やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。 作:ひきがやもとまち
本当は2日前にはできるはずだったのですが、目が痛くて……ディスプレイは目が疲れる年頃です。なのでネタにしました。
他の作品も書ける体調のときに書き進めるよう努力中。無理すると寝落ちしやすい年頃でもある…
働いても働いても楽にならないもの、なーんだ。――正解は、“我が暮らし”
彼の昭和の文豪として知られる石川啄木でさえそう言ってたぐらいだったが、時代の変化ってものは人や社会まで変えていくものらしい。
ある時に啄木と同じ作家業を営む現代人たちが集まって、自分らの仕事の悪口を言い合うことがあったそうだ。
売れなくても保険は下りず、休日明けが締め切り多く、目は疲れるし腰は痛いしと、さんざんな言い草だったらしいのだが・・・・・・それでも結論として出した答えは『作家の方がサラリーマンより良い』だったらしい、その理由。
『作家には上役がいない。上役がいない人生こそ、至福の人生』
・・・・・・そういう結論に達したっていう笑い話を、今の俺は思いだしていた。
手放しで賛成する気にはなりづらいが、話としては嫌いじゃないし好きな部類でもあるという点で『星の王子さま』とも似たところを持ってるかもしれないバカ話ではあったものの。
今その話を思い出していたのは、歴とした理由がある。
今日の文化祭実行委員会には―――上役が、いない。
雪ノ下雪乃委員長代行が、今日はきてないのである。
「雪ノ下さん、今日はどうしたの?」
「さぁ・・・」
普段は誰よりも早く会議室にきて、誰よりも遅くまで残って仕事してる雪ノ下の不在に、めぐり先輩も不思議に思ったのか俺の元までわざわざ聞きに来るほどだったが・・・・・・俺に答えられるはずもない。
「なにしろ俺、クラス違いますし、国際教養科に入れるほど理数系の成績良くないですからね。同じクラスの男子運営委員に聞いた方が早いんじゃないッスか?」
「う・・・。それはまぁ、そうなんだけど・・・・・・」
という所属事情によって、俺が知ってるわけない理由をめぐり先輩に説明して理解を得られるよう働きかける。
いやもうホント、俺に国際教養科の生徒事情について聞かれても困るわけよ。俺だけではなく、この分実にいるヤツの大半が帰国子女や留学志望が多いクラスと関係できる偏差値もってないんじゃないかと俺は思う。
なので、そーいう質問には俺とかじゃなく、雪ノ下と同じクラスからきた男子運営委員にでも聞いてもらえるとありがたい。
1クラスから男子女子1名ずつ選出されるみたいだし、相模にとっての俺みたいにイヤでもなんでも選ばれてきてる男子がいるはずだから、そいつに聞いてもらえるのが一番いいし確実だ。・・・・・・・そう思っていたのだが。
「・・・雪ノ下さんと同じクラスの男子実行委員、来てないんだよね・・・。
たぶん、大分前からたまにしか・・・・・・」
「・・・・・・さいですか」
ズーンと、一気に空気が重く沈み込む音が聞こえた気がした。
とんでもなく重苦しい地雷を知らずに踏み抜いちまったような気分で、俺はぎこちない雰囲気のまま無言でめぐり先輩から視線を離して、自分の作業へと戻っていく。
――相模の委任宣言から数日が経過して俺たち文化祭実行委員は、増えていく仕事量に反比例して出席数は徐々に下降傾向が続いていた。
当然の結果だったと言えるだろう。
委員長自身の口から、直接的ではなくとも『サボっていい宣言』が出されて、発言した委員長自身がサボってるのだ。
上役が仕事サボってる中で、下の連中だけがきりきりアリみたいに働き続ける理由もない。
誰だって、なれるんだったらキリギリスになりたいし、デメリット大きすぎるから仕方なくアリになってるだけなのが仕事の常識。その常識で常識的に考えれば、相模の言い分と行動がどんな結果をもたらすかは火を見るより明らかだった。
・・・・・・だが人というヤツは、存外に慣れる生き物だったらしい。
最近だと減った人数だけでも、なんとか仕事を回せるようにはなっていたのだが・・・・・・今日に限っては機能不全寸前の状態でなんとか維持しているという有様だった。
助っ人の陽乃さんが来てない日だったってのもあるが、原因はそれだけではない。
なにしろ本来は部外者なのに、有志関連を一手に引き受けて働いてくれてる葉山でさえ、今日は流石にいつもの笑顔を若干引きつらせているほどだ。
それほどまでに忙しくなってる原因と理由は、雪ノ下雪乃が今日は来ていないこと。その一事に尽きる。
上役2人の内、片方は今まで来なくても問題なく、来ても人数減らすだけだから居ない方が良い上役だったけど、もう一人の上役までいなくなると途端に揺り戻しが来てしまう。
つまるところ、これが雪ノ下雪乃委員長代理が率いる文化祭実行委員の実情であり、雪ノ下のやり方の結果でもあった。
人と状況に恵まれれば別だったかもしれないが・・・・・・俺たち普通科の凡人程度だけが集まってる状態だと・・・・・・本人が来なかっただけで全てが破綻してしまう。そういうこと――。
「比企谷」
「はい? あれ、平塚先生。どうしたんスか急に」
そうこうしながら慌ただしく作業してたところで、会議室の扉が開かれて、いつも通りノックしない平塚先生が入ってきて俺の方へと神妙な顔して近づいてくる。
らしくもなくシリアス顔というか、真面目に不安そうにしてる顔が地味に不安をかき立てられたのだが・・・・・・聞かされた内容は案の定。
「雪ノ下なんだがな、今日は体調を崩して休みだそうだ。一応学校には連絡があったんだが、分実の方には連絡が来てないんじゃないかと思って念のため来たのだが・・・・・・その様子を見る限りでは案の定だったようだな」
「・・・・・・みたいッスね」
まさしく先生の言う通りな状況だったので、俺としては捻くれエリートの道に外れても反論のしようがない。
もともとアイツには体調崩したことを連絡する相手がいないし、いたとしても分実のメンバーではない。
体力があるヤツでもないし、昨日も凡ミスかましてたから疲れてんだろうなとは思ってたが、ついに来たか・・・・・・という感じだった。
もっとも、体力はなくても健康管理とかはちゃんと出来てる奴だったからこそ、今までは休んだことなど一度もなく、それ故にアイツ自身も緊急時の連絡相手を確保してなかったんだろうが・・・・・・どんなに高性能で頑丈な機械でも、消耗が激しくなりすぎればエラーも起きるし壊れもする。
想定以上に負荷がかかりすぎてのオーバーロードだ。どーしようもなかろうよ・・・。
とまぁ、そーいう理由と事情で俺は今、雪ノ下が一人で住んでるマンションの前に来ています。・・・・・・由比ヶ浜と二人で一緒に・・・。
なんで俺が・・・捻くれエリートで、選ばれしボッチの王子である、この俺が由比ヶ浜と二人だけでリア充みたいなマネを――とか考えてた時期が俺にもありました。
「な・・・っ!? す、スゲェ・・・・・・」
だが、そんな俺の庶民的発想による被害妄想など、現実のリア充エリートが一人暮らししている自宅前に来てしまった瞬間に消し飛んでしまうほどゴミのような被害者力でしかないと思い知らされることになる・・・。
なんと雪ノ下が一人で住んでいるらしいマンションは、付近でも高級で知られるタワーマンションだったのである。
どれくらい金持ち力高いかっつーと、入り口から屋上までを見上げるため仰け反って上半身だけ少し後ろに傾けなきゃ無理なぐらいのバベル感あふれるタワーだった。
しかも高級だけあって防犯も厳重で、簡単には中に入れない。エントランスから中に入った後に呼び出しかけても、住人が自室からロック解除しないと入れない仕組みになっているという防犯意識の高さ。
こういう金持ちが住んでるっぽいっ建物を見上げてると、なんてゆーかこう・・・・・・
「・・・・・・なんか今、“エンジェルなんとか”って店名を思い出したわ。川なんとかさんが昔、年齢詐称でバイトしてたラウンジバーの奴。
そーいや、あの時も由比ヶ浜が店に入れるドレスコードの服借りてきたのも、この雪ノ下の家だったしな。どんな悪いことすりゃあ、こんな家にタダで住めるような身分になれるんだろうか、羨まし痛てッ!?」
「・・・・・・・・・(`へ´)フンッ。」
正直に素直な感想を思わず呟いてしまったところへ、流石に時と場合が悪かったのか由比ヶ浜から無言のままフックを鳩尾に叩き込まれて黙らせられてしまった。
く、屈辱だ・・・やはり捻くれボッチのエリートである俺が、正直とか素直とか柄にもないものを用いるのは間違いだったか・・・いつも通り捻くれてさえいれば、こんなことには・・・。
やはり俺の青春ラブコメ主人公は捻くれている方が正しい理論は間違っていないと再確認する思いだった。もう二度と俺は惑わされることはない、と。
――ま、それはそれとしてエントランス内に入ってから、3度目の呼び出しベル鳴らしても応答してくれない部屋の主人の無反応ぶりに、いい加減ヒマつぶしのネタも尽きてきたのだが。
「居留守か。それとも寝てて気付いてないとか」
「ならまだいいけど・・・本当に出られないくらい体調悪かったら・・・・・・」
本気で心配そうな声音で返されてしまい、混ぜっ返そうとしてた俺的には「発想が少し極端だな」と思わなくもない立場だったのだが――途中で思い直して、あり得なくもない事態に笑い飛ばす気にはなれなくされてしまった。
なにしろ、俺の知ってる中で雪ノ下が連絡しそうな由比ヶ浜に病欠の知らせを伝えてから、ここに来るまでの間に電話をかけてメール黙している姿を何度か目にしている記憶がまざまざと残ってる身だ。
それ踏まえて考えれば、由比ヶ浜の心配ぶりもあながち根拠なきこととは言いがたかったが・・・・・・幸いなことに今回は、彼女の悪い予感は外れてくれたらしい。
『・・・・・・はい』
「あ! ゆきのん!? あたし、結衣! 大丈夫!?」
何度目かの呼び出しの後、スピーカーにノイズが走ったと思った時には、消え入りそうな声での応答があったのだ。
それを聞いて、犬が病気の飼い主へと飛びつくように応える由比ヶ浜だったが、それに対する再反応は片方の熱意に応えるものではなく。
『・・・・・・ええ、大丈夫だから』
という中途半端な官僚的答弁っぽいこと極まりないもの。
答えるまでに長い間を置いてからの「大丈夫」で「だから」と来た。
これで字面通りに信じ込める奴がいたら、そいつは相手からの言質さえ取れりゃいいと思ってる義理で仕方なく見舞い役押しつけられたクラスの仲悪い女子ぐらいじゃねぇかな。
挙げ句の果てには、「だから」の続きが自分からはないと来てる。「意訳しろ前提」の言い方だ。
「だから帰れ」「だから気にするな」・・・・・・ここまでコイツらしくない反応返されると、流石の俺でさえ多少は心配する気持ちも沸いてこざるを得なくなってきちまうじゃねぇか・・・。
「いいから開けろ」
『・・・比企谷くん? ・・・・・・どうして、いるの?』
「分実代表で見舞い。生徒会長から直々のご依頼だから、大丈夫だからでハイそーですかで帰れる立場じゃねーんでな。そういう訳だから早く開けろ。話ぐらいしてから帰らせろ」
『・・・・・・・・・』
明らかに、来ているのが由比ヶ浜だけだと思ってた前提での反応に、俺は念のため用意しておいた大義名分の正当なる理由付けを振りかざして、無理矢理にでもアイツに俺たちを自宅内まで入れざるを得ないよう誘導することにする。
まぁ、こんな手使わなくても由比ヶ浜がいれば大丈夫だろうと思ってはいるんだが・・・・・・念のために。
その甲斐あって、俺たちはようやく雪ノ下家の敷居を跨ぐことが出来たわけだった。
「どうぞ、あがって。・・・・・・それで話って何かしら?」
そう言って勧められたソファに座りながら、高級感あって趣味も良いし広くもあるが殺風景な室内に通された俺と由比ヶ浜は、普段と違う格好の雪ノ下と向かい合っていた。
対面してたわけじゃない。アイツの方は壁にもたれかかった姿勢のままで、由比ヶ浜から同席求められても静かに首ふるだけで、視線は遙か下に下げられたまま。
欠席した病人は立ったまま、登校していた健常者の男女2人は病人の自宅で座っている・・・・・・居心地が悪いことこの上ない構図で始まっちまった会話だったが、由比ヶ浜からの問いかけが普段より少しキツメだったのは、それが原因じゃないんだろうな。きっとさ・・・。
「あ、うん・・・えっと・・・・・・今日ゆきのん休んだって言うから、大丈夫かなって・・・」
「ええ、もう大丈夫。一日休んだくらいで大袈裟よ。連絡もしていたのだし――」
「学校には連絡してただけで、分実にはなかったから今日は結構いそがしかったけどな。葉山の笑顔が若干引きつるぐらいには」
「・・・・・・・・・ごめんなさい。その点は私も深く反省しているところだったわ」
俺からの余計なツッコミながら正論でもある指摘によって、ますます雪ノ下の視線は下がって、普段は威圧的だったはずの眼光も今では「スッ・・・」と目をそらされる始末。
完全に立場が逆転しちまってる状況ってのは、相手によっては快感よりも不安の方が強く感じさせられるもんで、普段と違いすぎる雪ノ下の対応に俺の方まで調子が出ない出ない。
「ヒッキーの言うとおりなら、凄い疲れてるんじゃないの? まだ顔色悪いみたいだし・・・」
「たしかに多少の疲れはあったけど、それくらいよ。問題ないわ」
「・・・・・・・・・それが問題なんじゃないの?
休むぐらいの疲れって、『問題ない疲れ』なんて言わないと思う」
「・・・・・・・・・」
尤もすぎる指摘を由比ヶ浜から鋭く突きつけられ、黙り込むしかない雪ノ下。
由比ヶ浜から、文法の間違いを教えられるなんて屈辱の極みでしかないんだろうが、今回ばかりは彼女が正しい。
本当に「問題ないから大丈夫」と言える場合には、そもそも休む必要がなく、実際に今まで休んでいない。
めぐり先輩も葉山も俺も、毎回のように分実に顔出して疲れてはいるが休んではおらず、雪ノ下だけが欠席してまで休むほど疲労を蓄積させていた。
それでいて本人の主観的には「問題ない」・・・・・・これで問題ない状況と思えるヤツには、新規事業の立ち上げとか無理そうだな本当に。
「分実のことはよく分からないけど、でもサガミンとかヒッキーの態度見てたら大体わかる。ゆきのんが一人で背負い込むことないじゃん」
「分かっているわ。だからちゃんと仕事量は割り振ったし、負担は軽減するように――」
「出来てなかったから、疲れて休んじゃったのに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
再びの由比ヶ浜による失言突きの正論指摘に、二度黙らざるを得なくされてしまう雪ノ下。今日の由比ヶ浜は妙に冴えていた。正直あんまし俺も余計な茶々は入れたくない気分にさせられるほどに。
「あたし、ちょっと怒ってるからね。だって――」
「比企谷君にしても、記録雑務の役割は充分に果たしてくれていたの。それで結構よ」
「でも、」
「・・・・・・本当に大丈夫。まだ時間はあるし、家でも仕事はしてたから実質的な遅れはないの。由比ヶ浜さんが心配することではないわ」
「そんなのおかしいよ」
「そう、かしら・・・・・・」
「――ま、そうだな」
切々とした緊迫感がある由比ヶ浜による糾弾と、雪ノ下のどこか縋るような空気を感じさせる言い訳めいた答弁が一段落したのを感じ取り、俺は俺で二人のやりとりに結論を出す。
「端的に言って雪ノ下、今回のことではお前が悪い。さっきから言ってることが矛盾している」
「・・・そうかしら? 私にはそう思える部分はなかったように感じたけど、一体どこが――」
「最初から全部だ。お前だって分かってて言ってたんだろう?
由比ヶ浜が問題視してるのは『お前の問題』であって、分実委員会の運営だなんだについては言っていない。
それに対してお前は、『分実の運営的には問題ないから大丈夫』の一点張りだ。相手の話を無視して答えず、一方的に自分の分野の話だけで誤魔化すとか、昭和の親父かお前は。らしくない言い逃れしてんじゃねぇーよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、これが止めとなったようだった。完全に沈黙して黙り込んでしまった雪ノ下。
実際さっきから雪ノ下は終始一貫して、分実の具体的な問題解決だけに話題を限定して『問題ない。大丈夫だ』と言い続け、由比ヶ浜の方に至っては分実委員会のメンバーですらない。
由比ヶ浜にとっては分実の運営が順調かどうかの方こそ、心配するような話題ではなく、ハッキリ言ってしまえば一生徒でしかない身として、どーだっていい問題なのだろう。
逆に由比ヶ浜にとって雪ノ下は、分実の中では最も近しく重要な気になる存在だ。心配するとしたら彼女自身のことだけなのが由比ヶ浜のポジションと言っていい。
委員会メンバーでもない関係者以外の人間に、分実の運営ウンヌンについてのみ語り続けていた雪ノ下の言い分が、正当性を持たない言い訳でしかなかったことぐらい少しでも冷静に相手の話を聞いていれば誰でも分かることだった。・・・分かることではあるんだが・・・。
「――誰かを頼る、みんなで助け合う、支え合うってのは一般的には正しいことこの上ない。
最高だ、感動だ、麗しい仲間意識だ。模範的な解答と言っていい答えなんだろうよ」
『・・・・・・??』
急に話題を大きく変えたように聞こえる俺の言葉に、二人の少女たちは少しだけキョトンとして俺を見つめる。
模範的で一般的な正しさに基づいて対応するんだったなら、こういう場面では雪ノ下にハッキリと言ってやるべきシーンなのだろう。
お前のやり方は間違っていると、一般的に模範解答だと信じられてる答えの正しさを盲信できている人間だったなら、そうすべきところだった。
・・・・・・だが捻くれボッチのエリートとして、一般的な正しさに背を向けて優良種たる道を選んだ俺には、下等民族たる一般的リア充人のサルどもが正しいと信じ込んでるものを共有してやる気にはなれない。
俺には葉山みたいな正論は言えない。指摘することは出来るが、正すことが出来ない。
由比ヶ浜みたいな、優しさで怒ることもない。そんなもの捻くれ者は持ち合わせていない。
けれど、俺は知っている。
彼女の間違っている部分のことを。一般的な模範解答が間違っていることも。
「だが、“そうすれば誰も損することなく、全員が平等に負担を分かち合って補い合っている”―――とか思っていたなら間違いだ。理想論ですらない。
ただウケの良い大成功例だけを引き合いに出し、都合の悪い失敗例を見て見ぬフリした自分たち自身からも目を逸らした、噓と欺瞞に満ちた詭弁だ。
奇跡的に実現できた綺麗事を、大量生産するため“誰にでも出来ること”みたいに安売りしまくった、ゴミみたいなマスゴミの売り文句に踊らされてるだけだ。世界の大部分は、それで回っていない」
「大きな事をする時には、必ず誰かが貧乏くじを引く必要があるし、誰かが泥をかぶらないと上手くいかない。それが現実だろう?
そうやって成功のため、貧乏くじ引いて泥かぶってくれた一人を、それが出来なかった多数の奴らが自分に出来る範囲で損した後にフォローするっていうのが助け合いのはずだ。それなら理解できる。
だが一般的解答はそうじゃない。必ず誰もが平等に幸せになれる答えじゃないと、正しいと認めてくれることは決してない」
『自分は変えられる』なんてのが噓なのと同じように、『自分が変われば世界が変わる』というのも噓なのだ。
いつも自分が悪いなんて事はなく、社会が、世の中が、周囲が、誰かが間違ってることだって沢山ある。だが世界や周囲はそれを認めないだろう。
むしろ世界は自分を浸食して型に嵌めさせ、はみ出す部分は磨り潰させていくことで、相手の方を世界に合わさせる道をこそ選ぶ。
自分の方が間違っていたと、世界や他人が認めることは滅多にない。
そうやって全ての努力を無駄な努力にさせ、そのうち考えるのを辞めて周囲と同じに合わせていった方が楽・・・・・・そう考えるよう仕向けているだけのプロパガンダ。
『自分は変えられる』も『自分が変われば世界が変わる』も、そのゴミみたいな冷淡で残酷な世界に順応して、自分は負けを認めて隷属する道を選んだんだと認めたくない奴らが、綺麗な言葉で飾って自分すら騙している欺瞞に過ぎない。
だが、それをストレートに認めるのは格好悪くて情けない。だから形ばかり格好つけて、人道色でケバケバしく装飾して、さもご立派なように見えるよう取り繕った宣伝文句をテレビでも新聞でも垂れ流し続けた。それがこの結果だ。
大体もし仮に、『自分が変わったから世界が変わった』というなら、【最初から自分だけが固執して周囲を巻き込んで全体を停止させていた】という状況か、もしくは【自己の選択で他人たち全ての意思を合わさせる力が自分にはある】という状況の二つに一つしかあり得ないじゃねーか。
どっちだろうと、主導権は自分にあり、自分一人が勝手に全体の状態を決めてよかったという事になる。それのどこが謙虚で、自分の間違いを認めてたことになるんだろうか?
そんな都合の悪い解釈部分は伝えようとせず、都合のいい噓だけを押しつけることで、妥協しやすくなって強制されて洗脳されただけだと思いにくくしている程度の錯覚。
結局すべては彼ら自身の、ご都合主義でしかないのだ。
噓も欺瞞も秘密も詐術も、青春という名の感情論や根性論や精神論でしかない。そんなもので世界も周囲も集団も変わらない。
「だが、世界は変わる。変えられる。・・・それを教えてやる」
そう。だからこそ俺は動くことを決めたのだ。
雪ノ下が復帰し、文化祭のスローガンを決める話し合いの場で俺は堂々と―――世界を変えるためのレクイエムを世に放つために!!
「それでは本日の議題は、文化祭のスローガンを決めたいと思います。誰か意見がある人はいますか?」
「・・・・・・はい。それじゃあ俺の案は、コレって事で」
総武校文化祭スローガン
『青春とは噓であり、悪である文化祭』
「って、またかぁぁぁぁぁぁぁぁっい!!!」
「うわっ!? ど、どうしたんですか平塚先生!
って言うか、なんで雪ノ下さんが爆笑無理して堪えてるみたいにお腹抱えてるの!?
え!なんで!?なんで!?どうして!?え!え?えッ!?」
つづく(最後は次回予告も兼ねたオマケ1シーン)