やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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作者流の捻くれ理論がプラスされた捻くれ八幡、最新話が先程できたので更新です。
深夜テンション混じって書いてましたので、それらの所はお許しを…。


32話

 

 19時40分に、定刻より10分押しで花火大会の開幕を告げるアナウンスが流れてから15分ほどが過ぎていた。

 開幕アナウンスが聞こえたときにはパチパチと拍手が起こって、どっかからお調子者が指笛吹くのが聞こえてきて、近くにいたらブン殴ってたかもしれないなと心の中だけで考えて実行しない通過儀礼も終え、要するに今は20時5分ぐらいの花火大会はじまってから少し経った頃合い。

 

 そんな時間帯の花火会場で俺たちは、本来ならチケット購入しなければ入れない有料エリアに並んで座って花火見物する、VIP待遇を受けていた。

 

 雪ノ下とは胸のサイズが似ていないお姉さんである、陽乃さんの手引きで特別に入れてもらってたからである。

 

「父親の名代でね、ご挨拶ばっかりで退屈してたんだ~。比企谷君たちが来てくれて良かったー」

「はぁ。名代、時代劇みたいっスね。忠臣蔵とかの感じで」

「アハハ、確かに」

 

 という感じに、後半は聞き流して、前半部分だけに着目した俺からの返答はアッサリ流され聞き流されて、なかなか強かな陽乃さんは平然と笑って返答。

 さすがに雪ノ下の姉だけあって、ここら辺は慣れたものといったところなのか、気にもされることはない。

 

「あ、ちなみに大石内蔵助は“城代家老”で、名代とはちょっと違うから間違えないようにねぇ? これテストに出まーす」

「・・・・・・そッスか。勉強になりました」

 

 しかも、相手は相手で後半部分は聞き流してもらえてなかったし・・・・・・この人思ってた以上にやりづれぇ~・・・。

 

「ふふっ、まぁ格好付けずに普通にいっちゃうと、ただの代理なんだけどねぇ。貴賓席って言うのかな、普通だと入れない場所なんだよここって」

「でしょうね・・・」

 

 陽乃さんが子供のような無邪気さで自慢してくるのを――もしくは子供の態度で言ってるだけの事実を聞かされた俺は、周囲をキョロキョロ見渡しながら率直にそう答えるしか言葉が思いつかない。

 

 見え透いた謙虚さは嫌味や皮肉として言ってるだけの行為だが、隠さない自慢は逆に傲慢さを感じさせない時があり、言ってる態度が傲慢でも言ってる内容は単なる事実を述べてるだけの場合がある。

 

 陽乃さんが今言ってたのも後者に属する発言だったようで、事実として彼女から声をかけれて招かれた今いる場所は、花火会場の中でも小高い丘の上にある、かつ打ち上げ場所の正面近くに位置していて、周辺の木々に遮られることなく花火を見物できる一等地といって差し支えない一角だ。

 

 こんな場所、貴賓席としか言いようがないし、本来だったら金払って入る場所に「陽乃さんの知り合い」って事にすればタダで入れて花火見物できて、隙間なく敷き詰められたビニールシート座ってひしめき合ってる庶民を見下ろせるんだから、普通に事実を言ってただけだろ。ハッキリ言って。

 

 雪ノ下の姉の陽乃さんには、それをハッキリと言うストレートさが、ある種のカリスマ性に繋がってるのかも知れない。

 さっきまで彼女の周囲に群がってた取り巻きっぽい人達も、「ごめんなさい、遅れてきた友人が到着したみたい」の一言だけで下がらせてしまい、悪感情を向けてくる様子もなく。

 監視のアルバイトたちも当然のことのように受け入れて、確認の一つもして来なかった。

 

 特権を乱用して身内をヒイキしても、恨まれたり悪意を向けられない気質が、彼女の言動にはあるのだろうと俺は思う。

 これが雪ノ下(妹)だったら、敵作りながらじゃないと特権を使うことすら出来なかったところだったろう。

 

『持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。

 途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、花地大会の会場でビニールシートも持ってきてない男女には救いの手を。それが彼らを貴賓席に招く理由よ』

 

 とか言ってヘイト買いたがりそうな印象がスゲェ。

 コッチだったら事実じゃあるけど、傲慢さと偉そうだなコイツとしか感じなかったろうけど、陽乃さんの言動にはそれが無い。

 やっぱ本物のVIPが持つカリスマって凄ぇな。あと雪ノ下も別の意味で凄ぇな、色々と。

 

「セレブだ・・・」

「まぁね、知ってるでしょ? 私の父の仕事、こういう自治体系のイベントでは強いの」

 

 由比ヶ浜も彼女の話に感心しているのか、呆れてるのか微妙なラインの嘆息を漏らしている。

 尚、こういう話を金持ちから聞かされると、とりあえず『セレブだ・・・』という感想が沸いてくる庶民感覚語彙には、それ言うときに大した意味とか考えて物言ってないこと多いので敢えてツッコんでやらんよーに。

 

「父親の仕事・・・・・・って言うと県議――いや、自治体系だったら建設業の方っスか?」

「お、めざとーい。それによく知ってるねぇ、さすが比企谷君。これは将来、雪乃ちゃんの婿入り候補として入り込むため学んだなこのこの~♪」

 

 そして再び、いつかと同じく肘つっつき高速連射を放ち始める陽乃さん、マジうざギザス。

 ――余談だが、地方の公共事業ってのは東京に本社を置いてる大手に委託されやすく、地元企業は招かれても下請けぐらいでしか関われないのが一般的になってるのが日本の行政で、地元企業にとって県議と仲良くしてもメリットはあまり多くない。

 

 一方で、建設会社ってのは仕事の性質上、不動産関係者と親しい。地方の自治体なんて元は地主とか豪農だった連中が多いんだろうし・・・・・・そりゃ仲良くしといて損はないわな、普通に考えて。

 

 実際この場所も、市長だか関係各所の偉いオッサンだかなんだかが、大会開始前には有り難いお言葉やら祝辞やらいう催眠音波を発生させるための台が、よく見える位置に置かれていて「見せたがってるのよ、聞かせたがってるのよ」というオッサンたちの本音が分かりやすく伝わる立地になってるわけだし。そっちのオマケ超イラねー。

 

「まぁ、それはそうと。・・・・・・比企谷く~ん? 浮気は感心しませんなぁー」

「いや、浮気じゃないですし。そんな甲斐性も金も地位名誉もありませんし。パンピーのモテない条件豊かさ舐めんなってレベルで」

「ふ~ん? じゃあ、遊びかー? 一夜限りの遊び相手と浮気なんて関係になる気は端からないっていうクズ男の理屈か・・・・・・なおさら許せませんなー」

「いたたたた! いや俺、流石にそこまでヒドくはないんですが!? なれる自信もないんですけどっ!?」

 

 出し抜けに耳元で言われた質問に答えただけで、この暴挙! カツオがサザエにやられてるみたいに耳引っ張られて超痛ぇ!? 

 アニメだと、強く引っ張られたら中島を野球に誘う展開になってて軽く見えるけど、実際にやられると結構痛いぞコレ!?

 被害は然程でなくても、ジンジンと地味な痛みが余韻として残り続ける、小さな痛みのエコー超いらねぇ!

 

「痛ぅぅ・・・・・・本気でもなければ遊びでもないですし、テキトーに街歩いてる金目当ての女子高生を連れてきた訳でもないですって・・・」

「なんかヒドい言われ方に私まで巻き込まれてない!? わたしビッチじゃないって昔言ったよね確か!? って言うか、そうじゃなくて!

 ――あ、あのっ。ちょっと、聞きたいことがあって・・・」

 

 と、今まで聞くタイミングを見計らっていたらしい由比ヶ浜が、俺を挟んだベンチの向こう側から陽乃さんに向かって声を掛ける。

 話しかけられた方の陽乃さんは、ぱちぱちっと大きな目をしばたいてから、何気ない素振りで軽く一言。

 

「えーっと・・・・・・なにヶ浜ちゃんだったっけ?」

 

 という、内容自体はわざとらしい質問返しをサラリと返す。

 悪気なさそうな態度を装っちゃあいるけど、まぁ普通に考えて絶対わざと間違えてますって時の言い回しではあったよな。今のって絶対に。

 目的までは分からないが、明らかに陽乃さんは今わざと由比ヶ浜の名字を知ってて、敢えて半端に覚えて半端に忘れたアピールをしていた。

 

 何しろこの人は、スペック的には雪ノ下に匹敵して、平塚先生とかの話では凌駕してすらいた人らしい。

 しかも、リア充として高校生時代を送っていたようですらあるのだ。コミュニケーション能力においては、雪ノ下など「コミュ力たったの5・・・ゴミめ」とか言われかねないほど圧倒的すぎる差がありまくってるハイレベルに違いない。

 

 そんな人が、人付き合いに必須な相手の名前を簡単に忘れる訳がない。

 ――と思ったんだけど、考えてみたら雪ノ下って全校生徒の名前覚えてる割に、けっこう会ってる材木座とか俺の名前はわりと忘れること多い奴なんだよなぁ・・・・・・。

 

 アイツの姉であることを加味して考えた場合、やっぱホントに忘れてるだけの可能性がある気がしてきたな・・・・・・スペック高いのに偶にバカになる部長の部に所属してると、こういうとき判断に困る。

 

「ゆ、由比ヶ浜ですっ」

「あー、そうだったそうだった、ごめんごめん。で? なに?」

「えっと・・・今日って、ゆきのんは一緒じゃないんですか?」

「雪乃ちゃんなら、家にいるんじゃないかな? こういう外向きの場に出るのは長女である私のやることだし。昔から母の方針なの。

 言ったでしょ? 父の名代っていう代理だって。別に遊びに来てる訳じゃないんだから」

 

 陽乃さんは由比ヶ浜からの質問に、冗談めかして答えながら自分を指さしニッコリ笑う。

 それを聞いて俺は、雪ノ下も同じようなことを言っていたことがあったのを思い出す。いつ聞いたかまでは思い出せなかったが、たしか「そういった外向きの場に出るのは姉の役割で、自分は代役でしかない」とかなんとか。

 それはつまり、陽乃さんが父親の正式な後継者として目されてるって事なんだろう。長女が後継指名を受けるってのは、割と順当な流れって気もするし。

 

 少なくとも、次女が姉すっぽぬいて後継指名されるよりかは順当だとは素直に思える。

 後継者争いっつーか、内乱か昼ドラかサスペンス劇場まったなしな展開になりそうな状況だからな。

 『雪ノ下跡取り問題殺人事件! 妹に地位を奪われた姉の歪んだ愛情が雪ノ下の屋敷に悲劇をもたらす!?』・・・・・・って、陽乃さんがヤンデレ化してんじゃねぇかコレだと。

 

「それって、ゆきのんは来ちゃいけないものなんですか?」

 

 だが由比ヶ浜にとっては、それだけでは理由として不十分だと感じたらしい。

 陽乃さんが後継者なのは良くても、この場に雪ノ下がいてはいけない理由にはならない、とか思ったようで、改めて聞かれた陽乃さんの方が逆に少し困った風に微笑むほど。

 

「んー。まぁ、母の意思だし。・・・・・・それに、分かりやすい方がいいでしょ?」

「確かに二人とも似てるから、一人しかいなければ間違えようがないですけど・・・」

「いやまぁ、そういう話でもないんだけどねぇー」

 

 相手の話を庶民感覚で判断したらしい由比ヶ浜の反応に、陽乃さんは困ったような微笑みを深めながら「そういう事じゃない」と控え目にアピール。

 ようは、外向きの見え方の問題って言いたかったって事なんだろう。あるいは、「外から見る連中の視線が問題」ってとこだろうか?

 

 後継者一人だけで、妹は姉に何かあった時用のスペアだと序列をハッキリさせといた方が余計なもめ事もなく、後継者候補争いも起きづらい。

 当主の地位を継げない次男を家臣たちが担ぎあげて反乱とか、戦国大名の家とかでもよくあったし。

 遺産相続権は姉妹で公平に分けあって、妹さんの婚約者である僕にも分け前をとか、サスペンス金持ち一族で未だによくあるし。

 

 そう言うのを避けたいんだろうな、多分だけども。・・・やっぱ『雪ノ下跡取り問題殺人事件』が、雪ノ下がこれなかった理由なのか・・・。

 

「あのね、うちって母が強くて怖いんだよー」

 

 そんな風に、しょうもない事を考えていたら、隣に座っていた陽乃さんが指を頬に当てて、悩ましげに小さく息を吐く姿が視界に映りこむ。

 まぁ、こういう話題の時に考えることでもないんだろうし、相手の立場と自分との関係を鑑みれば不謹慎極まりない発想だと自分でも自覚できてしまう俺がいるのだが・・・・・・。

 

 浴衣姿の巨乳美人な大学生が、指を頬に当てて「ハァ~・・・♪」って小さく吐息する姿って・・・・・・エロいな、と。

 そんなことを、同じ部の部長の家族問題を聞かされながら思ってしまう、思春期男子な俺の青春は捻くれているなホントにやっぱり、うんダメだわ色々と。イロイロと。

 

「それこそ母は、わたしより怖いよ」

「・・・・・・いや、そう言われましても」

 

 くっと顔を近づけてきながら耳打ちして教えてくれた、陽乃さんからの秘密暴露めいた説明だったが・・・・・・俺の中で、あなたの印象は『当ててんのよ♡』なイメージしかないんですが・・・・・・。

 そんな人より怖い母って言われても、どんな母よ? 恐ろしいほどの色気を持った美魔女とかか? ――ひょっとして、銀座とかに店構えて着物姿で出迎えてくれるママさんとかって事なんだろうか・・・?

 そうだとしたら、確かに恐ろしい。恐ろしすぎる。

 

 色気に釣られて、ビール1杯いくら取られるか分からん上に、払えないなんて事になったら『ちょっと事務所の方に来てもらいましょーかアアァン!?』とかアロハシャツの強面オジサンたちが呼ばれちゃいそうだし。

 

 そんな人に出会っちまったら、親父がピンチで比企谷家の財政も大ピンチに陥らされることは疑いない。確かに恐ろしい人だぜ、雪ノ下ママ・・・・・・。

 親父だったら確実に身ぐるみ剥がされちまいそうな気配がビンビンするほど恐ろしい、夜の蝶の女王だぜ・・・(あくまで勝手な妄想だけれども)

 

「うちは元々、母が何でも決めて従わせようとする人だから、こっちが折り合いをつけるしかないんだけど・・・・・・雪乃ちゃん、そういうのへたっぴだから」

「まぁ、そうでしょうね。雪ノ下らしい反応しそうですもんね」

 

 相手の話に、今までの経験と過去の記憶とを重ね合わせて想像し、0コンマ3秒ぐらいで無理だと分かる雪ノ下による雪ノ下ママの教育方針に対する服従成功率。 

 アイツって基本、クールそうに見えて中身ジャンプのバトル漫画主人公並みに、そういうの苦手そうな奴だからなぁー。

 押しつけてくる格上には挑まずにいられない、「私は怒ったわよフリーザー」やりそうなタイプだし。平塚先生ともぜったい相性良さそうなタイプだし。

 

『自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんな行為でささやかな征服欲を満たして何が嬉しいの?』

 

 とか言い返したくなるタイプだろう。少し前に由比ヶ浜にも言ってたことあるって聞いた覚えあるし、少なくとも「言いたい気持ち」には駆られるはずだ。

 で、言えないと。由比ヶ浜と違って言えない相手だから、自分は代理で甘んじるしかなくなってるのが家族内での雪ノ下ポジション。

 

 なんつーかまぁ、家と学校でイメージと立場全然違うなんて、よくあることじゃあるんだけど、身近にいるとやっぱイメージしづらいんだよなぁ。

 いまいち家の隅っこで大人しくして黙り込んでる雪ノ下って想像できん。

 

「だから少し意外だったんだよー。高校入学してから一人暮らししたいって言い出したのは」

「え? ゆきのんが一人暮らし始めたの、入学してからなんですか?」

「そうそう。そういうワガママ言うような子じゃなかったから、父が喜んじゃってあのマンション与えちゃったわけ」

 

 世の父親はなぜか娘に甘くなりやすい論、雪ノ下家にも例外ではなかった説。

 しかも何故だか、大人しい娘だったら、ワガママ言って反抗できたら親喜んでマンション買ってあげちゃうナゾ心理。

 なにか? 父親ってのは娘が反抗期だと好きになるもんなのか? 反抗されると萌えるのだろうか? ・・・・・・微妙に合ってそうで少し怖いな、うちの親父とか本当に・・・。

 変な方向のマゾ趣味じゃないこと願うばかりだが・・・・・・まぁどっちにせよ、『美少女な娘』であることが必須条件だろうしな。雪ノ下も見た目だけはスゲェいいし。

 

 父親だって男の子だから美少女には弱いのは仕方ない説。

 

「母は最後まで反対していたし、今も認めていないんだろうけど・・・・・・」

「父親とは仲がいいって事ッスか?」

「おっと、気になっちゃうかね。義父が」

「いや、岐阜とか言われても滋賀県と見分けつかないですし。稲葉山城とか戦国遺跡とかまったく全然興味ないですけど」

「うーん、12点。戦国好きのさり気ないアピールも11点」

 

 そして、見た目はふんわりした態度で、採点は辛めの陽乃審査員。自信なかったけど、やっぱダメか。

 

「まぁ、岐阜だろうと義父だろうと、男には興味ないですけどね。男なんで」

「あ、そっちはちょっと面白いかも。32点」

 

 そして、変なところで微妙に点数が上がる、見た目はふんわり巨乳な雪ノ下陽乃審査委員長。・・・・・・判定基準わかりづれぇから参考にならねぇー・・・そして上がった点数も高くねぇ・・・。

 

「じゃあ、面白かったご褒美に正解。仲がいい、っていうのとは少し違うかな。母が強いから、父はそれをフォローする役回りってだけだと思うよ」

 

 その説明に俺は当初『グッドコップ、バッドコップ』という言葉を連想させられたが、即座に違うなと分かって心の中でかぶりを振る。

 

 「グッドコップ、バッドコップ」は怪力バカっぽい新米刑事とかが容疑者を脅して、温和そうに見えるベテラン刑事が新入りの勇み足を宥めて、『コイツには言いたくないだろうが俺には教えてくれないか?』とかやるような交渉術の一つのことだが・・・・・・これだと雪ノ下父娘の関係性には合っていない。

 

 強面の新米は、いさめ役の温和そうなベテランをフォローすることは出来ないし、情報を聞き出したい訳でもない。

 タイプとしては、まだ『飴と鞭』に近いとも言えるが、鞭のフォローするだけだったら、飴と呼べるほどのガス抜き効果はないだろう。

 

「もっとも、わたしも雪乃ちゃんも、それを分かってるから予定調和なんだけど・・・・・・」

「面倒くさい姉妹関係と、面倒くさい親子関係スね・・・・・・」

 

 しかも改めて説明追加されて、思わずゲンナリさせられる。

 単に、母ちゃんの言うとおりに手伝いするから小遣いくれって、父ちゃんに言いに行ってるだけじゃねぇかソレ・・・・・・うちじゃん。

 母ちゃんより立場の低い父ちゃんの方が、言いやすいから言ってるだけじゃねぇか。うちだよ、俺もよくやるし、やってるよ。小町なんかもっとやりまくってる程まである。

 

 そんな俺からの反応を気にすることなく考慮もせず、陽乃さんは美しい笑顔を崩すことすらないままに今度は由比ヶ浜へと声かける相手を変更し、

 

「で、今日は二人で夏祭りデートだったりしたのかな? だったら邪魔しちゃってごめんね」

「い、いえ。別にそういう訳では・・・」

「ふぅん? その照れ方は怪しいなー。・・・・・・けどまぁ、もしデートだったんなら・・・」

 

 からかうような声音で言いながら、一方で油断なく由比ヶ浜を観察しながら話てるっぽい陽乃さん。

 そんな彼女の姿が一瞬だけ、花火の谷間に入ったことで暗くなり、顔の輪郭は見えても瞳までは見ることができなくなった。

 

 その瞬間。

 

 

 

「・・・・・・・・・雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」

 

 

 ぽつりと、彼女がそう呟いた言葉と重なるように、花火が打ち上がる断続的な音が響き渡る。

 明滅する空。黒のスクリーンに残った光の残像と、風に乗って香ってくる火薬の臭い。

 その中で時折、照らし出されるように見える陽乃さんの穏やかな微笑。もしくは、穏やかな微笑の仮面で隠したナニカの表情。

 

 なんとなくの想像に過ぎない感想だったが・・・・・・俺は先程の瞬間に、彼女の目の輝きは星のない夜空よりも暗いものになってたんじゃないだろうか――そんな印象を後になった余韻として受けさせられることになる。

 

「あの、今のって・・・・・・」

「ん? なぁに?」

「あ、いえ、その・・・・・・なんでもないです」

 

 目ざとく俺と同じ光景を見つめていたのか、由比ヶ浜が口を開いて尋ねようとするが、陽乃さんは明るくはしゃいで花火に夢中で気付かなかったフリ。

 由比ヶ浜もそれで黙り込んで会話終了。沈黙がおりる。

 

 ・・・・・・まぁ、コイツの場合はこういう返しをされちまったら、それ以上は言えなくなるタイプだからな、っていうか普段から自分が同じような逃げてる常習犯だもんな。自分の時だけ都合良く適用は、コイツも雪ノ下同様に得意なタイプじゃ全くない。俺もだけどさ。

 

 結果として、相手から「いま私なにか言った?アピール」をされてしまうと追求の言葉なくすしかない由比ヶ浜さん、空気読めないけど相手の顔色だけは読みまくれるマジ風見鶏。

 

 

 三人して黙り込んでる内に、「たたたんっ!」と銃声のような短い号砲が続いて、夜空にパラパラと光の花が咲き乱れる。

 それを見た陽乃さんが、「おー」と、あどけない仕草で拍手をしていた。こういう仕草も雪ノ下にはないものだ。

 

 単に外からの視線で、どう見られるか理解してやってるだけの行動かもしれんけど、どっちにしろ雪ノ下にはそういう他人から見られる目を気にしての行動とか出来なさそうな事実に変わりはない。

 

 

『わー☆ キレイ♪ 今の花火、雪ノ下的にポイント高い~♪』

 

 

 とか、あざと可愛い仕草で周囲からの人気を得るようなハイブリッドぼっち行動をとるようになった雪ノ下は・・・・・・ダメだ。想像できねぇ。

 姉の陽乃さんにはなれないって言ってた雪ノ下だけど、小町と同じ行動もたぶん出来ないだろうな。全然キャラが合ってねぇにも程があるし、むしろ逆に少し怖ぇし。

 

 外見は似てるけど根っこが違い、なのに同じ方向を向いてはいるように感じられる姉妹。

 ・・・・・・だが、特定部位と性格の一部が、同じ方向へ向かって成長できない呪いが掛けられてるんじゃねぇかって思えるほど、微妙な違いが『女の子的に』大きな差を生じさせてるっぽい雪ノ下姉妹のDNAが少し不思議だったが・・・・・・言えるわけねぇよな、こんな感想。

 

 ぶっ飛ばされるのがオチそうだったので、話を逸らす必要性を感じた俺は話題を転じさせようとして、

 

「あー。・・・・・・雪ノ下さんは・・・」

 

 ・・・・・・そして、いきなり言葉に詰まる。呼び方を決めとくのを忘れちまってたのを今更になって思い出したのが原因だった。

 考えてみれば、俺が彼女の固有名詞を声に出して呼んだことは今まで一度もなく、心の中でだけ「陽乃さん」と名前呼びし続けてきてたけども、それは単に「雪ノ下」と先に出会っていたからで、陽乃さんと先に合っていた場合は「雪ノ下さん」で定着してたような・・・そんな感覚。

 

 平たく言って、知人のお姉さんとプライベートの場で、知人がいない時に出会っちまった時に、どう呼んでいいのか分からない状況に今の俺は陥っていたのである。

 「お姉さん」だと、なんか大志くせぇし、陽乃さんとファーストネームで声に出して呼ぶほど親しくもなく、だが「雪ノ下」だけだと妹の方と区別がつかない。

 

 そんな理由から、とりあえず雪ノ下と同じ名字に「さん付け」で呼んでみたのだが、陽乃さんは俺に向かって「にこっ♪」と小町スマイルで微笑むと。

 

「ん? 私のことなら陽乃さんでいいよ。それか、お義姉ちゃんでも可。むしろ推奨」

「はっはっはっはWWW」

 

 思わず「ありえねー」な笑い声を漏らしてしまう俺。

 ないわー。その呼び方はないわー。呼ぶわけないわー。

 ・・・っつか、一応は同じ学校で、所属してる部の部長でもある同級生が『雪ノ下』で、その姉ちゃんが『陽乃さん』って、どんだけ妹がオマケ扱いされてんだよ。完全に他人じゃねぇか、お邪魔虫状態じゃねぇか。妹が病みそうだから辞めてあげなさい。

 

「じゃあ、『雪ノ下のお姉さん』で」

「・・・・・・うわー、斜めちょっと上の反応~。なかなか捻くれてるなぁ-、もう。捻デレ可愛いだね」

「――すんません、その表現マジ辞めてください。なんか身近な奴の顔が浮かんじまって・・・」

 

 超近い距離にいるヤツと同じような言い方されてゲンナリさせられるしかなくなる俺。

 くそぅ、この人ちょっと苦手だな・・・・・・雪ノ下の上位バージョンの見た目で、小町の上位互換の中身ってどんだけ厄介なんだよ本当に・・・。

 

「雪ノ下のお姉さんは、うちの卒業生だったんすよね」

「おおぅ、その呼び方でホントにいくんだ・・・まぁ面白いからいっか。

 うん、そーだよ。比企谷くんの三つ学年上」

「じゃあ、ゆきのんのお姉さんは二十歳ってことですか?」

「んー、こっちは惜しい! まだ19歳だよ。私、誕生日遅いんだー。

 ――それと、陽乃でいいよ? 長いし、なんだったら、はるのん♪でもいいし~」

 

 蚊に刺されたときの塗り薬みたいな、ニックネームっぽい名前を持ち出して笑う陽乃さん。あるいは誰かからホントに呼ばれたことある渾名だったのかも知れない。

 意外にシックリ来るからな。由比ヶ浜も「ほえー」と興味深そうに頷いていて、

 

「まぁ、比企谷くんのと同じようなペアルックあだ名で呼びたいんだったら、別にいーんだけど」

「い、イヤです! 違います! じゃあやっぱり陽乃さんでっ」

 

 そして今度は俺を引き合いに出された途端に、全力で首振って拒否しまくる由比ヶ浜さん。なんでだよ。少し傷つくじゃねぇか、少しだけだけれども。

 

「えっと・・・・・・ってことは陽乃さん、大学生ですか?」

「そ。近所の国立理工系だよん」

「あ・・・頭いい・・・・・・。さすがゆきのんのお姉さん」

「本当はもうちょっと上行きたかったんだけど、親に言われてねー。特に母親から」

「アハハ、うちのママもそんな感じです。ゆきのんの家もやっぱり同じようなところあるんですねっ」

 

 感心したように驚いた後で嬉しそうに笑う由比ヶ浜と、またも複雑そうな微笑を浮かべる陽乃さん。

 その表情の差はさっきのと同じように、「そーいう話ではない感」を強く感じさせられたが、俺が口挟むような事柄でもないので敢えて無視して、出されてる料理を食べるのに集中。

 

 ふむ。しかし・・・・・・雪ノ下の家が建設関係の会社経営で、県議は永続できる職業じゃないってこと考えれば、地元の名門大学に行かせて将来のためのコネを作っておくとかが考えられる進学目的だが・・・・・・姉妹だからな。

 

 侍の家が後継者争いで揉めるのも、跡継ぎの子供が複数いたときの話であって、跡取り候補になる息子がいなくて娘ばっかだったって例も結構あったし。

 そういうの気にしてるお袋さんかどうかは会ったことないから分からんけど、金持ち家系で娘しか子供がいないって状況は、遺産相続の殺人事件起きる場合の定番ではあるからな。

 少しは気にしといた方がいいのかもしれない、『雪ノ下跡取り問題殺人事件』

 

 そんな風に再び俺が、しょうもない思考に耽りながら焼きソバに舌鼓を打っていたときのことだった。

 

 

「あ、じゃあゆきのんの進路志望と一緒なんですね」

 

「―――・・・・・・」

 

 

 何気ない口調で口にした、由比ヶ浜からの一言を聞いた瞬間。

 一瞬だけ、陽乃さんの動きが鈍り、時が止まった。・・・・・・そう感じさせられるほど不自然なまでに生じた、彼女の言動の「静」と「動」その格差。

 

「―――ああ。雪乃ちゃん、国立理系志望なんだ・・・・・・」

 

 その後に奇妙な間をわずかに開けてから発せられた言葉の内容と、嘲笑にも似た微笑みが不調和だった。

 穿った見方で雪ノ下陽乃という人を見ていることを自覚する俺だから感じただけの錯覚かも知れないし、偏見と誤解に基づく捻くれボッチらしい決め付けでしかない可能性も否定しようがなかったが・・・・・・。

 

 ただ俺には、陽乃さんが真実、雪ノ下の行動を微笑ましく思っているように感じられていた。

 

「昔から変わらないなぁ・・・・・・。お揃いで、お下がりばっかりで・・・・・・」

 

 微笑ましくも可愛らしい、「自分のマネをしたがる妹」という存在を。

 自分の予想できる行動しかせず、自分を不快にさせるような行為を一切しない、良い子の妹として、正直に微笑ましいものを見る目で見下ろしながら哀れんでいる。そんな印象。

 

 もっとも分かりやすく言っちまえば、『飼い主になつく飼い犬は可愛い』『飼い主に噛みつくバカ犬は可愛くない』・・・・・・そういうタイプの微笑ましさを感じている状態の人と同じような臭いが、先程の陽乃さんには微かに、だが確実に感じられた。ような気がする。

 

「あの・・・・・・」

「うん? なにかな、由比ヶ浜ちゃん」

 

 そんな陽乃さんの仕草と微笑みを黙って見ていた由比ヶ浜が、膝の上で「ぎゅっ」と握った拳を僅かに震わせながら、思い詰めたような表情で彼女に問う。

 

「・・・陽乃さんは、・・・・・・ゆきのんと仲良くないんですか?」

「やだなぁ。そんな事ある訳ないじゃない。私は雪乃ちゃんのこと大好きだよ」

 

 その問いに対して、考える間すらなく返される即答。

 言いきった後に暖かな微笑みまで浮かべながら、完璧と言って差し支えないタイミングで返される、「答えになっていない答え」を語る言葉と仕草。

 

「ずーっと私の後を追いかけてくる妹のことが、可愛くない訳ないよ」

 

「つまり、“姉的には可愛く思ってるけど”、“妹の方はそうじゃない”っぽいから“好きなだけで仲は悪い”ってことっスかね」

 

「―――・・・っ」

 

 予想済みだった予定通りの攻撃に対する迎撃スケジュールの合間を縫うようにして、ボソッと一言だけ付け加えて混ぜっ返してから―――焼きソバを食う作業に戻る俺。

 

 実際、彼女は『自分が妹をどう思ってるか』しか先程から語っておらず、姉妹関係が姉からの一方的な愛情だけで成立するものでもない以上は、いくら陽乃さんから妹への愛情を聞かされたところで「雪ノ下との姉妹仲が良いのか悪いのか?」という由比ヶ浜からの質問に対する解答にはなれようがない。

 

 言うなれば、先から語っていた陽乃さんの説明は、彼女の主観だ。

 彼女から見た雪ノ下がどう見えているかだけを語っていた言葉であって、自分が相手をどう思っているかだけの主観的な他者評価など、相手にとってはムカつくだけでしかない場合は幾らでもある。ソースは俺。焼きそばのソースうまうま。

 

「・・・・・・そーいう、由比ヶ浜ちゃんはどうなのかな? 雪乃ちゃんのこと好き?」

 

 一瞬だけ俺を見て、冷たく瞳を細めていたように感じられなくもなかったけど、怖いので目を逸らして焼きソバ食ってた俺にはよく分からないまま、それ以上の追撃をされることなく話題は由比ヶ浜に戻って直接的な言い方に面食らわされ、

 

「す、好きです! かっこいいし誠実だし頼りになるし、でも時々すごいボケかまして可愛くて、眠そうにしてる時とかキュンキュンして。

 それに分かりづらいけど優しいし・・・・・・。えーっとそれから、ああ、あはは、なんかメチャクチャなこと言ってますね、あたし」

 

 つっかえながらも慌てながらも、照れ笑いを浮かべながら一生懸命、雪ノ下の良さを語るための言葉を紡ぐ由比ヶ浜。

 ・・・・・・コイツ一体どんだけ雪ノ下のこと好きなんだよ・・・恋人でも滅多にいないレベルで雪ノ下愛を語られちまって、同席しているコッチが恥ずかしくなっちまったんだけど・・・下手に口出しできない百合色ムードみたいになってて困るんだけど・・・・・・とりあえず焼きソバ食おう。食って間を持たそう。手持ち無沙汰は食って誤魔化すボッチの処世術。

 

「そう・・・・・・それなら良かった。

 みんな最初はそう言ってくれるんだよ。でも最後はみんな同じ、雪乃ちゃんに嫉妬して憎んで、雪乃ちゃんを排斥し始める。・・・・・・あなたは違うといいなぁ」

 

 由比ヶ浜の返答を聞かされて、ほんの僅かな間だけ彼女には似つかわしくない慈愛とも呼ぶべき表情を浮かべた直後に、「にこっ」と笑った壮絶な笑顔を作って威嚇するような瞳で続きの言葉を付け加える。

 

「・・・・・・そんなこと、しないです」

 

 そんな陽乃さんの恐ろしいほど可憐な笑顔に気圧されながら、それでも視線を逸らさず睨み返しながらも、ささやかな抵抗の言葉で対抗しようとする由比ヶ浜。

 そんな彼女の青い反応を受け、肩をすくめながら陽乃さんは俺の方へと視線を移し。

 

「比企谷くんはどうかな? 私の言いたかったこと、分かるよね?」

「ええまぁ、一応は」

 

 問われた俺の方でも、軽く肩をすくめながら謙虚な言葉で控え目に賛同。

 分からないはずもないし、散々に見てきたことでもある。 雪ノ下に限ったことでもなければ、出る杭は打たれるとかの話ですらない。

 集団の仲で優れた存在は排除されやすいってことぐらい、今時のボッチだったら誰もが知ってる常識でしかないだろう。

 

 

 ただ、より正確には「優れた存在であること」は別にどーだっていいんだ。集団にとってそこは問題じゃあない。

 彼らにとって重要なのは、その優れた存在がもつ優れた部分が『自分たちに都合の悪い方に作用するか否か』それだけが彼ら多数派にとっての重要事項。

 

 自分たちの得になる方に作用する優秀さだったら、集団にとって有り難い存在で尊ばれるだけだろう。葉山隼人なんかは代表例と言っていい。

 

 一方で、自分たちにとって心理的や物理的に目障りだと感じさせられる優秀さを持つヤツ、自分たちとの差を見せつけてきて劣等感を感じさせてくる優等生、自分たちの一員に馴染もうとしない自分たちより優れた存在。・・・・・・そういうのはソイツらにとって邪魔でしかない。

 邪魔でしかないものは排除するし、自分たちの邪魔をするヤツが全部悪い。そいつだけが悪い。

 そいつが自分たちを不愉快にさせしてこなければ、自分たちは何も手を出さなかったんだから自分たちは悪くない、そいつ一人だけが全部悪い。

 そーいう数の暴力で自分たちの都合のいい理屈が一方的に正しくて、『みんなに合わせない方が全部悪い』と自己正当化の言い訳するため利用する。

 

 自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉えて、自己と周囲を欺き、青春の1ページとするため利用することしか考えようとしないのが、そういう奴らで形成された集団の特徴というものだった。

 

 万引きや集団暴走といった犯罪行為を「若気の至り」と呼んだり、試験で赤点を取れば「学校は勉強するためだけの場所ではない」と言い出し、自分たちが犯した過ちには特別性と正当性を認めるよう強く主張しても、他者が同じ過ちを犯した時にはただの過ちであり、過ちは罰せられるべきものだと断罪しか主張したがらない。

 

 雪ノ下なんかは、そうされるタイプの代表格だろう。

 他のヤツより目立つ劣ってる部分でもあれば、その部分でプライド満たせて妥協しやすくなるんだろうけど、雪ノ下の場合はそれが無い。

 三浦なんかは女王様だけど結構バカだし、その点で周囲は妥協できてんだろうけどな。

 

 「集団において優れた存在は排除される」って論法も、結局のところは欺瞞に満ちた、責任を優れた存在自身に押しつけるための詭弁に過ぎない。

 

 もし仮に、優れた存在が集団において排除される条件であるのなら、材木座義輝は優れた存在の長である剣豪将軍になってなければおかしいではないか。

 しかし「優れた存在だから排除されたのだ」と主張する集団を形成する一員たちは材木座を排除はしても、決して自分たちより優れた存在とは認めないだろう。所詮すべては彼らの、ご都合主義でしかないのだ。

 

 やはりリア充は悪だった。またしても俺の理論が正しかったことが、花火大会の場でさえ証明された瞬間だったのだが・・・・・・流石にあんま会ったことない人相手に自分の理論語り出すのは、ちょっと恥ずかしいしな。少しだけ遠回しに答えとこう。

 

 

「つまり陽乃さんが言いたかったのは―――雪ノ下が、『かっこよくて頼りになるが、時々すごいボケをかまして、眠そうにしてる時にキュンキュンして、分かりづらい優しさを持ってるヤツだ』・・・・・・と。

 そう最初はみんなから言われてたのに、最後はみんなから嫉妬されて憎まれて排斥される過去を持ったヤツって事ですよね・・・・・・」

 

「なんか混ざった!? しかも繋げたらスゴク悪い子になってない、ゆきのんのイメージ!?」

「あー・・・・・・まぁ、確かにあそこまで言ってくれた子は、今まであんまりいなかったわね。ごめんね、由比ヶ浜ちゃん。流石にあそこまで言えちゃう子がいるとは思ってなくて・・・悪気はなかったのよ? 本当よ? だからその・・・・・・ごめんなさい」

「しかも何か私があやまられてる!? 私が悪いこと言ったみたいになってないかな!? 私なにもゆきのんの悪口言ってないよね! ねぇ!?」

 

 ギャーギャーと、俺から告げられた驚愕のまとめ新事実によって雪ノ下の知られざる側面が明らかとなり、大喜びで騒ぎ始める由比ヶ浜と、ケラケラと楽しそうに笑ってアドリブ参戦してくれた陽乃さん。

 

「うふふ~♪ さっすが比企谷くん。その腐った目に相応しい捻くれた言い分好きだなぁ~。普段はフツーに変に悟って諦めてるのに、変なところで思いっきり変な方向にいける道を見つけ出せちゃう、変な悟り方してるところ私好きだよ♪」

 

 そう言って冷たい瞳で微笑みながら、まったく褒められてる気がしない褒め方で褒めてくれる。

 まぁ実際、まったく褒めてなかったんだけども。「そういう考え方してるのが好きだ」と言ってるだけであって、別に優れてるとも優秀だとかの褒め言葉は一言も言っておらず。

 

 せいぜいが、「個人的な趣味趣向としては好み」という程度のものだろう。

 お笑いファンの女子高生が、ハゲでデブのオッサン芸人の芸風が大好きだったとしても、その芸人と付き合いたいとか結婚したいとか思うかどうかは別問題みたいなもんだと思うべき言い回しでしかない。

 

 叙述トリックというほどのものでもなく、ただ「好き」と言われて「褒められている」と解釈したがるリア充思考で考えてるかどうかの問題。

 訓練されたボッチが引っかかることなどあり得ない、初歩的な謎かけでしかないのだよ明智くんフフフ・・・。

 

「で、比企谷くんは? 雪乃ちゃんのこと、好き?」

 

「少しでも嫌いだったらハッキリ言いますし、すげぇバカにしてるところだったんですけど、そうできないのが残念なヤツだと思ってますかね」

 

「・・・・・・・・・は?」

「それ何か聞いたことある!? すっごく最近に似たようなこと言われた覚えあるんだけどー!?」

「気のせいだ。だから気にするな」

 

 

 夜は更けていき、花火大会は粛々と進み、空に金色の幕が降りようとしている中。

 何故だか俺の周囲は先程から、騒ぎが今夜最高峰に達し掛かってきている気がしなくもなく。

 

 そんな感じでラストを飾るゴールデンシャワーに盛大な拍手が送られて・・・・・・花火大会は終わりを告げる。

 

 別に間違ったことも間違った解答も何一つすることはなかったと自己評価している俺にとっての高校二年最後の夏休み花火大会だったのだが・・・・・・何故だろう?

 

 どういう訳だか俺は、なんか青春を間違えて、捻くれを犯してしまったような気がして仕方のない、そんな花火大会の一夜であったとさ・・・。

 

 

 

つづく




*『謝罪文』
何日かに別けて書いてたせいか、今気付いたら今話も文字数スゴイことになってたんですね……申し訳ない(土下座)
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