やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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新アニメが多く始まり、新作書きたくなる誘惑にかられやすい季節ですね。
そっちに行くのを自制するためにも、慣れてる作品の続き書きました。
オリジナリティー出せないままなのが残念です…。


38話

 

 以前にも考えたことかもしれないが……動物は基本的に群れるものである。

 肉食獣にはヒエラルキーがあり、ボスになれなければ死ぬまでストレスを感じ続けねばならず、草食動物でさえ天敵の襲撃から仲間を犠牲にして生き残る同類たちと群れ続けねばならない矛盾にジレンマを感じているかもしれない。

 両生類に至っては、全体の存続のため性別すら持つことなく、相手に合わせて雌にも雄にも変質することが求められる。海老名さんとか天国生命体かもしれない程に。

 

 このように、『群れ』とはボス以外の『個』にとっては何らの利益も齎さないものなのだ。

 だからこそ私は、決して群れることのない熊の道を選ぶ。

 次に生まれ変わるなら、私は絶対――熊になりたい。

 

 

 ――と、言うわけで。

 

 

「んじゃ俺、時間だから分実の方いってくるわ」

「え? あ、アンタ逃げるの!? 逃げる気なんでしょちょっと! この人のなんか変なとこだけでも治してから行きなさいよねぇ!?」

 

 狂乱のクラス劇配役による混沌と腐敗に満ちた異空間が一段落したのを見計らって、俺は邪魔にならないよう小さく周囲に声を掛けてから背を向けて、ソッと自分が属する教室を後にする。

 なんか後ろから川ナントカさんの声が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。もしくは別の誰かを呼んでいたに違いない。名前を呼ばれたわけじゃないからそうだ、間違いない。

 

「あれ? ヒキタニくんも今から分実かい?」

「・・・・・・ああ」

「そっか。じゃあ俺も一緒に行こうかな」

「・・・・・・・・・?」

 

 しかし誰にも気づかれぬよう、仮に気づかれたとしても誰からも気にされる事がないよう注意してステルス・ヒッキー全力待避を使用していた俺でさえ、流石に扉を開けて外から戻ってきた直後の葉山にまで効果範囲に組み込むことは不可能だったらしい。

 能力の限界か、俺の熟練度が足りなかったのか・・・・・・クソゥ。《絶》の念を極めさえすれば目の前にいても存在を知られることはなかったかも知れんと言うのに・・・!

 

 という理由で、邪魔です。一緒に行きたくないので、別々に同じ所向かって欲しいっスわ葉山さ~んな感じで、拒否感出した反応返してみたんだけど相手もさるもの味なもの。

 

「有志団体の申し込み。ヒキタニくん、たしか分実だと記録雑務なんだろ? 書類を取りに行くから、一緒に行った方が手間が省けて楽なんだよ」

「なる・・・ほど」

 

 実に尤もらしく、尤もすぎる正論で理由説明されてしまった・・・・・・これじゃ立場的に断れる理由がなんもねぇなクソゥ・・・。

 こうして同じ場所へ同じ場所から向かうのに、別行動する口実がなくなった俺たち二人は教室を出て、会議室へと向かうことになっちまったのである・・・・・・やはり群れってのは役立たねぇ・・・。

 

 しかも、挙げ句の果てに。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ――互いに沈黙したまま歩き続けていて、なんっか気まずいような印象がなくもなく・・・。

 チラリと葉山の方を見れば、退屈してる風でも困惑しているようにも見えず、至って普通に気にした様子すらないまま軽く鼻歌まで口ずさんでいるほどだった。

 

 対して俺の方はと言えば、あまり余裕がない。

 葉山と二人でいると、あの千葉村での合宿でのことを思い出してしまっていたからだ。あの暗い夜の中で放たれた冷たい言葉を。

 別に葉山が怖いという訳ではない。そういうのじゃないんだが、しかし・・・・・・

 

 

 ・・・・・・なんっか背後から熱視線めいたものを感じさせられる状況の中での組み合わせだったからなぁ・・・・・・。

 たぶん勘違いか被害妄想か自意識過剰のどれかだと思うし、そうだと信じたい俺もいるんだけど、不安に思って足早に教室と葉山の近くから遠ざかりたい俺としては、臨海学校の夜に二人だけで交わしてた会話あったとか知られたくないわけで。

 もし、あのシーンでのやり取り知られちまったら、勘違いが勘違いじゃなくなりそうで怖いから、ショージキ今の時期に葉山さんと一緒に行動したくないっス。だからアッチ行けアッチ。戸部いけ戸部に。

 アイツだったら多分、年中『HA・YA・TO!フゥ!』が通じるぐらい季節感ないと思うから。

 

 そんな風な理由で二人そろって終始無言のまま、でも俺だけ少しソワソワしてキョドっちまいながら廊下を歩き続けていき、会議室の前までやってきたところ、

 

「なんだ・・・あれ?」

「部屋の前に人だかりが出来てるけど・・・・・・事件でもあったのかな?」

 

 そう葉山が評した通り、会議室の入り口から数人が中の様子をうかがって、前のめりの姿勢で視線を室内へと向けてまくっていた。

 

 ・・・・・・ふと大分前に、由比ヶ浜と雪ノ下が奉仕部の部室前で同じようなポーズしながら、尻突き出してたことを思い出す。

 あの時も事件と言えば事件だったんだよなぁ・・・・・・厨二将軍と接触しちまったせいで、それ以降からまれ続ける羽目になるっていう、ストーカー事件の始まりだったって点では間違いなく事件の発端にはなっていた。

 事件は会議室で起きているものなのよって、劇場版の続編でも言ってたし。

 

「何かあったの?」

「は? なに邪魔しな――あ、葉山くん・・・・・・☆」

 

 そんな取り巻きの一人に葉山が話しかけ、面倒そうに振り向いた生徒が女子だったせいで状況説明役として役立たなくなっちまって、お荷物化することになる。

 頬を赤くして、緊張した風に「えっと・・・」とか呟いて、なんと説明すれば好感度上がるかで頭一杯そうなデレ状態に陥っちまった。

 

 葉山よ・・・なんでお前はそう、自分が目立つ存在なの認識して役目を自主的に果たせる頭いい奴なのに、バカなんだ・・・・・・。

 分かるだろ? 自分が女子にも人気あるヤツだと認識してんだったら、こーいう場面で女に聞いちゃダメだって。

 事件そのものより、お前の好感度を上げる事件説明が重要な事件になっちまって、情報源としてはゴミに変えちまってんじゃねぇか。

 

 男に聞け、男に。

 そうすれば『HA・YA・TO!フゥ!』な奴ならアホっぽい言い方以外はマトモな情報くれるだろうし、カースト低いヤツらは冷たい対応してバッシング怖いから短く的確に説明してくれるから。

 

 ったく、葉山が最初の人選まちがっちまったせいで、状況が分かりづらくなっちまったから、仕方ねぇので俺が前に出るしかなくなってしまった。

 最初に話しかけて照れたままの相手を放置できずに手間取ってる奴を置いて、俺は扉に手をかけて中に入ると。

 

「・・・なる・・・ほど」

 

 扉を開けて中に入った直後に見た光景によって、俺は事件の概要をすべて把握して、さっきと同じ納得の言葉を吐くしかなくなっていた。

 

 

「――姉さん、何をしに来たの?」

「やだなー、わたし有志団体募集のお知らせを受けたから来たんだって。管弦楽部OGとしてね」

 

 

 教室内の中央辺りで、三人の女性たちが向かい合い、ピリピリとした緊張感を会議室に発散させる要因となってしまっていた。

 より正確に表現すれば、『三人の女性たち』ではなく『二人の女生徒』と『一人の女性』と言うべきかも知れない。

 

 県立とは言え、県下一の進学校に私服姿で入ってきて堂々としている年上美人と、二人の総武高校生徒の少女たち。

 

 雪ノ下雪乃。

 城廻めぐり。

 そして・・・・・・雪ノ下の姉の―――あ、『当ててんのよサン?』じゃないな確か。

 

 うんまぁ、とりあえず雪ノ下のお姉さんが、城廻先輩と一緒になって、雪ノ下となんか緊迫した空気で睨み合っていたのである。

 

 見ると、先に来ていたらしき数人の分実メンバーたちが教室の隅っこの方に移動して、ギャラリーを形成して小さくなってる姿が見えた。

 

 ・・・・・・委員長と生徒会長のクセして、問題児になりまくってんのな、この人たちって・・・。

 しかも、何でこうなってんのかサッパリ分かんねぇし。

 何コレ一体? スーパーシスター大戦OGでも勃発させにきたん?

 

 ――とか思っていたところ、

 

 

「ご、ごめんね雪ノ下さん、報告しないまま誘っちゃって。私が呼んだんだ。

 たまたま街であってね、久しぶりだからっていろいろ話してて、その流れで有志団体が足りないって事だったから、どうかなーって思って。

 雪ノ下さんはまだ入学してなかったから知らないかも知れないけど、はるさん、三年生のとき有志でバンドやったの! 平塚先生たちと一緒に、それが凄くて! それで――」

「・・・それは、知ってます・・・・・・見てはいたので」

 

 

 わざわざ城廻先輩の口から、事細かな今に至るまでの理由説明がおこなってもらえたのであった。

 

 要するに―――城廻先輩が、ま~たヤラカシちまった・・・・・・という事情だったようだ。

 

 彼女にとっては、尊敬して敬愛する『はるさん』と一緒に学祭を盛り上げたかっただけなのだろうとは思うが・・・・・・委員長の姉で、生徒会長の尊敬する先輩で、過去の文化祭で活躍したことある卒業生の美人さん。

 

 部活だったら逆らうの絶対無理な人過ぎるだろ、条件的に・・・。

 まして総武高校は進学校。

 

 進学先の先輩になるかも知れない相手で、生徒会長から推薦されて招かれてきた先輩さまの前では、委員長とはいえ同級生でしかない一時的な権威なんか、ゴミのように価値を失うのは目に見えている。

 

 ・・・・・・学内ヒエラルキー基準で考えれば当たり前のことが、城廻先輩には分かっていないらしかった。

 つくづく、『憧れは理解から最も遠い感情だ』という言葉は正しかったんだと思い知らされるしかなかった。

 

「あはは、めぐりダメだよ。あれは遊びだったし。けど今年は、もうちょっとちゃんとやるつもりだよ?

 だから、いいでしょ? 雪乃ちゃん。有志も足りないって言うし、可愛い妹のためにしてあげられることはしてあげたいんだよ~」

「ふざけないで。・・・・・・したいのなら、好きにすればいいじゃない。どのみち決定権は私にはないわ」

「え? そうなの? 委員長やってんだと思ってたのに。じゃあ誰が委員長?」

 

 緊迫した空気と言えば空気。

 雪ノ下は奥歯を強く噛みしめたまま、視線を床に落とし、めぐり先輩から気遣わしげな眼差しを向けられてはいても交差しない。めぐり先輩もまた、姉妹の間に漂う空気を察してか声をかけようとまではしない。

 結果として、僅かな沈黙が会議室に生じることになる。

 

 言うなれば、雪ノ下の『話しかけるなオーラ』を感じ取って、それに合わせてしまいながらも、退屈はしないが気まずくは感じているらしき先輩がオロオロして、余裕なく気にしまくっている状況。・・・・・・そんな感じか。

 

 もしくは、ボスになれなかった肉食獣ストレスで暴れたいけど暴れられない雪ノ下と、草食獣めぐり先輩のジレンマと、ボスだからストレスない肉食獣の群れトップ雪の下のお姉さんみたいな感覚。

 

 ・・・・・・やっぱ群れってのは、ボス以外の個にとっては損ばっかさせられて、ぜんっぜん得ねぇもんだと思い知るよね、こういうのを見ると。やはり俺の青春理論はまちがっていなかった。

 

 そんなことを考えて、現実逃避していたところ。

 

 

「ごめんなさーい、クラスのほう顔出してたら遅れちゃいましたー」

 

 

 あっけらかんとした口調で、何も知らないから何も恐れず室内へと飛び込んでくる、アホっぽい挨拶のアホっぽい娘の元友達だったらしい現委員長が遅ればせに到着してきたのが、この瞬間だった。

 

 あー・・・・・・そういうやコイツ、俺らが教室出るとき後ろの方で友達とつるんでバカ話してる姿を見たような――見えなかったような。

 俺的には、どーでもいい奴だったから存在自体忘れかけてて、誰か他のトモダチとかが「分実いけ」って言ってくれるだろうと思ってたから気にしてなかったけど。

 

 そーいや、時間的にはミーティングに遅刻してたんだったなコイツって。

 分実委員長だけど分実のミーティングに遅刻。

 問題ある行動っちゃ行動と言えないこともないんだが・・・・・・

 

「あ、はるさん。この子が今年の委員長ですよ」

「え? あ、さ、相模、南ですっ!」

「ふぅん・・・・・・」

 

 なんか偉そうな相手に、生徒会長から敬語で紹介されたことで、マズいところ見られたみたいに慌てて会釈して挨拶したっぽい相模の対応。

 

 もっとも、今日のは定例ミーティングの日って訳でもないし、現状としては仕事が前倒しで進められているにはいる。

 それでもまぁ、アポなしで急にきたお偉方が視察してるところにバッタリ出くわしちまった、湾岸署限定での3ボス的ポジションとしては、3ボス的対応するしかなくなる心理も理解できんでもないっつーか、スゴク分かるわ本当に。

 

 しかも、そのお偉方の反応ってのが。 

 

「そっか。文化祭実行委員長が、クラスに顔を出していて遅刻・・・ね? へぇ~」

「あ・・・う、その・・・・・・えっと・・・」

 

 小さく息を吐いて、底冷えのするような視線で見下ろしながら、一歩だけ相手に近づく。

 生徒会長からも親しげに敬意を払われている、明らかに年上の女子大生っぽい美人から、この対応をされながら評されて、今さっき悪くはないが褒められた事でもない姿を見られちまったばかりの相模としては、気まずい立場になるしかない。

 

 ましてカースト意識を強く持ち、階級に高い価値を見いだしている相模としては、身体の真っ芯から絞り出されるような低くて威圧的な声音で放たれた言葉には、総身に染みこまされて恐ろしさを植え付けられずにはいられないシチュエーションだったかもしれない。

 

 

 ただまぁ・・・・・・そもそもにおいて。

 

 今日の分実の仕事はじまるの邪魔してたの、この人自身なんだよなーって。ひねくれ者の俺的には思わざるを得ないわけでもありまして。

 どーにも来たばかりで、今に至るまでの過程を知らない前提の相模とは同じ感覚持てずにチト反応に困って沈黙するしかなく、ビミョーな気分ッス。

 

「え、えっと、その・・・・・・わ、私は――」

 

 ここに至るまでの過程を見てないので、自分が遅れなくても仕事始まってなかったこと知らない相模が、必死に言い訳しようと言葉を探してるところへ、急に「ニコッ☆」と害意なき可愛い微笑みの笑顔に変わって、それ見た相手が困惑したっぽいのも。

 

 俺の目にはしょーじき、『余計な真相を語られる前に既成事実化して誤魔化さなきゃ♪』って感じのことしたいだけのイメージ拭えないスけれども。

 

「やっぱり委員長はそうでなきゃね~! 文化祭を最大限楽しめる者こそ委員長にふさわしい資質だよね!」

「あ、ありがとうございます」

「いいねーいいねー! えーっと、何がみちゃんだっけ? 甘噛み? ま、いいや。委員長ね。私は雪乃ちゃんの姉の雪ノ下陽乃っていうの。一応この学校のOGで、めぐりの先輩。よろしくね~♪」

「あ、は、はい、よろしくお願いしますっ」

 

 そしてアッサリ機嫌取られて、木に登らされるサル並委員長。・・・・・・さすがは由比ヶ浜と仲良かったことある元クラスメイト女子だった。頭の中身が似たレベルで、チョロ過ぎるだろ。ご機嫌取りのお世辞に決まってんだろ、疑えよ委員長職についてる同級生。

 

 あと、自分の名前どーでもいいから覚える価値なし扱いされて、役職しか覚える価値認められてないみたいなんだが、いーのか? それで本当に・・・。

 

 さがみナントカ委員長の価値基準と思考レベルが、よく分かるやり取りだった。

 ・・・・・・これからのことが凄まじく不安になる1シーンだったなオイ。・・・こんなのがボスで率いられてくのか、分実群れコミニティー・・・すごくヤダし、帰りたい・・・・・・でも帰ってホモ劇出るのも嫌だから動けないよ~。

 

「で、委員長ちゃんにお願いなんだけど、わたしもさー、有志団体で出たいんだよね~。雪乃ちゃんに相談してみたんだけど渋られちゃって、私あんまり好かれてないから・・・・・・」

「え・・・・・・クス♪ ――いいですよ~。有志団体足りないしぃ」

 

 くすんと、しおらしい態度っつーか、露骨に媚び売ってヨイショしただけの不二子ちゃん的『ルッパ~ン♡』をやっただけではあったが、相模相手には通じたらしく、一瞬ニヤリと笑ってから了承して、

 

「地域との繋がりも、これでクリアーでしょう・・・?」

 

 わざわざ雪ノ下に視線を送りながら、勝ち誇ったような微笑みを浮かべて嬲るように付け足してくるが・・・・・・とは言え。

 

 ・・・全体の流れを忘れてなければ、『委員長しか決定権持ってない』って教えられてたから、許可できる人に許可もらおうと可愛らしい演技してみせただけだったのは一目瞭然なわけで。

 

 その過程見てないから知らない、サガなんでもいい委員長だけが、自分の優越性を示すのに利用できると思い込んじゃっただけっぽい現在の状況。

 

 しかも周囲からすれば、あまりにも露骨でわざとらしい可愛い演技の中で言ってたせいで違和感がなく、『相模も分かってて付き合っただけだろう』ぐらいのイメージで終わりそうで、ほとんどの奴は『その話したとき相模は遅刻していなかった』という事実を忘れて記憶してそう感がスゴくもある。

 

 

 恐ろしいほどに、印象操作の上手い人だった。

 彼女と雪ノ下との大きな違いがそこで、先程まで明るく振る舞ってたのが一転して凍てついた表情で見下ろしてくる落差の激しさや、従順である限りは友好的に接して刃向かうのなら容赦なくて内にする実態を相手に向かって示してくる、黒さと白さを時と場合に合わせて使い分けれる器用さが、雪ノ下のお姉さんにはある

 

 終始一貫して、刃向かってくる敵は叩き潰して死あるのみ!・・・を地でいく、猪武者なのか第六天魔王なのか、よく分からん雪ノ下にはそういう器用さがない。

 それが今日までの分実で、仕事は進むが空気は良くなれない一因になっている部分でもあった。

 

 

 ・・・・・・まぁ、言い方を変えちまうと『ギャップ差で誤認させて誤魔化すのが上手い』ってだけになるのかもしれない能力ではあるものの。

 

 それが出来ないから、全体的には後れを取りやすい雪ノ下と、全体を動かすため仮面を使い分けれる雪ノ下のお姉さんでは―――他人たちからは比較されやすい部分での違いなんだろうなと、そんなことを少しだけ思わんでもなく。

 

 

「やっぱりこうなるのか・・・・・・」

「葉山・・・?」

 

 その段まで来て突然、俺の後ろからも聞き慣れた声がかけられて振り向くと、困ったような諦めたような、なんとも微妙そうな表情を浮かべながら呟いていた葉山がそこにいた。

 

「・・・じゃあ俺は、書類もらって戻るから」

 

 そして珍しく、何の役にも立たないまま教室へと戻っていく。

 成功失敗や可能不可能は別として、人間関係の揉めごとを見ると、『何とかしてあげたいと思う』を言わずにはいられないというか、俺が知る限り今までずっと言い続けてきてる奴がこの反応・・・・・・何かあるのか? コイツと雪ノ下姉妹との間にナニカが・・・・・・。

 

 

「あれ、比企谷くんだ。ひゃっはろー!」

「・・・・・・ども」

 

 そして今更ながらに俺に気づいたのか、今まで放置しておいてくれてただけだったのか、遂に声をかけられて名を呼ばれ、由比ヶ浜の定番挨拶進化バージョンを聞かされる栄誉に預かる運びとなるのであった。

 

 っつか、妙な相手にほど流行りやすいな。由比ヶ浜製の、この挨拶。

 小町に続いて雪ノ下のお姉さ――たしか陽乃さんだったな、思い出した。

 陽乃さんにまで出会って話した回数少ないはずなのに感染して、しかも進化しちゃってんじゃねーか。退化かもしれんけれども。

 特定の相手や場所と接触したら、次の段階に進化する系のポケモンか!とか俺的には聞きたい。

 

「ちょっと意外だな~、比企谷くんはこういう事しない子だと思ってたよ。ちゃんと働いてるかい? 青少年」

「ええまぁ、俺もする気なかったんですけどね。授業中に寝てたら、やってました」

「え? 何それ? どゆこと?」

「さぁ?」

 

 一応聞かれたので、ありのままの事情を答えておいた俺。

 だいぶ端折っちまったけど、全体の流れ的には間違った説明はしていない。寝てたら分実委員になってたのだ。その点で俺に嘘はない。

 

「ふぅ~ん・・・? 静ちゃんの差し金かな」

「そっちはどうか俺には分かりませんけど、でも意外さで言うならおたくの妹さんもそうなんじゃないですか?」

「そう? 私はやると思ってたよ。だって部活にはいづらくなってるだろうし、姉の私が昔、実行委員長をやっていたんだもの。あの子がやろうと思う理由には充分よ」

「ふーん・・・?」

 

 分かるようで分からないようで、特定のローカルカースト基準でも持ち込めば案外すぐ分かっちまうもんなのかもしれない話を聞かされながら・・・・・・それでも俺は疑問を感じずにはいられない自分をまちがっているとは思いたくはなかった。

 

 

 

「そうですかねぇ・・・?

 アイツ最初は周囲や教師たちから、『姉もやってたからやってくれ』って頼まれそうになるだけで、食い気味に言葉ぶった切って拒絶してましたし、生徒会長から内申とか推薦狙いのエサを見せても乗ってくることなく、誰一人名乗り出ないまま時間過ぎていって、他に候補いない中で生徒会長からニッコリ笑顔で無言の要請受け続けた末に、ようやく仕方なしに受け入れてやるしかないか―――って感がスゴい態度で引き受けようとした瞬間に、相模が横から割って入ったから今の状況になってるだけなんですよ? 分実でのアイツって」

 

「・・・・・・・・・」

 

「たぶん他の奴が立候補してたときには、絶対いまの立場にはなってなかったとしか思えないほどの拒否っぷりでしたけど・・・・・・。

 それに現在の委員長補佐の立場でさえ、委員長自身から個人的に部活動として頼まれたから引き受けてなってた役職なんですが」

 

「ゆ、雪乃ちゃん・・・・・・恐ろしく、面倒くさい子ッ!!」

 

 

 

 うん、まぁ―――それには正直、素直に同感です。

 ひねくれ否定要素は、なんもありません。ハッキリと。

 

 

 

 

つづく

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