤認させる事が出来るから。

 自分は常に多数派に身を置いているように認識させ、自分と異なる者は少数派として弾き出し、仲間はずれを食い殺させるために生み出された魔物が、いつしか創造主の支配を逃れて、“みんな”を支配する“みんなの呪い”に変化してしまったもの。

 

 具体的には今みたいな状況だと、他の意見に合わせて“みんな”は、たったの3人しかいない。

 見捨てた子自身と、見捨てられた由香と、あと先に見捨てられてた留美が残ってさえいれば3対3で“みんな”と“みんな”の利害が一致しない互角の対立抗争を生じさせる事が出来てたろうに。

 

 そういう単純な計算もせぬままに、目の前のことだけを基準に犠牲を求めて、そんな視野狭窄を優しさとか正義とかの綺麗な言葉で塗りつぶし悪辣なものへと仕立て直し、時を経てなお棘を残させる。

 欺瞞と言うより偽善でしかない、空虚で虚しい概念でしかない存在。それが“みんな”

 

 だが奴らは、それを認めないだろう。全ては彼女たちのご都合主義でしかない。

 所詮は“みんな”という悪の青春を謳歌するリア充の概念を、逃げ道として使っている時点で彼女たちもまた淘汰されるべき、青春を謳歌する悪のリア充たちでしかないのだから。

 リア充だから、砕け散らなければならない。

 鶴見留美を取り巻く、非リア充な留美以外のリア充な人間関係を爆発させてぶっ壊す。

 コレは、その為の新世界創造計画《リア充ゼロ・レクイエム》なのである―――

 

 とは言え。

 

「・・・少し、マズいかもしれないな・・・・・・」

「え・・・?」

「どうしたの比企谷君? 計画に狂いがあるようには見えないけれど・・・」

 

 思わず呟いちまった一言が聞こえたのか、由比ヶ浜と雪ノ下から不審げな声と顔で聞いてこられたが、俺として答えられない。なんと言うか、勘みたいなものでしかないからだ。

 

 ただ、強いて言うなら――不良の怖いお兄さんたちに絡まれやすくて、リアル怖い思いする機会が多かった、俺の経験則からくる勘がそう告げているとでも言うべきだろう。

 追い詰められた人間ってのは、何をするか分からない。自分が助かるためなら、どんな事だってやる危険性を持っている。怖いお兄さんに追われた時の俺みたいに。

 

 見ると、葉山の顔が一瞬だけ苦々しい表情を浮かべ、すぐに冷たい仮面を被り直す作業が目に映った。

 基本的にいい奴の葉山にとって、今回の計画は決して気持ちのいい物ではないのだろう。しかも適材適所とはいえ、イヤな役を押しつける結果になってもいる。

 

 

 ・・・・・・葉山は葉山のやり方で、真っ正面からぶつかって、己の優しさに拘りながら、それでいて実力をフルに発揮できない彼らしくないやり方でも貫こうとしている。

 

 なら俺は、俺のやり方を貫くしかない。

 正々堂々、真正面から卑屈に最低に陰湿に――。

 

 

「10、9・・・」

 

 葉山のカウントダウンが続く中、小学生たちの怒号と啜り泣きの声が木霊している。

 黒い森は、彼女たちの憎悪を吸い取って一層その闇を濃くしていくように見えるほど黒々と。

 

「8、7・・・・・・」

 

 そんな中で留美は、ジッと静かに目を閉じていた。

 首から下げたデジカメを「ギュッ」とお守りのように握りしめながら。

 その胸中は、それこそ祈りに近いのかもしれない。――少なくとも俯く姿は、そう見えていた。

 

 その時だった。

 

「5、4、3・・・・・・・・・」

「あの・・・」

 

 葉山の声を遮るように留美が手を挙げると、葉山のカウントダウンが止まる。

 「なんだ?」と問いかけようとして、葉山たちの視線が彼女に集まる。――その時だった。

 

 

 カシャッ! カシャッ!!

 

 

『『『うわッ!?』』』

 

 

 機械音が連続で響き渡ると、強烈な閃光があたりを包む!

 闇夜にあふれ出た光の奔流に、葉山たちの視野が白く塗りつぶされた悲鳴が轟くッ!

 

「走れる? こっち。急いでッ」

 

 明滅する視界の中から留美の声が聞こえると、数人の足音が葉山たちの脇を通り過ぎようと後に続く。

 何が起きたのか把握するのに時間がかかったのだろう。葉山たちの動きが少しの間だけ停止させられる。

 

 留美が首から下げていたデジカメを使ってやったのだ。

 巧い手だった。

 暗闇に慣れていたところに突然フラッシュを浴びせられ、不意打ちにスタングレネードを食らわされたのと同じような被害が生じさせられてしまっている。

 

 だが―――甘いッ!!

 

 

 

「ばぁ~~~ッ! なんちゃってドッキリ不良お化けカメラでした~~~~ッ♪♪♪」

 

 

『『『ギャ~~~ッ!? ぞ、ぞぞゾンビッ!!

   本物のゾンビが出たぁぁぁぁぁぁッ!?

   目が怖いィィィィィィ~~~~~ッ!!!!』』』

 

 

 藪の中から出てきてコンニチワ!

 陽気な態度で出て行って、即席の手書き看板掲げて指さしながら、演技のラストを演技として飾るための用意していたセリフをなぞって、作り笑顔と共に宣言!

 

 どう考えても、俺が非難される未来しか見えない責任回避の辻褄合わせ役ぐらいは、どうしたって後味が悪くなるし良い事なんて一つもない計画の立案者である俺がやろうと、最後のトドメ役だけ果たすために俺がここに来ていた目的を果たす! どーせ嫌われる立場だったしね。

 

 フフフ、留美はたしかに良くやった。だが俺と留美では、経験の差がありすぎる。

 何故なら、不良の怖いお兄さんたちに絡まれて負けること、負けて逃げ出すことに掛けては俺が最強。訓練されたエリートひねくれボッチは、何度も同じ失敗を繰り返さない。

 

 幾ら怖いからって、初めてきた山にある森の中で、逃げ出す先はどこでもいいなんて手段は、そう簡単には選べない。

 葉山、三浦、戸部のヤンキートライアングルから抜け出す為だけならどこでもいいが、その後には自分たちが最初に来たのと同じ道に戻るルートに合流するしかないのは分かり切っている。

 

 なら、それを阻止したければ少し後退して、出入り口で待ち構えればいい。

 こうして俺の立案した、『鶴見留美を取り巻く人間関係をぶっ壊す計画』は完成する。

 

 ・・・・・・つーかコイツら、俺の見た目のこと超バカにしやがったよな? あれ言ったの誰だよ、ちゃんと看板まで持ってきてやってんだろうが。

 マジでそいつだけ、演技じゃなくボコりたくなったぞこの野郎。

 

「ハ~イ、楽しんでくれたかなぁ? ヤンキーお化け肝試しはッ」

『や、ヤンキー・・・? え、お化け・・・? 肝試しって・・・・・・』

「そうそう♪ 本当は一番怖い人間のヤンキーお兄さん演技、超似合ってたでしょう?

 ありきたりなお化けより、生身の人間の不良が一番怖いんですよね~。

 あっ、ちゃんと後で林間学校の思い出として、みんなで見れるようカメラで撮ってるので大丈夫だよ~♪」

『か、カメラって・・・・・・撮ってるの!? 今の私たち、撮られてたの!?』

 

 怒りとか憎しみとか、恐怖から解放された安心感とかで余計なこと言い出してツッコまれないため、早口で結論まで口にして、口止め工作の最終段階を完成させる俺。

 

「は~い♪ 始まりから終わりまでシッカリと~♪ な? 由比ヶ浜ッ」

「ふぇッ!? え、えェェェッ!?」

 

 いきなり名を呼べば慌てふためいて、隠れていた林の中で勝手に動き出してくれそうな奴の名を呼んで、勝手に隠れていた林をゴソゴソ動かしてくれたのを目にした瞬間。

 

 

『い、いやぁぁぁぁぁッ!? 見ないで撮らないで! 私たちは何をやってないし言ってなーいッ!!』

 

「え? えと、ちょっと、あの――」

 

 如何にもな、ヤバいところを撮影されてたことに気づかされたイジメ女子グループらしい悲鳴を叫びながら、留美たちのグループの留美以外のメンバーは走って闇の中へと逃げ去っていき、一人だけ冷静さを保ってたらしい留美だけが俺たちと逃げ去った奴らの双方をキョロキョロ何度か首振って見つめてから、

 

「えと・・・す、すいません・・・」

 

 ペコリと頭を下げてお辞儀をしてから、一応は仲間みたいな奴らの後を追って去って行く。

 

「ふぅ・・・これで奴らも確実に余計なことは言わないだろう。他の奴も巻き込んだ計画で、事後処理まで押しつけたら後味悪いし、いいこと無い上に悪いことが重なるからな。

 それを防げただけでも、大分マシな結果に終われたぜ」

「うわ・・・・・・」

「ヒキタニくん・・・きみ、本当に性格悪いな・・・いや、悪すぎると言うべきなのか・・・」

 

 爽やかなフリして誤魔化すため、敢えて露悪的なセリフで締めてやっただけなのだが、由比ヶ浜には更に引かれ、葉山からは始まったときより酷くなった評価に改正されてしまった。

 つくづく報われないが、まぁ今回は本気でいいこと一つもしてねぇから仕方が無いと割り切ろう。いやマジで本当に。

 

「でも、さっきのは・・・・・・」

 

 が、一人だけ俺の態度が気にならないと言うより、俺より気になることが他にあったらしい奴の声に、「はぁ・・・」と脱力したように溜息を吐いていた由比ヶ浜たちも顔を上げ――ルミルミたちと友達みたいなグループが逃げ去っていった方向を眺めやり。

 

「あの子が、みんなを助けようとした、って事なのかしら・・・・・・?」

 

 雪ノ下が、信じられないと小さく付け足しながら感想を呟き、俺は肩をすくめ、由比ヶ浜だけは嬉しそうに声を僅かに弾ませる。

 

「本当は仲良かった、ってことなのかな?」

「誰かを貶めないと仲良くしてやれないようなのが、『本当は仲良い』わけねぇだろ」

「・・・あ、そっか・・・・・・そうだよね・・・」

 

 由比ヶ浜の楽観論を一蹴し、少しだけ上がったテンションを再び少しだけ残念そうに戻した声を背中に受け、「けど――」と俺は一応フォローも入れておいてやる。

 答えを出すのは、早すぎる事ぐらい流石に俺でも分かっている。

 

「そうやって偽物だって分かってて、それでも手を差し伸べたいって思ったなら、そう思った“こころ”だけは本物なんだろう、きっと。まぁ知らねぇけど」

「何それ、適当すぎる・・・・・・」

 

 もっとも由比ヶ浜からは、げんなりしながら返されちまったが、コレばかりは仕方が無い。本当に分からないのだから仕方が無い。

 

 俺だって本当にまだ知らないことだし、ルミルミ本人だって知ってはいないだろう。

 なにしろ、『壊したばかり』なんだから。

 偽物の中で思った感情が、偽物の中でしか感じられないモノでしかなければ偽物だろうし、そうなるかどうかが今の時点で分かれば苦労はしない。

 

 まぁとりあえず、今の俺が言える程度のことは一つだけしかない。

 

 

 

「――ってゆーか、留美一人が助けようとしただけだったからな。他の連中は普通に見捨て合ってたし。

 アレで“本当は仲良い”かなんて分からんだろ? 普通に考えて。

 一人だけやった善行を、全員の手柄みたいに言う小学校教師みたいな理屈はどうかと、俺は思う」

「うぐ・・・し、しょうがないじゃん! 小学校の先生から、そう教わってきたんだからっ」

 

 

 

 鋳型に入れたような悪人はいないように、鋳型に入れたような善人もいない。

 いざという間際、どっちに変わるかなんざ人それぞれで分かりようがない。

 

 ピンチの時に、虐めグループが助け合えりゃ『本当は仲良かった』になるだろうし、一人だけ動いて周りが感謝しなけりゃ『片思い』終わってから仲良くなれた場合は『両思い』

 

 そういうもんが人間関係なのに、一部だけを根拠に全体の問題へと拡大解釈して適用させる学校教育方針はホントどうかと常日頃から俺は思う。

 それが俺、群れるのが嫌いで孤高を愛する、エリートひねくれボッチの比企谷八幡でっす。

 

 

 

つづく




*今話の終わり方は今作ストーリー基準で書いてます。
このため後のルミルミ再登場時の展開でどうするかまでは考えていません。

そこまで続けられる物語か分かりませんので……エタルならまだしも、不人気すぎて打ち切りとか、非難多すぎて削除とか色々ありえそうな危険性あるため、先過ぎることまで考えて書けない…。
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