マッチョじゃない女神がマッチョを押し付けてくる。   作:ウサギとくま

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エピローグとプロローグ

――そして俺はここに戻ってきた。

 

 

「懐かしいな……」

 

 

 白ペンキをぶちまけたような真っ白な空間。

 

 どこまで続いているか想像もできない広く、白い空間に俺は立っていた。

 

 背後を見るとこの空間には異質な黒い渦。

 

 ついさっき俺が通ったゲートだ。

 

 

「――いやぁ、久しいのう。勇者よ、いや、世界を救う旅を終えたお主はもう勇者ではない、か。ならば――虎治、こう呼ばれるのは久しぶりじゃろう?」

 

 

 そう言いながら空から現れたのは、純白のドレスを纏った美しい少女だった。

 

 美を評する言葉を尽くしても例えようのない――女神。

 

 キラキラと粒子を纏いながら舞い降りる彼女は正真正銘の女神だった。

 

 

「うん。久しぶりだな」

 

 

 あっちの世界に旅立つ前にあって以来だから、確かに久しぶりだ。

 

 そして名前を呼ばれたのも久しぶり。あっちの世界ではみんなから勇者って呼ばれてたからな。

 

 子供のころはタイガーとか弄られたこの名前だが、こうやって久しぶりに呼ばれるとなんだか感慨深いものがある。

 

 

 女神様はふわふわとゆっくり降りてきて、俺の目の前に着地した。

 

 ニコリとほほ笑む。

 

 

「まずは最初に感謝の言葉を――妾の世界を救ってくれてありがとう」

 

 

「……」

 

 

「そして労いの言葉を――とてもとても、お疲れ様」

 

 

 高2の夏休みの初日。

 

 この空間に呼ばれた俺はこの少女にお願いをされた。世界を救ってほしいと。

 

 正直かなり驚いたしいきなり世界を救えって言われても……と戸惑いはしたが、予定もないし友達もいないし、趣味も特にないし、ついでに自信もない将来の夢もない、あるのは無いない尽くしの自分への焦燥感だけ――そんな俺だから何かを変えたいと思って、何かが変わるかもしれないと思って了承した。……ちょっと進研ゼ〇の導入みたいだな。」

 

 

 あっちの世界に行ってからは初めてのことばかりだった。

 

 まず軽めに投獄された。いろいろあって誤解は解けたけど初めて軽く臭い飯を食べた。

 

 俺が女神から遣わされた勇者だってことが分かってから、初めての旅に出た。初めての旅、初めての仲間、初めての剣。

 

 仲間たちがかなりいい人たちばかりでかつ、女神様がいい感じに加護を授けてくれたので旅は楽しかった。 

 

 

「イージーモードというやつじゃな。言語の心配はいらんし、初めて剣を使ってもそれなりに体を動かせたじゃろ。ついでに未成年フィルターで魔物を倒しても気が楽じゃったろ?」

 

 

 とても助かった。

 

 剣を魔物にぶち当ててもエフェクトだけで、倒しても肉塊が残るわけでもなくボフンと煙が出てドロップアイテムが現れる。ありがたかった。

 

 そんな優しめの旅をする中、仲間たちと野宿したり一緒に飯を食べたり……おかげでコミュ症も改善された。

 

 

「最初の頃はしゃべるとき、絶対『あっ』って言ってたのう」

 

 

「やめて」

 

 

「それにもやしのようじゃった体も引き締まったのぅ……くふふ」

 

 

 筋肉フェチな女神様がデイリーボーナスでプロテインを与えてくれるから、いい感じに体も仕上がった。もやしから細マッチョくらいにはなった。

 

 旅の長さもいい塩梅だった。あっちの世界に行く前に、ちょうと夏休みが終わるくらいには全て片付くといわれたが…

 

 

「本当に夏休みが終わる直前に魔王倒せたわ」

 

 

「じゃろうじゃろう」

 

 

 ふふんと胸を張る女神様。

 

 

 そう、いい旅だった。優しい仲間との交流、いい感じに温い世界観(投獄されたけど)での戦い、ほどよい長さ――俺は変わった。いい感じに。

 

 コミュ症も治ったし、体に動かし方もうまくなった。初めての失恋もして――人として大きくなった。

 

 

 

 そこまではよかった。

 

 普通では経験しない貴重な夏休みを経験した少年はあの輝かしい旅を背に受け、現実世界に帰る――そうなればよかった。

 

 なればよかったのに。

 

 

「うぅ……妾もうれしいぞ。人と話すときまっすぐ目を見れなかったあの少年が……その癖、ちょっとしんどい目に合うと文句を垂れながすクソガキがこんな立派に……」

 

 

「……」

 

 

「よいよい。妾がお主に感謝するように、お主も妾に感謝をしているのはわかる。よい! 言葉にせずとも……心で理解しておる」

 

 

「……」

 

 

「目を見ればわかる。お主の成長が。あの腐った魚のようじゃった目がこうまで、こうまで……ん? 腐った魚のような眼が、毒沼で生き残るために種を特化させた魚のような眼に」

 

 

 食べたら毒のデバフ喰らいそう。

 

 

 俺は思い出す。あの旅を。具体的には旅立って1月そこそこ立った頃を。

 

 

 

「1か月そこそこで帰れるって言ったよな」

 

 

「うむ」

 

 

「確かにさ。魔王倒してさ。1か月そこそこで帰れるところだったけどさ――そっから10年かかったんだけど」

 

 

「そじゃな」

 

 

「もう俺、27なんだけど」

 

 

「アラサーじゃな」

 

 

「片目無くなったし、右手ブチ切れたし」

 

 

「アーロンじゃな」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……ご、ごめんね」

 

 

 夏休みの初日、17歳だった俺は27歳になっていた。

 とりあえず座布団を敷いてる女神様と反省会をしようと思う。

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