やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
次の文実での風景から再度やる気出そうと決意した次第。
文化祭まで一月を切った校舎の中というのは慌ただしい。
準備のための教室残留が解禁され、段ボールが運び込まれるクラスがあり、絵の具を用意したり、差し入れと嘯いてお菓子だの飲み物だの持ち込んでドンチャンし始め、祭りっつーか宴会で盛り上がってるアホまで出てくるほどに。
だが流石に、文化祭実行委員が正式に発足した翌日だと、あんまし慌ただしくなれない。なれる理由もないし、差し入れ持ち込む口実もないからな。
俺自身にしたところで、文化祭実行委員に寝てる間に選ばれてたことを知らされたのは、昨日の昼に起きた後の話であり、雪ノ下も同じ委員になってたことを知ったのも実行委員が始まった昨日の現場でバッタリ出会った時が初めてだ。
なので、その翌日である今日までは、我らが部活動である奉仕部は通常営業のままということになる。
文化祭が終わるまで活動停止を決めるにしても、今日いった時にでも告知される感じになるんだろう、普通に考えて。
なにしろ3名いる部員の内で部長と初代部員の2人が実行委員でこられなくなって、リア充のはずの新人部員が1人だけボッチ状態でポツンと待ってる部活って、なんか色々と変だしな。
変わるとしても明日からで、今日までは通常通りだろうと予測して、いつも通り部室に来ているという訳で。
「でも、ゆきのんが委員会とかやるのって意外だねぇ~」
そして由比ヶ浜が、いつも通りの声で――あるいは、いつも通りを装った声と態度で雪ノ下と俺とを交互にチラ見しながら彼女の方を話しかける相手に選んでいた。
昨日の文実が終わってから教室出たところで二人が話してる姿見かけたから、多分そのときに聞かされて事情とか既に知ってたんだろう。
「そうかしら? ・・・・・・まぁ、そうね・・・」
話題振られた方の雪ノ下は、文庫本から目を逸らさずにではあったものの、言葉少なに曖昧な表現ながらも一応は肯定を返していた。
個人的には――マイナー部活動を立ち上げて部長やってるのは気にされずに、文化祭実行委員会で平委員になる方が意外あつかいされてる、学年一の優等生な雪ノ下雪乃という存在に「それでいいのか・・・?」とか思わなくもなかったが・・・・・・本人が肯定してる問題に他人がとやかく言うことでもないのだろう。
それに、評価の内容が人としてどうかは別として、俺個人の感想でも由比ヶ浜の評価は正しいのだろうと感じてもいた。
実際、雪ノ下は自分から前に出るタイプではない。積極性がないと言うより目立つことを嫌うのが彼女のスタンスなのだと俺的には思ってもいる。
・・・・・・もっとも、その割には目立ちまくってる奴でもあるんだけどな。
しかも戦いを挑まれたら殲滅しにいかないと気が済まないこと多すぎるし、積極性がないだけで悪目立ちしてる事いっぱいあるし。文実の初会合では「教室に入ってきただけ」で注目されまくっちまってた程の目立ちぶりだし。
それでも『本人の主義思考として』は、前に出るタイプではなく目立つのも嫌っている。
それが、俺の知る雪ノ下雪乃という女の子だった。
「私としては、比企谷くんが実行委員にいたほうが意外だったけれど。こういう行事へ自主参加する意欲がある人は到底思えなかったから」
「あ、だよねー。ヒッキーの方が、ゆきのんが実行委員やってるより超似合わなーい」
「おい・・・? 俺は半ば以上、強制だったこと知ってんだろ。
一応はお前も友達・・・ではないが、同じ委員会でもないし、誠に甚だ遺憾だがクラスメイトの知り合いではあるんだからな一応は」
「え!? 何そのイカンイカンって感じの言い方! そこまでヒッキーと私の関係薄かったの!?
あと“一応”は2つもいらないから! それ女子用語じゃなくても“ホントは違うから”って意味なんだからね!?」
「まぁ、そのおかげで海老名さん監修のミュージカルだかなんだかに出なくて良くなったから、結果オーライの雑用係と言えんでもないけどな」
「しかも無視された!? え、わたし今いらない子? スッゴクいらない子扱いされちゃってない私って!?」
キャンキャンと吠えまくってくる、どっかで誰かと交わした記憶がなくもない会話の思い出を再現しながら――“その時”と“今”との違いに微妙なトゲを感じさせられなくもないことを自覚して、俺はまた少し自分が嫌いになるのも自覚させられる・・・。
雪ノ下からの言葉を聞かされたとき、俺はつい『こう言い返そう』と思っちまった言葉が頭の中に浮かんでたのだ。
『俺と違って、お前はらしくないけどな』
「相手らしくない行動」――それは自分が相手に抱いているイメージ通りに動くことが「正しい相手の行動だ」と決めつけて、自分の想定通りに動かなかったことを責める言葉だ。
「他人に理想を強いる言葉」であることを、言う前に自覚して嫌な気分になり、声が途中で出なくなっちまっていたのである。
だから誤魔化すためにも、由比ヶ浜がキャンキャン騒いでくれたのは正直ありがたかった。
今の俺の素直な本音として、この奉仕部の部室に分実の仕事があるから『来れない』のか『来たくないから来ない』のか自分でも答えが出せてない状態にあったから・・・。
「えっと・・・・・・委員会って毎日なんだよね? あたしも多分、これからクラスのほう手伝ったりしなきゃならないし・・・」
「ああ、俺も分実でしばらく部室来れないから。なにしろ分実出なきゃいけないから」
「・・・・・・それは丁度よかったわ。私も今日、その話をしようと思っていたから」
立て板に水のノリで、由比ヶ浜のいおうとした言葉を俺が先に拾い上げ、そんな俺が明言するのを避けた言葉を雪ノ下が拾い上げる見事なチームワークが実現する形となる。
一人は皆のために、皆は一人のために空気読み合って自分の言いたい部分だけ言って、残り押しつける。そうやって成り立ってるのが奉仕部流の『ONE FOR ALL』
「とりあえず、文化祭が終わるまでは部活は中止しようと思うの。準備期間中に生徒たち個人からの相談事というのも多くはないでしょうしね」
「まぁ、妥当だな。俺と雪ノ下の二人が分実で来れない中で、無所属の由比ヶ浜一人だけが部室で孤独を満喫するのもボッチと思われそうで可哀想だしな」
「うーん、そっか。そうだよね。文化祭だし、終わるまでその方がいいかも――って、あれ!? なんか今あたしだけ変な扱いしてなかった! 特にヒッキー!」
「んじゃま、今日はこれで終わりか。お疲れさん」
「しかも無視された!? そういうのってスッゴく傷つくから辞めてほしいんだけど! ヒッキー超マジキモいッ!!」
由比ヶ浜からのキャンキャン叫びまくる非難の声を背中に受けながら、振り向かないまま部室を出て行く口実にもなってた俺は、鞄を手にして立ち上がって何となく居ずらくなってた奉仕部の部室から外に出るため扉に向かって歩みを早める。
そうやって、扉に手をかけた時のことだった。コンコンと、外からノックする音が響いてくる。
それと同時に、扉の向こうからは「クスクス・・・」と、笑うようなざわめきも聞こえてきて――って、え? ここって女子トイレの花子さんか何かだったの?
部室の外からも笑いながら入ってくる花子さんって、超フレンドリア充。迷惑なので是非とも、お帰りいただきたい限りです。
「しっつれいしまーす」
・・・・・・とアホなこと考えてる間に扉が開いて、間延びした口調で入ってきたのは俺も最近よく知るようになった女子生徒1人と、名前すら知らないままの2人組。
相模南と、相模のためのグループ2人だった。
俺と同じクラスで、同じ文化祭実行委員でもあり、委員長に自分から立候補してなりたがった、クラス内カースト2番目のリーダー女子生徒でもある女の子。
その相模が、入ってきた途端に俺たちを見て目を丸くする。
「って、雪ノ下さんと結衣ちゃんじゃん」
「さがみん? どしたの?」
そして見事に、目の前に立ってた俺のことはアウト・オブ眼中でスルーして、自分のクラスメイトで同じ実行委員のメンバーはいないもの扱いしてくる委員長ぶりを発揮してくれるダメミンっぽいサガミン分実委員長。
形式的にでも一応は下につく奴の存在を、「存在すら知らなかった扱い」したがるのは、総武高校の部活委員会の女子代表に共通している伝統かなにかなのかもしれなかった・・・・・・今のところ雪ノ下と相模しか実例知らないけどな。相模の方は期間限定だし、増やす予定も特にねぇんだけど。
「平塚先生に聞いてきたんだけどぉ~、奉仕部って雪ノ下さんたちの部活なんだぁ」
『『クスクスクス♪♪』』
相模たちは、由比ヶ浜からの問いに答えることなく部室内をグルリと見渡し、俺と由比ヶ浜を交互に見やってから取り巻きたちと一緒になってクス笑い合いし始める。
ゾッと怖気がするような、蛇みたいに狡猾さを秘めた瞳でそれをやってくる相模たちの行動を見せつけられていた俺は、思わず妙な気持ち悪さを抱かされながら、こう考えずにはいられない衝動に襲われていた。
――え? 今の笑うとこだったの? コイツら笑い所のツボが分かんねぇ・・・・・・。
という、ごく当たり前すぎる感想を・・・。
なんか部室入ってきた途端に、雪ノ下の部活って知ったら笑い出してたし・・・・・・意味が分からん。
ひょっとしてアレか? 『箸が転がってもおかしい年頃』って奴なのか? その割には年いってるし、なんかちょっとキモいんですけど、この人達って・・・。
そんな怖気がするような、のたうちながら動いて先の行動が読めない蛇みたいな気色悪さを感じさせられちまいながら、
「・・・・・・何かご用かしら?」
「あ、その・・・急にごめん、なさい・・・ちょっと相談事があって、来たんだけど・・・」
いつも通り、よく知らない人にでも当たりが強い雪ノ下から冷たい声音で用件を尋ねられ、アッサリと身動ぎしてから語尾と言葉を正してタメ口改める相模と愉快そうに笑う仲間達。
まぁ、妥当な対応と言ってよかったろうな。
部室入ってきて、いきなり笑い出す変な人たち相手には、多少強めに出とかないと、宗教の勧誘とかされたら恥ずかしいよりも困るし通報したくなっちゃうし。
救急車呼ぶような事態にならなかっただけ、アイツらにとってもマシな対応だったと思う。最悪、委員会前に拾い食いした笑いキノコの毒に当たってとかの可能性すらなくはない奇行だったからなぁー、本当に。
「実はほら、うちって実行委員長やることになったじゃない?」
「――お前が立候補して、なりたがった結果としてな(ボソっと)」
「う、ぐ・・・で、でもホラ。自信がないっていうかぁ・・・・・・だから、助けてほしいんだ」
「“自身の成長”―――」
「え・・・?」
俺が途中で挟んでやったツッコミを強引に聞こえなかったフリして押し通すことにしたらしい相模だったが、そんな彼女に雪ノ下が答えの代わりに返したセリフがこれ。
まぁ、コイツの場合はやっぱソコが気になるポイントになるだろうな。雪ノ下流の普通に考えて。
「あなたが委員長に立候補する際に掲げた目的とは、外れる相談内容だったように思えるのだけど」
「そ、そうなんだけどぉ、やっぱ皆に迷惑かけるのが一番まずいって言うかぁ、失敗したくないじゃない? それに誰かと協力して成し遂げることも成長の一つだと思うし、そういうのって大切じゃない?
それに、うちもクラスの一員だからさー。やっぱりクラスのほうにもちゃんと協力したいっていうかさ、全然出ないって言うのも申し訳ないし。
こういうイベントを通してもっと仲良くなりたいし、そのためにはやっぱ成功させなきゃ! ねぇ?」
というのが、途切れることなく続いた相模から奉仕部への依頼内容ということになるらしい。
それを言われた側の雪ノ下は黙ったまま考え込んで、横で聞いてた側の由比ヶ浜は少し渋い顔をして黙り込んでいる。
まっ、気持ちは分からなくもない。
相模は色々といって理論武装してはいるものの、結局のところ求めているのは『文化祭実行委員長として自分がヘマした時』に助けてくれる役割を『奉仕部の部長として引き受けてほしい』という行動を要求してるだけなんだからな。
本気で今言ったことを懸念してるだったら、生徒会長の城廻先輩なり平塚先生なりに頼む方が立場的には正しい役職に今の相模は就いている。
雪ノ下に頼むにしても、同じ委員会の記録雑務の一員でしかない奴なんだから、部活終わって委員会いった時にでも言えばいい話。
それをわざわざ、平塚先生に奉仕部のこと教えてもらって、同じ委員会で会える記録雑務の一委員に会うため、委員長が委員会が始まる前の時間に部室まで頼みに訪れてくる・・・・・・ここら辺に相模の、人を不快にさせやすい性格の一端があるのかもしれなかった。
しかも、言ってる内容はパクリ多いし。青春ものやら学園ものやらの定番セリフのオンパレードだったし。
何コイツ? まだ若いのに昭和の人なの? 金八先生とか飛び出せ青春の世界から飛び出して来ちゃった人かと思っちゃったじゃん少しだけだけども。
ショートカットの髪型とか、なんか青春時代のスポコンヒロインっぽいしさ。
「・・・・・・つまり、話を要約すると、あなたの補佐をすればいいということになるのかしら?」
「うん、そうそうそれ! 頼めるかな?」
長広舌だった上に、大半がガキの言い訳じみてた自己正当化理論だったせいで、話の要点が分かりづらくなってたせいなのか、雪ノ下が相模の言いたかった相談事とやらを要約して語ると、我が意を得たりとばかりに努めて明るく、飛びついてくる相模んさん。
・・・・・・その一言だけを言うために、『あんだけの長文語ってたのがお前だった』扱いされてるようにも思える状況な気がするが・・・・・・これもまた本人が納得してんだったら他人の俺がどーこー言うことじゃないんだろうな、きっと。
あと、俺の個人的な感触でだけど、『雪ノ下が言ってる「補佐」』と『相模が理解した「補佐」』は違う意味のこと言い合ってると思うんだわ。何となくだけどね?
コイツら言語的には同じ日本人だけど、意味的には外国人同士なぐらいに違ってる印象受けました。でも伝え方が分からないので言えません。日本語は思ったより難しい。
そして、そんな俺から見ると、言語的には噛み合ってるように見えて、吹き替え機能は使わず字幕フキダシは使ってる状態での外国映画並に言ってる内容と実は合ってない展開になってそうな会話シーンの末、雪ノ下雪乃が選んだ選択とは。
「そう・・・・・・なら構わないわ。私自身も実行委員なわけだし、その範囲から外れない程度には手伝える」
「本当に!? ありがとー!」
というものだった。
喜ぶ相模と、僅かに驚きのこもった視線で雪ノ下を睨むように見る由比ヶ浜の対比が印象的でもあったが。
俺にとっても正直なところ少し意外ではあったのだが・・・・・・最近の様子を知ってるせいか妙に納得してもいる自分の気持ちが半端で、微妙な心地にさせられる。
どーにもシックリ来ない。整合性がとれてない。理屈を重視する捻くれ者のエリート的には自分らしくない発想が妙に落ち着かない。
雪ノ下が依頼を引き受けたことで用が済んだらしく、「じゃ、よろしくねー♪」とか言って手を振りながら、一緒に入ってきてた女友達2人と部室を出て行き沈黙が戻ってくる。
――ってゆーか、あの2人は何のために連れてきてた存在だったんだ・・・? 何の役にも立たないまま、ただ一緒に入ってきて理由不明な笑い声だしてただけだったんだが・・・。
もうアイツらの名前、『相模の友人たち』じゃなく『相模の手下A、B』でいいんじゃねぇかな? じっさい名前知らないままだったし。
分実で言ってた気がするけど・・・なんだったっけ? 片方はたしか『ユッケ』・・・? なんか美味そうな名前だなオイ。
「・・・・・・・・・部活、中止するんじゃなかったの?」
そんな俺の、テンション回復のための下らない思考とは裏腹に、いつもより冷たく聞こえる声音で由比ヶ浜が雪ノ下に問いかけている姿が視界に映り込む。
端から見ているだけの俺でさえ、詰問と言うより糾弾しているように聞こえた言葉に雪ノ下は肩を「ビクッ」と震わせた。
一瞬だけ顔を上げたが、それもすぐに後ろめたそうな仕草で逸らしてしまい、
「・・・・・・私個人でやることだから。あなたたちが気にすることではないでしょう」
そして言い訳めいた口調で、子供の自己正当化みたいな定番文句を小さな声で口に出す。
ここまで来ると流石に、『雪ノ下らしくない』と俺でさえ言わざるを得なくなってきてしまう。
言いたくないし、考えたくもない言葉なのに、言わざるを得ない心地にさせられてくるから・・・・・・今みたいな女の子がいる場所は苦手だ。出て行った方がいいかもしれない――。
「でも、いつもなら――」
「いつも通りよ。・・・・・・別に変わらないわ」
「でも、みんなでやったほうが―――」
「結構よ。文化祭実行委員会のことなら多少の勝手はわかっているから。私一人でやったほうが効率がいいわ」
「『文化祭実行委員会の“ことなら”、“多少は”』・・・・・・ね」
「・・・・・・っ」
思わずチクリと棘のある言葉と自分でも自覚できる余計な一言をいってしまったことで、俺が今日この場で部室に留まり続けるのはさすがに不可能になり、そそくさと二人より先に部屋を出て行くことになる。
その際、部室に残っていた二人の間で最後のやり取りが聞こえてきて、
「効率って・・・・・・そりゃそうかもしれないけど・・・・・・でも、それっておかしいと思う」
「・・・・・・」
「あたし・・・・・・教室戻るから」
「・・・・・・・・・」
そう告げて、クルリと踵を返したらしい由比ヶ浜の背中にかけてくる声がかかることはなく。
俺に続いて由比ヶ浜も部室を出て――予定では文化祭が終わるまで活動停止する奉仕部最後の、文化祭前の活動は終わりを迎えたのだった。
そして、その後。
結果論として、ほぼ同時に部室を出るコンビになってしまった俺たちはどうしてたかと言うと。
「なんかもう! なんかもう! なんかもうっ!!」
由比ヶ浜が「なんかもう星人」になってしまって、なんかもう以外の日本語は忘れてしまう奇病にかかってしまったらしかった。
しかし、どーでもいい話だが、相模といい由比ヶ浜といい小町といい、最近の明るくてバカっぽいリア充な女の子は『間延びした口調で話さないと死んじゃう病』にでもかかっているのだろうか? 全員なんか舌っ足らずな伸ばす語尾が多い気がするんだが・・・・・・あとなんかバカっぽい単語多いし。
「いきなりどうしたんだお前。健忘症にかかって日本語でも忘れたか?」
「わかんないっ! って言うか違うし! ケンドーなんとじゃないし! ・・・なんかいつもと違うって言うか、いつものゆきのん、あんな感じじゃないし!」
「まぁ、それはな・・・・・・。
いつものアイツだったら相模からの依頼に、“優れた者は憐れな者を救う義務があるのだそうだから、頼まれた以上責任は果たすわ感謝なさい”・・・・・・とか言って返すのが、いつものアイツらしい対応だからな・・・」
「そうだけど・・・・・・いや、違うし!? いつものゆきのん、そんな感じでもないし! ただなんか、さっきみたいのも違うってゆーか・・・」
俺の中で記憶に強く残っている、奉仕部にきた当初の雪ノ下の思考パターンをトレースしてみたがお気に召さなかったらしい由比ヶ浜。・・・もっとも自分でも話逸らそうとしてる自覚あるから、俺の方もいつも通りには出来ちゃいないんだろうけどな・・・。
「それに・・・サガミンのやってることも、ちょっとヤダなって・・・ゆきのんがサガミンのお願い聞いちゃうのも、仲良くしようとするのも・・・・・・あ、あれ?
――あ、あたし、思ってたよりずっと、ゆきのんのこと好きなのかも・・・・・・?」
「・・・・・・いきなり何、他人に向かって別の奴への愛を語ってんだお前・・・? 本人に言えよ本人に。
他人同士の痴情のもつれ話なんて、赤の他人にとっては関わり合うと碌なことない話題トップ3だから遠慮したいんだけど・・・」
「いや、そーいう変な意味じゃなくて!? そうじゃなくて! 違うことで!」
両手バタバタしながら、しょうもない一言から始まったしょうもない話題で言い訳めいたこと言い始めた挙げ句、由比ヶ浜はなにかを悟ったのか諦めたのか、唐突に別の人物の名前を持ちだして語り出し。
「・・・・・・実はあたし、サガミンとは一年のとき同じクラスだったんだよね・・・そのときには、あたしとサガミンわりと目立つグループでさ。なんか結構そのことにサガミン、自信持ってたのかな・・・・・・って」
「・・・・・・・・・」
「だからなのかな・・・ゆきのんがサガミンのお願い聞いちゃったり、仲良くしようとするのも嫌だなって思っちゃうのは、他の子がゆきのんと仲良くなろうとするのが嫌なだけなのかもって。・・・・・・小さい子みたいだよね」
照れているのか、頬を染めてお団子頭を気にするように撫でる仕草をしながら語られた由比ヶ浜の話によって、相模が今までやってきた行動の内訳には、ある程度の説明がついて納得もいく。
由比ヶ浜が今見せた感情論も、たしかに少しばかり幼稚と言えば幼稚だろうし、稚拙な独占欲と呼ばれるものでもあるのだろう。
ただまぁ、人間の感情なんてそんなもんだし、本質なんて年取ったぐらいでそうそう変わるものでもないし。
それに、何より。
「その・・・人と仲良くできないっていうか、女の子同士のいざこざってるのとかって、そういうのあんまりいいことじゃないと思ってはいるんだけど・・・・・・」
「お前な、そういうこと言ってやるなよ。んなこと言い出しちまったら、“三浦”が哀れじゃねぇか。
アイツ、葉山が『俺やっと分かったんだ・・・本当は俺、戸部のことが・・・』とか言い出すの聞かされたら、何やらかす奴か分からなそうじゃん?
今年の俺たちクラスの劇ソレ系なんだから、不吉なこと言うなよ本当に。
あと、人が幸せになるとキレる女と比べて、この程度でも気にできる優しい女の子アピール要らねぇし」
「いや、そんなことやってないし!? 言ってないし!? あたしがユミコの悪口言ってたみたいに曲解するのやめて欲しいんだけど! ヒッキーマジで超キモーイ!!」
「キモいと言えば、海老名さんだったら喜んで祝福しそうな他人の幸せ展開ではあるんだよな。あんがい三浦も、そうなった時にはそっちの道に走って傷心癒やす可能性が・・・」
「ないし! ユミコに限ってそんな趣味に走るなんて絶対にな――――ないから! 絶対にないからダイジョーブ!!」
言いよどんで、可能性を否定できない己を正直に答えてくれる、嘘が吐けない由比ヶ浜さん。
しかし、なんというか今の由比ヶ浜の話を聞いて分かった情報も追加して考えた場合。
・・・・・・今年の文化祭って、『女同士の嫉妬だらけ文化祭』になっちまってたんだな。舞台裏の内訳的にはの話として・・・。
男があんまカンケーのない、女から女への嫉妬がうずまく中で文化祭が行われる俺の学園生活は、やはり青春ラブコメとしては間違ってるとしか言いようないよな、ジャンル的に。
つづく