やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
本当の意味での完結篇を、短いながらも出してみました。
時間かけて、日にち置きながら書いた弊害とは言え、どうも気になる…。
花火大会のラストは思っきしギャグっぽく締めたい作者の願望。
―――それは、夏休みが終わる寸前に起きた最後のイベントのとりを飾った終章の出来事だった。
「さて、花火も終わりだね。
私は混む前に帰るけど、比企谷くんたちはどうする?」
花火大会のラストを飾るゴールデンシャワーで飾られるのを見届けて、陽乃さんは立ち上がって振り返りながら、俺たちに視線と共に問いかけられて、人混みで身動き取れなくなるのがイヤな俺たちもさっさと帰る道を正解として選び取る。
「あたしたちも帰ろっか」
「そうだな」
「それじゃあ、車置いてるとこまで一緒にGO~♪」
そして、なんとなく三人揃って歩き始めて移動。有料エリアの脇から駐車場へと繋がる小道を進んで、前にも見たことあるハイヤーが「す~」っと近づいてくるところまで一緒に来たとき。
「よかったら送っていくけど?」
「え、えっと・・・・・・」
「・・・・・・」
なんとなく俺は、彼女からの質問に答えることなく、思わず「ジッ」と見つめてしまった見覚えのある、おそらくは見間違いでもないハイヤーの、その側面を――
「そんなに探しても見えるところに傷なんて残ってないよ」
と陽乃さんがクスクス笑って、由比ヶ浜はピクリとも笑わず、俺は黙って相手を見つめる。沈黙が流れた。
「あ、あれ? 雪乃ちゃんに聞いてなかったんだ。悪いことしちゃったかなぁ・・・」
「じゃあ・・・・・・、やっぱり・・・・・・」
陽乃さんの申し訳なさそうな、嘘は吐いてなさそうな軽い声と。
由比ヶ浜の小さな、かろうじて聞こえる声が交互に聞こえる。それでも空気だけは重いまま。
「あ、でも勘違いしないでね。雪乃ちゃんが悪いわけじゃないんだから。あの子はただ乗っていただけだし、何一つ悪いことはしていない。
それでいいよね? 比企谷くん?」
「・・・・・・ええまぁ、そーっすね」
俺にとっても相手から聞かされた内容は初めて聞く内容だったが、それでも結局はなにも変わらない。
そのときに雪ノ下が関わっていても関わってなくても、何も変わらないんだったら同じことだ。事実が揺らぐことは何もない。
「事故起こしたのはアイツな訳もないんでしょうし、なら別に無関係でどーでもいいと思います」
自分でも思っていたより冷たい声でそう答えて、俺は気にしていないことを示すために少しだけ大げさにジェスチャーして意思表明。
・・・・・・だって未成年で、高校二年生だしなアイツ。運転免許取れる年齢じゃねぇし、乗ってるだけで運転できねぇもん。普通に考えて。
いや、事故起こしたときは入学式だから高校一年か、その前か? ・・・完全に白じゃねぇーか・・・。むしろ関わってた時点で黒になるわ。関わってただけでも道交法違反でしょっ引かれる資格を得ちまう羽目になるわ。
普通に考えてやらん。あんな公道をハイヤー使って、金持ちお嬢様が無免許運転して走り出す青春なんて、歌の中ですらやってるバカは滅多にいない。
だから雪ノ下無罪、これ確定。本気で揺るがしようがない事実としか思いようがねぇ・・・。
「それに済んだ話ですしねー。振り返っても暗くなるだけの過去は振り返らないのが俺の主義なんです。いちいち全部を振り返ってたら、それだけで人生真っ暗でしょ? 大抵の人はほとんどの場合、ほぼ全員が同じように」
「・・・・・・まっ、確かにねー。みんな戻れるんだったら、“あの頃に戻ってやり直したい”とか私もよく聞かされてる話だし、もう終わった話として片付けれてるなら別にいいか」
そんな感じで俺らは別れ、『終章の序盤』は終わりを迎える。
そして電車に乗って駅まで帰ってきて、由比ヶ浜の家の近く辺りまで着たころに、隣を歩く女の子からポツリとした声で口が開かれる。
「・・・・・・あの、さ・・・ヒッキーは・・・・・・、ゆきのんから聞いてた?」
「いや、聞いてない」
その質問が、答えを知っているのに聞いているタイプの質問だと知った上で、俺も答える。
知っていて聞いてきてる質問である以上は、答えない限りは話は先に進められない。それを知っていたから。
「お前は聞いてたのか?」
「――うん。でもね、言えないことってあると思うんだ。タイミングを外すと、どうしてもね・・・あたしも、そうだったし・・・」
そう語る由比ヶ浜自身、交通事故のときの犬が『東京銘菓』だったことについて教えられたのは一年以上後の俺から露見したときだったか確か? あんま覚えてねぇけど、あの後なんかギクシャクしたことだけは記憶にある。
「まぁなんだ。事故のことも、あいつの家のことも知らぬ存ぜぬでいいんじゃねぇの。どーせ俺らには何も出来ないんだし」
「知らないままで、いいのかな・・・・・・」
俺が、『だから気にするな』という意味で伝えてやった言葉を聞かされても由比ヶ浜の気は晴れないようだった。
別に知ることが悪いことだとまでは思わないが、知らないことが悪いことだとも思えない俺としては、そこまで気にしたところで意味のない問題だと感じさせられたが彼女にとってはそーでもないと言うことなのか・・・。
「とは言うけどな・・・・・・現実問題として、俺らなにも出来ねぇし、してやれねーぞ? 雪ノ下家の家庭の事情問題に対しても、過去に起きて終わっちまった後の事件にも何一つ役に立つことはないと思うんだが・・・」
「うぐ・・・そ、それは・・・そうかもしれないけど・・・・・・でも、あたしは知りたい、な・・・。お互いよく知って、もっと仲良くなりたい。困ってたら力になりたい」
そう言い切って由比ヶ浜は彼女なりの答えを出したのか、先導するように一歩前へと歩き出し――そして振り向く。
「だからヒッキー。もし、ゆきのんが困ってたら助けてあげて」
・・・・・・何の根拠もなさそうに思える、なのに絶対的な信頼を込めて言われた彼女からのお願いに対して、俺は自分がどーいう答えを返したのか正確なところは覚えていない。
「あら、久しぶりね」
「おう。ご無沙汰」
覚えているのは翌日以降のことだ。
夏休みが明けて学校の校舎で雪ノ下と久しぶりに再会したときに交わした短い会話内容。
―――その中で感じさせられてしまった、俺の中での彼女の感情。
「・・・・・・姉さんと、会ったのね?」
「ああ、たまたまな」
「そう・・・・・・」
下駄箱で一緒になって階段上って、教室違うから離れ際に。
「あの・・・・・・」
「――部活、今日から始めるのか?」
「え、ええ・・・・・・そのつもり、だけれど・・・・・・」
「了解。また後でな」
それだけ告げて背中を向けながら―――俺の中では久々の自己嫌悪で吐き気がでそうな思いに俺は駆られていた。
俺は基本的に自分のことが好きだし、自分の考え方だって嫌いじゃない。自らエリート捻くれボッチになる道を選んだ優良人種としての自分には誇りを持っていると言って過言ではないと自負してもいる。
なのに―――ああ、それなのに・・・・・・今この時だけは初めて自分を殺したいほど嫌いになりそうだった。身勝手で理不尽でバカな感情論に振り回されて自己正当化に浸ろうとする己自身がイヤでイヤで仕方がなかった。
勝手に期待して、勝手に理想を押しつけて、勝手に理解した気になって、そして勝手に失望する。
何度も何度も戒めても、それでも結局また期待して裏切られたと、勝手に相手のせいにする―――。
そんな風になる道を、俺は捻くれエリートになることを自ら選んで遠い昔に捨ててしまったはずなのに・・・・・・。
それなのにまだ俺は、雪ノ下雪乃ですら、『そういう類いの嘘を吐く』という事実を知ったことで、許容したくないと感じてしまっている自分の中の自分が残っている自分自身に・・・・・・溜まらなく嫌な感情を感じずにはいられなかった・・・・・・
『――それで、そのぬぼーっとした人は?』
と平塚先生に聞いてきた、俺が奉仕部に初めて訪れたときには既に彼女は、俺のことを知っていて知らないフリして今日まで過ごしてきていたのだと知らされた、サスペンスの信じていた友に欺かれていた被害者キャラクターと同じくらいに・・・・・・。
今の俺は相手以上に、嘘を信じ続けてきてしまっていた今までの俺自身を許すことが出来そうにない・・・・・・。
―――そして、そんな気まずい再会の仕方をしてから数日後のクラス内での出来事だった。
【文化祭出展企画】2年F組 海老名姫菜
ミュージカル『星の王子さま』
概要:あの名作「星の王子さま」を、葉山隼人を筆頭とした人気キャストで完全舞台化!
ターゲット:総武高校女子、他校女子、保護者女性。
キャラクター:
☆「ぼく」・・・・・・やさぐれ気味の飛行士。砂漠に不時着したせいで更にやさぐれが悪化。
☆「王子さま」・・・・・・純真無垢な美少年。純粋さゆえの言葉責めが得意。
☆「王様」・・・・・・自尊心が強く、体面を保とうと必死。命令口調なオレ様タイプ。プライドを粉々に砕いてやりたい!
☆「うぬぼれ男」・・・・・・認めてもらえていると自惚れているが、本当は自分に自信がないシャイな青年。この手の奴が一番落としやすい。
☆「酒飲み」・・・・・・酒に溺れている。たぶん昔の男のこととか思い出して自らの境遇にも酔っている。口説き文句は「酒に溺れるより俺に溺れろ」
☆「ヘビ」・・・・・・王子さまを毒牙にかける。
あらすじ:
砂漠に“腐”時着した飛行士の「ぼく」
修理しようと四苦八苦しているところに、ショタい「王子さま」が現れる。
会話を重ねていく内に、次第に惹かれ合う二人。
やがて挑発するように王子さまが華麗な男性遍歴を披露し始め、嫉妬に身を焦がす「ぼく」だが思いは届かず、ヘビに「王子さま」を寝取られてしまう。
そして「ぼく」は気付くのだ。大切なものは目に見えない、本当の愛とはなんであったかという真実に・・・・・・
・・・・・・そんなイイハナシを、文化祭で俺たちのクラスがやる出し物の候補としてアイデア募った結果、海老名さんからの正直な趣味暴露を、けっこうな厚みを持った企画書という形として俺は今の今まで読ませられている最中だった・・・。
クラス中に重苦しい雰囲気が立ちこめる中。
「ちょっと恥ずかしいな・・・」
と、照れた表情でしなを作って、腐ロイライン海老名は正直に恥ずかしがってくれるのだが・・・・・・その姿を見た俺は、改めて思わずにはいられない。
――【雪ノ下雪乃でさえ嘘を吐く】・・・そのことに理屈とは関係ない理由で、どうしようもなく湧き上がってくる感情を抑えられない自分に自己嫌悪を感じずにはいられなかった俺だったけど・・・・・・
今は逆に、海老名さんには【もう少し嘘吐いて自分の趣味偽れや!隠せや!】
・・・・・・とか思ってしまわずにはいられなくなっている今までの自分と今の自分との矛盾した感情と、ご都合主義的な手の平返しを正当だと思いたい気持ちを批判する気持ちになれそうもない―――そんな自分自身に二度目の自己嫌悪を感じずにはいられなくなってる今日この時だな、と。
そう、クラスの出し物決めるLHR中に思ってたんだ・・・・・・。
そして考える。
やはり認めたくないものなんだよな、若さゆえの過ちってヤツは本当に―――と。
つづく