やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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最近、書きたいときに体力がなく中々進まない日が続いております。
結果として、書けるときに一気に書くようにしてるのですけど、おかげで偏りが激しい今日この頃。
そのせいで色々とご迷惑をおかけして申し訳ございません(謝罪)


28話

 

 あの最低なやり方の計画が無事に大過なく終わった後、俺たちはキャンプファイヤー用に木材を組んでジェンガを思い出してた広場に戻ってきて、小町と戸塚と海老名さんのコスプレお化け三人娘(?)たちも着替えに戻ると、俺は一人でボーッと炎を見ていた。

 

 ――巨大なキャンプファイヤーの炎をぐるりと囲み、小学生たちが歌を歌っている。

 いつまでも友達でいようとか、そんな歌詞の歌だ。歌が終われば、いよいよフォークダンスに移行する。

 

 あれほど嫌っていたイベントも輪の外から他人事として見物していると、何か素敵なイベントのようにも、炎を囲んで歌って踊る原始人のようにも見えてくるから不思議なものだ。

 

 ふと、そんな原始人ダンスの向こう側で座り込み、互いに視線を合わせず無視し合っていながら離れようとは一人もしない、留美を虐めてたグループたちの一人がルミルミの方に「ちらり」と視線を向ける姿が視界に映った。

 

 ルミルミ自身は俯いたまま、気付いていない。

 存外、今夜辺りから少しずつ会話しにくる奴も出てくるかもしれない。

 『今日のことは秘密にしてくれるよう頼んできて・・・』とか、そんな理由が動機かもしれんけれども。

 

「危ない橋を渡ったな。一歩間違えれば問題になっていたかもしれない」

 

 そうこうしていると、平塚先生が話しかけてくるのが聞こえてきた。

 先程まで小学校の教師たちに混じって話をしていたのが終わって、それ以外には特にすることもなかったらしく、いつも通り独りぼっちな俺を見つけて話しかけてきたっぽい。

 肝試し中の作戦も、葉山なり三浦なり、あるいは我らが奉仕部部長の優等生様から報告されて知ってるっぽい。

 

「はぁ・・・まぁ、すいません」

「責めてはいない。むしろ時間もない中で、よくやったと思っているよ」

「方法は最低でしたけどね。

 なにしろ、小学生を集団で泣かせて、友情みたいなもんに罅を入れて、密告されないよう脅迫して口止めしただけですし」

「解釈と表現が悪意的すぎる! そんなことをやったヤツを褒めてしまった直後の、私の身にもなれ!」

「でもまぁ、事実ではありますから」

 

 俺としては肩をすくめながら、そう応えるしかない。

 他人から指摘されたときには反論しようがなく、端的に言った場合はなんら間違ってないから反応にも困る。そんな事やったばかりの立ち位置。

 

 圧倒的に不利な立場にあるのが自分たちである事ぐらいは自覚していた。だから先んじて自分から言っておいて、相手からの批判指摘を封じ込めてから会話を始めるのが、リスクリターンの計算と保身には定評があるエリート捻くれボッチのコミュニケーション手段ってもの。

 

「まったく・・・・・・だが、最低にいるからこそ、ドン底に落ちた人間に寄り添えるのかもしれないな。そういう資質は希少だ」

「イヤな褒められ方ですね。リア充力たったの5しかない下級リア充戦士のイジメ小学生連中よりも、選ばれしエリートぼっち戦士である俺の方が下のように聞こえますから」

「・・・・・・お前は本当に何様のつもりで語ってる気でいるんだ・・・? プライド高過ぎて一度の敗北が尾を引きずりまくるエリート王子にでもなったつもりか・・・?」

 

 今朝方だかに戸塚からも言われたのと同じような評価を口にして、平塚先生は背中を向けて去って行く。

 その背中に俺は・・・・・・声をかける。

 

「・・・・・・先生。一つだけ質問していいですか?」

「ん? なんだ。君が質問とは珍しい、私が答えられる事なら教えてやろう」

 

 今さら意味ない事は分かっていたけど、それでも一応聞いておきたかった事を訪ねるため、振り返った先生に俺は目と目を見つめ合わせて、初歩的な質問を返すだけ――

 

 

「いや、昼間聞いたのを蒸し返すようで悪いんですけど・・・・・・俺たち他校の高校生が、ボランティアの手伝いしに来ただけの小学校内の学級問題を、部活動の一環として扱って関わっちまっていいってのは、相手方の先生たちに許可取った上でGOサイン出してたんですよね?

 もし、それ無しで勝手にやっちまってた場合だと、作戦内容以前の問題で大問題になってもおかしくなかったことになっちま―――」

 

「ゴホン!ゴホン!!! ゴホホホホ―――――ッン!!!

 すまんが比企谷! 急用を思い出したので私はこれでゴホンゴホンゴホホンホン!!!」

 

 

 と、大急ぎで急用を思い出して帰る足を速めちまった平塚先生。

 あの人はホントもう・・・・・・まぁ、もう慣れたからいいけどさ・・・。

 

 そんな足早にっつーか、全力逃走で去って行った平塚先生を見送ってから視線を戻す。

 すると、その瞬間。――留美が目の前を通っていく姿が視界に映る。

 

「・・・・・・」

 

 そして、一瞬だけ俺の顔を一瞥しただけで、無言のまま通り過ぎていく。

 俺もまた彼女に声をかける事なく、別れの挨拶もすることはなく、そのまま――彼女との出会いに終わりを迎えさせる。

 あるいは、いつかどこかで再会する事もあるかもしれないし無いかもしれないが・・・・・・とりあえず今回の彼女との出会いはここで終わり。そうするつもりで互いに互いを無視し合って通り過ぎるのみ。

 

 まぁ・・・・・・下手に挨拶しちまったら、共犯だって思われかねないからな。それだと黙ってやった意味がねぇ。

 俺は俺の立てた計画を完全なる芸術犯罪として完成させるために、愚かなるマリオネット役を演じるだけさ金田一くん。フフフ・・・・・・。

 

「報われないわね」

「別にいいことは何もしてないからなぁ。ほんと事実だけ言うと、小学生を脅して、人間関係台無しにして、それも人を使ってやらせただけだったし。手段としては最低だろうよ」

 

 と、「地獄の傀儡師」っぽく何となく頭よさげな犯罪者気分に浸ってたら、微妙に状況読めてない言葉で話しかけてきたのが、このお方。

 

「――まっ、俺は依頼達成のための計画立てただけで、これを部活動の範疇だと断定したのは部長の判断で、本人が助けを求めてるに決まってると解釈したのは部長の女友達だったから、俺が感謝される必要性は全くないんだけどな」

「キッ!!」

「ササッ!!」

 

 いつの間にか着替えを終えて近くまで来ていたらしい、我らが奉仕部部長の雪ノ下雪乃クールに見えて熱血バトル主人公系部長から言われた言葉に即座に返して、即座に睨まれ、速攻で視線だけでも必死に逃がす!

 ふっ・・・相変わらず肩の辺りが冷えるままだぜ・・・。雪ノ下さんマジ、リアル雪女さん。

 

 

 ・・・・・・とはいえ、言ってることは間違ってなかったのは一応ながら事実な訳で。

 俺たちが請け負ったことになってる、『鶴見留美はいかにして周囲と協力を図れるようにすればよいか』ってのさえ、由比ヶ浜が言い出した提案にボランティアできてた高校生連中だけが乗っかっただけで、本人には最後まで一言も意思確認をおこなっていない。

 

 あくまで俺たち部外者が勝手に「これはイジメだ」と判断して「解決すべきだ」と勝手に決定して「この作戦しかない」と、コッチの都合だけで勝手に立案して決めた作戦を勝手に実行し、本人は最初から最後まで蚊帳の外。

 

 本気でルミルミには最後の最後まで、なんの説明もおこなわないまま、なんの許可も得ることなく勝手に行った、独断専行の見本例みたいな計画だったからなぁー今回やった内容って。

 

 上手くいったから良かったものの、もし途中でバレてたら批判と糾弾が集中するのはルミルミだけで、俺たちは自業自得で終わるだけ。

 一方的にルミルミだけが、負担を背負わされて終わりかねない事態になった可能性もあったのだ。

 これで感謝まで求めるほど、俺は厚かましくなれない。・・・むしろ謝らせて下さい、時間なかったんですマジすんません、いや本当にマジで・・・。

 

「ふぅ・・・・・・でも、そうね。そうかもしれない。

 だけど、徒党を組んでいた相手がいなくなるだけで随分と楽になるものよ。それに、あの子はちゃんと自分の意思で前に進む道を選ぶことが出来ていた・・・。

 たとえ手段は最低でも、禁じ手でも下策でも、お膳立てをしたのは比企谷くんよ。

 だから――」

 

 そう言って、一瞬だけ普段と違う顔を浮かべたように見えたのを長い黒髪に遮られ、普段通りの無表情を浮かべた状態で俺の方へと振り返り。

 

「誰からも褒められなくても、一つくらいいいことがあっても許されると思うわ」

 

 真っ直ぐに、包み隠さず、ありのままの事実を雪ノ下は告げてくる――。

 

「・・・・・・」

 

 その言葉に俺はすぐには答えなかった。答えられなかったからだ。

 出てこようとする言葉は口の中で消え去り、どのようにして自分の思いを言葉にすればいいのか適当な表現が思いつかない。

 

 こういう時、一体どう言うのが正しい返事になるのだろう――?

 リア充たちは、葉山たちは知っているのだろうか・・・・・・?

 

 

 『誰からも褒められなくても』と言われる直前に・・・・・・『時間もない中でよくやったと思っているよ』って平塚先生から褒められちまってた後だったんだけど・・・・・・。

 

 

 これをどう説明すれば雰囲気壊すことなく、相手の気分も害さずに伝えられるか、リア充たちなら知っているだろうか? 知ってたら教えて下さいマジ頼みますヘルプミープリーズ。

 

「あ! いたいた! ゆきのーん!ヒッキーもお待たせー! はい、花火ッ♪」

 

 そして今回もまた、空気読みすぎるはずの由比ヶ浜による、空気読めないブチ壊し能力によって救われる俺。

 時々コイツが女神に見えてしまうのは、俺の置かれた状況が間違っているからだと信じたい――。

 

 そんな事を考えながら、由比ヶ浜が両手に花火を持って楽しそうに笑いながら踊り狂ってる、ファイヤーダンスなのかカルト宗教儀式なのか判然としがたい狂態を晒しているのを見物していると、

 

「隣、いいかな?」

「・・・ん?」

 

 もっとも意外な人物が、缶ジュース片手に笑顔を浮かべて俺に話しかけてきている姿を見上げることになる。

 

 俺が今回の作戦でイヤな役を押しつけちまった相手――葉山隼人が・・・。

 

 

 

「悪かったな、イヤな役を押しつけて」

「別にかまわないよ。気分自体は、そんなに悪くないんだ」

 

 断れる立場でもなかったから、俺は隣に座った葉山と二人並んで雪ノ下や由比ヶ浜たちが花火遊びに戯れてる姿を離れたところで、輪の外側からボッチポジションで見物しながら先ほどの一件について一応は謝罪しとこうと思って声をかけた。

 

 基本いい奴の葉山にとって、あんなことやらされて夢見がいいはずもないだろうからな。陰から見ているだけでトドメ役だけやった俺でさえ、あまり良い気分ではなかったほどなんだから。

 いや本当に嫌な気分になりながら見物してたんだよ? 計画のため良い気分しないのを我慢して見てただけなんだよ? ホントだよ?

 捻くれボッチの八幡ウソ吐かない。だからアヤマ~ル。

 

「ただ・・・・・・少し、昔のことを思い出した。

 昔、似たような光景を前にして、なにもしなかった自分のことを・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 だが葉山の方は、俺と違ってファイヤーダンス以外の部分で気になる過去でも重なってたのか、嘲るでもなく哀れむでもなく、どこか懐かしむような口調で――だが表情を消した顔で語り始める。

 

 

「雪ノ下さんも、お姉さんみたいになれれば良かったんだろうけど・・・」

 

 そして続く言葉で、「昔の似たような光景」とやらのなかで「留美と似たような役所」を誰がやらされてたのか自白したも同然の独白を吐き出す。

 そう言えば前に一度だけ会ったときには、ハルモクザ・・・? いや、確かそうじゃない。雪ノ下の姉の陽乃さんから、近所のオバサンっぽい絡まれ方された時に、家の付き合いとかなんとかでコイツも雪ノ下姉妹と繋がりあるとかの話を・・・・・・聞いてたような聞かされてなかったような・・・そんな記憶がある気がする。

 あんま印象残ってねぇから覚えてねぇんだよな、胸以外。「当ててるのよ」は、リアル童貞男子高校生にとっては言葉よりも強烈でした。

 

「いや・・・・・・、ああはならなくていいだろ。愛想のいい雪ノ下なんて想像するだけで怖いし。むしろ、ちょっとキモイぐらいですらある」

「ははっ、酷いな。でもまぁ、確かに」

「だろ? 大体あのサイズで押しつけてきても、相手から可哀想な目で見られるだけでアイツのプライド崩壊しか役立たねぇだろ。普通に考えて」

「・・・え? あの、サイズ? へ・・・?」

「あれ・・・・・・?」

 

 暗くて相手の顔がよく見えなかったが、今さっきまで笑顔だったっぽい葉山の表情が急に変わったっぽいのは声の調子から想像がついて、俺も少しだけ相手の反応に戸惑った。

 おかしい・・・なにか対応を間違ったんだろうか?

 

 てっきり雪ノ下も、あのノリで男子陣を味方に取り込んどけば自分を守らせるのは簡単なレベルの『顔は美人なのに勿体ない』と、そう言いたがってるんだと思ったんだが・・・・・・違ったのか?

 

 しばらく互いに疑問符を浮かべ合ってるらしい対応が、雰囲気だけで伝わり合ってきてたみたいだったけど、やがて葉山の方が先に割り切ったのか「ま、まぁいいか」と話を一段落させて本題に戻すための言葉を使うと、俺にとっては答えが分かり切っている問いを投げかけてきた。

 

「なぁ、もしヒキタニくんが俺と同じ小学校だったら、どうなってたかな?」

「分からん」

 

 だから俺は、その問いに答えになってない答えを即答する。

 

「俺はお前が昔通ってたっていう学校を知らないし、見たこともないからな。

 なんも知らない場所に過去の自分がいた場合はどうだったか~なんて、宝クジで一等当てたら何使うかとか、無人島に一つだけ持ってけるなら何持っていくとかと同じで、全く意味がなければ現実味もない、タラレバ話以上のもんにはなりようがねぇ内輪ノリ話だろうが。バカらしい」

 

 自信の籠もった声で俺は、不審げな相手にそう理由を説明して断言する。

 実際そうなってた場合はどうなってたかーなんて想定は、そうなる場所とか状況とか環境とかで一変しちまうのが現実ってもんなんだから当然の回答だろう。

 せめて、もう少し情報くれ情報。判断材料になりそうな、お前らの通ってた小学校ってのがどんな場所だったのかって情報をさぁ。

 

 仮に、雪ノ下が所属してる特進クラスみたいな帰国子女の優等生女子ばっかなエリート学校だったら、俺がいようといまいと何もできねぇ自信あるぞ? 壁の隅で目立たず騒がず誰にも気付かれないで小学校6年間早く終わることだけ願って過ごしてた自信ありくる状況だよ?

 

 逆に、材木座みたいなのが何人もいる小学校だったら、逆の意味でなにもしなかった自分に自信もてるしな・・・・・・絶対に学校全体と関わり合いになりたくない。

 

 

「そ、それはまぁ確かに、そうかもしれないけど・・・・・・」

「まぁ、一般的な学校だったと仮定した場合には、お前の学校にボッチが一人増えただけってのが普通だろ」

「そ、そうかな?」

「そうだろ? だって俺って、こんな性格してる奴だぞ? これでボッチになるだけ以外の終わり方するほうが珍しくねぇか?」

「やっぱり、自覚はあるんだね・・・・・・」

 

 自慢げに自分を指さしながら断言して返してやると、葉山は苦笑したような忍び笑いを微かに響かせると、誤魔化すように小さく笑って咳払いして、そして――

 

 

「ゴホン。――ごめん。・・・・・・ただまぁ、俺はいろんなことが違う結末になってたと思うよ。

 ただ・・・・・・それでも、“比企谷くん”とは仲良くできなかったろうな――」 

 

 

 ・・・・・・最後に呟かれた一言だけは、完全に俺の意表を突いた予想外の言葉だったから、俺の意識は一瞬、空白になった。

 誰とでも上手くやれるやることができる葉山が、こんな事を言うなんてな・・・。

 

 その言葉を受けて俺もまた、一呼吸おいてから、ちょっとだけ恨みがましい声を形作って、

 

「・・・・・・ひどいな、お前。今ちょっとだけショック受けたぞ。

 ――そんだけ貢献できてた場合でも、お前にとっては“仲良くなれる相手ではない”と思われるほど、俺の性格はイヤな奴でしたか、そうでしたか・・・・・・」

「いや、ウソだって!? 冗談だよ!! 軽いジョーク! だからウソの演技でも、そこまで落ち込んで見せないでくれないかな!?

 言った言葉の内容的に、僕の方が困る立場だから今は本当に!!」

 

 テヘペロ☆と、心の中で笑いながら、葉山の方が悪くなる状況下で敢えて深く傷つけられる解釈して落ち込むフリする俺、捻くれエリートぼっちの比企谷八幡です♪

 

 フッ・・・これこそ別の格上カーストコミュニティの長と、敵対する訳でも無視する訳でもなく、さらっとビジネスライクに無難にやり過ごす時の方法論。

 相手のミスから有利になれそうな状況がもたらされた時には、その状況は最大限に活かす!

 自分とは別の公国コミュニティに属しながら、敵対することなく無視することもせず、ピンチになったらビジネスライクにやり過ごして目的達成のために利用だけした仮面のボッチ大佐を、俺は密かに尊敬しているエリートぼっちだったのだよフッフッフ。

 

 ・・・・・・まぁでも、正直この言葉を聞かされたことで、俺は初めて葉山隼人という存在を正しく認識できたのかもしれないと思ったのは事実だった。

 そして恐らく、葉山隼人という人間が比企谷八幡という存在を、正しく認識できたのもこの時が初めてだったのと同じように。

 

 優しいだけでなく、どこか苛烈さを秘めた声音。

 『俺とは仲良くできなかった』と語った時の言葉に、嘘など一つもなかったことを俺は直感として知らされていたから―――

 

 

 

 

 ――そして、長かったようで短いような、でもやっぱり超長かった気がスゴくする小学生たちの林間学校に付き合ったボランティア活動が終わり、ガッタンゴットン平塚先生の運転する車に揺られながら、ようやく懐かしき我が家のあるご町内へと帰還してきた俺たちは、総武高校前の校門でようやく解散の時を迎えていた。

 

「みんな、ご苦労だったな。家に帰るまでが合宿だ。帰りも気をつけて帰るように」

「って言うか、今回のコレって合宿だったんスか? 俺は“小町への頑張ったご褒美”として千葉に行ってただけですし、葉山たちは合宿で内申点もらえてるみたいでしたが・・・・・・」

「この期に及んで、余計なことまで思い出さんでいい! いいから帰れ帰れ! ほら早く、解散!! 今さら奉仕部部活動用の内申点まで用立てることはできんだからな!!」

『『『横暴な・・・・・・』』』

 

 大方の意見で全会一致な平塚先生のテキトー対応への評価を口にしつつ、まぁ何時ものことなので流して帰ることにして、俺は唯一このメンツの中では最後まで帰り道が一緒な小町に声を掛ける。

 

「小町、京葉線でバス使うルートで帰ろうぜ。帰りに買い物したいからな」

「あいあいさー! それと京葉線ですし、雪乃さんも一緒に帰りません?」

「そうね。・・・・・・では、途中まで――」

 

 俺の言葉に敬礼して応えた小町から伝言ゲームの流れで声をかけられ、雪ノ下が少しだけ考えてからコクリと頷いて了承しようとした、まさにその時だった。

 

 ・・・・・・す―――っ、と。

 低く静かな駆動音で、ゆっくりと潜行するかのように、黒塗りのハイヤーが俺たちの目の前に横付けされたのは。

 

「金持ってそうな奴専用のハイヤーだな・・・・・・」

「・・・・・・うん。黒いのに、黄金のモビルスーツに乗ってる人よりお金持ちの人が乗ってそうなイメージあるよね・・・」

 

 そんな車の先頭に金ピカのトビウオみたいなのが付いてる漆黒のハイヤーを見せつけられた、俺たち比企谷兄妹からのウソ偽りなき正直な感想。

 左ハンドルで、運転席にいるのは初老の運転手さんで、制帽からロマンスグレーの髪が覗いていて、後部座席にはスモークが張られてて中の様子がうかがい知れない。

 

 これはアレか? もしかして、「爺や」って呼ばれてるタイプの人なのか? それとも「セバスチャン」とか呼んでるお嬢様が出てきて「高校生の生徒諸君」とか言い出す展開のタイプなのだろうか?

 

 金持ちに対する一般庶民の偏見と差別感情からくる警戒心によって、俺と小町は精神的に一歩身構えながら腰を落とし、なにか誘われたり要求されたら即座に逃げられるよう準備を整えている眼前で、運転席から出てきたダンディな爺さんが後部座席のドアを開ける。

 

 そして中から出てきた人。

 それは真夏なのに小春日和みたいな心地よさを感じさせて、錯覚させてくれる女性。 

 昨日の夜に葉山との話題で出てきたばっかの、『例のお姉さん』だった。

 

「はーい♪ 雪乃ちゃん☆」

「ね、姉さん・・・・・・」

 

 雪ノ下雪乃の姉である雪ノ下陽乃さんは、真っ白なサマードレスに身を包んだ姿で優雅に車から降り立つと妹に駆け寄りながら、はしゃぐ様なような声をかけてくる。

 

「え、ゆきのんの・・・・・・お姉さん?」

「ほぁー、似てる・・・・・・・・・でも、一部だけは小町たちの敵か」

 

 その姿を見た由比ヶ浜は目をしばたかせ、小町は感心したように呟きながら、語尾に不穏な感想を付け加えてる。

 戸塚もウンウン頷いてるけど・・・どっちの感想に賛成してんのかはよく分からん。

 

「雪乃ちゃんてば、夏休みはおうちに戻ってくるようにって言われてるのに全然帰ってこないんだもーん。お姉ちゃん心配で迎えに来ちゃった! あ、比企谷君だー」

 

 そーいや、コイツラは初対面だったなと思い出してると、俺がいることに気付いたのか、今気付いたフリしただけだったのか判別不能なさり気ない動作とタイミングで、俺との会話に話題をシフトさせてきて、

 

「なんだー、やっぱ一緒に遊んでたのかー? んー? デートか? デートだな! このこのっ! 羨ましいなぁ青春青春っ!」

「また同じパターンかよ! 前回も違うっつってんでしょうが! ――っつか、この人数と男女比率でデートだったら、俺はハーレムかモブのどっちかにしかなれんでしょうに」

「ああ、なるほど。それもそっか」

 

 うりうりーって感じで、肘で俺を突きまくってくる『百裂肘突き』とか必殺技名あったら使ってそうな速度で連発してきてたのを、俺の一言でアッサリ退いて動きを止める陽乃さん。

 ただ、それが少しだけ遅かったのか、止まる前に動き出してた由比ヶ浜が割り込んでくる方が、相手の停止より少しだけ早かったらしく

 

「あ、あの! ヒッキー嫌がってますから」

「お? えーっと、新キャラだね? あなたは・・・・・・比企谷くんの彼女ポジの人?」

「ち、違います! 全然違います! クラスメイトの由比ヶ浜結衣です!」

「クラスメイト・・・・・・? ――な~んだ、よかったー♪ 雪乃ちゃんの邪魔する子だったらどうしようって考えちゃった☆ あ、私は雪ノ下陽乃。雪乃ちゃんのお姉ちゃんです」

 

 ちなみに俺は、妹さんの雪ノ下雪乃にとって、クラスメイトではなく友達でもない誠に遺憾ながら知り合いらしい比企谷八幡です。

 

「え、あ、ご、ご丁寧にどうも・・・・・・。ゆきのんの友達の由比ヶ浜結衣です」

「友達、ねぇ・・・・・・ああ、でも比企谷くんに手を出しちゃダメだよ♪ それは雪乃ちゃんのだから☆」

「・・・・・・陽乃、その辺にしておけ」

 

 真夏なのに小春日和みたいな心地よさを感じさせてはくれるけど、本人自身は真夏の太陽みたいに熱っ苦しいテンションで話しかけまくってくる勢いにウザったいけど、女の子らしい香りに気持ちよさも感じなくはない、相変わらずな陽乃さんのマイペース会話。

 

「久しぶり、静ちゃん」

「その呼び方は辞めろ」

 

 それもようやく、平塚先生に声をかけられて停止してくれて、俺たちの背後でカッコいいポーズで車に寄りかかっていた平塚先生に笑いを止めた声で話しかける。

 そして気恥ずかしそうに、そっぽを向いた平塚先生の反応に二人が顔見知りだったこと俺は気付かされて少し驚かされていた。

 

「先生、知り合いだったんですか? あと、静ちゃんって呼ばれるの苦手みたいッスね」

「昔の教え子だ。――それと、その呼び方で私を呼んだら、お前は殺すからな絶対に」

 

 ガチで殺意のこもった声で脅迫されてしまい、セリフの前半部分についての真意を問う言葉すら言いづらくなってしまった俺が口を噤んでいると、

 

「まぁ、静ちゃんとの積もる話は、また改めてってことで。じゃあ雪乃ちゃん、そろそろ行こっか?

 ――“お母さん、待ってるよ”――」

 

 そう雪ノ下の耳元でソッと呟いた瞬間、陽乃さんの登場に対しては然程動じてなかった雪ノ下の表情が大きく動かされ、諦めたように溜息を吐くと小町に向かって頭を下げる。

 

「小町さん、せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。あなたたちと一緒に行くことはできないわ」

「え。あ、はい・・・それはまぁ、おうちの事なら・・・・・・」

「ありがとう。・・・・・・さようなら」

 

 そして微笑を浮かべると雪ノ下は、小さく別離のような言葉をで別れを告げて車に乗って、「じゃ、比企谷くん、ばいばーい!」と手を振ってくる陽乃さんと一緒にドアを閉めて、ハイヤーは来たときと同じく静かに進みだし、長い直線をすーっと走って曲がり角でカーブして消えていった。

 

 その後ろ姿を見送った後。

 

「ねぇ・・・・・・、あの車、さ・・・・・・」

 

 由比ヶ浜がそっと俺の袖を引きながら、微妙に表情の消えた声で言ってきた言葉の意味を、俺はなんとなく察していた。

 

 ――雪ノ下が乗せられて去って行ったばかりのハイヤーは、入学式の日に俺を撥ねて病院送りにした車と、恐らくは同じだろうという事実に――。

 

「まっ、ハイヤーなんてどれも似たような金持ちのためだけのもんだしな。何より痛かったし、いちいち自分には生涯無縁の車の車種なんて覚えてられねぇよ」

 

 それでも口に出した返事には、心にもないことを言って、俺たちもまた各々の家へと帰っていく道を選ぶ。

 

 どーせ、あの車が今さら雪ノ下が乗ってたハイヤーだったと分かったところでナニカが変わる訳でもないし、俺は事故に遭わず入院しなかったとしてもエリートぼっちになる道を自分から選んでいたことに変わることはなかっただろう。

 だからこその、エリートぼっち戦士であり、そこらのボッチとは格が違う存在なのだから当然のことだ。 

 むしろ今更その事で引け目を感じられて、責任とか感じられる方が却って困る。

 

 ・・・・・・いやマジで本当に、今さら気にされると困るんだよ冗談じゃなく真剣に・・・。

 だって今さら本気でどうしようもねぇし、タイムマシーンあるわけじゃなければ過去はやり直せねぇし。

 ただ負い目を感じて気にしまくった女子部長と、放課後に同じ部室内で気まずい中を過ごすことになるとかマジ勘弁して欲しい・・・。

 

 ボッチは意外と気遣いなのだ。そんな奴がいる場所に、今更どうしようもない問題を持ち込まないで、コッチの胃が潰れる心配しなきゃいけなくなるから本当に・・・・・・。

 

 

 

 ――こうして俺たちの、長かったようで短かったようで、超長すぎた気もする奉仕部の合宿だったらしい、小学校の林間学校へのボランティア手伝い旅行は幕を下ろし、俺たちは通常通りの夏休みへと帰ってきた。

 

 

 

 そして―――気がつくと、八月も中旬に差し掛かっていた。

 

 

 

「おかしい・・・・・・。

 夏休みの残りが、あと二週間ちょっとしかねぇ・・・タイムリープでもしてんじゃねぇだろうな?」

 

 

 リビングのソファーに座りながら、冷蔵庫に張られてたのを外してきたカレンダーを見下ろしながら、俺は謎の怪奇現象を前にして必死の確認作業に明け暮れている真っ最中だった。

 

 おかしい・・・どう考えても、おかしい。

 何故だか、一瞬にして夏休みの大半が消化されてしまっていたような気がしてならないのである。

 無論そんなはずは現実でありえる訳もなく、実際に夏休み序盤においては一日一日がものすっごく長くて満喫できるだけの時間的余裕が溢れまくっていたように記憶している。

 にも関わらず、その時間が終わった後頃からの記憶が曖昧になっているのだ。

 

 ひょっとして序盤があまりに濃厚すぎたせいで、序盤が終わってから後半までのスムーズ過ぎるストーリー展開は早く進みすぎてるように感じてしまう、RPGでよくある現象が俺のリアル生活でも起きていたという事なのか・・・?

 

 いや待て、ひょっとして俺の数え間違いという可能性もある。文系は学年3位の俺だが、理系ではちょっとだけ振るわない成績なのも事実ではあることだし、数字の数え間違いなら可能性として0ではない。もう一度カレンダーに付けられている×を最初から数え直してみよう。

 

「いちにぃ~ち、ふつかぁ~・・・みっかぁ~~・・・・・・やっぱり二ヶ月足りないぃ~。

 むしろ残り三ヶ月ぐらい欲しいぃ~~、って痛ッ!?」

「・・・いや、そのカレンダーの数字は正常だと思うよ・・・。

 壊れてるのは、お兄ちゃんの頭の方だけで・・・」

 

 そうこうしている間に、小町がいつの間にか夏休みの宿題に一区切り付けていたらしく、呆れるというか諦めるの境地に達しつつある表情を浮かべながら兄のことを見下ろす姿勢で室内に立っていた。

 肉親に温かい目で見られてしまい、さすがの俺でもちょっと傷つく心地にさせられてしまう。

 

 ・・・なにしろ、ソファーの上でゴロゴロ転がって駄々こねてたら落下しちまった直後の姿を見られちまってるからなぁー・・・今の俺の姿って。

 さすがに、これで心の一つも傷つかなかったら捻くれ者的にも問題あるので素直に傷つくべき所だと俺でさえ思える。

 プライドとか見栄とか、そういう人の心の一部ぐらいは傷ついておくべきだと、心の底からそう思える捻くれ八幡、心の警句。

 

「で、何か用か? お前は受験生で中学生なのに、まだ夏休みの自由研究が終わってないから集中してたはずだろ?」

「ぐ・・・☆ お、お兄ちゃんならそう言ってくると思ってたけど・・・・・・っ。

 小町でもちょっとは傷つく時あるってことを、家族のみんなはもっと知っておいてくれると小町的にポイント高くなるのに・・・・・・ブツブツ。

 まぁ、それはそうとお客さんだよ」

「え、俺に? なんで?」

 

 思わぬ返答にキョトンとしながら相手の姿を見つめる俺。

 そう言えばさっき、玄関の方からインターホン鳴ったなぁとは思ってはいたんだが、アレって俺宛の客だったのか。初めて知った。滅多にいない時のない俺の留守を狙って届けに来たアマゾンの再配達でも来たのかな。

 

「いや、小町も確認してないから誰が来たかは分かんないんだけど、なのでお兄ちゃんにとりあえず応対に出てもらいたいなと思ったわけでして」

「なんでだよ。お前が出ればいいじゃ―――って無理だったよな、普通に考えて。とりあえずは出といてやる」

「お兄ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ! お兄ちゃん大好きー♡」

「HAHAHA、かわいい妹のためなら何のこれしき」

 

 外国人っぽいイメージのあるオーバーアクションで笑い飛ばしながら、Tシャツ一枚の下にパンツ丸出しファッションの実妹から笑顔で抱きつかれてる実の兄な俺。

 ・・・・・・見られた人次第では本気で白と黒のパンダカーに乗せられかねん格好な、妹の家着姿だったからな・・・・・・これは見せられない。俺が代わりに応対出るしか方法がない。

 

「まぁ、とりあえず俺が出とくから。小町はその間にズボンでも履いとけ」

「ほいほ~い。ズッボン、ズボン♪ 小町のズボンは。ど~こっかな~っと♪」

 

 変な上に誤解されかねない鼻歌を歌いながら、丸見えのパンツをフリフリしながら部屋を出て行く妹の恥態を溜息と共に見送った後、俺は念のため印鑑をもってから家の扉の方へと移動して―戸を開けた途端に意外すぎる人物がいたことにビックリさせられることになる。

 

 

「や、やっはろー」

 

 

 茶色に染め上げたお団子髪と、夏らしい服に身を包んでキャリーバッグを両手で支える由比ヶ浜結衣が、俺の家の前に立っていたのだから―――。

 

 こうして俺は、高校二年生の夏休みにとって最後のイベントとなる『夏祭り見物デート』という名のリア充達が体験すべき青春を模倣させられちまう間違いを犯す切っ掛けになる出来事に巻き込まれることになるのだった。

 

 

 由比ヶ浜が家族旅行の間だけ預かって欲しいと頼んできたペットの、『ハトサブレ』だか『東京名菓』だか『ヒヨコ』だか、そんな名前の飼い犬を我が家で預かるという、イベントへと続いていた切っ掛けイベントに。

 

 

 

「サブレだよ!? ハトサブレじゃなくてサブレ! ハトは無し!

 ってゆーか、東京名菓なんてペットの名前に付ける飼い主なんているわけないでしょー!?

 しかもヒヨコって、別の生き物になってるし! イジメじゃん! ヒッキーきもい!!」

 

 

 

 

 まぁ、なんかそんな感じの名前の犬を預かるイベントが始まったみたいなのだった。

 

 

つづく

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