やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
内容には異論おありの方も多いかもですが……あくまで作者の妄想版と解釈いただけると助かる次第。
今さら改めて言うまでもなく、世界の常識でしかない一般論でしかない話だが。
青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌する者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境を肯定的に捉えて、致命的な失敗を犯しても青春の1ページとして刻み込む・・・・・・それがリア充という名の、月を見たらサルに変身してラブホテルへと襲いにいく下等民族の特徴である。少なくとも選ばれしボッチの帝王である俺は、そう信じている。
だが今回、その理論を当てはめて考えた場合。
雪ノ下雪乃は、特定の一分野において下等民族たる野蛮なサルのリア充人たちと同じ種族にはなれない民族らしかった。
青春を謳歌できるスペックを持った姉の協力を得られ、足りていなかった有志参加もOG、OBで埋め合わせしてくれるという都合がいい提案がなされた現在の環境を、肯定的に捉えているようには全く見えない表情が、分かりやすく雪ノ下雪乃という少女が、俺と同じ側に今回だけは確実にカテゴライズされていることを示していたのだから・・・・・・。
――では逆に、新たに雪ノ下陽乃が加わった、自らを取り巻く環境の変化を肯定的に捉えて青春の1ページ化しようとしているリア充とは、誰だろうと考えたとき。
・・・・・・まぁ候補は、コイツしかいない現状な訳ではあるのが、今の俺たちが置かれ直した新たな分実の姿である・・・・・・。
「みなさ~ん、ちょっといいですかー?」
雪ノ下と雪ノ下のお姉さんとのイザコザっぽい険悪なムードに当てられ、ざわついていた会議室内に大きい声で、一昔前のコメディアンか芸人か占い師みたいなセリフを響かせてくる女子生徒がいた。
見ると、相模南が一度は着席していた自分の席から立ち上がって、何か意見を言いたくなったらしく、室内を見渡してからコホンと軽く咳払いした後。
「少し考えたんですけどー・・・・・・実行委員はちゃんと文化祭を楽しんでこそかなーって。
やっぱり自分たちが楽しまないと、人を楽しませられないってゆーか~」
そんな前振りで始まった相模からの提案を聞かされて、黒板前の友達二人と笑みを交わし合ってアイコンタクトをした上で行われた内容。
『パクりじゃん・・・』と、思った人間が確実に何人かはいるだろう前振り付きの提案だったことは・・・・・・まぁいいとして。
「予定も順調にクリアーしてるし、クラスの方も大事だと思うので、少し仕事のペースを落とすっていうのは、どうですか?」
そんな提案を宣いだしちまった訳である。
その提案に――前振りの部分については何も言わず――皆はちょっと考えるように間をあける。
たしかに今のところ、文化祭準備の進捗状況は悪くはない速度で進んでいる。
副委員長に就任した雪ノ下が、片っ端から問題点を潰してくれるようになったおかげで、まずまずの進行と言っていい。
周囲の皆が、相模からの提案を検討する気になったのも、その点が考慮された故でもあるのだろう。
ただし。
・・・・・・その雪ノ下自身から『少し遅い、急いでください』とダメ出しされた定例ミーティングやった日から数日しか経過してないのが今日なんだけれども・・・。
また、その時に言われた『有志参加団体の数と地域との繋がり』って問題点が、陽乃さんの登場で解決されたばかりと来ている。
・・・・・・油断すんの早すぎじゃね? と俺なんかには思われるのだが、世間という奴は思いのほか忘れるのが早い。
これもリア充による青春の弊害なのか、自分たちの失敗をなかったことにして青春の一部のスパイスに変え消化する作業に慣れすぎている。
そんな風に穿った見方をするエリートぼっちになる道を自ら選んじまった弊害かもしれない。
「相模さん、それは考え違いをしているわ。バッファを持たせるための前倒し進行で・・・・・・」
(訳:余裕あるうちに進めとかないと後で対処する能力ないのに、何言ってんの? この頭アッパラパー娘は)
「雪ノ下さ~ん、お姉さんと何があったか知らないけど、私情を挟まないで、皆のことも考えようよー」
(訳:どーせ何か問題あっても優等生のアンタなら何とか出来るんでしょ? だったら、やってよ。私のた・め・に☆)
洋画に時々ある、オーディオコメンタリーの変なナレーションと吹き替えバージョンみたいな声に変換されて仕方がないんだが・・・・・・これは何ヤクコンニャクですか?それとも悪側のマシーンですかね?
食った覚えない上に、頭の中に直接聞こえてきて拒否権ないんスけど・・・・・・。
「いやー、いいこと言うね-。私のときもクラスの方、みんな頑張ってたなぁ~」
一方で、異を唱えた者の反対意見に異を唱える者が――より正確に表現するなら、『異論に対して異議を唱えた“ように聞こえることも可能な言葉”』を口に出す者もいる。
まぁ、雪ノ下と雪ノ下の姉ちゃんな訳だが。
一見すると、純粋に昔を懐かしむような言い方をすることで、相模の意見に間接的支援をおこなってるようにも見えなくはない言い回し。
相模なんかは確実に、そう解釈したみたいだった。
言ってる内容的には、『自分のときのクラスのみんなは“頑張っていた”』『役立ったとも大丈夫だったとも言ってない』という、意訳すること前提の『個人的な感想』に過ぎんものだったんだが・・・・・・そういうこと考える性格じゃねぇよな、コイツ絶対に。
「先人の知恵に学ぶって言うかさ。前例もあるし、その時って凄い盛り上がったんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「やっぱ、いいところは受け継いでいくべきだしー。私情を挟まないで、皆のことも考えようよー」
「・・・・・・・・・・・・」
横から口を挟んできた姉に向かって、無言のまま咎めるような視線を送っていた雪ノ下に対して調子乗ったような態度で、嫌な目付きとともに嫌味ったらしく上から目線で説教っぽいことを語ってきている。
他の分実メンバーたちも、互いに顔を見合わせた末に相模の提案に納得したのか、チラホラと拍手が打たれて、どうやら可決される方向で多数決によって決まったみたいだった。
おそらく相模としては、『雪ノ下に押しつければ何とかしてくれる。何かあったら失敗した本人の責任』とかの前提で、イジワルな継母よろしく、雪ノ下をこき使ってプライド満たすだけ考えての意見でしかない可能性が高いんだろうが・・・・・・陽乃さんの方はよく分かんねぇ理由によって曖昧で解釈しだいな言葉を述べていたように思われる。
どのみち委員会の過半が賛成してしまった後の問題に、少数派マイノリティーの俺がどうこう言ったところで意味はなく、たぶん賛成する前に言っても結果は同じで意味はなかった。
帰農令ならぬ、帰組令を可決させるのに成功した相模が、満足そうな笑顔で微笑んでいるのに対して、雪ノ下がひどく冷たい顔で無言のまま仕事に戻ってるのが印象的だった。
ようやく実行委員長らしい仕事ができた――相模を見る限りでは、そう思ってるらしかったが・・・・・・果たしてこの選択が吉と出るか凶と出るのか、大凶か。
なんとも先行きの見通しが立たなくなっただけで、今日の非定例ミーティングは終わりを迎えることになる。
「いやー、さすがは委員長。本当にいいこと言うね~。ね? 比企谷くん」
「・・・・・・そうッスね。“先人の知恵”とか、お婆ちゃんの年齢差扱いされてるみたいな言い方だったと思いましたけど、言われた本人が『良いこと言ってた』と思えるんでしたら俺は別にそれで、痛痛痛ぁぁぁッ!?」
「・・・・・・・・・・・・お姉さん、勘のいいガキと、鋭すぎるガキは嫌いだから、今日はちょっとお仕置き」
「痛い痛い痛い!? なんで俺、イタタタタタタタッ!?」
そんな風に、痛い顛末を遂げるやり取りを経てから数日後。
俺が抱いた疑問への答えは、変化という形をとって明確に示されることになる。
「・・・・・・やっぱ来なくなるよなぁー、普通に考えて」
陽乃さんが来た日の前までと比べて、明らかに出席数が減ってしまっている会議室の光景を見渡してからら、俺はなんとはなしにそう呟いていた。
相模委員長による提案内容が、あの日来ていなかった委員会メンバーにも行き渡った結果がコレらしい。
いったい何時から、3年生の記録雑務が担当していた議事録の作成までもが、1年生でしかない俺の仕事になったのか・・・・・・たぶん担当者と責任者が休むようになった日からだろう。
担当者が休んだから、責任者が代わりにやる責任あって、責任者も休むようになったら次は無い。なし崩しだ。とりあえず学年序列とかで次々押しつけ合った末に一番下の奴に、それで俺。という流れがあった日からの結果である。
責任者だの担当者だのと会社みたいな肩書き流用したところで、実際には学校の文化祭。大した階級別けやら組織内の序列を決めてる制度なんてものはなく。
『ナンバー1:責任者。ナンバー2:担当者』―――以上。これで終わりだ。
その二人が休んでこなくなった時点でまっとうな機能なんか出来るように出来てない。寄せ集めのゴッタ煮集団らしいテキトーさが徒になった感じか。
「・・・やっぱり相模さんの提案、ちゃんとダメって言えばよかったかな・・・」
聞き覚えのある声が聞こえたので見上げると、生徒会長のめぐり先輩が申し訳なさそうな表情で呟いている姿が視界に映りこむ。
彼女は彼女で、俺に本来の業務ではない仕事を持ってきていたようではあったが、見たところ一応は雑務系の書類ではあるらしいので、これは断れそうもなく、大人しく受け取るしかない。――残念ッ、ズバァッ!
――まっ、とは言え、減ってると言っても30分ほどの遅刻であったり、事前に連絡をした上での欠席がほとんどではあるのが現状。生徒会長としては立場的にも、どーこー言いづらい状況なのは理解できる。
問題と言うほどのことは起きていないし、サボりというわけでもない。統制は取れてるし、ルールも守られた中での行動だ。
――ただし。“今のところは”の話でしかないのは、考えるまでもない状況ではあるわけでもあるのだが・・・。
最初のころは、少しの遅刻や、休みの連絡くれてた相手から徐々に連絡くる回数が減っていって、「遅刻し過ぎたから明日にしよう」になり「昨日も行かなかったんだし1日が2日になっても大して変わらない」になって「もうこんだけ休んじゃったら今から行っても」で全部休むようになる。
サボりってのは、そういうもんである。ソースは俺。
いや、ガキの頃に親から無理矢理いかされてた習い事なんて、そんなもんだって絶対に。絶対にだ(断固)
「『クラスの方も大事に』か・・・・・・言ってることは正しいんだろうけど、実行しようとすると、こうなっちゃうよね・・・」
「まぁ、そうッスね。雪ノ下のお姉さんの時代と今の俺たちの状況と状態が、同じスペック持ちばっかだったら成立できたかもしれない理想論でしかない正しさでしたし」
「うぅ・・・・・・ご、ゴメンね? 連絡はしてるんだけど・・・・・・今いる人たちで分担しないと間に合わなそうなのよ。私もできるだけ手伝うから頑張ろう、頼りにしてるよ?」
「俺も・・・できる限りのことは、するつもりです」
なんとなく可愛かったので、少し渋めに格好つけた声と口調で答えてみたんだが、通じなかったらしい。『うん!その意気だね!ファイトファイト♪』と、なんか元気づけてしまったらしい。
・・・・・・やべーな。選ばれしエリートひねくれボッチである俺が・・・・・・このエリートぼっち星の王子が、格好付けて先輩の女の人を喜ばせちまうなんていうリア充な真似をしてしまうなんて・・・・・・どうやら流石に疲れてきているらしい。
――しかし、この状況を見る限りでは――やはり相模がおこなった提案は、『免罪符を与えただけ』だったっていうのが正しいモノの見方になるんだろうな・・・嫌な話だが。
割れ窓理論、という考え方がある。
とある街の建物の窓が割れていて、それを放置すると無関心さの表れとなって、無関心がモラルの低下を招き犯罪を誘発していく・・・・・・という流れを定義した説だが、それが今この状況にはピッタリ当てはまっている。
誰かが、つまらない理由で分実を休み、休んでも誰一人罰されることなく放っておかれる姿を見た者たちは、『アイツらが休むなら俺も』となる。
休むようになったヤツの分まで仕事まわされるようになった隣人は、『なんで俺だけ理不尽だ』になって、新たな休む側の一員になる。
そうやってサボる奴らって言うのは増えていき、減った分の煽りを受けた真面目なヤツが理不尽に感じて不満を抱き・・・・・・やがて『ルールを守ってるヤツの方が損をする現実』に気づいた反動から逆側の行動に走る動機へと至らせる。
『管理する側』の『違反者に対する無関心』が、真面目に働いてる奴らのモチベーションまで下げる原因を作り出し、モラルを低下させる理由になっていく。
「失礼します。有志の申込書類、提出にきたんだけど・・・」
「申し込みは左奥へ」
「ありがとう」
そんな状態のときに、聞き慣れた声がしたので顔上げたら、葉山だった。
相変わらず非の打ち所のない爽やかスマイルで、雪ノ下からの無愛想なテキトー案内にも嫌な顔一つ見せずに礼を言って、申し込む担当の元へ向かっていく。
逆に雪ノ下の方は、キーボード打つ手を止めずに対応する接客業だったら0点の反応による返事であったが、それはまぁ仕方がない。
雪ノ下だからしょうがない、って言うのもあるにはあるが、それ以上に『一応は副委員長』に案内板の接客マニュアル求めたところで普通はどーにもなれんだろうし、接客業のナンバー2が直々に算盤はじいて案内まで務めるようになってる時点で、その店は多分もう事実上終わってるんじゃねぇかと俺は思う。
「なんだか、人が減ってるみたいに見えるけど・・・・・・人手、足りてるのか?」
そこまでは良かったのだが、何故だか申込書類持ってきただけのはずの葉山が俺のもとまできて話しかけてきたのだ。
別にいちゃ悪いわけじゃないが、妙にリア充を鬱陶しく感じるのがボッチという優良種族の悪弊なので、出来れば遠ざかってほしいところなのだが・・・。
そんな俺からの視線に気づいたらしい。葉山からニカッと微笑まれ、
「いや、書類の審査待ちなんだよ。不備がないか見てるんだって。
終わるまで手持ち無沙汰になっちゃって・・・・・・目の前で確認終わるの待たれるのって、プレッシャーだったりしないか?」
「・・・・・・するな。確かに色々焦らされて、ミス誘発する原因になりそうだわ」
あまりにも的確すぎる理由説明に、俺でさえ反論の余地が一切見いだすことが出来なくなるほど。
チッ、ここまで完璧な正当性を持った理由を語られたんじゃ、俺としては無視できる口実がねぇ・・・。
話だったら他の奴に、と言いたくもなったけど、他の奴の半分近くは名前知らねぇし。半分以上は顔すら覚えてるか微妙だし。テキトーに指名できそうな心当たりが0過ぎる・・・。
くそぅ・・・ボッチの弊害がこんなところで・・・。
自ら望んで捻くれボッチになる道を選んだスパーエリートぼっちの俺には、友達が少なすぎるっつーか、いない。
「全体の状況の方は俺には分からん。
ただ、下っ端は担当部署だけで手一杯になる程度には、数が減ってるみたいじゃある」
「えっと・・・ごめん、ヒキタニくんの担当部署って、何だったかな?」
「俺は記録雑務」
「ああ・・・・・・似合うな」
すげぇナチュラルに悪意0パーセントの口調と表情で言われてしまった。
聞きようによっては、ケンカ売ってるとしか聞こえない評価でもあったが・・・・・・しかし俺は、そうは思わない。
「そうか? 雪ノ下も最初は同じ担当部署だったんだが・・・・・・今度の部活のときにでもアイツ的にはどう思うか、参考意見として聞いてみるわ」
「すまない、ヒキタニくん。俺が失言だったから、許して欲しい・・・・・・」
そして即座に葉山からも同意と理解が得られて事なきを得た俺たちであった。――だから睨むな雪の女王様、仕事して。視線が寒い痛い冷たいキツいから・・・ボッチのギザギザハートは傷つきやすいんだってマジで!!
「ただ、不見識な発言だったことは謝罪するけど・・・・・・俺の見る限りじゃ、ほとんど雪ノ下さんがやってるように見えたからさ。だから正直、彼女も記録雑務でしかなかったとは思わなくて」
「まぁ、な・・・」
そして次のターンで、でここまでの流れをリアルタイムで見続けてた訳でもない葉山からの論評に、今度は俺の方が認めざるを得ない立場に変わっちまったようだった。
実際、今の時点で既に弊害が出てはいないまでも、その危険シグナルは点灯し始めてるぐらいの状況にはなってきてはいる。
雪ノ下の姉ちゃんが参加要請を受けたおかげか、有志団体が先日よりも増加して、それに伴う宣伝広報への協力場所もセットで増加。そのための予算を計算し直しなんかの間違いを許容しづらい上に、できる奴が理数系の偏差値高めな奴に限られる仕事が増えちまって仕事量と人員の割り振りに偏りが生まれるようになっているのだ。
挙げ句、それら増えた仕事のほとんどを、雪ノ下一人で処理してしまっているから問題らしい問題は何も起きていないという状況。
内面はともかく、スペック的には有能であり、副委員長として一定の権限を与えられ、クラスの方は知らんが部活の方は活動停止して休みにしたばかり。時間はあって、能力もあるという状態。
これなら今より減って、メンバーの半分やそこら休んだところで、充分にカバーできてしまえるだろう程にハイスペックな雪ノ下印の安全規格。
・・・・・・逆に言えば、雪ノ下が優れてるおかげで問題になってないってだけの状況ともいえるのが分実の現状。
「ええ、そうよ。その方が効率がいいし」
「でも、そろそろ破綻する」
「・・・・・・(カタ、カタ、カタ・・・)」
葉山から水を向けられた雪ノ下が、キーボードを見下ろしたまま、目線を合わせることなく答えた回答に、珍しく葉山から突き放したような反応を返され、反論できなかったらしい雪ノ下が無言のまま仕事に戻っていく。無言の誤魔化しとも言うが。
とはいえ、雪ノ下一人でやった方が早い仕事は大量にあり、ロスが少ないのがメリットなのは間違いない。
明らかに能力差ありすぎる奴等を率いてミスに苛立たされながら作業こなしてくよりかは、雪ノ下一人の手足として俺らが動く方が、ずっと効率的にはいいのは間違いない。
仕事の進み具合やらを見れば、雪ノ下がほとんど一人で仕事やってくれてる現状には、全くもって何の問題もないと断言できてしまえるほど。
・・・・・・それが問題の一つになってる問題点なのかもしれなかった訳だけどな。
端的に言うと、『半分やそこら休んでもカバーできること』は、『半数のメンバーは休んでもいい』ってのとは違うって事だ。
現在の分実メンバーは多分、後者の奴が増えてきちまっている状況にある。
自分が来なくたって、出来る委員長が自分がやるよりイイ仕事してくれてるんだから、スペック低い足手まといの自分なんか来ない方がいいッスよね。却って邪魔になりかねませんものね、テヘッ☆
・・・・・・とかのサボるのを正当化する口実に使われてる可能性が高すぎるんだよな、この状況って。
「そうなる前に、ちゃんと人を頼った方がいい」
「・・・・・・」
「俺だって、今のままで上手くいきそうだったなら、それでいいと思うよ。だけど現状回っていない訳だし、何より失敗できない訳だろ? 遠からず破綻するのを避けられそうもない状況なら、方法を変えていくべきだろう」
「・・・・・・・・・」
雪ノ下は答えない。相手からの提案を肯定はしないが、否定もしないし反論もしない。
出来ないからだ。頭はいいアイツのことだ、葉山が言ったことぐらい自分自身でとっくに気付いていただろうし、だからこそ自分一人で支えるための仕事量を増やしてもいたんだろう。
けど、雪ノ下に頼れる人間はいない。アイツはそう言うのが苦手な人間だ。
俺と同じで、他人を信じて任すというのが、本質的に下手なタイプの人間なのが雪ノ下だからだ。
「でも・・・・・・部外者の人にやってもらうのは・・・」
「だから、有志団体の代表って事で、有志団体の取り纏めだけでも手伝うよ。それだったらいいだろ?」
「・・・・・・・・・」
「そういうことなら・・・うん。正直、お願いできると嬉しいかも」
そして雪ノ下が返答を迷っているか、あるいは躊躇っている間に悩んでいたらしい、めぐり先輩の方が先に顔を上げて葉山の意見に好意的な反応を示してくる。
この場における最上級生にして、見た目のイメージはともかく役職的には最高位の地位にある人間の後ろ盾を得たことで、葉山は意見の勢いを増す――というタイプの男じゃないが、雪ノ下的には拒否しづらい状況が出来上がっちまったのは間違いなく事実だったろう。
「どうかな? 雪ノ下さん」
「雪ノ下さん、誰かを頼るのも大事なことだよ? ハルさんだって、こういう時は――」
「・・・・・・」
めぐり先輩からも優しく諭されるように言われ、それでも雪ノ下は答えない。
ただ、今まで叩いていたキーボードを打つ手を止めて、ジッと画面を見つめたまま相手との視線を合わせないよう固定させ続けている。
俺や雪ノ下みたいな人間は――少なくとも俺自身は、人を信じて任せるというのが、どーにも出来ない。ダメだった時に相手を恨まずにいられる自信が無い。
自分がやって上手くいかなくても、自分一人を責めればいい。だが他人を頼って失敗した誰かを責めたくはない。
信じて任せておきながら、結果論で誰かを恨みに思うのは恨みに恨みきれないからだ。
それは別に、優しさからくる感情なんかじゃ全くない。そんな綺麗な想いからは程遠い。
単に自分のことなら諦めもつくが、人にされたことでは諦めがつかないから、そうなるのを事前に避けてるだけでしかない。
「あの時アイツがこうしていれば」、「その時ソイツがちゃんとやっていれば」・・・・・・そんな事を思いながら生きていく、とても重苦しくて辛い人生を送る自信は俺たちには無いんだ。
なら、最初から一人でやってしまった方がいい。自分一人の後悔なら嘆くだけで済む。
・・・・・・他人のヘマのせいで失敗して、ヘマした奴自身はヘラヘラ笑って生きていくの見てたらイラつかされるだけなんだよなぁ・・・・・・。
しかも、そーいうのに限って自分の失態のこと言われたら、『はぁ?お前が任せた結果じゃん、そうなることも想定して任せるもんでしょ普通はさ~。それがイヤなら最初から任せなきゃよかったじゃん、あー迷惑~』とか、自己正当化の屁理屈言いまくるだけで、何の賠償も支払わずに逃げることしかしたがらない奴多すぎるのが世の中ってモンだし・・・。
あーいう反応されて、ぶっ殺してやりたい気持ちを抑えなきゃならん結果になるよりかは、俺たちは最初から信じないし任せない道を選ぶタイプの人間だ。
たぶん雪ノ下も同じような理由で、そういうのが苦手な人間になった同類タイプの奴なんだと俺は思う。
だって恨みがましい奴だし、中学の同級生女子への恨み未だに引きずってるの言ってたことあるし。
だからこそ俺たちは、少なくとも俺は、人を信じて任せると言うことが出来ない。一人でやった方がいい。
俺は、いつだって優しい女の子は嫌いだが・・・・・・ムカつく反応しか返さん男はもっと嫌いだ。
殺したくなるのに殺せないのは辛すぎるし、恨むに恨めん。無駄な徒労なのが嫌すぎる。
――ただ・・・それでも俺は――
「・・・・・・まぁ、誰かを頼るのも大事なんでしょうけど」
ボソリとした声で、俺は自分の意見を口に出す。
――反対ではないが、完全な賛成もできないし、間違っている部分もあるという俺の意見を。
葉山の言うことも、めぐり先輩の言うことも、言ってること自体は全くもって正しい。
最高だ、感動だ、麗しい仲間意識だ。
まして、人に助けられることに慣れてる人間にとっては、名台詞の定番と言っていいぐらいだろう。
躊躇なく人を頼れること。協力すること。力を合わせること。どれも全くもって素晴らしいとしかことは間違いない。それを否定する気は微塵もない。
だが―――それを妄信的に賞賛する気も、俺には持つことが出来そうになかった。
皆でやることが素晴らしくて、皆でやるのが良いことだとしても、一人でやるのが悪いことになる理由にはならない。
今まで一人で頑張ってきていた人間の功績を、否定される理由に使ってくる理屈・・・・・・そのことが俺は許せない。
だって、そうだろう?
「ただもともと、今の状況って委員長が雪ノ下を頼って任せて、自分自身は来なくなってから始まっちまってることですし、俺としては同じ結果繰り返されるリスクが怖いんスよね」
『う、ぐ!?』
ボソッとした声で俺が付け足した言葉を聞かされて、めぐり先輩と他何人かの分実メンバーたちが揃って呻き声を上げて、『ササッ!』と目を逸らすような効果音が聞こえた気がしたけど、知らん。俺は知らん。
・・・いやね? マジで本当にこの状態で雪ノ下追い詰められて、雪ノ下までダウンしちゃったら困るのよ。主に俺が。
アイツ基本的にスペックは高いけど、体力とか持久力とかはねぇモヤシっ子なんだよ? 秀才タイプのお嬢様なんだよ?
そんなのに何だって、相模と同じこと求めて、相模と同じことやらないし同じ結果にもならないに決まって~る!・・・・・・という前提での意見が言えるのかが俺には理解できん。
これで雪ノ下が人に頼るの覚えて、『それじゃあ先輩と葉山くんに任せるわ。大事なのは飢えている人間に魚を与えることではなく魚の捕り方を覚えさせることだと思うの』・・・・・・とか言い出さないとも限らんだろうに。前にも似たようなこと言ってた気がするし。
「比企谷くん、それは違うわ。私は自分が引き受けた仕事分をこなしているだけで、相模さんを責めるのは見当違いのお門違いもいいところ―――」
「と言うが、雪ノ下。だったら俺が本来やらなくてよかったはずの仕事まで回されてる分も、代わりにやってくれるか?
念のため言っとくが、さっきお前から求められた先週分の議事録も、別の担当者がやるはずだった仕事を俺に回されたから仕方なくやってただけだからな? その休みの人も、相模からの宣言まで毎回来てたはずの人だったからな?」
「・・・・・・・・・む」
いつも通り、堅苦しいと言うより杓子定規に『自分が引き受けたことは他人のせいにしない』を貫く雪ノ下からの反論は、普通に予測できる範疇だったので用意しといたセリフで返して、アッサリ終結。
基本的には俺も雪ノ下と同様に、自分が引き受けたことで他人のせいにするのは嫌すぎるし、恨むのも嫌なタイプの人間だが―――嫌も応もなく強引に無理矢理『みんなでやるもんだから。仕事ってそんなもんだから』の仕方ない理論で置いてったからイヤイヤやってだけの分まで自主的に背負ってやった覚えはねぇ。
学年あるし立場もあるから、その場で拒否るのも言い返せないのも止むを得ないが、いえそうなチャンスを見つけた時には言っておこう。言わないでいてやる義理はない。
『助け合いが大事』というセリフを言うのが大事なだけで、全く助け合う気も実績も恩もねぇ奴の都合やら事情なんか知らん。どーせ相手もコッチの事情は知らんだろうし頓着もしない。
そーいうもんだ。高校生同士の文化祭運営における助け合い精神なんて。
・・・・・・っつか、HR中に寝てたら選ばれた奴でもメンバーに加える寄せ集め実行委員会に、それ以上ナニを求められるというのか・・・・・・俺は知りたい。
「ふむ・・・たしかに、雑務にまで皺寄せが寄っているようですし、一度割り振りを考え直します。
それと、お手伝いの件は城廻先輩のご判断もありますし、ありがたくお受けします。・・・・・・ごめんなさ―――」
「遅れてごめんなさ~い☆ あっ、葉山くん、こっちいたんだ~♪」
そしてタイミング悪く、超悪く、我らが文化祭実行委員長、相模なんとかさんが遅れまくって登場。
もういっそのこと今日はこのまま来てくれない方が良かったような流れになりかけてた気がするんだが・・・・・・こういう時に限って嫌なことってのは起きるもんだし、嫌な奴ってのは来たがりやすいもんである。
「相模さん、ここに決済印を。不備については、こちらで修正してあるから」
「―――そっ。ありがとう。って言うか、うちのハンコ渡しておくから押しちゃっていーよ。ほら、委任っていうヤツ?」
「・・・・・・分かりました。では、今後は私の方で決済します」
そして委員長直々による、『今後はもっと来なくなるね♪ やる仕事なくなるから別にいーよねテヘッ☆』宣言。
大いに委員会メンバーの士気と労働意欲を下げることに貢献。
トップが来なくなる発言をした以上、下の連中だけが自主参加のボランティア委員会に来なきゃいけない理由はなくなる。
一方で、『委員長だって来てないんだし』という免罪符だけは盛大に与えまくってくれる、サボりたい奴には有難い委員長、相模なんとかカントカ。
「ハイ☆ あ~、楽しいことやってると一日が早~い♪ じゃ、お疲れ様でした~♡」
『『お疲れ様でした~♡♡』』
とだけ言って、来た直後に帰って行く相模なんとかと不愉快な取り巻きたち。
その翌週での結果として。
「さらに一段と減りましたね。来てくれる人の数が」
「・・・・・・はぅぅ~・・・・・・」
呟く俺の隣で、めぐり先輩が嘆いて呻いて肩落としてる声と音が聞こえる。
そんな先輩のため、俺が大したことが出来る訳では全くないが・・・・・・まぁ、とりあえず言えることとして。
相模よ・・・・・・お前いったい、何しに来たんだ?――――と。
つづく