やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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更新です。
正直、文化祭編のラストが消化不良に終わってしまった感があり、そのまま修学旅行編に行っていいのか迷いがあって筆が止まり気味だったのですが……心機一転してアイデア浮かんだので書いてみました。

好みは選ぶと思われますが、『体育祭』が原作の話。アニメ版じゃなくラノベ版が元です。良ければどぞ。


44話

 目は口ほどに物を言う。

 と言うが、より正確に言うのなら口よりも余程うるさいのが視線と言うべきなのだろう。

 あるいは、『口で言わなくても視線で分かれ』と要求してくる奴らにとっては、口よりうるさくないと困るのが目。と言うべきなのかも知れない。

 

 文化祭が終わり、体育祭も大過なく過ぎると一気に気温は下がり、涼しいと言うより寒い風が吹き抜けていく秋がなおさらに深まりを見せる時期になる。

 

 ――が、今はまだ体育祭をやる少し前の時期。隙間の季節だ。

 そういう言い方すると、なんかショボく聞こえて妙に寒々しい印象がある気がするのは俺だけではないと信じたい。

 

 ついでに言えば、俺の周囲は一層寒々しい。思わず痛みを感じる程に。

 いつもの事ではあるが、今回の寒さは原因がハッキリしている。

 

 相模たちのグループからの絡みである。

 

 

 ――結局あの後、早めに葉山を迎えに行かせれば、すぐに帰ってこれるようお膳立てを整えてやった相模は、エンディングセレモニーでの地域賞発表でやらかして文化祭二日目は終わりを迎えていた。

 

 

『ことっ――キ~~~~ッン!!・・・・・・今年の、文化祭は・・・過去に・・・例を見ない盛り上がりの中で――キ~~~~ッン!!・・・・・・無事に・・・ッ』

 

 

 な感じに、最初でつまずいて一気に落ちてズルズルとズブズブと。

 ハウリング入るの多過ぎだろと、素直に言いたくなる失敗仕方によって。

 

 まぁ当然の結果だったと言えばそれまでの事でもある訳だが。

 なにしろアイツ、開会式でトチッて以降は落ち込み続きで練習もなにもなかったし、最終打ち合わせにも参加してないまま、ぶっつけ本番で最後の発表だけお願いしますを押しつけられたようなもんだったし。

 

 葉山を迎えに行かせてテンション持ち直したとは言え、傷ついたプライドなんていう精神論だけ回復した程度で物理的な結果まで付いてくるんだったら練習はいらない。俺も正直したくない。

 

 気持ちの問題だけでは、どーすることも出来ない部分を解決できるスキルを会得するため練習がある。

 気もそぞらで耳からスルーし続けてた相模を、テンションだけ回復させて地域賞発表での失敗は、それら相模のやる気ない練習とリハーサルが招いた必然的な結実といえる現象だったのだ。

 

 

 その結果。

 ・・・・・・相模グループの女子たちから、粘つくような視線を向けられ、『振り向いたら笑ってやるから振り向けオーラ』を感じさせられながら、SHRを過ごさせられてる俺がいる。

 

 所謂アレだ。

 視線を感じて振り向くと、侮蔑と嘲笑を込めた視線だけ向けてきて、姿勢を前に戻すと嫌悪と好奇が入り交じった甲高い笑い声上げるタイプの奴。

 

 もしくは、ルミルミを虐めるため女子小学生グループがやってたのと同じヤツ。アレの女子高生バージョン。

 

 たぶん落ち込んだ相模を慰めるため、『相模は悪くない』とするために『誰かが悪かったせい』ってことにして外部に責任求めた結果、俺を叩けばいいやってことになったんだろうきっと。

 どっかから『俺が葉山に迎えに行くよう言っていた』とかの話を聞いたのから連想したのかも知れない。

 

 

 ・・・・・・高校生が学校内で、小学生と同じことやってる時点で悲しいつーか、客観的には痛々しい限りではあるのだが・・・。

 こーいう問題って結構そーいうもんなんだと思うしかない。

 

 

「ヒキタニ君、マジひでぇ~から~。夏休みんときも、そんなことあったし~。今回もきっと、そんな感じだったんじゃね? じゃね?」

 

 とかの話が、セレモニー後の片付け中にもチラホラ聞こえてた気がしたしな。

 戸部とか戸部とか、戸部とかから主に。

 多分それらの話をもとにして、『俺が余計なことをしなければ上手くいったに決まっている説』でも創り出し、周囲に広めることで真実味を持たせて、グループ内での内輪問題解決のダシに使っている。そんなところか。

 

 

 そんなこんなで今日も、クラスの女子たちから粘つくような視線を感じさせられる日々を送っている。

 そうして振り返れば、三日月のように細めて歪められ、侮蔑と嘲笑が込められた瞳を向けてきて、姿勢を前に戻した途端に背後から甲高い笑い声を響かせられるのだ。

 

「はぁ・・・ウゼェ・・・・・・そしてダリぃ・・・・・・」

 

 ・・・・・・そうなる結果が最初っから分かり切ってるせいで、合わせてやる気になれねぇーのが面倒くさいんだよな・・・こういう状況って・・・。

 と言って無視しすぎると、なんか勝手にキレたり「チョーシのってる生意気ウンヌン」でグダグダ絡んでくるときあるし。

 

 面倒くさくても、たまには振り向いてやって笑われてやらなきゃやらん、クラス内でのエリートひねくれボッチの特殊な立ち位置。

 

 要するに今日も、うちのクラス戦線は異常なしって事になるのだろう。

 文化祭終わった後もなんの問題も起きていない、いつも通りの平常運行。世はなべて平和なものだ。

 

 

 

 そんなある日の放課後における部室でのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしようかしらね・・・」

「あー、これね~」

 

 ふむと考え込む仕草をしながら、雪ノ下と由比ヶ浜が二人して一つのノーパソ画面に映し出されている内容について、悩ましげな声を上げている。

 それは先日から新たに始まったっつーか、始めさせられた奉仕部にとっての新たな活動内容にまつわる相談の依頼。

 

 なんでも平塚先生が、またなんか思いついて雪ノ下に押しつけてきた代物。

 入部させられてから半年も経たない時間で、たった三人の部員のまま増員もしてないにも関わらず、活動内容だけは増え続けていく奉仕部七不思議の一つにでも加えていいんじゃねぇかって気がしてきた、いつも過ぎるノリの奴。

 

 んで、今回その『司令官からの指示書』もとい、平塚先生から届いた新たな活動ってのがコレだ↓

 

 

 

『奉仕部各位

 新たな奉仕部の活動内容として、メールでの悩み事相談を開始します。

 題して【千葉県横断お悩み相談メール】

 各自奮闘し、悩み解決に努めるようお願いします』

 

 

 

 ・・・・・・テキトーな思いつきだけで提案してきたってのが、これ以上なく伝わってくる定番中の定番を地でいくイベント案だったんだよな。

 しかも、やり尽くされてて今では失敗確実になってる定番アイデアでもありやがるし・・・。

 

 案の定と言うべきなのか、マニュアル通りと言うべきなのか、始めた当初はろくな相談は一件もなく、雑談+駄話αぐらいなメールだけが適当に送られてきて、お茶を濁すだけで終わって、そのままお流れ企画になるパターンだなと俺的には心の中で確定させていた。そんな代物だったのだが。

 

 どうやら、その新しい活動である『千葉県横断お悩み相談メール』に、雪ノ下たちが対応を悩まされるだけの相談事を送ってきた物好きが本当にいたらしい。

 部室に来たばかりで、お茶請けの濡れ煎餅を肴にMAXコーヒーでも飲んでくつろぐかと思っていただけの俺には、離れた席でディスプレイを覗いている彼女たちと同じものを見ることができず、一人だけ少し離れた位置から、煎餅かじりながら野次馬ポジで見物しにいってみたところ。

 

 

 

【PN:めぐ☆めぐさんからの相談

 体育祭を盛り上げるためのアイデアを募集しています。

 それと今年で最後なので、絶対に勝ちたいです!】

 

 

 

 ・・・・・・という内容だった。

 始めて、まともな相談メールが来ていたことに少しだけビックリさせられる。

 この内容で、まともな相談になれてしまう。

 その時点で、この部活が周囲からどのように評価されてるかってのが、よく伝わってくる内容だったと俺的には感心せんでもなかったけれども。

 

「体育祭、ね」

「そういや、もうそんな時期だったもんな」

「・・・・・・嫌だったわよね、クラス対抗リレー」

 

 近頃では春や初夏に体育祭や運動会をやるところが多くなってるご時世の中、うちの総武校では昔ながらの秋に体育祭やって、その後すぐの修学旅行という日本の学校の伝統パターンを堅持し続けている。

 

 学校外からも来賓が訪れる文化祭ほどではないが、体育祭も青春を謳歌している学生たちにとっては大きなイベントであり、大事な青春イベントでもある。

 特に運動部系の男子にとっては、自分の活躍を女子にアピールできる数少ないポイントであり、ここを逃すと使いどころが大幅に限られる筋肉の見せ場として待ち望んでいた奴も少なくはあるまい。

 

 だが、それはあくまで県下一の進学校に入ってまで、部活動に励んできた一部のヤロウ共の話。

 文系や理系の男子および女子、ことに雪ノ下みたいな『スペックは高いが体力はない硝子のエース優等生』にとってみれば、全くもって待ち望む要素は微塵もない。

 

 現に今も、嫌そうに眉根を寄せながらの反応だけが帰ってきた。

 由比ヶ浜もべつだん、好きというタイプではなかったらしく、

 

「あたし、あんま足速くないからキツかったなー」

「あの謎のプレッシャーな。クラスメイトが抜かれると舌打ちしてマジギレするサッカー部の永山とか」

「いやそれ誰!? なんで個人名!?」

「それでいて自分が抜かれると、『痛ぅ~靴の中に石入っちまったよマジ痛ぇー』とか言って盛大に『俺を責めるなアピール』しまくるからウザいんだよな。サッカー部の永山」

「だから誰!? その最低な人、誰なの一体!? って言うかヒッキーの知り合いっぽい人もマジキモいんだけど!」

「・・・・・・類が友を呼んだとしか言いようのないお友達ね・・・。由比ヶ浜さんからの評価をあながち否定できないところなんか特に似ていると思う人だわ」

「いや、そこは否定してゆきのん!? なんか私が悪口言ったみたいになっちゃってるから!」

 

 由比ヶ浜が驚き混じりの非難がましい声を上げながら振り向いてきて、雪ノ下からの下等生物たちを見下す視線と声音で同意されてしまったのを聞かされて、慌てて振り向き直して苦情を述べる。いつも通りな奉仕部ノリ。

 

 まぁ、とはいえ今回ばかりは由比ヶ浜の苦情にも、一理あることを認めないわけにはいかないのだろう。

 

 中学で同級生だった永山と俺が友達だったなどと、根拠のない誹謗中傷にも程があるクレームだった。

 あいつのことは嫌いだったし、多分あいつも俺のことは嫌いだったろう、サッカー部のムカつく永山。

 互いに嫌い合ってる者同士な間柄だったから、悪口や陰口を言っても罪悪感や後悔をまるで感じることなく、気楽に罵倒できるという点ではイイ奴だったサッカー部の嫌いな永山。

 

 基本的には、優れた頭脳戦闘力をもっているけど、物理的な運動能力では劣ることが多いエリートひねくれボッチとして、クラス対抗リレーとかで女にモテるため猿に変身するサル野郎どもとは敵対し合う宿命にあるのは仕方がないので、俺は悪くない。

 

「それとバトン受け取るの嫌がるクセして、次の順番に選ばれたときにも、他の競技からあぶれた俺がリレー選手にされた時にも、人前で声高に反対して嫌がるのは避けたがる女子とかな。

 なんでああいうのって、わざわざ俺が前まで来てやった時だけしか『マジあり得ないんだけどー』とか言おうとしないわけ? ツンデレ? 露骨なあざとさがウザかったんだが」

「い、いやー・・・それは、まぁ・・・・・・うん」

「女子が本気で嫌がって、あえて言明を避けているのを分かった上で無視するのが、この男よね・・・・・・」

 

 由比ヶ浜の気まずそうに逸らされた視線と、ちょっと哀れんだ感じの視線で遠くを見つめる雪ノ下の溜息が微妙に痛い・・・。

 でもね、雪ノ下さん。冷たい真実を突きつけられた方が楽ってわけでもないんだし、無視する優しさってのもあると思うんだ。

 

 そんな過去の、優しさが他者から理解されにくいエリートひねくれ的な慈悲深い対応への評価にいろいろ思い出して、「フッ」と短い自嘲交じりの溜息をクールでニヒルに俺自身も吐いたところで、

 

 

 ―――トントン、と。

 短くリズミカルに扉を叩く音が静かな室内に木霊する。

 

「どうぞ」

「失礼しまーす。えっと、奉仕部ってここでいいのかな?」 

 

 ほんわかした空気を身にまとい、きょろきょろと部室内を見回しながら、見覚えのある女子生徒が入ってくる。

 編まれたお下げ髪を揺らしながら、前髪はヘアピンで留められてて、つるっとした綺麗なおでこに夕日を照り返させる、俺と雪ノ下は面識のある先輩のオデコ女子生徒。

 

「前に体育祭のことで相談メールしたんだけど、直接話したほうが早いかと思って・・・・・・、来ちゃった」

「え? じゃあ、このメールの差出人・・・」

「あ、それたぶん私」

 

 一人だけ面識のない由比ヶ浜がパソコン画面と先輩とを交互に見ていると、先輩の方が先に自分のことを指さしてニコリ。

 城廻めぐり先輩。

 俺たちの1つ上の三年生で、我らが総武高校の生徒会長でもあり、俺と雪ノ下にとっては文化祭実行委員会のときに面識がある間柄の人でもある。

 

「文化祭のときみたいに体育祭も盛り上げていきたいんだ。協力をお願いできないかな、雪ノ下さんと、ええっと・・・・・・」

 

 物珍しそうに部室をひとしきり眺め終えてから、俺たちの近くまで歩み寄ってきて頭を下げてきた後に―――難しい顔をして「うむむ」と唸り声。

 チラッと見た先にいる俺の顔は忘れてないけど、名前は思い出せなかった角栄総理の心理になってるらしい。

 

「比企谷です、比企谷」

「あ、ヒキガヤさんね。それと、そっちの男の子は―――」

「え!? あ、いや、あたしは由比ヶ浜です! そっちがヒキガヤ!」

「ああ~、そっか。そう言えば聞いた覚えがあった気が・・・」

 

 言われた先輩が、納得したように「ポン」と手を打って一つ頷く。

 どうやら少しだけ、記憶を刺激されるものがなくはなかったらしい。顔だけ覚えられてるよりかは結構なことである。

 「ヒキタニ」とか「ヒキガエル」とか、名前は覚えなくても顔だけ覚えて呼んでくる奴多かったからなぁ、昔っから・・・。戸部とか戸部とか、あと永山。

 

「そうですそうです! その、比企谷、とか・・・そんな呼ばれるとその、困ります・・・・・・」

「呼ばれると困るだなんて・・・まるで忌み名ね。流石だわ比企谷くん、あの優しい由比ヶ浜さんからさえ、こんな扱いを受けるなんて流石だわ」

「うん・・・・・・って、え!? ち、違う違う! そういう意味じゃないし! 違うし! ちょっと、その・・・・・・そう! キモかっただけ! マジキモかっただけだから! 本当だから!!」

 

 そして、なんか知らんけどテンパりながら止め差しにくるガハマさん。

 ・・・こいつは何か? ナチュラルに無自覚追撃しかけないと死んじゃう病にでも掛かっているのか?

 麦わら海賊団の狙撃手と同じ病気持ちの重症患者だったら、人に化けれるトナカイの化け物でも探して治してもらえ。麦わら海賊団の一員と同類だったら多分タダで完治してもらえるはずだから。

 

「ごめんね? 私、人の名前覚えるの得意じゃなくて」

「あー、いえ、気にしないで下さい先輩。俺も人の名前覚えるの、あんま得意じゃないんで。ぶっちゃけ、文実のときに同じ委員会だった奴らの名前とか、雪ノ下以外は一人も覚えてないですし」

「いや、それは流石に・・・・・・何人かぐらいは覚えてあげてないと失礼だと思うんだけど・・・ほ、ほら、せめて相模さんとか。たしか同じクラスからの実行委員だったでしょ?」

 

 困ったような、ほんわか困り顔で言われて、ふと思い出す。

 ・・・・・・そー言えばアイツと俺って、同じ文化祭実行委員会でF組から選出されてた実行委員だったんだっけ。

 

 いや、少し前までは覚えてた記憶がチラッと残ってはいるんだ。ただ――もう終わってしまった過去で一緒だった女の名前だったし・・・(文実は3年生だとダメと言われた記憶あるから)

 どーせ、このさき生きてく中で関わり合うことは二度とないと思っていた相手だったので、文化祭終わってから賞味期限が切れるまでは覚えてたけど、その後は忘れて風と共に去りていく・・・・・・その程度としか認識してなかったからスッカリ忘れかけてたわ。

 

 うん、でも今言われて思い出した。

 確かにアイツも俺たちと同じ文化祭実行委員の一員だった。中盤以降は役立たず化して、序盤は邪魔者にしかならなかった委員長だった。それが相模ナントカさんって女子生徒。

 

 

「比企谷くん。・・・比企谷くんね。うん、ちゃんと覚えた。

 文化祭のときに人が少なかったときでも、スゴク頑張ってくれてた子だったから気になってたんだ。名前思い出せなくなっててゴメンね?」

「は、はぁ・・・」

「ム。・・・むー・・・・・・」

「・・・城廻先輩。それは放っておいて構いませんので、依頼の詳細を教えて下さい」

「あ、そうそう、そうだったね。みんなに相談したいのはね。体育祭の男子と女子の目玉競技のアイデア出しをお願いしたいんだよ」

 

 先輩がビシッと指を立てながら言い切った奉仕部への依頼内容は、次のようなものだった。

 総武校での体育祭では定番どころの競技の他に、望まれて許可さえ下りればオリジナル種目でも目玉競技として採用されることが出来るようになっている。

 ・・・いるのだが、しかし現実は厳しく毎年地味なのばかりが採用されて、誰の記憶にも残らない一発ネタとして、鳴かず飛ばずの不発で終わっていくのが伝統化してしまっている。

 

 そこで自分にとっては最後の体育祭だからと、最後ぐらい派手に飾って終わりを迎えたい。

 また、文化祭実行委員会に続いて体育祭運営委員の方でも委員長が未だ決まってない状態なので、多分その年では派手にやったんだろう雪ノ下の姉ちゃんの妹がいるのが今年だから、実行委員に続いて運営委員の委員長もやってくれないか?と。

 

 大雑把に言えば、そーいう感じの依頼内容だった。

 他力本願ここに極まれりって感じがしなくもない内容だったが・・・・・・どーやら体育祭でも三年生は委員長になれんっぽい。それも頼みにきた理由みたいだったな。

 

 まぁ受験ある人たちにやらせる仕事じゃないのは確かだが。

 それでも「委員長以外の仕事」はやらせてるんだったら大差ないような気もする、日本の学校制度にテキトーさを感じて仕方がないエリートらしいエリート思考のエリートひねくれボッチな俺。

 

 一方で、エリートひねくれボッチにより管理運営された理想社会を思い描いてる俺よりかはボッチ力は低くとも、エリートひねくれ戦士ではある雪ノ下は指先を二本立てて――もとい、指先を顎に当てて考える仕草をして見せながら、

 

「委員長が決まっていない・・・・・・それは誰がやってもいいんでしょうか? 人格性の問題などではなく、資格や所属組織についての制限があるか否かという確認としてですが」

「ああ、そっちは特に問題ないよ。実は立候補を募ってたぐらいだし、今後があるから三年生だと難しいけどね。ただ、だーれも立候補がいなくて」

「ほぇ~・・・募集してたんだぁ。知らなかった」

「うぐ!? ・・・そ、そんなハッキリ言われちゃうと・・・ううぅ・・・・・・」

 

 続く確認のための質問に答えをもらい、由比ヶ浜からナチュラルに『お前の払った犠牲などなんの効果もない』とエリート戦士に挑んで無駄死にした序盤の強敵兼仲間みたいな扱いを先輩相手に無自覚にやってのける原因に使われちまってショック受けて崩れ落ちていく光景を眺めやり。

 

 ・・・・・・なに? この売れない芸人コンビのコントみたいな状況・・・。俺は一体なんの役を求められてここにいるのだろう・・・と。

 ついつい、ダチョウか志村の役でも果たすのを求められてるような被害妄想を抱きかけちまってた時のこと。

 どうやら俺以外にも一人だけ、コントの流れについて行けず、ボッチ化してボッチ思考に浸っていたエリートひねくれ戦士がいてくれたようだった。

 

「あ、その、ごめんなさい先輩! えっと、あたし、HPとか先生にもらったプリントとかブログとか、そういうの全然見ないんで! 掲示板とかどこあるか分かんないし、でも今度からちゃんと見ます! で、ですね・・・・・・」

「いいの・・・いいのよ、由比ヶ浜さん。私の告知の仕方が悪かったの・・・・・・これからはツイッターも使うことにするよ!」

「城廻先輩、その必要はありません」

「え? 雪ノ下さん、それはどういう――そっか、うん。じゃあLINEも始めるね!」

「違います。そういう問題ではありません。一人、適任者がいますので推薦すると言っているだけです」

 

 そこに行き着くまでのノリと流れは完全にコント化しちまってた状況だったけどな。雪ノ下が口出さなかったら、どこまで行く気だったのか。

 ・・・って言うか先輩は先輩で、何やりたいんだ? この人はこの人で本当に・・・。

 

 体育祭運営委員の告知をやってた話のはずだが、活動内容だけ聞くと売れない新人アイドルの暴露話としか思えんかったのだが・・・・・・まぁ、それはそれとして。

 

 結果論としてではあるが、先輩のアイドル活動じみた体育祭運営委員募集のネット告知とかを聞かされてる話の中で、雪ノ下が推薦したがってる適任者が誰なのかの候補が大凡ながら俺にも予想することが可能になったのは行幸と言うべきなのかなんと言うか。

 

 

「え? 適任者の推薦? だれだれ? どんな人?」

「こういった役職の経験があり、かつ上昇志向は比較的強く、名誉に対する執着もあり、転じてやる気があるとも言えそうな人物です。それは―――」

 

 

「――相模にやらせる気か?

 文化祭のときに委員長やった、俺と同じ2年F組の相模南に」

 

 

「うんうん。いいよね、経験とやる気がある人なら適任――って、え!?」

 

 

 当たって欲しい希望は裏切られやすく、イヤな予感ってのは大半が的中するもので。

 雪ノ下の思考を先回りして、おそらくは「今のコイツにとっては適任」と言い出しそうな人物の名を口に出したところ、めぐり先輩は驚きの表情を浮かべながら次第に冷めたものへと変化していき、雪ノ下の態度と表情には変わりがない。

 

 ただ、無言なだけ。

 つまり、当たりって事なんだろう。コイツ的には、きっと。

 

「トラウマの克服と同じよ。一度何かを失ってしまったなら、それと同等以上のものでしか購うことはできない。違う?」

「そうかもな・・・・・・けど、そうまでしてやる程のことか? F組の内輪の事なんて・・・」

「そうまでしてやる程のことよ」

「・・・まっ、そうかも知れんけどな・・・・・・」

 

 改めて言い切られて、俺は肩をすくめながらも『コイツの性格』に納得はさせられる。

 雪ノ下に取ってみれば、今回の依頼は雪辱戦でもあり、借りを返す行為でもあり、やり残した宿題を終わらせることでもあるんだろう・・・・・・おそらくはの話ではあるが。

 

 

 何故なら雪ノ下は、文化祭実行委員の際、『相模からの依頼』を引き受けておきながら、ほとんど何も果たそうとしないまま事実上の破棄に近い形で幕を下ろされていたからだった。

 

 あの時に雪ノ下が受けた依頼は、依頼者自身の思惑はどうあれ、『自身の成長』を目標に掲げて委員長になった相模の『補佐をする』というものに雪ノ下の中ではなっていたはずだ。

 

 だが現実には、ほとんどの仕事を雪ノ下がすべて取り上げ、終わった仕事の書類にサインするだけのお飾り社長みたいな椅子に相模を座らせてやっただけで、成長する機会をことごとくコイツ自身が奪い取って一人だけで片付けてしまっていた。

 

 委員長が間違った時には、間違いを正そうとせず。むしろ間違いで生じた負担を肩代わりしてやることで本人自身が過ちに気付いて修正する必要性さえ奪ってしまった。

 

 別にそれらの行為が悪かった、と思っている訳じゃない。

 実際に雪ノ下1人でやった方が仕事は早く進んでたのも事実じゃあったし、ロスも少なくて済んでいた。

 能力差がある相手に任せておきながら、失敗したときには責め立てる奴らに成り下がるよりずっと良い。・・・・・・俺個人としては素直に、そう思っている。

 

 ただ、それはどこまで行っても雪ノ下自身が語っていた『奉仕部の方針』とは相容れないやり方だった。

 

 ただ『捕った魚を飢えた人に与えるだけ』を肯定するやり方で、『魚の捕り方を教えて自立を促す』というボランティアの精神とは完全に真逆をいっていた方法論。

 

 しかもそれを、『部活動の中止期間』と宣言していた文化祭の期間中に『自分個人がやることだから』『他の部員が気にすることではない』という“詭弁”を用いることでコイツ自身は実行してしまっている。

 

 おそらくは―――『自分の姉に関連した事柄だから』という、私事を理由として雪ノ下は文化祭中の相模からの依頼を『利用した』のだ。

 自分個人が固執している姉への感情を払拭する道具として。ただ、それだけのために――。

 

 それは同時に、俺が文化祭のラストで葉山に相模を迎えに行かせた理由にもなっている部分ではあった。

 時間的に余裕があったのも事実だが、俺がヒール役を演じるって方法もとれない状況じゃなかった。

 それでも、あの手段を選んだ理由は別にある。

 

 

 奉仕部の部長が、私事を理由に『おざなりにしている依頼』だ。

 部長がテキトーにやっているだけの仕事だ。・・・部員だけが、そこまで真面目にこなす理由はどこにもなかったから―――。

 

 雪ノ下はたぶん、そんな自分の犯した『借りを返したい』と思っているのだろう。

 

 

「うーん、相模さんかぁ・・・・・・」

「それに現在のまま状況を放置するのも、好ましいことではありません。

 内容はどうあれ、彼女は自分から立候補し、それを他の委員たちも賛成多数で承認した正式な委員長となった人です。

 それが期待どおりの結果を出せなかったからと、おざなりに扱ってもよいという前例を残しては来年以降の立候補者はほとんど期待できなくなる恐れがあります」

「う゛・・・そ、それは・・・・・・で、でも今回はちゃんとした仕事だから、中途半端なことをされちゃったときに困るし・・・・・・」

「私たちにとっては終わったことでも、彼女にとっては中途半端な状態でくすぶっているかもしれません。

 ――その想いが高じて、暴走する危険性がないとは言い切れないと思いますが? 最近では高校生による、そういった事件も増えていることですし。多少は留意した方が安全かと」

「う、うーん・・・・・・確かに、相模さんだもんね・・・・・・」

 

 

 という理由と説得によって、めぐり先輩からの許可を取り付けた雪ノ下であった。

 いや本当にね、そーいう危険性もないとは言えない奴だったからね? 俺がヒール役やって解決策避けた理由の一つを、コイツも理解してくれてたみたいで嬉しい限りだね本当に。

 

 ソイツが悪いから仕方ない仕方ないで罰則進めたがる昨今の風潮は、ホントどうかと俺的には思う世情だから尚更に。

 そーいうのは大抵、追い詰められた相手が自棄起こして凶行に走らせるだけだから。そーいう歴史的事件とか犯罪史とか多いから。

 

 俺もそーいうのを避けるためにも気をつけたいと常日頃から願っている、リスク・リターンの計算には定評あるエリートひねくれボッチな今日この頃。

 『後ろから刺されても知らないウンヌン』とか言いたがる奴多くなってる世の中だけど、それ言ってる奴自身が『家に火をつけたいほど恨まれてるからイヤなこと言われまくってる可能性』とかを考慮してるとは、あんま思えんからねぇー。

 

 

 

 ―――とは言え、今回ばかりはそうも言っていられない事態ではあるようだった。

 由比ヶ浜が口説き落として、相模も連れて体育祭運営委員に行ってみたところ、文化祭のときにもいた相模の友達2人・・・・・・えっと確か、は・・・ゆ・・・・・・モブ女子生徒A、Bがおり。

 逆に、3悪女連合にとって共通の後ろ盾になってくれそうな雪ノ下姉のハルノンさんはおらず、敵になり得そうな雪ノ下が最強独裁者になってくれそうな理由もなし。

 

 このため、ごく普通に役職通りの所属分けがなされちまって、相模南“委員長”と、失敗経験ある委員長に顎でこき使われる手下の女友達2人という配置に。

 

 

 ・・・・・・一緒になって、同じ目上の悪口を言い合える対等な立場の悪口友達だったなら別だったかもしれんのだけどなぁー・・・・・・流石にこの構図だと、そう簡単にはこじれた糸を解きほぐせる方法論が思いつけねぇ・・・。

 

 こうなったら仕方がなかった。

 幸い、この前の一件で表沙汰にならずに解決してやったのを恩に感じたらしい葉山から協力を得られる口約束はもらっている。

 

 なら今の俺に出来ることは、ただ一つの冴えたやり方だけ。

 既に一度使ってしまった後では二度目の使用はできないが、一回こっきりの使い捨てでよければ今の状況でも使えないことはないだろう。

 

 

 

「あーあ。本当に最低だな、お前らって。

 相模、それにお付きの2人も。お前ら結局ちやほやされたいだけなんだろ?

 言うこと聞いてほしくて、自分の方を立ててほしくて、命令されるのがイヤなだけなのをギャーギャー騒いで誤魔化してるだけ。

 今だって、『それじゃ仕方ないよね』って言ってもらえて譲歩がほしいだけなんだろうが。

 みんなたぶん気付いてるぞ? お前らの事なんて、まるで理解してない俺ですら分かるぐらいの平凡な理屈と計算だからな。

 相模も、お前らも、俺と全く同じだよ。同類だ。最底辺の世界の住人なんだよ。

 本当は自分たち同士でも分かってるんじゃないのか? 自分らが言ってることが、その程度の―――」

 

「比企谷―――少し黙れよ・・・っ」

 

 

 

 ほらな・・・・・・簡単だったろ?

 優しくないこと言う奴を排除した、優しい世界の完成だ――。

 

 

 

 

 

 まぁ―――俺が去って行った後に、俺への悪口言いまくって仲直りする類いの優しい世界ではあるけれども。

 

 悪口友達でも、仲直りは仲直りで、敵対よりは優しい世界なのも事実じゃある。

 

 

 

つづく

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