やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

44 / 47
最終回――あくまでアニメ版第一期目のですけど、文化祭編完結です。
次話からアニメ版第二期【続】に移ります。OVAは未定。

終わり方に不満ある人多そうなラストですけど、今作風ではコレかなと愚考した次第。


43話

 

 オープニングセレモニーが終わって、文化祭の本番が始まっていた。

 総武高の文化祭は他とだいたい同じように、部外者も入れる一般公開が二日目だけで、一日目は内輪の生徒同士だけで校内のみでの開催という流れになっている。

 

「・・・・・・・・・ふぅ」

 

 というシステムなので、身内のクラス内での出し物準備に参加してない文実メンバーの俺の一日目は、外で受付という配置になる訳で。

 

 呼び込み合戦が始まり、廊下を往来するのに苦労している生徒たちが目前を文句言いながら通り過ぎ、チラシくばったりプラカード持った集団が練り歩いたり、コスプレ姿で走り回ってる材木座と気が合いそうなヤツがいる。

 

『面白い! 面白すぎる! ~潮風の音が聞こえます。総武高校文化祭~』

 

 ――却下されたが、こんなスローガンが提案された臨海部に位置して、朝方は海から吹き付ける潮風が元いた場所へ帰るように陸側へと吹き返すような風景をベストプレイスから見物できる、この役割が俺は嫌いじゃない。

 

 文化祭が切っ掛けで生まれたカップルって、別れるの早いので有名だし。文化祭終わって風向きが変わる秋頃には、いま仲良く騒いでる連中同士がどんな理由で内輪もめするようになってるだろうなーとか。

 

 そんな風に、インスタント・リア充という名の劣等人種同士の関係性が黄昏時を想像しながら愚民観察をする時間は、ひねくれエリート的にいいものだ。

 

「おつかれ。どうだった?」

 

 とか思って、ボーッと椅子に座ったまま廊下を行ったり来たりしてる変な連中を見物してたら、横から声かけられて「ドサッ」と机にビニール袋が置かれてしまった。

 挙げ句、壁に立てかけたままだったパイプ椅子から一つを広げて、隣に腰掛けてくる女子生徒。

 エリートひねくれボッチにとってのベストプライス時間を、笑顔で邪魔してくる物好きな女子など総武高校広しといえども一人か二人か三人ぐらいしかいない。

 まして俺に親しげに話しかけて、友達と誤解されたら恥ずかしいとか思ってないらしい変な女子となるとコイツと、あと一人だけになる。

 

「いや、悪い。・・・なにが? 主語が抜けてる内輪乗りだとボッチには分かんねーんだけど・・・」

「だからぁ、劇。クラス劇の方。さっきヒッキーも見にきてたじゃん、さいちゃんと葉山くん主演のミュージカル風なヤツ。あれの感想」

「ああ、あれのことか。まぁ良かったんじゃねぇのか多分。お客たちも喜んでたみたいだし、ウケりゃ勝ちだろ。こーいうもんは大部分」

「・・・・・・感じ悪。こーいうのも嫌いなの? 内輪ノリだからって理由で」

 

 由比ヶ浜だった。どうやら出会った頃に交わした会話を相手の方も思い出したらしく、ノリに合わせてかそんなことを言ってきてくれる。

 そー言えばコイツに、そんなこと話したことあったな――と軽く脳内だけで過去回想シーンに入って、雪ノ下と出会って奉仕部に入れられてからの日々を振り返り・・・・・・振り返り・・・振り返って・・・・・・やはり優しい女の子は嫌いだと改めて心に誓う。

 

 ・・・苦労ばっかしか増えた覚えがまるでねぇ・・・・・・早くコイツら何とかしなければとか思っていると、なんか幾つか聞き飛ばしちまった話を由比ヶ浜が言ってたらしく、

 

「あ、あの・・・・・・ひょっとして、最初の円陣、入れてないの気にしてたりする?」

「円陣・・・? ・・・ああ、さっきやってた『なんでもバスケット』か」

「円陣! 円陣組んでやる気出してたの! って言うかヒッキー、そんな風に私たちがやってるの見てたわけ!?」

 

 そんな会話に発展して話題変わっちまうことになる。

 由比ヶ浜が言い出した『円陣』ってのは、クラス劇の初公演やる前に戸部が言い出して、海老名さんを隣に誘って肩組んで触ってた、合法的セクハラ陣形スキンシップのことだ。

 

 俺の方は分実あってクラス劇の準備には出れなかったんで、入ってもどーせ居心地悪いだけだったし、

 

『いや俺、受付あるんで。誰か一人はいなきゃダメなんで。他の人に迷惑かけたくないんで』

 

 という正当で拒否しづらい理由付けで出て行ったから参加しなかったけど、同じ文実で出れなかった相模は逃げるのに失敗して肩身狭そうな顔しながら組まされちまってた。

 戸部の方は好感度アップ狙いで、海老名さんのことしか見てなかったっぽいし、他の奴らも事情承知で合わせてやる、ぬるま湯ながらも微笑ましい空間を形成してたから良かったんだろうが・・・・・・。

 

「俺の方は全然気にしてないから気にすんなっつーか、クラスのほう何もやってない俺が輪に入るのは違うだろ」

「・・・・・・言うと思った」

「それに下手に入って女子にキモがられて傷つくのも嫌だったしな。

 『別に肩組まなくてもいいよね』とか言い出して、隣に並んで同じポーズ取りながら前屈みになってる変な男女2人やらされたら、俺でも流石に心が傷つくぞ。恥ずかしさで」

「それは言うと思わなかった!? って言うかいないから! そんなこと言い出す変な女の子なんていないから絶対に!!」

 

 拳を握って力説することで、俺が小学校時代のクラスメイト女子を人格全否定してくれる由比ヶ浜さん。

 そのつもりも自覚もないんだろうが、コイツはコイツで地味にヒドいときはヒドいこと平気で言うよな本当に。

 

「っつーか、それよりその袋なに? 円陣組む学生主人公の小説でも入ってんのか?」

「違うし! あの変な人でもないし! ハニトーだよ! ほら、ハニトー! パセラで売ってるヤツ! ヒッキーお昼間だだと思って買ってきてあげたの!」

「ああ・・・・・・これが、あのハニトー・・・・・・のパチモン商品か」

「パチモン言うなし!? 学校の文化祭だと、よく出来てる方だし!」

 

 そう言って袋の口を開いて見せてくれた中身だった、カラオクパセラで大人気のメニュー『ハニトー』の総武高校文化祭バージョン。

 明らかに生クリームも蜂蜜も容積に比べて量が少なすぎるし、見た目的にも食パン一斤丸ごとの上の方だけソレっぽくしただけ感がスゲェ。

 

 さすがは文化祭で出される飲食物だった。

 ご時世なのか飲食系の出し物やるクラスは、調理らしい調理もできずに出来合いのものを売ることしかできない癖して、値段だけは本物より高め。

 

 それこそが文化祭。文化祭プライス。

 お祭り気分で財布ゆるんでる生徒から、ぼったくろうとしてるとしか思えない学校側の陰謀を感じさせる値段設定と反比例しないクオリティの低さ。

 

 

 ・・・こんな値段設定でも、ちゃんと盛り上がれるのだから文化祭というのは大したイベントだと、つくづく思う。

 規模の大小や質の高低ではなく、アイコンとしての『文化祭』という一種の『非日常』を彼らは楽しみ、金を投資し続ける。

 

 『青春』のためにだ。

 

 彼らは、学友たちと同じ場所で過ごした時間に特別性を見いだしている。

 その為ならば、『それに金を払うのは特別な時間の証拠だ』という詭弁で自己と周囲を騙して、足りない金額分を補填させるのを躊躇わない。

 嘘も欺瞞も秘密も詐術もインサイダーも糾弾されるべきものだ。

 

 つまりインサイダー青春は悪だ。悪の青春を謳歌する文化祭も悪だ。

 

 

「・・・チッ、やっぱ内輪ノリで内輪ウケか・・・・・・このビッチめ」

「なんでさ!? って言うか何が!? 今の流れでなんで私、罵倒されることになったの!? ねぇ!?」

 

 

 

 やはり悪の青春と戦う、正義の断罪ボッチは理解されずにカミとなるしかない。

 そんな感じの結論を出しながら、文化祭一日目は終わりを迎える。

 明日は本番の本番とも呼ぶべき、失敗を許されない来客招く二日目。・・・・・・はてさて、どうなることやら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭本番の本番とも呼ぶべき二日目、一般公開の日。

 だって文化祭だし、生徒だけの内輪でやるなら普段のに+α祭りでいいし。

 

 その本番当日、俺は朝から相模の動向が気になっていた。

 

 他人をランク付けするのに慣れてしまった人間ってヤツは、あらゆるものをランク付けして考える癖がついてしまう。

 それは自分自身のランクも例外ではない。上位にある人間は普段それほど自覚することはないが、落ちてきたと感じたときにはヒドく自分が現在置かれているランクの順位がどの辺りかが気になって仕方がない心理状態に陥りやすい。

 

 より正確には、『自分のランクはどの辺りだ』と『周囲の他人たちから批評されているか?』という他人たちから見た『自分のランクを自分が予測して不安になる』

 ・・・・・・そういう他人の心理を自分が考えるのを、止められなくなってしまうのだ。

 

 その点で今の相模が置かれている状態は、非常によろしくない。・・・かもしれない。

 昨日の円陣を組んでるときの彼女を見てたときに、そう思わされた。

 

 三浦だけでなく、普段は寄っていきたがる葉山からも遠ざかりながら、一方で悪目立ちしないよう真正面から横にずれた相手の視界に入らないで済む位置取りで参加してたことが、その心理の現れだと言える。

 

 心理的距離は、実際の距離に表れるもの。

 

 文実を実質的に率いていたのは雪ノ下だった。

 クラス劇を成功に導いたのは海老名さんだった。

 

 どちらも共に、中心的役割を果たせなかった今の自分を、周囲はどのように評価して、他と比べてどの程度のランクの人間だと思っているか?

 

 きっと低い評価へ格下げされているに決まっている。

 低ランクの人間だと思われているに決まっている。

 

 そういう風に、他人から見た今の『上位ランクから没落した自分』を思ってダークサイドへと落ちかかっている可能性も否定できないのではないか・・・?

 

 

 まぁ・・・・・・仮にそうだったとしても。

 ぶっちゃけ、自意識過剰なだけが理由の被害妄想でしかない心理ではあるんだけどな。

 

 落ちぶれるもなにも、元からアイツのこと高く評価してたヤツいなかったし。

 文実の方は最初っから雪ノ下委員長が仕切り続けて、アイツの言い分通ったのは雪ノ下の姉ちゃんがお墨付き与えたからってだけが理由だし。

 クラスの方は、文実の内情なんか知らねぇし。どうなってようと関係もない。

 

 せいぜいが傀儡か神輿ぐらいにしか、最初から誰も思ってなかったヤツだろうし、セレモニーでの失敗も『傀儡』が『道化』にクラスチェンジしたぐらいの変化で、俺たち他人たちにとっては別にどーでも。・・・・・・その程度の問題と評価理由にしかなれん代物でしかなかったのだが。

 

 『“自分が考える”“他人たちから自分への評価”』だからなぁ・・・・・・主観に影響受けまくりすぎる分野だろう絶対に。

 そうなると厄介になりやすい。まして相模だからな。

 

 『最初から誰も自分の存在自体、あんま気にしてなかった』なんて受け入れられるヤツとも思えんし、『正直途中から忘れてました』なんてのはもっとダメだろう。

 

 そうなると、あんなヤツでも気にせざるを得なくなってくる。

 クラスの円陣に、『参加率の低さ』を気にして視界に入らないようにしてたのは顕著な部分だ。

 

 劇の準備中は文実サボって、クラス劇の方で偉そうに指示飛ばしながら、平然と葉山に媚び売ってたヤツが、当日になってから『準備の参加率の低さ』を気にする行動を取るまでに激変しまくっているのだから、これで気にしない方が難しい。

 

 あんなのでも一応は委員長、自暴自棄になって飛び降り――する度胸まではなさそうだとしても、小物なりに足引っ張ることしてこないとは言い切れない。

 

 そういう理由で、できるだけ相模の動きには気を配っておこう。そう思いながら文化祭二日目の学校へと登校した俺だった。・・・・・・だったのだが、しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・相模がいない?」

「はい、携帯電話も通じません・・・」

「参ったわね・・・このままだとエンディングセレモニーができない・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 気づいた時には、消えちゃった後になってたから役に立ちませんでしたわ・・・。

 いや、考えてみたら記録雑務って本番の二日目が一番忙しくなる役職で、ほぼ一日中あちこち歩き回って写真撮りまくらなきゃならない仕事だったから、相模一人の動向を注視し続けるとか最初から無理だったんだわ。サボってたとか、目を離してたとかが原因じゃなく物理的に本当にマジで無理。超ムリ。

 

「最悪、代役を・・・」

「それは難しいと思います。最後の挨拶や優秀賞は何とかなったとしても、地域賞だけはここで発表しないと意味が薄れますから」

「・・・そっか。地域との繋がりをアピールするために新設したのが地域賞だもんね・・・その一回目から代役に発表させちゃうのはちょっと・・・」

「ええ・・・その賞の投票結果を知っているのは相模さんだけですから、流石に・・・・・・」

 

 賞への投票を集めた集計は会議室に詰めていた人間が入れ替わり立ち替わりで行っていた。だから断片的な数字だけなら全員が知っているもののの、最終的な集計結果をまとめた優勝者を知っているのは発表する本人の相模だけしかいない。

 なにしろアイツだけしか、会議室にずっと居続けられてたヒマ人が、終盤の文実メンバー内には一人もいなかったからな。

 一応は、それぞれが集めてた断片的な数字を持ち寄って、改めて統計取るのも理屈としては可能かもしれんが・・・・・・物理的にちょっとな。時間的にも不可能っぽいので却下するしかない。

 少なくとも俺には出来ない。文系エリートの3位だが、理数系は由比ヶ浜より上程度の数学力ゴミだから。

 

 

「まぁ、一番手っ取り早い解決方法としては、賞の結果をでっち上げて、優勝者をそれっぽいヤツに仕立て上げることだと思うぞ。

 どうせ票数は公表しないんだし、後からどーこー言われても『僻んでるだけだろ』とか周囲から言ってもらえそうなヤツに与えとけば、それで皆納得するだろ多分」

 

 なのでこういう場合、手っ取り早い解決方法だけでも提示しておくことで穴埋めにさせて頂いたのだが、何故だか周囲からの反応は「うわ~・・・」だった。お気に召されなかったらしい。

 

「比企谷・・・」

「さすがに・・・・・・」

「それはちょっと・・・・・・・・・」

「まずいんじゃないかな」

 

 平塚先生とめぐり先輩からドン引きされた目で見つめられ、由比ヶ浜に葉山という本来は部外者ポジションにいる連中からまで反対意見が出されてしまっては、民主主義社会において却下を受け入れざるを得ない投票結果となってしまった。

 

 それなりに現実的な案だという自信はあったのだが・・・・・・まぁいい。自信があるとはいえ、問題点がなかったという訳でもない案でもあったし。

 

「確かに。言われてみれば相模だけには、本当の票数もってるし知ってるのか・・・・・・。

 口を封じて票数の用紙は抹消するなんて訳にはいかない以上は、後日ネットに『総武高文化祭の真実』『嘘と疑惑の地域賞』とか銘打たれて暴露されたら逆に不利な立場になるリスクが高すぎる・・・・・・」

「いや、その理由もどうかと・・・」

「・・・という以前に、お前はいったい、この文化祭と実行委員会をなんだと思っているんだ?

 投票数の水増しで不正コントロールする悪質な議会かなにかか、この学校は・・・」

 

 反省と自分の案の問題点とを正直に口にしたのだが・・・・・・おかしい。なぜか先程よりも白い目つきで非難がましい視線を向けられてしまった。

 かなり現実的なリスク・リターンを抱えた問題点だったと自分的には思っていたのだが・・・。

 

 

 そうこうしている間にも、相模捜索にかんする情報は次々と届いてきてきたが、結果はあまり芳しいものとは言いがたい状況が続いていく。

 校内アナウンスには一向に応答がなく、生徒会役員執行部や教師陣も探し回ってくれてるが発見の報告はなく、由比ヶ浜の個人的オトモダチネットワークでも探してもらってるみたいだけど未だメールもLINEもなし。

 

 いま舞台上でやってる途中の有志によるバンド演奏で、葉山たちにもう一曲披露することで時間稼ぎしてもらうって手なら可能かもしれないが・・・・・・文字通り時間稼ぎにしかならないからな・・・。

 抜本的な解決策を見いだせない限りは時間だけ稼いだところで、寿命が少しだけ延びる程度で誤差に留まるしかない。

 

 

 

「あ、あたし探してくるよ! 待っててゆきのん!」

「闇雲に探しても見つからないぞ。っつか、それだけで見つかる場所にいるなら、とっくに見つかってるんじゃないか? 多分だが」

 

 焦った声で由比ヶ浜が言って走り出そうとしたところに、俺は一応待ったを入れておいてやる。

 実際問題、今の演奏が終わるまでに数分。葉山たちがアンコール依頼を受けてくれても10分かそこら追加されただけの時間で探しに行けるところなんて範囲も距離も限られすぎている。

 

 そして、由比ヶ浜が探しに行きそうな場所はおそらく、既に他の生徒会執行部や教員たちが探しに行った後の場所ばかりだと思う。

 ・・・お約束好きだからな、コイツって・・・・・・なんか行きそうな場所とか考えるとこ似てる印象が・・・。

 

「・・・・・・比企谷くん」

「なんだ?」

「もうあと10分、時間を稼ぐことができたら見つけられる?」

「さて・・・どうだろうな」

 

 今の今まで否定的な意見を口にしようとせず、ただ口元に手をやって考え込み続けていた雪ノ下から真剣な表情で真正面から問われた俺は、肩をすくめて応えるしかない。

 

「わからん。―――と言うか、単に相模を見つければいいってだけなら、今までの情報から当たりだけはついてんだけどな」

 

『『『『・・・・・・・・・え』』』』

 

 

 

 その場にいる全員が、俺の発言を聞かされてポカンとした表情を反応として返してくる。

 あの雪ノ下でさえ唖然とした姿をさらしている珍しい光景を、他人事のように見物しながら俺としては、おそらく合っているだろうが合ってるだけだと役立たない可能性が高すぎるのでどーするべきかと思案中だった訳であり。

 

「さっきから生徒会メンバーやら先生方から探しに行って、いなかった場所の報告を横で盗み聞きさせてもらってたからな。大方の当たりは付いている。

 たぶん十中八九、相模は俺の考えてるとおりの場所にいる。ただ俺だけ気づいてても、何の役にも立てねーってだけの事だ」

「な、なんでよ!? どこにいるか分かってるんだったら、早くむかえに行ってあげればいーだけじゃん! そうすればサガミンもきっと――」

「はっ! なに言ってんだ由比ヶ浜。よく考えてみろよ」

 

 はぁ、と溜息を吐いて見せてから、俺は反論を許さぬよう慎重に言葉を選び、ゆっくりと皆に聞こえるよう語り始める。

 

 

 

「由比ヶ浜。お前は・・・・・・俺が迎えに行ったとして、相模が俺と一緒に帰ってくると本気で思ってるか?

 俺だぞ? 俺。葉山じゃなくて俺。どー考えても逆効果にしかなれん人選ミスとしか思えんのだが」

 

 

「い、いや・・・・・・そんなこと自信満々に答えられても・・・」

「呆れるほど恥じることを知らない人よね、この男・・・・・・それでいて主張そのものは間違いとも言い切れないから、逆に腹立たしいし」

「いや、そこは間違ってると言ってあげようよユキノン! ヒッキーがかわいそうだよ!」

 

 

 

 率直かつ具体的で現実的でもある俺が動かなかった理由説明によって、雪ノ下をはじめとする周囲のメンバーたちも納得してくれたようで、皆一様に首を振りながらも追求してこようという意思だけは全く感じられなくなっていた。

 そして由比ヶ浜よ。

 やはりお前は・・・・・・優しい女の子だから嫌いなヤツだ。気遣った方が逆に傷つけることあるのを、いい加減覚えろよ本当に。

 

 まぁ今は緊急事態だから置いておくとして・・・・・・俺が行っても無駄な状況で、行って意味ありそうな奴はいるけど時間的に大丈夫か微妙な残り時間で、ついでに言えば雪ノ下が奉仕部部長として相模から受けた依頼内容は『自身の成長を手助けすること』

 

 今更と言えば今更過ぎる部分じゃあるものの、せっかく雪ノ下が復活したのだし両立できるものなら両立させたい。また今回と同じのやられる心理状態に戻られるの面倒くさいだけだし。

 

 そーなると・・・・・・俺が考えつくのは、俺のやり方を貫く方法だけしかない。

 本当に嫌になる、こういうことばかり考えついてしまう自分の方法論。

 

 だが俺は・・・・・・そんな自分のことが案外、嫌いではない。

 

 

 

「葉山、お前が望んで手を貸してくれるなら事態を“解消”することはできるぞ?

 相模を騒動起こした犯人にさせず、これ以上揉めることもない。まっ、アイツが今より周囲と仲良くなれるかまでは保証できん方法だが・・・・・・知りたいか?」

 

 

 

 

 そんな提案を、爽やかで悪意の全くない選ばれしエリートひねくれ者らしい笑顔で手を差し伸べてやった、俺自身はけっこう嫌いじゃない俺のことを今回もまた「うわ~・・・」って目つきで見返してくる周囲の面々。

 

 常に世の中を動かしてきた一握りのエリートは、常にエリートの足を引っ張ることしかできなかったリア充たちから恨まれて僻まれて、倒されてしまう宿命にあるものなのだとエリートの悲劇を嘆くしかない俺であったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・うちは、学校の屋上にある手すりに片手をかけて眼下のグラウンドを見下ろしていた。

 さっきまで人がごった返しているように見えていた校庭から、次々と人が減っていってまばらになっていく姿が見える。

 エンディングセレモニーが近いんだろう。最後にみんなで一騒ぎしようってことで、有志ステージのライブを見学してお祭りのラストを飾って帰ろうって人達が、体育館に集まってきてるんだ。

 

「・・・何やってるのかなぁ・・・うちって・・・・・・」

 

 思わず、そんな言葉を口走ってしまってから―――首を振って否定する。

 違う、悪いのはうちじゃない。まわりの人らが、周囲の連中が、勝手なことばかり言ってくる無責任な部外者のヤツらのせいで、こんなことになったのが悪いのよ!

 うちが悪いんじゃない! うちのせいじゃない! 違う!違うっ!!

 

 みんながやりたがらなかった委員長に立候補してあげたときは、あんなに拍手してた癖して、ちょっと上手くできなかっただけで手の平かえして悪く言ってくるヤツが悪い!

 もともとアイツらが褒めてた雪ノ下さんに、副委員長になってくれるよう頭さげて頼んでたげたのはうちだったのに!

 

 それに、あの女!

 あれだけうちのこと持ち上げておいて、けっきょくは妹に人気集めさせるのに利用しただけだった! あんなヤツの言葉を信じちゃったうちのバカ!バカ! バカ!

 

 ・・・おかげで・・・・・・こんな事に・・・・・・

 

「・・・・・・うちだって被害者なんだから・・・・・・そのことを分かってくれる人が一人くらいいたってバチは当たらないに決まってるし・・・・・・」

 

 小さくつぶやいて、うちは心の中でもそー思う・・・。

 なにも文化祭そのものをメチャクチャにして終わらせようって思ってるわけじゃない・・・ちゃんと時間ギリギリまでには間にあわせるし、他の人だって時間かせぎぐらいしてくれてるはずだし。

 

 だからせめて、最後にうちのミスを『仕方がなかったね』って言ってくれる人さえきてくれたら・・・・・・みんなを納得させて、うちだって頑張ってたんだって気持ちを認めてくれる優しい人にむかえに来てくれるだけで、それだけでうちは・・・・・・うちは・・・!

 

 そう思いながらグラウンドを見下ろしてたうちの耳に、また校内アナウンスが響くのが聞こえてきて、いい加減うっとうしくなってくる。

 何度呼びかけられたって、アナウンスだけで自分から帰る気になんてなれる気分じゃない・・・あんな連中がいる、あんなところに戻る気なんて・・・・・・うちには最初からどーせ、あの場所はうちのいるべき場所なんかじゃな―――

 

 

『2年F組の相模南さん。保護者の方がお見えです。至急、職員室まで来てください。

 繰り返します、2年F組の相模南さん。保護者の方がお見えです。至急、職員室まで来てください』

 

 

「って、え!? マ――じゃなくて、お母さんが!? なんで!? だって今日これないって・・・! い、いやお父さんかもしれないし・・・え? え?」

 

 意外すぎるアナウンスの内容に頭がパニックになりかけて混乱してたうちの耳に、南京錠が壊れてて入れないことになってる特別棟の屋上の扉が開かれる音が聞こえてきて、そっちに振り返ったうちは―――期待どおりの人がきてくれたことに、ようやく心から笑うことができたっ。

 

「葉山・・・くん・・・っ!!」

「相模さん! よかった・・・探してたんだ。どーしても君にきてもらう必要があって、その・・・」

「うちに・・・? いったいなにが・・・」

 

 思わず浮かべてしまった心からの涙を見つめながら、葉山くんの反応は少しだけ不自然で、どこか言葉を迷ってるみたいで、ちょっとだけ演技のようにも感じられてしまって―――思わず本能的に警戒心を感じさせられてしまうもので――

 

「う、うん・・・・・・実は、その・・・・・・平塚先生が、だね・・・」

「・・・・・・へ? 平塚先生・・・?」

 

 だったんだけど、予想外の名前が出てきたことでうちは肩すかしをくらわされて、思わずズルッとなってしまいそうになる。

 

「いやその・・・あんまり詳しいことは聞かされてないって言うか、言えないって言うか・・・・・・その、分かるだろ? 先生方にも色々あるっていう事情がさ。

 それでその・・・ひ、平塚先生がなくしちゃった大事なものが文化祭には必要だとかで、そのためには相模さんが必要だって話なんだ」

「うちが・・・必要、なの・・・?」

「う、うん、そうなんだ。相模さんの助けが絶対必要らしいんだよ。平塚先生もスゴく困っていて、時間もなくて・・・だから頼む! 今だけはなにも聞かずに俺に付いてきてほしい!

 あと出来れば、この話は聞かなかったことにもして欲しいっていうかその・・・。

 さっきのアナウンスも、実は先生が流すよう放送委員に頼んでたものだったみたいで、みんな困ってて、そのえ~とぉ・・・・・・」

 

 言い訳するみたいに視線をさまよわせて、言葉を選びながら手探りで進んでくみたいな安っぽい演技。

 それで分かった。葉山くんは演技をしている。誰かに頼まれて、断り切れなくて、それでも必死にその人のことを庇いながら、そして―――うちの助けを必要としてるんだってことが、スゴク・・・わかった。

 

「・・・・・・うん。いろいろと事情があるんだよね? 葉山くん、みんなから信頼されて頼られてて、大変そうだから・・・♡」

「そ、そうかな? そうだといいんだけど・・・はは、ハハハハ・・・・・・と、とにかく今はコッチへ! 早くコッチへ! さぁ早く! 平塚先生のためにも時間が!!」

 

 そう言って、うちの手を引きながら必死の表情で走ってくれる優しい葉山くん・・・。

 うちは彼の背中を追いかけて階段を駆け下りながら―――傷ついた心が少しだけだけど満たされていくのをかすかに、でも確実に感じていた。

 

 文化祭最後の日に、誰もいなくなった校舎の中で手を繋ぎあって走るうち達。

 一つの青春の形が、まちがいなく今この場にはあるんだと、うちに心臓の鼓動が教えてくれているのを聞きながら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺たち私たちの総武高校文化祭は、リハ無しでいきなり本番の相模委員長によるグダグダな終わりの言葉と地域賞、優秀賞の発表で幕を閉じ。

 

 その結果。

 

 

「ヒキタニくん・・・・・・どうして君は、こんなやり方しかできないんだ・・・っ!!」

「比企谷・・・・・・どうして君は、こんなやり方しか思いつくことができんのか、職員室でゆっくり話し合おうじゃないか。な?(バキボキ)」

 

 

 ・・・・・・結局は俺がヒールになって割りを食って終わることになるんだよな。毎度のように今回もまた。

 

 ほらな? 解決はできなくても解消だけなら簡単だったろ?

 誰も傷つかないけど、なんか疲れる優しい世界の完成だ。多分だけれども。

 

 

 

 

第一部 完

第二部に続く




*ネタバレになりますが、次話で語る予定だった今話の顛末を、念のため解説。

相模による騒動は、結局『ヒキタニ君のせい』になるのは原作と同じ。
そうなった理由は、最後の解決方法について平塚先生が顧問ポジの厚木に怒られ、生徒を守るため仕方なく頭下げた平塚先生にヒッキーが怒られ、葉山からも控えめに苦情を言われてたところを戸部に目撃されたのが原因。

『なんかよく分かんないけど、ヒキタニくんのせいっぽい』

という曖昧な話が噂になって、やがて一人歩き開始。
進学校なので平塚“先生が悪い”と面と向かって言うのは難しく、『みんなの葉山くん』が悪い訳ないので、文実での恨みから【ヒキタニのせいで、ヒキタニが悪い】というのが一番リスク少なく楽だったから、そうなった。

ただし、元の話が曖昧なため『ヒキタニが○○だったせいで』等の内訳は決まっておらず、色んなパターンの整合性とった『ヒキタニが悪かった理由』が造られて、信じた噂ごとのグループ別『悪いヒキタニくん』が語られている設定。


噂って大体そんなもんだと作者は思う。
指向性や先導役する誰かかナニカがいる時は別でしょうけれども。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。