やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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熱さによる熱中症対策のため執筆環境が変化し、合わせる調整で少し時間食いました。
そのため原作小説だけで書ける内容になっちゃいましたが、よければ楽しんで頂けると嬉しいです。


42話

 

 前日の委員会で翌日まで先送りになった分実の議題。

 この文化祭での『スローガン決め』

 

「それより、さっきの救いようのないスローガンは何? センスの欠片もないわ」

「いや、お前のよりマシだと思うんだが・・・。センス以前に、四文字熟語そのままパクってただけだったぞオイ」

「呆れるくらい変わらないのね・・・・・・特にあなたはもともと変だったもの」

「しかも俺のせいになるのか・・・・・・」

 

 というやり取りが会議終わった後の廊下で雪ノ下と交わされ合ったほどの問題は、その解決のため翌日でも話し合われた末に決定されることになる。

 昨日の一件で活性化した会議は激論が重ねられ、長時間に及ぶ討議がおこなわれた結果。

 

 

『千葉の名物、踊りと祭り! 同じ阿呆なら踊らにゃsing a song!!』

 

 

 という・・・千葉音頭のパクリテーマに。

 流行ってんのかな? パクリ提案・・・。

 完全に長すぎた会議で頭おかしくなって、議論が迷走しまくった結果としか思えねぇ。

 

 

 

「野郎ども! ポスターの再制作だ!」

「ちょっと待って! 予算がまだついてない!」

 

 とかな感じで、スローガン決めが『アンチ感情』と結束を深く共有し合える儀式になったらしい生徒達は、みんな“やる気には”溢れるようになっていた。

 宣伝広報が猛々しく吠えた指令に、会計監査が噛みついて問題点を指摘する。

 

「馬鹿野郎! 算盤なんて後で弾け! 俺は今なんだよ!」

「それより、張り直したら画鋲とかちゃんと回収して来いよ! あれも数えてるんだから!」

 

 そして物品管理まで口を出す。どこの部署も活発に意見を出し合っていて、この間までというより一昨日までと同じメンバーとは思えないほど。人ってのは変わるときは、たった数日で変わるもんだ。

 

 それでいて、話してる中身自体はショボくて、あんま今までと変わらんレベルだったが。

 宣伝広報は猛々しい勢いだけの尻拭い他人任せで、物品管理は小学生レベルの注意事項で、会計監査はフツーに割食っている。・・・宣伝だけ楽してね? ポスト相模がここにいる。

 

 んで、俺はと言うと。

 

 

『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』

 

 

 普通に無言のまま書類だけ置いていかれて、シカトにハブで無視される立場になっている。

 仕事を振ってくる際には、声もかけられないまま、声をかけても無視されて、ソッと目の前に書類だけ積んでいく。

 それでいて距離が離れたときには、聞こえよがしにボロカスに陰口を叩いてくる。そんな風に『イジメの存在しない学園』のボクたち私たち総武高校文化祭実行委員~。

 

「やぁやぁ、しっかり働いているかね~?」

 

 そんな中、周りが中身はともかく表面だけでもキチンと仕事するようになったことで手が空くようになったらしい陽乃さんが俺の頭をポンポンはたくため、わざわざやって来てくれたらしい。

 そんな彼女に俺はデスクから身体を退いて、自分に与えられてる仕事状況を見せつけながら肩をすくめて見せるしかない。

 

「ご覧の通りですよ」

「ん~? どれどれー」

 

 ひょいっと俺の後ろからノートPCを覗き込み、その横に置いてあるファイルに挟まれた書類の束にも目をやった上で、彼女から下された評価は次の一言。

 

「なるほど・・・・・・しっかりとは働いてないみたいだね」

「でしょう?」

 

 そんな正当なる評価を与えられ、俺は生徒に花丸を与えるエリート教師気分で雪ノ下のお姉さんによる、正しいものの見方による答えを賞賛する他ない。

 実際、昨日から俺の仕事ぶりは増えた仕事量ほど上昇しているわけでは微塵もなかった現状が、目の前に積まれた書類の束という形で結実されてしまっている。

 

 いやだって、俺に振ってくる仕事の大半が『記録雑務の仕事』じゃねぇの多すぎるし。『コレ振る部署間違ってる』とか『あなたの所の仕事が間違って俺の所に来たんですが?』とか言っても無視しか返ってこないからさ。

 

 仕方ないので、『報告はした』という証拠だけ作って、自分の仕事を果たすことだけに集中している俺がいる。

 忙しいみたいだからね? 集中していて聞こえなかったって言うのは、よくある話。俺も昔から同じような反応返してくるクラスメイトとか多かったから、よく分かる。

 彼らは悪くない。『報告したけど聞こえなかった』のだから仕方がない。ちゃんと本来の部署名書いた紙も貼った所に置いてあるから、後で気づいて持って行ってくれるだろう。

 

 俺は他人が間違って持ってきてしまった仕事を、自分の部署でもないのに勝手に処理してしまうほど、他者の領域を平然と荒らす礼儀知らずではないのだから。

 

 え? 陰口? 言ってる人自身が『そんなこと言ってない被害妄想だ』という事にしたいからこそ言うのが陰口ってもんでしょ? だったら『誰も何も言ってない』のだよ。

 無かったことにして欲しくて言ってるだけの発言なら、『最初から何も無かったこと』にして流してやるのが社会人のマナーというもの。

 

 まぁ、ソレやる度に仕事振ってくる人たちが「ギロリ」と睨んで何か言いたそうな目を向けてくるようになっちまってはいるけれども。

 本人達が何も言ってこないんだから、言いたくない事情があるのだろう。相手から話してくれるまで待っていてやるのが優しさだと、彼らリア充達は言っている。なら合わせてやるのが捻くれ者の優しさDEAS。

 

 されたくない人に対してやるのはイジメだが、やってくれたら楽する口実になるエリートひねくれ者にとっては特権に解釈変更が可能。

 私情に流される俗人たる俗物ボッチと、選ばれしエリートひねくれタイプは、そこが違うのだよ。俗人どもは分かるまい、退がるがいい俗物ボッチ共め。フフフ…。

 

「あーらら、悪い顔しちゃって~。これじゃあ、この議事録に比企谷君の功績を入れるわけにはいかないわよねぇ」

「さて、何のことだか。心当たりが多すぎて、俺にはサッパリ」

「またまたぁ、そんなサスペンスの確信犯みたいな言い方しちゃって、このこのぉ」

 

 そう言いながら肘鉄で小突いてくる陽乃さん。

 妹さん同様にスペックが高いせいか、軽くやってても割と痛い。これだから優秀だけど体力ない妹の上位互換バージョンのお姉さんパワーはまったく、痛い痛い。

 

 

「ハイ、ここでクイズです! 集団をもっとも団結させる存在とはなんでしょ~?」

「“冷酷で有能な指導者”、とかの回答をお望みでの質問なんスかね? コレって」

「んふふ~♪ その言い方からして答えは分かりきってるみたいだねぇ。さっすが比企谷くん」

 

 俺からの適当に聞こえる返答に満足げな笑みを深めた後。

 彼女は一度身を退いて、胸の下で腕を組み。

 

 ・・・微笑はそのままに、視線の温度だけが下がった微笑みを浮かべながら正答を断言する。

 

「はい、その通り。正解は――“敵の存在”だよ」

 

 

 薄ら寒い微笑みを浮かべながら言い切った彼女の答えに、俺としては否定する理由は何もない。ただ黙って肩をすくめるだけでしかない。

 実際問題、彼女の言うとおりだと俺自身も、そう思っていたからこそ昨日の行動はあった訳なのだから。 

 

 

 

 無論、ただ敵対心を抱かされるようなヤツが一人か二人いたくらいで、全員が一致団結して態度が変わる。・・・なんて事がある訳はない。

 その場合はただ、ソイツを嫌ってる何人かがシカトしてハブいて、他は無視。その程度が関の山の“敵タイプ”

 

 それは、ルミルミが立たされてた立場だ。

 ルミルミが虐められて纏まってたのは、虐めてたグループ達だけで、他のクラス全体がまとまってた訳じゃない。単なるイジメで全体が纏まって態度が変わるなら苦労はない。

 タイミングと状況と相手の経歴が重要になる分野だからだ。

 

 それをやる者達が4人、5人と増えていけば話は変わり、賛同者が増えれば多数派になって、世論になって、『みんな』になる。

 人間は「共感」する生き物だという。だったら「感染」させるのも可能だろう。

 熱狂や狂信や憎悪とかの悪感情は特に伝播しやすい。誰だって、誰かと一緒がいい。

 

 そうやって、『必死に頑張るのはカッコいい』という認識さえ作ればいい。

 あとは、『ヒキタニくん@がんばらない』という比較対象としての絶対敗者たる存在が近くにいれば、大抵の連中は自然と多数派になった方に傾いていく。

 

 社会的に評価されやすく、受けやすい美徳になってる方に。

 頑張る奴はカッコよく、頑張らない奴はヒキタニだ~。

 

 『頑張らないからヒキタニの同類』というレッテルを「みんな」に張られるのを恐れるようになり、それを避けるため今の文実みたいな状況が発生する。そういう流れ。

 

 

 ・・・もっとも。言うほど簡単じゃないってのも事実なわけだが。

 

「君みたいな悪者は、ちゃんとやってる方が対抗心でそうな気がするんだけどな~。敵がしっかりしてる方が成長するものだし。敵がちょ~っと小物なのは微妙だけどねーフフ♪

 “争いこそが技術を発展させるのであ~る”的なノリと理由で」

「いいんですよ。そりゃ嫌われ者が成果出したらムカついて『追い越してやろう』って気分になるんでしょうけど、成果あげても上が認めてくれるタイプじゃない状況なんで。

 見せるためでも、ソレやってくれるんだったら俺も仕事頑張るんですが・・・・・・そういうタイプでもないでしょ?」

「あ~、確かに。雪乃ちゃん、そういう理由での高評価とか超苦手そうな感じだしね」

「でしょ?」

 

 相手から実妹への評価で否定されずに肯定されて、俺としては再び肩をすくめる以外に一体なにが出来るというのだろう?

 ただ現実問題として雪ノ下に文実成功のためとは言え、そーいう『サクラ』を実行できるとは思えないのが正直なところ。

 そして、その性格が今日まで――いや、昨日の文実まで雪ノ下の現状を改善することが出来なくなってた理由にもなってる部分だった。

 

 

 

 ・・・『認識』を共有させるには、それを受け入れる『下地』が必要になる。

 望んだ方向に認識を作用させるには『条件』が整っている『環境』が要る。

 

 たとえば昨日までの分実が、あんだけ醜態さらした相模が音頭取ってた『分実で頑張るのはトレンドじゃない認識』に乗っかって、あんま仕事来なくなってたのには『何となく大丈夫だろう』っていう認識があったからだ。

 作業が遅れてても、『間に合わないかも』と思える危機感もってない奴が大半になっていた。

 

 なにしろ、自分らが来なくても雪ノ下が一人で遅れを取り戻しちまって、『実質的な遅れはない』とか言えちまう状況を維持しちまっていたのだから、そりゃまぁ危機感なんて持てる奴の方が珍しい。

 外部助っ人の葉山もいるし、陽乃さんもいる。委員長が来なくても遅れはない。なら『今はまだ急がなくても大丈夫だろう』と思う奴は必ず出てくるし増える。

 

 だが状況が変わった。雪ノ下が一日休んだだけで一気に仕事が滞るのを、一定数の文実メンバーが経験させられる羽目になっている。

 

 その復帰直後に起きたのが昨日の分実だ。

 雪ノ下一人頼りの体制がもつ危険性と、彼女一人の手腕で維持できてただけの進捗状況。そして・・・・・・『来ない奴らのせいで遅れてる作業』と、そいつらの負担を背負い込まされて『病欠させられた雪ノ下“委員長”』

 

 ――この二つの条件が、文実内のメンバーに危機感と、サボってる奴らへの悪感情増加。

 さらには、今のままで失敗したときに『責任を自分も負わされるのではないか?』という恐怖心。

 

 県立とはいえ県内一の進学校でもある総武高校の文化祭を、『失敗させた委員会メンバー』ってのは進路考えてる奴にとっては良い条件じゃ流石にない。

 とは言え、『皆がやってない』って状況下で自分一人が先陣切るってのは勇気がいるし、誰かの責任問題定義になるかも、とかの不安もある。

 

 

 要するに、口実が欲しい奴らが増えてたのが、昨日の文実の実態だったのだ。

 今日になって一生懸命働いてる奴らも、裏を返せば『昨日までの頑張らなかった俺、カッコ悪くない。ノーカンで』と大声で誤魔化すため吠えてるだけって見方もできる。

 

 空気とは数だ。

 大衆とは数だ。

 戦争とは数だ。

 

 そして数は、増えれば増えるほど細かい部分を気にしなくなる性質がある。

 大雑把に味方だってことを声高に主張していれば、敵だった過去を思い出されにくくなるもんでもある。

 

 そーなる状況が来るのを、俺は待っていた。

 昨日までのサボりを責められないため、頑張らないヒキタニくんイビリに参加して、大声で意欲見せて努力すれば過去は無かったことにしてもらえる状況を創り出せる時の訪れを。

 

 今まで頑張り続けてきた人たち的にも、俺を責めれば意欲出してくれた奴らを不快にさせずに協力し合えるなら、俺一人ぐらい平然と見捨てられる。生け贄に出せる。

 

 それが出来る口実を、俺は与えた。口実さえ与えれば今の状況が作り出せると分かっていたから。

 だから、ま。これはこれで今は今で悪い状況じゃな―――

 

 

 バサッ

 

「雑務、仕事をしなさい。スローガン改訂に伴う書類の廃棄と、ついでに企画申請書類を取り込んでサーバーにアップしておいて」

「・・・・・・へ~い」

 

 雪ノ下(姉)と雑談しながら仕事してたところに雪ノ下(妹)が割り込んできて、どさどさ書類の束を積まれてしまった・・・。

 しかも、キチンと声に出して命令してくる徹底ぶり・・・・・・クソぅ。

 周りが話しかけずに仕事置いてくだけの嫌われ者になっても、コイツは平気で話しかけて仕事押しつけてくるからなぁ・・・。

 だから俺は、ボッチの女の子が――嫌いだ。レッテル気にせず仕事増やしてこれるから。

 

「それと姉さんは邪魔だから帰って」

「ひどーい! 雪乃ちゃんひどい! ――まっ、暇だから勝手にやっちゃうんだけどね~。比企谷くん、半分ちょ~だい♪」

「・・・はぁ。予算の見直しをするから、勝手にやるならそっちにして」

 

 姉である陽乃さんにも仕事が割り振られて、雑談は完全に終了。仕事再開の時間になったみたいだった。次の休みは就業時間まで待たなければいけないタイプの再開である。

 

 溜息を吐きながら、押しつけられて逃げる口実を与えられてない作業に戻りながら・・・・・・ふと、一つだけ思い立ったことがあったので、去りゆく背中に向かって声をかける事になる。

 

「陽乃さん。さっきの話で少し思ったことがあったんですが・・・」

「ん? なにかな比企谷くん。やっぱり雪乃ちゃんと私のやり取りが気になっちゃったりした☆」

「いえ、大したことじゃないんですが・・・」

 

 

「『民衆を纏め上げる最高の指導者とは敵である』ってのは、専制君主時代のマキャベリが『君主論』で言ってた言葉で、『争いこそが技術を進歩させる』はフランス革命時代のホッブスが書いた『リヴァイアサン』でしたよね?

 イメージ的に似たような感じのこと言ってますけど、思想的には合ってない連中だった気がしますし、別けた方が良いような気が・・・・・・グフゥッ!?」

 

「・・・お姉さん、勘のいいガキは嫌いだけど、勘がよくて妙な知識だけ詳しいガキはもっと嫌いだよ・・・?」

 

 

 ・・・・・・肝に銘じさせられる一撃をレバーに食らわされ・・・・・・

 やはり・・・俺は・・・・・・ボッチを無視しない優しい女の子は、嫌い・・・・・・だ・・・・・・ガクリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで活気だけは溢れてる混沌とした準備期間は過ぎていき、文化祭当日寸前のの前日準備も昨日終わり―――そして。

 

 

 

「お前ら、文化してるかーッ!?」

 

『うおおおおおおおお!!!』

 

「千葉の名物、踊りと―ッ!!」

 

『祭りぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』

 

「同じ阿呆なら、踊らにゃっ!?!?」

 

『シンガッソ――――――ッッ!!!!!!!』

 

 

 わぁぁぁぁぁぁッ!!

 

 

 

 めぐり先輩からの謎コールに生徒たちが謎レスポンスで応じ、そして流れ出す爆音とダンスミュージック。

 ・・・・・・意味不明な始まりの言葉だったけど、とりあえず総武高校文化祭がはじまりの当日になっていた。

 

 熱狂と青春と欺瞞と虚構が入り交じった、つまり『青春とは悪であり嘘である文化祭』がはじまる本番当日を迎えていたのである。

 今はオープニングセレモニーの真っ最中。俺の仕事は、舞台下の前でタイムキーパー。

 

 振り返ると、めぐり先輩のマイクパフォーマンスの熱狂に応じた生徒たちの一部が、冗談交じりに踊ってみたり、手を大きく振り上げて特に意味なく騒いで盛り上がったりしている。

 

 ホントに熱狂と虚構が入り交じってる文化祭な状況だな、オイ。

 いや、『熱狂』っていうより『狂乱』か? なんか大勢で騒いでたら訳わかんなくなって、道頓堀とかに飛び込むヤツが続出しそうな状況の。

 千葉になくて良かった道頓堀。興奮して気づいたら九十九里浜に立ってたりとか、ネズミーなランドで金使いすぎて呆然とする人とか、偶にいるかもしれないけれども。

 

 まっ、それはともかくとして。

 分化するって何だよ~とかの、よくあるツッコミは定番過ぎるので、下級ひねくれ戦士と違ってエリートひねくれ戦士として思わんことにして。

 とりあえず今は仕事仕事―――と思ってはいるのだけれども。

 

 

「では、続いて文化祭実行委員長より、ご挨拶です!」

「え、えと・・・あの・・・・・・」

 

 

 キ――――――ン・・・・・・

 

 

 マイク機能のハウリングが、セレモニー会場になってる体育館全体に響きわたって、それが相模委員長からの挨拶を行おうと腕が上がった直後だったことから、あまりのタイミングの良さに観客たちから爆笑までもが響き渡る。

 

 それらの笑い声自体に悪意はない。当然だろう。

 意味不明なコールに応えて踊り出してる阿呆がリアル隣にいまくってる状況下で、この程度のことに悪意抱いて嗤いだしたら、そいつが一番のアホウとしか思えんからなマジで本当に。

 

 とは言え、明らかに緊張しまくってガチガチなまま壇上に上がってる相模に、それが分かるかは別問題でもある。

 あるいは今の相模にとって、悪意があって笑ってるか否かはどーでもいい問題かもしれない。笑っている理由なんかは、どーでもいい些事になってる精神状態にあるかもしれん。

 

 ただ、『笑われている』という全ての状況。

 自分が、『褒められていない』『見下されている』と、周囲からの自分への評価を自分で決めちまっているような状態のヤツには、客観的事実よりも主観の方が重要になってるものでもあるし。

 

 自分の内側にしか目を向けなくなってる人の心に、現実の他人たちの姿は見えていない。

 自分の考えを肯定してくれる言葉と解釈しか、そうなった人の心には映らない。

 

 

 ・・・・・・多分、そういう理由で俺からのハンドサインも見えなくなってんだろう。

 見えてるけど無視して、自主的に続行してる訳じゃないよね? 恥かき続けてでも俺からのハンドサインは気づかないフリして無視したいと思えるほど、俺って恨み買ってまではいないと信じたい。

 

『――比企谷くん。巻くように指示を出して。時間が押しているわ』

「・・・・・・さっきから出してる。見えてないみたいだし、そもそもカンペ見下ろしたまま顔上げようとしねぇんだよ、さっきから」

「――そう。・・・やはり私の人選ミスだったかしら。誰だって、見たくないと思ってしまう存在というのはあるものだから・・・」

「オイやめろ、現在進行形で人が気にしてる心の傷をピンポイントで抉ってくるんじゃねぇ。

 そーいうのいいから早く対応と指示を。俺は誰かが指示してくれるのをウズウズしながら待ち続けている記録雑務だぞ」

『―――それを人は、現実逃避と呼ぶのか思考停止と呼ぶべきものなのか、判断に無意味に苦しむ人よね。あなたって本当に・・・』

『あの・・・副委員長。みんなに聞こえてますし、時間ないのも事実ですから、ここはヒキタニくんの言うことに一理あるんじゃないかと・・・』

『――――コホン』

 

 メッチャ無意味で恥ずかしい会話を、耳に付けてるインカム通じて体育館内に配置されてる全文実メンバーに聞かれちまってたのに巻き込まれる恥辱。

 まぁ一番恥さらしてたのは巻き込んだ当人だったのだけは幸いだったが・・・・・・アイツは何か?

 俺を悪く言ってる状態こそが健全な精神状態になってて、何も悪口言ってこない状態が続くと風邪ひいて倒れる奇病にでもかかってるんじゃねぇだろうな・・・。俺は雪ノ下の精神安定剤になった覚えも、なる予定も無いのだが・・・。

 

 

『―――・・・・・・・・・以降のスケジュールを繰り上げます。各自、そのつもりで』

 

 

 たっぷり間を置いた末、そういう事になったらしい。

 前途多難――いや。

 

 

 ・・・・・・確実にフラグ立っちまってそうな文化祭イベントの幕開けである。

 これから何が起きてどうなるか予測はつかないが・・・・・・確実に何か起きて、面倒ごとになる予感だけは今の時点でビンビンしまくってる始まり方。

 

 出来れば厄介事が起きたとしても、俺を巻き込まずに解決して欲しいものだと心の底から嘘偽りなく願っているのだが―――十中八九巻き込まれるんだろうな、どーせさ。

 今までの奉仕部に強制入部させられてから起きた出来事的に、どーいう訳だか絶対に俺が巻き込まれて面倒な役やらされる羽目になるんだ。何故か分からんけど絶対に。

 

 

 だから少なくとも俺に関して言うならば、文化祭は前途多難な幕開けだった。

 文化祭が終わった後も、前途多難だけは続くんだろうけれども。

 何故か分からないけど多分きっと絶対に、メイビ~・・・。

 

 

 

 

つづく




*謝罪

前話の後、早めに更新して、その際に正式採用として『ボツネタ版』の表記を外す予定でいたのですが、色々と時間かかってる内に忘れてました。申し訳ありません…
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