その長女、憧れを以て零へと至らん   作:全智一皆

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序章「天元の華を目指す者」

 

 

■  ■

 黒鉄王馬は、自身の姉である黒鉄天華に複雑な念を抱いている。

 黒鉄天華は天才だ。武芸百般という訳ではなく、たった一つのシンプルな技術―――『剣技』という才能において、彼女はAランクの伐刀者である王馬よりも上だった。

 その実力差を表すならば、天と地だ。もしくは、雲と泥だ。とてもかけ離れ、とても圧倒的な、確実な強さの差というものが天華と王馬には有った。

 魔力こそEであるものの。黒鉄王馬の持論からすれば、圧倒的弱者であるものの。されど、けれども、王馬は一度足りとも、そして一寸足りとも、彼女に届いた事がない。

 彼女に勝てた事もない。彼女に攻撃を当てた事もない。たったの一度も、届いた事すらない。

 曰く。

「命のやり取りに、血筋とか姉弟とかは関係無いから。誰が相手でも、剣を抜いたなら必ず殺すつもりで挑むもの。強いて言うなら、そういう所の態度かなー。あ、でもちゃんと王馬の事は大好きだからね!」との事だった(それを聞いた王馬は渋い顔をしていた)。

 

 詰まる所―――『闘い』に対する観点、殺生への価値観。死生観の相違による『剣を振るう事への態度』だ。

 命を奪う事に躊躇いがなく、剣を振るう事に邪念が無く。相手が誰であろうとも、確実に殺すつもりで挑むという闘いへの態度。

 それが、強さに関連しているのではないか。それが、王馬と自分の違いではないか。そう、彼女は言ったのだ。

 剣を振るうという事は、即ち相手の命を奪うという事。その剣が竹刀であれ木刀であれ、結局の所は人を殺す包丁を象った物。

 剣士とは高みを目指すもの。何処迄も愚直に、遥か遠い頂を目指して剣を振るい、研鑽を重ね収斂の果てへと走る者。

 闘いには、同じ血筋であるだとか、血を別けた姉弟であるだとか、そんな無粋なものは無い。情など皆無だ。

 彼女は、そういった死生観を、戦への見方を持っている。それを実行出来る心と体を持っている。

 されど―――

「私はまだ修業中の身。この剣も心も、未だ私が目指す頂には遠く及ばない。」

 彼女は未だ、自分が目指す高みへと届いていないと言う。

 幼いとは言えど、あの黒鉄王馬を無傷で、そして一瞬で倒す事が出来る実力を持っているにも関わらず、しかし彼女はまだ力を求めている。

 その姿が、その力を求めて剣を振るう様が、王馬の心には強く残っていた。

 自身の持論を以てすれば、弱者に立つ姉。けれど、その実力は決して偽りでも誤魔化しでもない本当のもの。己が剣技のみで頂へと目指す姿には、一片の曇りも無し。

 その在り方が、その姿が、王馬が複雑な情を抱く理由だ。

 持論では弱者。されど、一種の憧れを持っている。幼い頃から、その剣を見て、綺麗だと感じていた。

 だからこそ、複雑なのだ。

 しかし、ことある一点に関してのみは、絶対に変わらない。

「居たー! さぁ、王馬! 今日こそ一緒にお風呂入るわよー!」

「誰が入るか! 一輝か珠雫とでも浸かっていろ!」

 尊敬はしている。が、うざったい。

 ブラコンである事。それが、悩みの種である。




黒鉄天華(転生者)
黒鉄家の長女。一応は転生者だが、転生前の記憶は無し。特典も貰ってはいるが、記憶が無い為、有る事を知らない。言っちゃえば現代で佐々木小次郎の役を被るに相応しい無銘の剣士みたいな事をしたヤベー奴。
見た目はまんま武蔵ちゃん。憑依ではない。

ブラコンでありシスコンである。正確には家族(弟と妹のみ)が大好きである。

黒鉄王馬(小学生)
黒鉄家の長男。天華の弟。
この時から持論を持っていたが、姉の剣技と高みを目指す態度に見惚れていた為、彼女に対する想いは複雑。尊敬と憧憬、しかし持論から来る嫌悪感の三つがある。
彼女の影響もあって、一輝と珠雫とも多少の絡みがある。
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