やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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家に帰ってきてからの一日、っていうか半日を撮り溜めしたアニメ見て過ごした結果できた内容です。
たった半日で何ほどの意味があるわきゃないので、気分的な問題だけの段階でしょうけど、とりあえず投稿しておきますね。


29話

 

 由比ヶ浜からペットの飼い犬、東京名菓を預かってほしいと頼まれて小町が引き受けた翌日か、その翌日ぐらいな夏の昼下がり。

 専業主夫か自宅警備員になるため日夜努力し続けているエリートひねくれボッチの俺は、夏休み中にありがちな問題に直面してしまっていた。

 

 中途半端な時間に目が覚めてしまったせいで、飯を食うタイミングを逃してしまったのである。

 純粋に専業主夫一本のみを将来の就職先と考えている者ならば、ここは自分で作るという意見を用いるべきところだが、あくまで専業主夫を本命がダメだった時の滑り止めと考えているエリートたる俺は、母親からせしめた金で豪華なランチを食するため近所の町中へと繰り出していた。

 

 千葉はラーメン激戦区で「人に知られた名店」が多いが、今日はあえて灯台もと暗しを狙ったチャレンジスピリットを発揮して今まで開拓してない近所のラーメン屋に行くことにしたのである。どーせ本来は予備校に通うためもらった母親の金である。チャレンジに失敗しても惜しさは少しぐらいマシだろう。

 

 夏の日差しの中、ジメジメした熱気に照らされてイライラしながら道を歩く。・・・やっぱ帰って自炊しようかなと、つい思ってしまいかけたその瞬間。

 暑さを吹き飛ばすような、爽やかな音色が響いてきて俺の意識を引き寄せてくれた。

 

 リンゴンリンゴンと、高らかに教会の鐘を鳴らしながら結婚式が行われていたのである。

 この付近はお高いホテルが建ち並んでて結婚式場も多いのだが、実際に式をやってるとこ見るのは初めてだったので、ちょっと見物しに行くと、絵に描いたような幸福の姿がそこにあった。

 

 華やかな雰囲気が漂い、祝福の声が垣根を隔てて通りまで聞こえてくる中で――一カ所だけ黒ずんだ染みみたいな影が端っこの方に写っている。

 その影は、幸せ空間のなかで一点だけ怨念にも似た妄執がこびりついていて「くたばっちまえ、ア~メン・・・」とか低く呟いているのが僅かに聞こえてくる。

 

 ――まさに、絵に描いたような幸福の姿そのままと言っていい光景だった。

 

 社会的動物である人間は基本的に群れるもので、肉食獣でさえヒエラルキーがありボスにならなければ死ぬまでストレスを抱え続けざるを得ず、草食動物もまた天敵の襲撃で仲間を犠牲にして生き続けることにジレンマを感じながら生きていく。

 「皆は一人のために、一人は皆のために」とはよく言ったもので、皆が楽しんでる時には一人は我慢して皆に合わせ、一人ボッチの奴だけが幸せそうにしてると全員から恨まれて刺し殺されかねないのでヒッソリと喜ばなければならない。

 このように群れとは、個にとって何ら益をもたらさないのだ。・・・・・・かつて俺が、そう結論づけた理論はやはり正しかった。この結婚式場の構図こそ俺の正しさを証明する生きた実例と言えるだろう。

 

 よし、と言うわけで証明終わり。用すんだから、とっととラーメン屋行きに回帰しよう。

 

「あんたも早く結婚してくれるといいんだけどねぇ」

「次は静ちゃんの番ね!」

「静ちゃん、おばさん、またいい人見つけたのよー。今度は上手くいくと思うから会ってみない?」

「静、父さんな、孫のために貯金始めたんだ・・・・・・」

 

 見覚えがある気がした黒い染みのような、皆の幸せのため我慢している影の女の人を俺は知らない。見たことがない。だから気づかれる前にUターン――しようとしていたのだが。

 

 

「ひ、比企谷! いいところに来た――い、いや、ちょっと問題児がそこに! 仕事だから! 助かってないから! じゃあ、そういうことだからっ!!」

 

 ・・・やはり間に合わなかったか・・・・・・深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているもんではあるが・・・・・・逃げ口上の口実を探してる相手は同類を見逃してくれねぇ・・・。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・。とりあえず離れられた・・・」

 

 教会からしばらく歩いて角を曲がった公園に入ったところで足を止め、ホッと大きな胸を撫で下ろす、ブラックのパーティドレス着たお姉さん。

 体のラインに合わせて弧を描いたドレスと、艶やかな漆黒の髪をアップにして、黒の手袋を通して俺の腕を掴んでいる手は柔らかい。

 

「あのぉー」

「ん? ああ。悪いな、急に」

 

 ベンチまで俺を連れて行った後、パリッとした感じの美人はニコヤカに微笑みながらバッグから煙草を取り出して、シュッと百円ライターで火をつけてプハ~。

 さっきまで演じていたらしい、群れの一員としての義務を負えて、いつも通りの仕草を見せた辺りで彼女が誰なのか間違える者は一人もいないだろう。

 

 はい、そうです。平塚静先生ですね。奉仕部の顧問だわ。

 この人ちゃんとした格好でキチンとしてると、かなり美人に見えるってことは分かったんだけど・・・・・・服のカラーリング間違えてませんか? 全身を黒一色って・・・・・・葬式に来てたんじゃないんですよね?

 まぁ先生基準で考えた場合には葬式かもしれんけれども。結婚は人生の墓場とも言うことだし。

 

「あの、抜けちゃってよかったんすか? 結婚式だったんですよね?」

「構わないさ。祝儀は置いてきた」

「でも、二次会とかあるんじゃありません?」

「なんだ、意外に気を使えるじゃないか。君らしくないが、少し驚いたし感心したぞ」

「いえ、雑用とかお代わり注ぐ係とか、親戚のオジサンオバサンたちの愚痴聞き役とか、先生が消えると次点のヤツが押しつけられるので、巻き込まれた俺が恨まれるのイヤだなぁ~って思っただけなんスけど・・・」

「いつも通りのお前らし過ぎる! 驚いたり感心して損したぞ!? 私の先を越した従妹と同じで、お前も私の気持ちを裏切ったんだ―――ッ!!」

 

 平塚先生が悲しい叫び声を上げて、目尻に浮かんだ涙をソッと隠すけど・・・・・・知らねぇし。

 って言うか親族の結婚式だったんだ。シンジ君と違って友達のじゃなくて良かったじゃん。

 年下に先越されると気を使い合って大変そうだけで済むけど、同世代の友達に先を越されると最悪の場合は血の雨降って地べた這いずって泣きかねん。

 

「まったく、お前はまったく! ・・・そもそも私は最初からあまり行きたくない式だったんだ。

 従兄弟は年下で気を使われるし、親戚のおばちゃんたちに結婚の話ばかりされるし、両親はうるさいし・・・・・・。だいたい祝儀を払って親戚から小言を言われるなんて割に合わん」

「それはまぁ、確かに。理解できる辛さですね」

 

 心からの賛同を込めて、長い話を終えて「ふーっ」と溜息と煙を一緒に吐き出して煙草を握り潰している平塚先生の言葉に、俺は何度も頷きながら言葉を返す。

 まぁ俺の場合は年齢差あるので今の時点じゃ同じ立場の辛さは分かりようがないのだが。言ってる内容自体は理解できるしイメージもしやすく、心の底から賛成しやすい状況だったので素直に趣向を返しておいたのだ。

 

 まったく以て先生の言うとおり。確かに、わざわざ金払って説教されるなんて真っ平ごめん。

 具体的には、義務教育でもない高校に金と時間失ってまで通ってんのに、先生から怒られたあげく説教されるとか、損以外の何物でもないよね本当に。

 言わないけどね? 流石に本人の前で言葉を選ぶぐらいの気遣いはする。ボッチは意外に空気を読んで言葉を選ぶ達人なのだ。ノーベル平和賞早くほしい~。

 

「ほう? 気が合うな。ところで君は、あんなところで何をしていたのかね?」

「ラーメン食いに行こうとしてたんすけど」

 

 県下一の進学校教師、平塚静先生。従妹の門出を祝う結婚式場を「あんなところ」呼ばわりする段。これも言わない方がいい気遣いボッチ話の一つにすべきなんだろうね。

 

「ラーメン、そういうのもあるか。そういえば私も受付やらなんやらで、すっかり食いっぱぐれていたな・・・・・・ちょうどいい。私も一緒に行かせてもらおう」

「はぁ、それはまぁ別に構わないんですけど・・・」

 

 俺としても、先生からの提案内容そのものには特に否やはなかったので先導してテクテク先歩いてく分には問題なくはあったのだが。――ただ一つだけ厄介な部分があるにはあった。

 

 ・・・・・・その格好で? ――という、根源的な問題が・・・。

 

 ラーメン屋だよ? 近所のラーメン屋行くんだよ? もう少しTPOとか場に合わせた服装とかある気がするんだけど・・・・・・ドレスコードとかない場所に行くだけになった途端、式場にいたときの群れのルール縛りが消え失せたらしい平塚先生には通じそうになかったので、言うの諦めて大人しく先導だけしてテキトーな店の前まで到着した。

 

 

「――しかし、少し意外だったな」

「なにがっスか? 従妹の結婚式の愚痴で、まだ言い足りなかったことが残って・・・」

「そっちの話はもういい! 思い出させるな腹立たしい! そっちの話じゃなくて、お前の話! 

 人混みや行列は嫌いなのだとばかり思っていたから、意外だったという話だ!!」

「ああ、なるほど。そっちの話ですか」

 

 俺は納得して頷いて、店内に入れるまで少しかかりそうな行列に大人しく並んでいた自分の立場を理解し、平塚先生の誤解を解くため説明を補足する。

 

「俺も無秩序な人混みは嫌いっすよ? 行列はまぁ、一応ちゃんとしてるでしょ? たまに割り込んでくるバカがいないわけじゃないですし、それ注意しないバカな整理係も0じゃないですが、基本的には整列してる。だからまぁ、マシかなぁって」

 

 実際問題、俺は行列というものには然程の抵抗がない。だいたいの人間が行列を嫌がる理由は時間が無駄になってると感じるのが苦手だったりとか、手持ち無沙汰な感覚をイヤがる人だったりとか、誰かと一緒だと間が持たずに何か喋らなくちゃいけないような感覚に襲われたりするのが原因ではないかと俺は考えている。

 ディスティニーランドにデートで行ったカップルは別れるなんて都市伝説も、紐解いてみればこういう行列するときの対応が個々人で大きく別れており、二人と内輪だけでいると普段は必要なかった大勢の中で暇な時間の過ごし方の違いが浮き彫りになるのが原因の一つだったんじゃないかと思うんだよな。

 

 親父たちの世代の頃には、ハワイに新婚旅行いって、帰国した直後に離婚するカップルとか大勢いて社会現象になってたことあったらしいし。

 普段と異なり、他人たちばかりがいる空間内で何もすることがない時どう過ごすかは、結構その人との付き合い方を考える上で大きな比重を占めてるんじゃねぇかと俺的には思えるんだよな。

 

 無秩序な人混みは、ルールも守れずマナーも知らない輩が沢山いるからこそ「無秩序」と呼ばれるのであって、そんなものを見るのも近くに寄られるのも迷惑なだけで、精神的にも耐えられそうにないので無理。

 

「ふむ。君は存外に潔癖だな」

 

 そんな俺の話を聞いて、平塚先生は驚いたように、そう言ってきた。

 

「そうですかね? 別にそんなんじゃないと思いますけど・・・」

 

 だが先生からの言葉を聞かされても、俺としては疑問を感じざるを得ない評価ではあった。素直に首をかしげてしまう。

 自慢じゃないが俺の部屋は汚く、『都市化』とか『地球の行く末』とかのタイトルつけて展示したら、死後に一部の人たちだけから評価されそうな程度にはネタになるレベルの汚さを誇っている。

 

 とはいえ、今の話の流れから見て、そういうことを言っていた言葉じゃないんだろう程度は見当がつく。・・・・・・ただ、その先が分からん。

 一体どうやって今の俺の話を聞かされて、潔癖という評価を下すに至ったのか・・・・・・その計算式と理論がどうしても頭の中で構築できなくて理解できない・・・。

 

 そんな俺の仕草で、納得してないことが伝わったのだろう。微笑ましいものでも見つめるような視線で見下ろしながら、補足の説明を付け加えてくれた。

 

「無論のこと、清潔さや衛生面の話ではないよ。ものの道理の話さ。もっとも、あくまで君を中心に置いた道理でしかないが」

 

 そう説明されたことで、俺はやっと相手の言葉を理解して、疑問は氷解して答えに至る。

 

「なるほど。つまり俺以外の連中の大半は、ジャイアニズムな全体主義押しつけ野郎ばっかって事ですね」

「そういう解釈をするんじゃない! 一応は君のことを褒めてやっていた言葉なのだから、君以外の他人たちを遠回しに罵倒したことだったという風に曲解するのは辞めたまえ!」

 

 平塚先生から怒声混じりの再度の補足説明。

 うんまぁ、分かってはいたんだけどね? ひねくれ者的には、そういう解釈だけした前提で返事するのが礼儀かなーって。

 そう思ったから言っただけであって、先生の言ってる意味も分からなかったわけじゃあない。

 

「要するに俺は、テクニカルにわがまま自己中野郎って言いたかったわけッスね」

「・・・いや、そこまで卑下することはないと思うが・・・・・・己の中でキチンと判断基準を育んでいるのは、いいことだと思えるからな」

 

 怒鳴ったばかりの手前、少しばかり気にしたのかフォローするように言ってくれる先生だったけど、そういう風に評されてもコッチにそんな意図があった訳もないので正直困る。

 

「単純に騒がしいだけの連中が嫌いなんですよ・・・・・・。

 それに、自分を中心に置いた道理で考えるのが潔癖だったら、アイツらも大半は潔癖になるんだろうなとも正直思いますしね・・・」

 

 俺は素直にそう言って、そっと視線をそらしてそっぽを向く。

 実際、当たらずとも遠からずな予想だろうと俺自身も予想している。

 

 世の中の大半のリア充たちや、声の大きさや群れている人間の数を楽しさを測る尺度だとはき違えてる連中たちでさえも。

 皆それぞれが、自分を中心に置いた道理でしか物の道理を考えようとすることはほとんどない。

 

 楽しいと、俺たちは今この瞬間最高に輝いていると、人混みやイベントでアピールしたがるような連中は、自分を中心に置いた道理によって『自分を一員とする“みんな”』を形成する手段として『自分も“みんな”の中の一員だ』とアピールしたがっているだけに過ぎない。

 

 自分の感じている楽しさを、自分の正しさを、己一人で証明したがらないのは、その方が『自分が“みんな”の一員になる』には適切だと『自分のための道理』で考えたから。

 

 ・・・・・・だが、同じ道理を尊んでいても、同じ正しさに賛成して見せてはいても。

 実際にはやはり、個人個人で違っている。

 一人一人が自分を中心に置いた道理で考えで、『みんなに賛成するのが得策だ』と判断したから集まっているだけなのが実態。

 

 自分一人で胸を張れないのは、確信が伴っていないから。

 どこかで冷静な自分が「本当に楽しい?」と冷めた視線で問いかけてくるのを掻き消すため、大声で盛り上がって楽しいと叫ぶ。今が最高だと、あげぽよだと、口に出して声を上げることで無理矢理にでも合わせようとする。

 

 ・・・・・・だが、それをやってもダメな時はダメ。

 合わせられなくなった時は、合わせられない。

 みんなの道理が、自分の道理で合わなくなると、アッサリ壊れる。呆気なく崩れ去る。

 

 たとえば、一人が誰かを「普段から態度が悪いヤツだ」と思っていたが、“みんなの道理”で言うべきことじゃないと判断したから言わなかった。

 態度が悪いと思われていたソイツは、別の奴を「普段から余計なことを言う」と感じていたが、自分が仲間の一員でいるため口にしなかった。

 二人と違って「とにかく泣いて謝るのが正解、逆らうのは愚策」と考えていた一人だけがいた。他の二人と違うコイツは、輪から外されないため提案だけして主張したがらなかった。

 

 全員が全員、『自分を中心』じゃなくても『自分を一員でいさせるための道理』でものを考え、それを実現する手段として『一人の仲間外れを虐める』という同じ作業を由として受け入れていた。道理として許していたのだ、全員が。

 

 その結果がアレだ。先日のルミルミの一件で、ラストに見せた虐めグループの終わり方である。

 

 そんなもんだろう。人にとって『道理』なんて代物は。誰も彼もが自分を中心に置いてしか生きちゃいないし考えてもいない。

 ただ、自分が生きていく場所としての『みんな』という場所を維持し続けるため、色々と我慢なり工夫なりが必要なだけで。

 

 

「そうなのか? まぁしかし、そうなると君は花火大会には行けそうにないな」

 

 思考に没入しちまってたらしく、平塚先生から急に別の話題を振ってきたのを危うく聞き逃しそうになる。

 

「花火大会・・・?」

「ああ。君も知ってるだろう? ポートタワーでやるアレだよ。君は行かないのかと思ってな」

 

 改めて言われたことで脳が再起動して、思い当たる行事が導き出される。

 ポートタワーの花火大会と言えば千葉の風物詩であり、俺も子供の頃に夜店目当てで行ってたことがある程の大規模なイベントの一つだ。

 この辺りに住んでるとスタジアムではナイターで花火が上がり、ディスティニーランドでは年がら年中花火しまくりっ放しで花火そのものに有り難みも希少性も全くなくなっているけれど、『花火“大会”』と付くと何故か人が集まってくる、無秩序と混沌のカオス劇場。それがポートタワーの花火大会である。

 確かに俺とは、これ以上ないほど相性が悪い行事だった。それこそ本能寺後の信長と光秀ぐらい仲悪くなりそうだから、決して会いに行かない方が良い典型例中の典型例。

 

「特に行く予定はないッスね。あんな人がゴミみたいな所行っても、本多忠勝か呂布を投入したい欲求に駆られるだけなんで。先生は行くんすか?」

「お前は、ラピュタ王族の子孫かなにかか・・・? 人混みといえ人混みと。

 まぁ、私の方は夏休み中の仕事という奴でね。生徒の見回りのため駆り出されるのだよ。お祭りの時なんかには、そうした実働系に若手が行かされるんだ。いやほら私、若手だから、いやぁ本当に参ったなハハハ。

 ―――だから間違っても無双したい願望を実行しようとするんじゃないぞ比企谷・・・?」

「怖ッ!?」

 

 上機嫌に嬉しそうに笑ってた顔が、最後の一文だけ全ての感情を損失して無になったみたいな暗殺者の表情になったよこの人!? どんだけ自分が若手扱いされるイベント好きなんだよ! 軽く引くわ!

 それと別に、それは若手が駆り出される行事じゃねぇよ! 『新入りの若造』が駆り出されるだけだよ!

 新人だったら爺さん婆さんだって何やかやで理由つけて引きずり出されるって絶対に! やったことないけど多分きっとそう! 大人の学校の世界なんて多分きっとそんなもんだから!!

 

「コホン――。まぁ、自治体のイベントだから、お偉方も結構来るようなのでな。うちの生徒で羽目を外しすぎる輩がいたりすると困るのだよ。だからさ」

「ああ、なるほど。それなら納得です。お偉方の前で、それはヤバいですからね」

「だろう? たとえば雪ノ下の家なんかは来るんじゃないかな」

 

 言われて思い出す、我らが奉仕部部長の輝かしい“実家の”経歴。

 地元の名士といっていい家柄で、県議会議員で地元企業。

 協賛の一つくらいはしてそうな金持ちなので、来賓かなんかのVIP席に招かれてても不思議はない。世の中イベント事だろうと何だろうと金である。

 

 ・・・・・・ん? そう言えば雪ノ下の家族がらみで誰かいたような、いなかったような・・・・・・先日会ったばかりのような、印象が胸ばっかりしか残ってないような・・・・・・誰だったっけ?

 いかん、ど忘れしちまって名前が出てこねぇ・・・・・・。

 いや、名字は覚えてるんだよ、雪ノ下と。名前が思い出せなくてなぁ~と、平塚先生から答えを得るため田中角栄方式で誘導尋問しかけてみる。

 

「そ、それにしても姉妹でえらい違う二人ですよね。雪ノ下たちは」

「そうだな。・・・・・・だが、陽乃のようになるのがいいとは言わない。あの子はあの子で自分の良いところを伸ばせば良いと私は思う」

 

 平塚先生は頷きながらも、しばし考えるように腕を組んでから答えてくれる。

 とりあえず、俺は答えを教えてもらえた。『陽乃さん』だな。よし覚えたぞ、これですぐには忘れないだろう。

 また一、二ヶ月したら忘れるかもしれんが、その時にはまた先生に教えてもらおう。田中角栄方式で。

 

「雪ノ下のいいところ?」

「前に言ったろう? 優しくて正しいところさ」

 

 そう平塚先生は、雪ノ下の長所を評する。

 確かに先生は、過去に雪ノ下をそう評してたことがあった――と、思う。多分だけど。あんま覚えてねぇけど。ひょっとしたら記憶混在して別のと混ざった結果かも知れないけれども。

 

 それでも、えーと確か、あの時には・・・・・・そう! 『世界が優しくなくて正しくないから生きづらかろう』とかなんとか言ってた記憶がある!気がする! 気がするのだが・・・・・・

 

 

「・・・・・・雪ノ下って、そんな正しい奴なんですかね・・・・・・? なんか概ね言ってた内容が今までのところ、ハチャメチャなことしか言ってなかった記憶しか俺にはあんまり残ってないんですが・・・・・・?

 なんていうかこう――『死ぬ一歩手前まで練習してから超回復すれば一気にパワーアップできる』とかのサイヤ人部活練習法とか、『肝試しで驚かせて小学生をショック死させていじめ解決』とか『大した推理だ君は推理小説家になった方がいい。殺人鬼と同じ部屋になんかいられるか』とか。

 そんなトンデモ殺人計画の話ばっかりしてた印象がスゴク残ってる奴なんですが・・・」

「記憶が悪意的すぎる! いくら何でも覚えている相手の言葉に偏りがありすぎるだろうが! もう少しまともなこと言ってた発言も覚えておいてやれ本当に!

 あと、最後の言葉は殺人計画ではなく、むしろ被害者の定番セリフだろうがー!?」

 

 怒鳴られて考えて、いやまぁうん。改めて思い出してみたら、確かにその通りだったかもしれないと、ちょっと自分の記憶の不正確さと偏り具合に自信なくなって来ちゃったレベルだったよ。雪ノ下本人にはとても言えないな。

 マジで殺人計画が実行されかねん危険性が出てくるから・・・・・・。

 

「まったく! お前という奴は本当にまったく!!

 ・・・・・・まぁ、それはそれで君も雪ノ下と同じ部分ではあるから、一概に否定だけも出来ないところが微妙なのだがな・・・」

「?? 俺が雪ノ下の何と同じなんです?」

「君も優しくて正しいところがさ。

 雪ノ下とは相容れない優しさであり、正しさでもあるから対立することも多いだろうと思ってもいるがね」

 

 そんなことを言われたのは初めてだった。

 けどまぁ、別に嬉しいと思える言葉でもなかったので、俺としては普通に返すことしかできん言葉でもあったわけだが。

 

 

 

「つまり平塚先生から見て、雪ノ下も俺と同じで、“テクニカルにわがまま自己中野郎(女版)”と言ってた訳ですね」

 

「だ・か・ら!! そういう解釈をするなと言っとろうが―――ッ!!

 人が一応ながらでも褒めてる言葉を、いちいち悪口言ってたように解釈変更するんじゃない! 捻くれてるにも程があるだろうがお前はァッ!!」

 

 

 と、ジメジメして暑っ苦しい夏の日差しに焼かれる昼日中。

 教会の前で出会ったドレス姿の平塚先生から、ラーメン屋の前で怒鳴られた後に隣り合ってラーメン食っただけで夏休みの貴重な半日は終わった。

 

 あんま正しくはなかろうが、高校生の夏休みなんてこんなもんだろう。

 やはり俺の青春ラブコメのない夏休みはまちがってないと実感させられた、そんな一日だった。まる。

 

 

 ・・・・・・あとはコレが、小町の自由研究に使えるかどうかだけが問題か・・・。

 

 

つづく

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