やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
文化祭編1話目です。
俺は自分が好きだ。今まで自分のことを嫌いだと思ったことなんて――まぁ滅多にはあんまない。
高いスペックも、中途半端にいい顔も、ペシミスティックで現実的な思考も、まったくもって嫌いじゃない。
だが先日、自分を初めて嫌いになりそうな気分にさせられた。
勝手に期待して、勝手に理想を押しつけて、勝手に理解した気になって、勝手に裏切られたと失望して何度戒めても結局は直っていない。
そんな自分にならないよう、俺は捻くれエリートになる道を選んだはずなのに・・・・・・それでも俺は、そんな感情から完全には無縁になれなかった自分自身に深い怒りと自己嫌悪を深く感じさせられたものだったのだが――――
――ぶわっさ!ぶわっさ! ぶわっさぁぁ!!!
バサバサバサバサッ!!!
「・・・・・・」
俺は僅かに開いた窓枠から吹き込んでくる秋風によって、カーテンと一緒に読みかけの本のページをぐちゃぐちゃに嬲りまくって、元通りの状態に直しては、またバサバサ風が吹いてグチャグチャに戻される。その繰り返し。
秋の放課後に奉仕部メンバーが、いつも通り部室に集まって普段通りに各々の行動を取ってはいるのだが、雪ノ下は窓を背にして日当たりのいい位置を普段通りの定位置にして、俺は日の当たらない窓から離れた距離のある場所を定位置にして本を読んでいる。
今までだったら、このポジションで問題なくベストポジショニングだったのだが、秋になって風が強くなってきたのか、台風近づいてるらしいので、カーテンが気になって仕方がない読書に集中できない状態が続いちまっていたのだ。
・・・くそぅ・・・・・・先日に起きた『雪ノ下でも嘘を吐く』ってのも気になり続けてはいるんだが、カーテンと風でめくれるページの方に集中力持って行かれちまって深く考えられねぇ。
いや、分かるよ? 俺も雪ノ下がいる方に移動すればいいってことぐらい頭では分かっているんだ。ただそう思っても既にここが互いの定位置となっている以上、わざわざ移動するのは何というか文字通り座り心地が悪いような気がして、集中できないままであっても問題解決のため動き出す事が出来なくなってる自分がいたのだった。
「えっと・・・風! 強くなってきたねー、なんか台風来るらしいよ」
「・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・そうね」
なんか気まずそうな声の由比ヶ浜のコメントに対して、カーテンとページが気になってしまって集中できてないから、おざなりになる。
「・・・・・・・・・・・・・・・ハァ」
そして溜息まで吐かれてしまった。あの由比ヶ浜から、こんな対応されると地味にショックだ・・・。これも全部カーテンと風が悪いんや。
移動するだけで解決できる問題を、勝手に期待して決めた定位置の席という理想的ポジショニングを押しつけて、季節の変化に勝手に失望してイラ立たされて集中できなくなる。
そんなペシミスティックでもなければ現実的な思考でもない行動理由によって、気になっている雪ノ下との問題について集中できなくなってることを許容できない自分が・・・・・・俺は人生で二度目の嫌いになりそうだぜ・・・・・・。
そんな事があった、秋の一日の翌日のことだった。
「なん・・・・・・だと・・・・・・?」
俺は黒板に記されている表記を見せつけられ、唖然として、そう呟くことしか出来ない窮状に陥らされていた。
時期的には、海老名さん脚本監修を務める『BL版 星の王子さま』が文化祭におけるクラスの出し物として決定されてから数日が経過しており、奉仕部の部室での活動がギクシャクし始めたものを感じるようになったのも同時期ぐらいからのことでもある。
台風を理由に遅刻しても大丈夫だろう前提で夜更かししちまったせいで、なんとか学校には間に合ったものの、眠気に襲われ抗いきれずLHRは平塚先生みたいだから別にいーかーとか思って寝落ちしちまってたところ。
・・・・・・目が覚めて黒板みたら、信じられない文言が記されていたのである・・・・・・。
【文化祭実行委員:男子:比企谷八幡】
「説明が必要かね? まぁ時間も押しているので、必要だった時のため先んじて言っておくとしよう。
もう次の授業だというのに、まだ実行委員を誰がやるかの時点でグダグダやっていたのでな、比企谷にしておいた。
文句があれば自分自身にでも言っておいてくれ。LHR中に本気で居眠りした自分自身に」
「ぐ・・・・・・それは、そうなのですが・・・・・・」
後ろからニョキッと生えるように出てきた(俺主観での表現)振り向くまでもなく分かる、今一番結婚したい年齢のアラサー教師(結婚したい年齢であって結婚願望かは不明)平塚先生からの言葉によって、俺は返す言葉もなく呻くことしか出来ない窮状へといきなり追い詰められてしまった。
――実際、平塚先生の言うことは全くもって正しい。最高だ、感動だ、麗しいクラス運営の正しい姿だ。
だが、それを盲信する気には俺にはなれない。
だって、そうだろう? こういう時ボッチに対しては、当たり障りのない仕事振っとくのが普通のはずだ。
いわゆる「お前休んでたから委員長にしといたわWW」がメソッドになるのは、クラスの人気者か中心人物だからであって、文化圏が違う人間を誰もやりたがらない仕事に当てるというのは全体にとっても精神的負担と不安の元にしかならないものなのだ。
事実、今までずっとそうだった。
俺が楽できなくなるのは、この際仕方がないが、けど俺以外の奴らまで俺のせいで巻き込むのはガンジー的平和ボッチ思想の持ち主として受け入れる訳にはいかない!
そう思って義憤に駆られたのである! 駆られたのだが、しかし――
「比企谷、きみの言いたいことは聞かずとも大方は察しがついているつもりだ。伊達に付き合いが長くなっている訳ではない。だからこそ敢えて言わせてもらうのだが――」
そこまで言って平塚先生は時計に目をやり、「ふぅ」と短い溜息を吐くと、
「・・・・・・高校生の文化祭準備で、当たり障りのない仕事などという、恵まれまくった実質的な特権階級みたいな役職を、他の奴に渡したがる奴が極一部以外にいると思うか・・・?」
「――仰る通りですね、たしかに・・・・・・俺が迂闊でした。以後は気をつけます・・・」
俺の顔に口元を寄せてきて、他の奴には聞かれないよう小声で告げてきた本音トークに、俺としては反論の余地なく黙り込む以外の選択肢をすべて奪われるしか道はなくされてしまったのだった・・・。
く、くそぅ・・・なんという正論。壺好きなジオン軍士官なのか、この人は。
アッザムと、いやアッサリと論破されてしまった・・・やっぱキシリア様と年齢近くて結婚してない女の人は強いと言うことなのか・・・・・・
「いいから席に着け。私の授業が始められん。残りは授業が終わった後の、放課後にでも決めたまえ」
それだけ告げて平塚先生の授業は開始され、俺たちのクラスにとって文化祭は、出し物と実行委員だけ各係決めは決まって後は不明のまま放課後へと持ち越されることになる。
恐らくはと言うより確実に、平塚先生はこの時点で予測できていたのだろうし、俺もそうなるだろうとしか思ってはいなかったことでもある。
と言うより、同じ年頃の学生たちなら、大半の連中は同じ経験をして同じようなことを思ったことがあるはずだ。
文化祭の各係決めが、予定されてた期間内に決まって終われることなど有り得ない。・・・・・・という学生あるあるの常識的未来予測が・・・・・・。
そして案の定、放課後の教室は紛糾して、全く話は進んでいなかった。
「えー、じゃあ女子の委員やりたい人、挙手で」
名も知らぬ眼鏡のルーム長が、返ってくるはずもない返事を求める定型文の言葉を述べながら、教壇に立って片手を挙げている。
言われた側からの返事は「シ~~ン」だ。誰も何も返そうとしない無言の沈黙だけが教室内に舞い降りる。
当然の反応だった。もしかしたらルーム長自身も、そうなるだろうと分かった上で「こういう時のお約束」として青春っぽく言っただけだったかも知れないほどに普通の対応。
・・・そりゃまぁ、やりたい人いるかと聞かれて手を挙げるなら、本来決めるはずだった時間の授業中に挙げてるからな・・・。
何の根回しも説得も行ってないのに、時間変えて同じ勧誘言葉を繰り返しただけで意見変える奴ってのも、あんま多くないし無駄な定番セリフな気もするが・・・お約束ってそんなもんでもあるからな。敢えて俺は何も言うまい。
どーせ既に役職決められちまった身だし、後の連中は自分らで何とかしろって感じに。
「えーと、このまま決まらないなら、ジャンケンに・・・」
「はぁ?」
「う・・・っ」
誰からの反応も得られなかったので、諦めたように溜息を吐いたルーム長が、こういう時の定番お約束選考方法をとろうとしたところで、三浦が不機嫌そうな口調ではなった一言に遮られて中断。
とは言え、三浦の側も「ジャンケンで決まるのは気にくわないが、特に意見がある訳じゃない」ってタイプの定番だったらしく、以降は沈黙する側の一員に。
『破ァ!』の一言で黙らせただけで、後なんも役に立ってないのにスゴそうに見えなくもないところが逆にスゴい。やっぱ寺生まれってスゴいよな、役に立つこと少ないけど。
改めて、そんな下らないこと思いつつ放課後の話し合いを聞き流す俺。
一応はその後も散発的な雑談と沈黙が繰り返されて、会話が途切れるたびにルーム長から「どう?」と話を振られて沈黙が降りる。そのパターンの繰り返し。
他のパターンは繰り返すのに、『やっぱジャンケンで』の一言だけは2度と言おうとしないルーム長主導による話し合いは、最大にして唯一の切り札を失わされちまってるせいで延々と続き、持久戦の様相を呈してきた結果として。
「・・・・・・それって大変なの?」
そんな無限ループの状況を見かねたのか、由比ヶ浜が我慢しきれなくなったように質問し、あからさまにルーム長がホッとした表情になるまで続くことになっちまった。
あるいは、いい加減イヤになったから終わらせて帰りたくなっただけかもしれないけど、それでもまぁ誰からの意見も出ないままよりかは良いに決まっている。
ルーム長としては、本心から助けられた感謝の思いもあったのかもしれない。
「普通にやれば、そんなに大変じゃないと思うけど、女子の方は結果的に大変になっちゃうかも知れない」
「ふーん・・・・・・」
そう言って俺の方をチラリと見ながら、自分の立場的には都合の悪い部分まで説明してやる眼鏡くん。
「大変そうなら辞めた」になる危険を冒してまで女子への気づかいを優先するとは、見上げたスケベ根性だった。伊達に校則違反のスカート丈と胸元見せてないぜってところか。
スゴい苦々しげに言ってくるところも腹が立つより、好感が持ちやすい。
国語学年三位の俺と、二位の葉山と、一尉の雪ノ下より下の順位にも関わらず、格上の三位を戦力外通告して恥じることなき捻くれっぷりには見所があると言えるだろう。
おおよそ、捻くれボッチ力1500というところだろうか? 泣き虫メガネくんレベルだが、伝説の超戦士の兄貴もそれぐらいだったから充分だろう。
自分から捻くれボッチになる道を選べるほどの、ひねくれエリート目指して頑張って欲しいところである。
俺を目指して頑張るんだぞ、名も知らないルーム長の眼鏡くん。そうなれば名前ぐらいは覚えれると思うから。多分だけれども。
「正直、由比ヶ浜さんがやってくれると助かるなぁ。人望あるし、クラスをちゃんとまとめてくれると思うし、適任だと思うんだけど」
「いや、あたしは別にそいうんじゃ・・・・・・」
そして、不利な条件を聞いても明確な拒絶をされなかったことでチャンスと見て取ったのか、ここぞとばかりにセールストークを展開してヨイショして、引き受けてもらおうと接待攻勢かけてくる太鼓持ちなルーム長メガネくん。
なんとなく中間管理職の悲哀を見て取れた気がして、少しだけ申し訳なく感じてきてしまった・・・見下しちゃって、ごめんな眼鏡くん。
その一方で、煽てられたらアッサリ上る、チョロイン過ぎないかコイツ疑惑が俺の中限定で生じつつある由比ヶ浜は、頬を僅かに染めて恥ずかしそうに手を振りながらも、テレリコテレリコして答えるのみ。
放っときゃ、そのうち落ちそうだなコイツ・・・・・・と、俺のクラスメイトの女子がチョロイン過ぎることに多少ながら驚愕の視線を向けていたところ――
「えー、結衣ちゃん、やるんだー?」
氷柱みたいな温度の低い声を出して、場の空気を台無しにしてくる余計な一言を放ってきた奴が一人いた。
「・・・え?」
「・・・・・・」
振り返った由比ヶ浜と一緒になって、声がした方へと視線を向けると――いた。
夏祭りで会った女子だ。名前はサガ・・・・・・さがみナントカさんだ。
確か、そんな名前の女子だったはずである。一度しか会った記憶無いヤツだから、よく覚えてないけれども。
「そういうのいいよねー! 仲良い同士でイベントとか超盛り上がりそ~」
「うんうんいいよね、そういうのって~。サガミンいいこと言う言う~」
「やんなよユイちゃーん、ウチらも手伝ってあげるからさ~」
『『『――クスクスクス♪』』』
そして続いて、さがみナントカさんの言葉に、近くの席に座ってる友人と思しき名も知らぬ女子たちが追従するように、くすくすと冷笑を浮かべる姿が視界に入る。
そんな風に相手の方を、俺の方でも見ていたせいもあったんだろう。
「んー、そういうんでもないんだけど・・・」
曖昧に微笑みながら由比ヶ浜からの反応を受け、サガ――確か相模だったな。
相模が意味ありげに俺の方へと視線を向けてきた姿が視界に入り、「ニヤっ」という酷く醜悪に見える笑い方をした後、周囲の女子たちと囁くように笑い合う光景を見せつけられる羽目になる。
それを見た瞬間。相手がどういう意図を込めて、どんな成分を含んだ笑いを示してきたのかハッキリと理解できた俺は――思わず、こう考えずにはいられない。
―――バカなのか? こいつは・・・・・・。
と、思わず酷評せずにはいられないほど、酷く醜悪なアホ行為を見せつけられて、笑うことも出来ずに大いに反応に困る羽目になっちまってた訳である・・・。
いや、夏祭りのときと同種の行為をしたがってるんだってのは分かるんだ。好奇と侮蔑が入り交じった嘲笑で見下してきてるってのも経験則から理解はできる。
・・・・・・けど、それやる時には『相手が決定した後』にやらないとダメだろうに・・・。
プライドだか見栄だか自己顕示欲だか分からんけど、相手が迷っている『選択の余地ある段階』では、相手が選ばなくなる可能性が残ってるままだ。念のため一旦様子見して、次の動きが決定してから行動開始するのが、こういう時の基本だろう。
そうじゃないと――
「つーかさ、結衣はあーしと一緒に客呼び込む係だから無理っしょ」
『う゛・・・み、三浦・・・さん』
・・・ほらな? こういう危険性ある段階なんだよ。この時点だと。
尊大にも聞こえる声音での発言だったが、『破ァ!』の一言でジャンケン妥協案さえ黙らせられちゃう三浦由美子にとっては割と普通の態度で言い切られ、相模たちはアッザムと言葉に詰まらされてしまったけど、一応リーダー格としての意地なり面子なりがあったのか、相模は笑顔を崩しはしなかった。
「そ、そーなんだ。呼び込みも大事だよねー」
・・・さっきより笑顔が強ばってはいたけどね。
「そ、そーそー、呼び込みも大事、って、えぇ!? あたし呼び込みやるの、いつの間にか決まってたんだ!?」
「え・・・? い、一緒にやんないの? な、なんか違った? あーしの早とちり系・・・?」
そして、そんな女王三浦を初めて狼狽させ、戸惑ったような言葉を言わせることに成功した、調子あわせただけだったっぽい由比ヶ浜の慌てる声。
・・・パワーバランスと力関係が、よく分からん状況だなオイ・・・。
って言うかクラスナンバー1カーストが最近お笑い方面に路線変更してきてるよーな気がして仕方がないのだが、夏休みデビュー初日にコント披露される方の身にもなれい。
「大丈夫だよー、由美子ー。だいたい合ってるよー。その振る舞いこそは由美子だよー」
「ちょ海老名、あんま褒めんなし! 恥ずいから!!」
「あ、あたしに決定権ないんだ・・・・・・」
挙げ句まだ続いてたらしい、クラス内カーストトップグループによる漫才披露。
これが僕たち私たち県内トップ進学校の総武高校二年F組トップカーストメンバー同士による会話だった。・・・・・・マジで恥ずくなってきたから辞めて下さい。俺たちは、あんた達より順位下なんです本当に・・・。
「――コホン。つまり、こういうことでいいのかな」
一向に話が進まず、漫才すら始まりだしたクラスの現状を目前にして、ジャンケン妥協案を『破ァ!』で自主的に却下したルーム長が溜息を吐くのを見て、それまで黙っていた葉山がようやく動き出してくれたらしい。
正直もっと早くに出てきて欲しかったと思わなくもなかったけど、それだと『葉山のための二年F組文化祭』になっちまいかねないからなー。『HA・YA・TO!フゥ!』をクラス全体規模で出し物としてやる羽目になるよりかはマシと言えなくもないので正直・・・・・・微妙なところではあった。
葉山ファンクラブに教室全体でなるのは嫌だが、ルーム長に任せたままだと役に立ってくれそうもない。葉山的にも諦めの局地で出てこざるを得なかった可能性すらあるレベルの窮状っぷりだ。
ルーム長なんて、横から割って入られた責任者なのに、メガネを期待でキラキラ光らせて葉山見てる始末である。押しつける気満々すぎる。
なんでこんなのをルーム長にしちまったのか、見た目以外は全く適正なさそうに思えなくもなかったが、葉山以外はほぼ全員似たようなもんだと分かってもいたので批判しづらい、二年F組の人材事情。
あと候補としてあり得そうなのは・・・・・・戸部、か・・・?
能力はともかく人格的には話進みそうではあるんだけどな・・・・・・能力に信用なさ過ぎな気もするし・・・・・・まぁここらで妥協しとくべき問題か。
「つまり、ルーム長の話からすると、人望もあってリーダーシップを発揮してくれそうな人に、お願いしたいって事でいいのかな?」
「そ、そう! そうなんだよ葉山くん! いやー、僕の気持ちを分かってくれて嬉しいなぁ。
いや、僕個人の意思や考えを押しつけたくなかったから口にしようとは思ってなかったんだけど、やっぱり葉山くんには隠しきれなかったみたいだね。いや参ったな本当にははは」
そして急に饒舌になって、誤魔化しと責任押しつけと責任逃れを全部まとめてやり出す眼鏡くん。流石はメガネだった、日本の政治家っぽい官僚的答弁マジうざメガネ。
まぁ眼鏡くんの個人的願いな意見はいいとして、葉山の言うことは至極真っ当でもっともなものではあった。
文化祭関係の諸々を取り仕切るという立場上、リーダーシップがあるのと無いのとでは皆の動きが違いすぎる危険性が高い。
その点で、男子の実行委員に俺を選んでしまった平塚先生は最悪の人選だったと言っていい。
なにしろ俺は、自ら捻くれる道を選んでボッチになった、エリート捻くれボッチである。
『リーダー』なんていう「皆のトップ」には、これ以上無く向いてなさ過ぎるにも程がある・・・・・・せめて一人以上の人数で動くこと前提の人でお願いします先生。
だが、そうなるとこの手の役職はクラス内のトップがやるべきって話にならざるを得ず、男子の方は俺で確定で、女子のトップは自らやる気なし宣言したばっかり。
三浦の方は葉山からやってくれと頼まれたら落ちそうな『葉山専用チョロイン』みたいになる可能性もあるにはあるけど・・・・・・そんな状態のに率いられて文化祭したいかって言われたら微妙だしな。
そうなると自然な流れとして、トップが駄目だったら二番目にという、トップダウン形式で繰り上げ採用されるのが一般的な感覚ってものではある。
ちょうど今さっき率先して、『チーム内リーダーとしてのリーダーシップ“だけ”』なら発揮してくれたばかりでもある訳だしな。
皆に納得させて押しつけて、次の話に進めるためには適度な人材と受け入れる他なし、か。
「あー、したっけ、相模さんじゃね?」
「ああ、いいかもな。相模さん、ちゃんとやってくれそうだし」
「え、えぇ? うちぃ? うちにできるかなぁ」
そんな葉山の示唆を、『騒ぐだけしか能がないお調子者の戸部(雪ノ下評)』が的確に捉えたらしく、望まれた通りの名前を候補として提案し、自分が誘導した通りの名前を答えてもらえた脚本家兼演出家の葉山が納得して見せる。
さすがは戸部だ。『金髪で見た目悪そうに見えるけど一番ノリのいいムードメーカー(葉山評)』は健在そうで何よりだ。マッチポンプなチームプレイで見事に相模を追い込んで、逃げ道を断とうとしてやがる。
・・・・・・そして、相変わらず的中率低いままな雪ノ下裁判長による人物鑑定・・・。
その内あいつ『ハズレ女刑事ゆきのした』とか呼ばれて、少年名探偵のマイク扱いされるようになったりしないだろうな? 殺人トリックで人間関係解決案ばっかり出してくるヤツだから、絶対ないと思いづらくて逆に辛いぞ・・・。
そして急遽担ぎ出されて、ちょっといい気になってるっぽい相模がアホ可愛いと言えなくもなくて、いと哀れな状況ではある。
まぁもっとも、相模の方は相模でどーせこの後。
「いや、やっぱムリ! ぜーったい無理だぁってぇっ☆」
・・・・・・こういうポーズだけの拒絶で返して、『謙虚な女アピール』しつつ、『もっと言って♪もっと褒めて♪でないと引き受けてあげなぁい』と貸しを作るのに利用する気満々のウソで対応してくるのは明白だったからな。
お互いに青春のウソで結ばれ合っただけの関係なら、俺がどーこー言うことでもないし黙っておこう。
「そこをなんとかっ。相模さん、お願いできないかな?」
「・・・・・・まぁ他にやる人いないなら、しょうがないとは思うけどぉ・・・」
「皆も困ってるんだ。ここは助けると思って、俺からも頼むよ。ね?」
「うぅ~ん・・・でも、うちかぁ・・・♪」
わざとらしく『あの葉山に頼られてしまってるワ・タ・シ♡』という周囲に立場を見せつけつつ、自分自身も浸ってるっぽい相模の、ウザあざといブリッ子反応(死語)
とはいえ相模の反応自体は、いい答えではあったと言える。及第点をくれてやっていいだろう。
クラス内カースト2位グループのリーダーとは言え、相模が2位であり次点の存在でしかないことには変わりがない。
そんな奴にクラスどころか学校全体の人気者から名指しで推薦されて、ソッコーで即断して食い気味に引き受ければ『煽てられてるだけなのにチョーシノッテル頭軽い肉食系バカ女ビッチね』と認識されるかもしれず。
否定的に答えて、仮に葉山が本気で意見を取り下げてしまえば、『はぁ?あんたあーしの葉山になに恥かかせてんの生意気』とか一位の女王に因縁つけられる可能性が無きにしも非ずや否や。
この場は戦略的後退によって妥協案とするしか、ナンバー2の相模が成果だけ手にして損なく終わらせる選択肢がない。
まぁあくまで女子連中の心理を、俺基準で忖度しただけの妄想でしかない推測だけど、そう違ってもいないような気が俺にはしている。
男と女は違うし、女の嫉妬は怖いとかの話はよく聞くが、実際には『古代ローマのシーザー暗殺』の頃から男の嫉妬も恐ろしい例がいっぱい起きてきてるからなぁ。
せいぜい違いがあるとすれば、男は『地位』とか『名誉』とかの『社会的な身分』で自分より上の奴に嫉妬して、女は『愛情』とか『見栄』とか『感情的な部分』で嫉妬しやすい傾向があるってだけじゃないかと俺は思う。
だからこそ、『自分にとって価値ないもので嫉妬するなんて愚かね。自分にとって価値あるもので嫉妬するのとは別物だ!』とかの理由で、『自分たち特別。同類じゃない』と互いにしてっただけじゃねぇかなって。そう思うのだ。
そして――自分にとっては大事な理由を、「青春」の二文字で特別性を見いだす手段に利用する。
自らを取り巻く環境すべてを肯定的に捉えて、認識をねじ曲げていく、悪の青春。
やはり俺は・・・・・・優しい女の子と青春は、嫌いだ。爆発して欲しくて仕方がない。
「じゃ、じゃあ、うちやるよー」
と、しぶしぶの体を取りながら、頬を赤く染めて『葉山から指名されてお願いされた相模』が片手を挙げて、ルーム長が最初に言った立候補募集への返事がようやく得られ、安堵の溜息で眼鏡を曇らせながら解散が告げられて、今日の2年F組の授業は終わりを迎える。
長すぎる戦いだった気もするし、終わってしまえば大抵のことは一瞬だったように感じられもして、やってる最中は全く感じないさっさと終われ感ばかりが強いのが定番の、この手のイベント毎の始まりらしい始まり方ではあったものの。
・・・・・・最初の時点で、ジャンケンで決めときゃ早く終わってた話だったのも事実じゃあるんだよなぁ・・・・・・。
俺が憔悴しきってるっぽい眼鏡くんに同情しきれない理由も、大体そこにある共感しきれない中間管理職な眼鏡ルーム長くんでありましたとさ。
そしてルーム長の解散宣言を受けて、他のクラスメイト達がめいめいに立ち上がって教室を後にしていった中。
俺たちは改めて、別の教室に移動している最中だったりする・・・。
というのも、各クラスの実行委員がはじめて顔合わせする実行委員会は、早くも今日から始まるスケジュールになってるからだった。
俺たちのクラスで、実行委員だけでも早急に決めたがってた理由はここにある。
今日中に決めないと今日おこなわれる実行委員会に間に合わなくなるので、割とガチに時間切れまでに決めようと必死だったわけだ。
・・・・・・客観的にそーは見えない風景だったろうとは我がクラス事ながら思うけれども。「我がクラス」と言っていいほどクラスに馴染んでないし、愛着ないから別にいーよね。
そんな感じで、文化祭実行委員会に割り当てられた部屋である会議室へとやってきた俺と相模は、特に会話することがあるわけでもなく無言のまま廊下を歩んで扉を開ける。
そして―――ガラリと。背後の扉が開かれて、俺たちより後からはいってきた相手の姿を見て、俺は思わず唖然とさせられてしまっていた。
「・・・・・・・・・」
雪ノ下雪乃――正直、この手のイベントにおける役職に参加する奴だとは考えてなくて、俺は予想を超えられてビックリさせられてしまっていた。
相手は俺の姿を認めると、一瞬だけ足を止めるが、すぐに「ふいっ」と視線を外すと、思い直したように数歩進んでから、手近なところにあった空席に腰を下ろす。
「・・・・・・・・・」
見慣れているはずの俺でさえ、一時だけでも目を奪われた彼女の姿。
それは、いつもと違う場所で見かけた故のギャップでしかないものだったのか。
それとも、この文化祭実行委員会という場に現れた意外性故だったのか・・・・・・それは分からない。
ただ・・・・・・俺が見てきた雪ノ下雪乃は、常に美しく、嘘を吐くのが下手で、馬鹿正直で、寄る辺がないのに立ち続けようとする後先考えない無謀さを持っている女の子だった。
そんな相手が、『あの由比ヶ浜が三浦に助けられて拒否できた実行委員』の役職に、『三浦より隠したの相模と同格の立場として参加してきてる』のを見せつけられてしまった瞬間。
俺はつい、こう考えてしまう己自身を押さえつけることが出来なかったのだ・・・・・・。
コイツ―――いったい何を企んでいる?・・・・・・と。
雪ノ下でさえ嘘を吐くことが気になってしまった直後でありながら、雪ノ下が嘘吐いてるかも知れない可能性の段階で自主的に疑ってしまうのを抑えられない自分のことが・・・・・・俺は今学期が始まってから三度目の嫌いになりそうだぜ・・・・・・。
まぁ、短時間の間に増えすぎだろとは自覚してはいるのだが。
やっぱり、若さ故の過ちって言うのは認めたくないものなんだようん。
これからは赤い人をバカにするのは辞めようと、改めて思わされた文化祭実行委員初日の思わぬ邂逅果たした放課後でのことであったとさ。
つづく