やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。   作:ひきがやもとまち

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最新話完成――とまでは言いきれない出来だったため、少し前から途中から書き直すか迷ってたんですが、一先ず投稿して判断を仰ぐことにした次第。

ですので、【ひねくれ俺ガイル】更新です。


46話

 オス! オラ八幡! オラ東京から京都を目指すってワクワクすっぞ!

 ・・・・・・という生き残り超少数のボッチ種族的なノリで俺たち総武高校2年生一同は、東京駅から京都を目指して西へ西へと旅を続けて到着してたのであった。

 

 海老名さんから牽制されながらな戸部からの依頼遂行という、無茶ぶりな部活動業務を抱えさせられながら京都一日目最初の観光場所となってるのはスケジュール的に清水寺。

 正直どちらか片方だけでも難易度高いっていうか、門外漢と言うべきなのか、彼女いない歴と彼氏いない歴しか実績ない部員オンリーな部活動にはジャンルを間違えまくってる気にしかなれない内容で頭が痛い限りだったんだが・・・・・・

 

 しかも今回の依頼、声に出して直接言わないだけの『三つ目の依頼』があるような気がして仕方がない。

 そういう奴が混じっちまってるせいで、面倒そうな気配をビンビン感じさせられながら京都到着1日目はスタートしていた。

 

 

「ヒッキー、ちょっといーい?」

 

 それら込み入った事情から、進むべき道を迷わざるを得ない状況にある己を憂いて、ジッと境内にある石碑を眺めて自分の内側と向き合っていたところに明るい声がかけられることになる。

 

 ・・・せっかく、『俺なにかを考えるため集中してます。話しかけるな』という意思を仕草によってアピールするため、特に意味なく石碑をジッと見上げ続けるポーズをしてたのだが・・・・・・やはり俺は優しい女の子が嫌いだ。

 ボッチは無秩序な行列が嫌いなことが、なぜ解らないんだ由比ヶシャア。

 

「どした。おとなしく拝観入り口で並んどけよ。並び続けなきゃ人生ロードで抜かされちゃうぞ。お前一人でも並んでれば、他の面子が割り込むこと出来るかもしれんし」

「大袈裟だし、それより面白そうなとこ見つけたから、とべっちと姫菜も呼んであるし早く早く、って今あたしのこと、行列するときに置いてく目印あつかいしなかった!?」

「いや、気のせいだ。後で振り返ったときには、全ていい思い出になるのと同じように気のせいだ」

「修学旅行の思い出いきなり全否定!? 今さっき付いたばっかりなのに!」

 

 そんなしょうもない小ネタを前振りとして交えた後、俺が由比ヶ浜に袖を引かれて連れてかれた先にあったのは『随求堂胎内めぐり』とかいう名の真っ暗闇地下ツアー。

 

「あの二人だけ呼んだらなんか変だから、優美子と葉山くんも呼んでおいたし。

 ここなら入るタイミングずらせば、二人っきりになれるでしょ?」

 

 という珍しく由比ヶ浜が頭を使った心理戦をおこなったチョイスの結果として、

 

「ほんじゃ、優美子と葉山くん最初ね。あたしたち最後に行くから」

「あまり時間もないし、そんなに間隔はあけないほうがいいんじゃないかな?」

「ゆーて、これそんなに時間かかんなそうだし気にしなくていいっしょ。ね、海老名さん。葉山くんもさぁ」

「う~ん。まぁ、そうだねぇ」

「・・・そうだな。けど、早めに戻れるに越したことはないしさ。行列抜けちゃってきてる訳だし」

「あー、それはあるわー、マジすげーあるわー、遅れて先生に怒られるとかマジないっしょ? だったら早く行っちゃおうぜ」

「・・・・・・まぁ、たしかに。そうだな」

 

 そんな面子と、そんなノリで、暗闇の中でお堂を巡って『生まれ変わった気分』を味わうための脇道それた体験ツアーをスタートさせる。

 無論それくらいで生まれ変われるほど人生というものは甘くない。

 

 インド旅行行っても富士山に登っても、人が今までの自分以外の何かに生まれ変われることは決してない。

 たとえ出来ても、それまで積み上げてきた様々な“業”まで改ざんできるわけではない。いくら心の持ち方を変えてみようと、それは『主観の変化』であって自分の内的世界だけに留まる程度の問題。周囲からの評価や過去の失敗という『自分以外の問題』も含めた歴史改変でも起こせない限りは、『自己満足』にしかなれないのが『生まれ変わり』と呼ばれるものの実態なのだろう。

 

 人生にやり直しはきかない。

 ただ自分の脛に負った傷と背中に負った罪を抱えて生きていくしかないのが、人々にとっての人生というものなのだから・・・・・・

 

 なのだが、まぁ―――『100円の体験アトラクション』だからなぁ、このお堂って。

 そう考えると、結構クオリティあった気がしてくるから不思議な「生まれ変わり体験ツアー」だった。

 

 確かに何となく、暗闇の中から光りあふれる出口に出たとき、生まれ変わった気になれたし。何というかこう、『シャバに戻ってきたぜ!』的な印象で。

 多くの俗人向けに楽しめるよう設計された安物アトラクションって、そういうもんだと俺は思う。しょせん人の痛みに振り回され、正しき新世界を創ろうとしない凡人達に、生まれ変わった世界は理解できまい・・・・・・フッ。

 

 

 

 

 

 まっ、そんな感じで欄干で写真撮ったり、縁結びの名所でおみくじ引いたり、流れ落ちてくる滝の霊水で平塚先生が醜態さらしたりして、一日目の観光は終わりを迎える。

 

 ・・・先生・・・・・・結婚したいんでしたら、もう少し本心と欲望を隠してください。

 耳目気にせず露骨すぎるアピールは、フラグホイホイじゃなく、フラグ取り線香としての効果しかないんじゃないかと俺は思う。

 

 

 

 

 ――んで、次の日。二日目はグループ行動の日でもある。

 行き先は太秦から洛西エリアにかけて巡っていくルートで、最初の目的地は『太秦映画村』

 新撰組やら、斬り合い始める浪人やら、東映のお化け屋敷やらが人気の観光名所である。

 

 さらに、チープな恐竜が出てきて「ふしゅるるー」と小さなスモークだけ吐いて戻っていく謎の池やらが混在しているという・・・・・・いつの時代の撮影用に作られた小道具だったんだろう? この恐竜モドキって・・・と疑問を抱かなくもない。そんな場所。

 

「・・・・・・。次、行こうか」

「そ、そうだべ! 次、次!」

 

 

 と葉山と戸部でさえ笑顔で言ってきたので、次の目的地である仁和寺に移動。

 本物の役者見習いさんが脅かし役のお化け屋敷は、本当に面白くてリアルだったです。マジで怖かったけれどもマジで。

 

 

 次の仁和寺は、教科書とかの『徒然草』第五十二段に「テストで出るから覚えろー」とか担任教師から言われることある、トンチ僧侶の捻くれ英雄でお馴染みの場所。

 景色としてはいい場所で、春だと特に桜の名所として満開になる。

 

 秋でも、綺麗っちゃ綺麗なんだが・・・・・・見にきた俺たち高校生の修学旅行だからなぁー。

 

「すごいねー」

「ねー」

「なんかほんとすごーい」

 

 と由比ヶ浜のパクりを一同そろってやって終わり。

 戸部は「やばい」で由比ヶ浜は「すごい」こういう時のコイツラの対応は、たぶん全国スタンダート。・・・・・・次。

 

 

 二日目三番目の場所は、竜安寺。

 ロックガーデンで枯山水とかある場所な。

 この寺だって仁和寺と同じで、見るだけって言や見るだけなんだが、なんとなくコッチは座ってボンヤリしばらく眺めてしまえる。そんな場所。

 

 そんな感じの場所だったので、俺もたまには空気を読んで、周りに合わせて一緒に座って庭を眺めていたところ、

 

「あら、奇遇ね」

「・・・・・・あん? ――って、お前こっち来てたのか雪ノ下」

「ええ」

 

 ふと声をかけられて横を向いたら、連れの大人しそうな見た目をした総武高女子の制服着てる生徒三人ほどを“お供”として我らが奉仕部の部長殿が一列に並んで座っていた。

 

『『『・・・・・・・・・』』』

 

 学年一の優等生で特進クラスの一員でもある雪ノ下が、一般クラスの男子生徒と普通に会話している光景に違和感ある取り合わせだと思ったのだろう。

 特進クラスの女子生徒たちが、俺に向かって不審げな視線を送ってきているのが見えて、ちょっとだけ心に痛みを感じさせられた。

 

 なにしろ、『文系では学年三位』の俺に向かって、特進クラスの女子生徒たち『三人』から、相応しくないのにという視線を送ってこられてる身なのである。

 己のちっぽけなプライドを守るため、自分の方が優れてる部分だけに着目して、劣っている部分からは目を逸らす。

 

 リア充優等生のなり損ないは、粛正される運命にある俗人に過ぎないのだという事実は、真に優れたエリートひねくれ者として心が痛いぜ・・・。

 

「あ、ゆきのん」

 

 そんなことを考え、道を誤ってしまった者達への憐憫に心の痛みを覚えていたところ、後ろから声をかけられて振り向いたら由比ヶ浜だった。その後ろには当然、葉山たちもいる。

 当然のように雪ノ下と俺との間に由比ヶ浜までもが入ってこようとするわけだが――当然のことだけど、スペックオーバーの狭すぎだよな・・・この状況。

 

 と言うわけで場所変えてから仕切り直し。

 座を立った雪ノ下と一緒に俺もついて行く姿に対し、特進クラスの女子たちから絡みつくような視線を向けられたが・・・・・・嫉妬と、僻み・・・か。小人とは困ったものだぜ・・・フッ。

 

「それで、依頼の調子はどうかしら?」

「どっちのだ? 戸部からの依頼の調子か? その後に来てた海老名さんの方のか?」

「・・・え? 海老名さんからの依頼って・・・あなた何を――」

「――なら、いい。悪かったな、紛らわしいこと言っちまって。忘れてくれ」

「・・・・・・???」

 

 そんな感じの中間報告も終了。

 状況が状況っつーか、そもそも前提条件的に事態の進めようがない類いの依頼だからな。

 可もなく不可もなく、一歩進んで二歩下がり、結局は行ったり来たりの足踏み状態でしかない千日手に陥るのが、当然の流れってところかね。

 

 

 

 

 

 そして修学旅行二日目も終了して、宿へと戻ってきた俺は―――今、コンビニで週刊誌を探している。

 いや、違うのだ。小腹が空いたのである。仕方がない。

 

 同じ部屋で飯食ってた男子たちって存在は、修学旅行限定で麦わら海賊団の狙撃手と化して、茶碗いっぱい臨界突破の米をよそらないと死んじゃう病にかかってしまうため、病気にかからなかった健康でまともな人間には食料が足りなくなって腹が減るという、料理人か船医か航海士ポジにならざるをえない宿命が押しつけられてしまう。

 

 麦わら海賊団の宿命だからね、仕方がない。仕方がないので俺は外で空きっ腹を満たすしかないのも、仕方がない。

 

 そう考え、俗人たちにも困ったものだと、フッ笑いを心の中だけで浮かべていたところ―――今夜は先約がいたらしい。

 

「ヒキオじゃん」

「・・・・・・ん?」

 

 妙な呼ばれ方で呼ぶ声がしたので横を見ると・・・・・・派手な私服姿のケバい女がいた。

 明るめに脱色された茶髪を、毛先だけカールさせた長髪スタイルにして、雑誌コーナーの前で立ったまま雑誌だけに視線を落としている。

 俺の方には、目もくれていない。

 

 俺は黙って相手の方には視線だけで顔は向けることなく、雑誌に伸ばそうとして止めていた手の再開し、ペラリペラリと何ページか読み進める。

 

「あんさー、あんたら一体何してるわけ?」

「・・・・・・」

 

 いきなり声が聞こえたが・・・俺は答えない。

 ただ黙って雑誌を・・・サンデーGXを読んでいく。今週は買うの忘れてしまったGXを。

 

「あんま海老名にちょっかい出すの、やめてくれる」

「・・・・・・・・・」

 

 再び声が聞こえて、再び俺も答えない。

 ただ互いに前を向いて、本に視線を固定したまま・・・ペラリ、ペラリと。

 

 何ページか本を読み進めていく音だけが、互いの間を風のように通り過ぎていく空間。

 この時間の空間が、俺はわりと嫌いじゃない―――

 

 ――だが、しかし。

 

 

「聞いてんの?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ、ちょっと。ねぇってば、ヒキオ。ねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 なんか突然、ガラッと途中から口調が変わってきて荒っぽくなってきたなと思ってたら、なんか苛立った感じの表情を浮かべて俺の方を睨んできてて―――って、あれ? これってひょっとして、

 

「・・・・・・・・・・・・もしかしてアンタ、俺に向かって話しかけてたのか? てっきりチンピラが誰かに絡んでんだと思って聞き流してたんだけど・・・・・・」

「誰がチンピラよ!? あんた、ヒキオの癖して、あーしのこと舐めてんじゃないの!?」

「わ、悪い・・・・・・って言うか、あの、どちらさんでしたっけ・・・? 俺、京都きたばっかで、こっちに知り合いはいなかったような・・・」

「ふざけてんの!? それとも本気でバカなの!? 死ぬの!! あーしよあーし! 三浦優美子だってわかってて言ってんでしょあんた絶対に!!」

「・・・みうら・・・? ――――お前、まさか三浦だったのか!? 援助交際目的でオッサンに声かけられるの待ってる頭悪そうな女子大生とかじゃなく!?」

「誰がエンコーやってる女子大生よ!? いい加減にしないとブッ殺すわよマジで本当に!?」

 

 額に青筋いっぱい浮かべまくって俺を睨みつけながら怒鳴ってきてる、“私服姿のド派手でケバい女”は・・・・・・三浦だった! たしかに言われてみれば三浦だ!!

 いや悪い! わざとじゃないんだ! 忘れてたわけでもないんだって!!

 

 ただ私服姿だったから! あんま見かける機会なかったから! 

 あとコイツから俺に話しかけてくる可能性、想定してなかったから分かんなかっただけだって! あり得る可能性の候補として、ほぼ0だから事実上0で考えなくていいと思ってただけで!!

 

 だから決して、三浦自身の存在そのものを忘れてたわけじゃないんだよ! 覚えてはいたんだ覚えては!

 ただ『葉山グループの一人で目立つ奴の女子』ってカテゴリーで覚えてたから、単独行動してると判別しづらくなってただけだって! 葉山と一緒のセットだったら即座に分かれる程度には覚えてるから!!

 

 ただ・・・・・・三浦という女子生徒単体で、顔とか名前を正確に覚えてなかっただけなんだよ! 覚える必要0だと思ってたから! 忘れてたわけでは―――ない!!

 

「わ、悪い・・・なんか葉山か由比ヶ浜と一緒に行動してる姿しか覚えてなくて・・・・・・。って言うかお前って一人で動くのできる奴だったんだな。正直意外すぎて分からんかった」

「するわよ!? 一人で動くぐらい誰だってやるに決まってんでしょうが! その程度もわかんないとか、どんだけバカなのよアンタ! 脳みそ腐ってんじゃないの!?」

「一応言っておくが、葉山だったら宿だぞ? ここにはいない。空振りだったら帰った方が――」

「聞けよ人の話! どんだけ人のこと見下して考えてんのよアンタは!?」

 

 何となくだが、コイツからは言われたくない失礼なことを言われたような気がしなくもなかったが、俺もほぼ同罪な状況では文句を言えるわけもなし。

 と言うか、三浦相手にそういうことは言えない。

 

 下手に言うと、話聞かずにゴリ押しするか、勝つまで言い続けてくるか、キーキー騒いで泣くか暴走するか、どれかになる高そうな奴の典型だからなコイツって・・・言うだけ無駄だろう絶対に。

 『聞き入れる』って選択肢だけは絶対に選べないタイプの奴には言えない。メッチャしつこく恨まれやすい。

 プライドを傷つけられたことへの執念深さが凄まじそうな、序盤の敵お色気中ボスっぽい印象メッチャある奴。それが三浦のイメージ。顔あんま覚えてなかったけどね・・・。

 

「まぁ、その話しはいったん置いておいて、俺に何か用があったから話しかけてきたんだろ? そっちの方を早く言った方がいいと思うぞ。

 お前が、用もないのに他人となれ合う女だとは、俺には思えん」

「アンタ・・・どこまであーしのこと・・・!! フンッ! もういい! それより用件! 用件の方!

 ――あんたらが最近、姫菜にみょうなちょっかい出してきてんの、そーいうの辞めてほしいってこと。そういうの迷惑なん――」

「ああ、そりゃ無理だから却下だ。お前の依頼は引き受けられないから諦めろ」

「はぁっ!?」

 

 アッサリと、相手からの要求部分を聞き終えた俺は、妥協点の余地が見つけようがない話しだったので途中でぶった切って会話を終わらせる選択肢を選ばざるを得なくなって読書に戻る。

 とはいえ三浦的には、まだ納得いかなかったらしく食い下がってきて、色々言って詰め寄ってくる。

 

 曰く、

 

 

『海老名は、結衣と同じなんだけど逆』とか。

『アイツは空気を読まないで合わせられる』とか。

『あれは結構危ない。海老名が器用だからなんとかなってるだけ』とか。

『今が楽しい。海老名が離れていったら今みたいにできなくなる』とか。

 

 

 それは三浦なりの誠意だったのだろうと思う。

 むしろ思ってたよりずっと彼女は、周囲の人間たちのことをよく見ている女の子だったのだと分かって感心もさせられた。

 

 なにより三浦の、海老名さんへの評価はおそらく正しい。

 たぶん彼女は、失くしてしまうくらいなら自分で壊してしまうことを選ぶタイプなのだろう。

 何かを守るために幾つも犠牲にするくらいなら、諦めて捨てていく。

 自分が去って行くだけで壊れる関係と承知の上で、それでも一番犠牲の少ないベターな方法として彼女は、その道を迷いなく選択してしまう。

 

 

「だから――余計なことしないでくれる?」

 

 

 吐き捨てるように、そういう三浦の声音は、いくらか震えていた。

 普段の三浦からは想像しづらい、苦悩と焦燥が入り交じった声音での頼み方。

 

 変わりたくない、今のままでいたいという、その気持ち。

 それだけは理解できた。理解してしまった。

 

 それでも・・・・・・俺には彼女に、告げなければならない真実がある。

 

 

 想いを伝えることが、すべてを打ち明けることが、本当に正しいとは限らない。

 踏み出せない関係、踏み越えることが許されない関係、踏みにじることを許さない関係、ドラマや漫画はいつもそれを踏み越えて至るハッピーエンドが描かれる。

 

 当然だ。ドラマや漫画は、そうなれる人同士の関係だけを物語として取捨選択して描くものなのだから。

 踏み越えようとして失敗し、周囲に被害をまき散らしただけで、破滅への道へ突き進んでいく主人公とヒロインの物語を『純愛ストーリー』や『青春物語』のジャンルで描かれるわけがない。

 

 それをやるなら別ジャンルの別ストーリーになる。

 最初からジャンルによって、主人公たちが「踏み越えてハッピーエンドに至れる関係性か否か」は決まっている。

 彼らが勇気を出して踏み越えさえすれば、ハッピーエンドを迎えられる人物たちだけしかドラマや漫画の主人公たちには選ばれない。

 

 けれど現実はそうじゃない。現実の人間は主人公やヒロインになれない。

 大半の人間たちには、もっと残酷で冷淡な、ネタで振られるモテないモブ男か、最後には必ず振られるサブヒロインぐらいにしか、配役が与えられることは滅多にない。

 

 それでも尚、大事なものは替えが効かない事実は変わらず、かけがえのないものは失ったら二度と手に入ることはない。

 

 人生にやり直しはきかない。

 何万回『胎内めぐり』をくぐり直して生まれ変われようと、それまで積み上げてきたものを改ざんすることは決して出来ないのだから・・・・・・。

 

 

 だからこそ―――俺は言う。

 

 

「いや、今回の話もってきた仲介役って葉山で、引き受けたのは奉仕部部長の雪ノ下で、俺ただの平部員だからさ。

 俺一人やめても、特になんも変わんねーし、変われねーと思うぞ? この状況って」

「・・・・・・・・・」

「っつか、なんで俺に言う奴に選んだんだ? お前・・・。

 正直、雪ノ下が俺ごときの話で今さら辞めるとは思えないし、由比ヶ浜は雪ノ下が辞めない限りは続けるんじゃないかな?

 あの部の中で、たぶん一番地位と影響力が低い俺に言って、どーしたかったんだよ、お前は本当に・・・・・・。

 雪ノ下に言え、平部員にじゃなく雪ノ下部長に。もしくは葉山に。

 ――まぁ、言うのが怖いんだったら無理にとは言わんが――」

 

 

「ハァ~~ッ!? なに言ってんのあんた! あーしがアイツのこと怖いわけないじゃん! きも!

 目んたま腐ってんじゃないの! きも! 空気読んでアンタに言っただけだし! それぐらいの分かんないとかバカじゃないの!

 いーわよ、だったらもう頼まないから! 自分でやるし! フンッ! ヒキオ超キモッ!!」

 

 

 怒鳴り声で盛大に叫んで「雪ノ下怖くないアピール」を大声で主張しまくって去って行った後。

 そんな人と話してた人と思われてる視線を向けられながら、コンビニ内に留まって雑誌読めるほど神経太くないエリートひねくれ的な繊細なる精神性を維持していた俺は宿へと戻り、予定より早まった帰還で手持ち無沙汰になったので自販機でマッカン買おうとしてなくて、代替品のカフェオレ買って飲もうとベンチに腰を下ろした。その時だった。

 

「あら、こんな夜中に奇遇ね」

 

 雪ノ下と、出合った。

 宿屋ロビー近くにある、土産物コーナーのすぐ近くにあるベンチに座りながら。

 お目当ての品は・・・・・・言うまでもないか。

 

「ところで、今さっき三浦さんと擦れ違ったときに私のことを睨みつけてきながら、『後で話があるから部屋に行く』と言っていたけれど・・・何かあったのかしら?

 今回の依頼だと、彼女はなんの関係もない立場だし、たとえ上手くいかなくても、それは戸部くん自身の努力によって改善されるべき問題でもある。

 意味が分からないわ」

「・・・・・・まっ、そうな。それが正論って奴だわな・・・」

 

 

 正義の正しき裁判長、雪ノ下雪乃によって既に判決は出されたっぽい気がしたけど、まぁ三浦自身が本当に部屋に行くかどうかも現段階じゃわかんねぇし、消灯時間あるし修学旅行中だし見回りとかも。

 

 今の段階で言えるこっちゃあんまない。とりあえず今は黙っておこう。そう決めた。決めたのだが―――

 

 

 その翌日。

 女子たちの間で、『三浦が雪ノ下さんに負けて泣かされた』という噂が広まったことを由比ヶ浜から知らされるのは、それから数時間後の朝になってからである。

 

 踏み越えようとして踏み潰され、踏みにじろうとして踏みにじられ、現実の人間はなかなか主人公やヒロインにはしてもらえず。

 周囲からの評価も過去の失敗も、修正できない限りは変えようがない。

 

 

 だから選択肢を選ぶときは、よく考えて、自分に実現可能かどうかで選ぶ道は決めた方がいい。

 ドラマや漫画は、いつも踏み越えることができれば、必ず踏み超えて勝てると決まってるけど、現実の勝負はそうじゃなくて、もっと残酷で冷淡。

 

 それでも尚やり直し効かないから三浦よ、次から気をつけよう。いやマジで本当にガチで。

 

 

 

 

つづく

 

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