その長女、憧れを以て零へと至らん   作:全智一皆

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第三話「少年の渇き」

■  ■

 ソレを目にしたのは、冷たい夜の事だった。

 朧月。雲に隠れながらも、揺蕩う様な月光を零すその夜の下で、少年は己が心を渇かせていたのだ。

 黒鉄一輝。黒鉄家の第三子。才能の無き者。

 少年もそれは自覚していた。自分には才能がない。魔導騎士になる為の才能が欠片もない、と。

 黒鉄家の生まれでありながら、魔力は凡人の半分以下。故に誰にも剣を教えてもらえない。

 絶望的で、絶対的な現実を何度も突きつけられた。そんな彼を動かしたのは、そんな最弱を強さへと奔るに至らせたのは、彼の祖父と―――二人の兄姉(きょうだい)だった。

 

「ふっ、はぁッ!」

「っ…!」

「―――」

 

 剣戟が夜に響き渡る。

 黒鉄天華と黒鉄王馬。一輝の姉と兄。彼が知る中で、今最も強い二人の剣士(さいきょう)

 その二人の剣戟に、一輝はただ見惚れていた。

 

 二天一流。黒鉄家に伝わる剣術ではなく、かつて戦国最強の剣聖と謳われた二刀流の剣士「宮本武蔵」の剣術を振るう天華。

 そこには伐刀者(ブレイザー)としての力は欠片もなく、ただ純粋な剣技のみで伐刀者(ブレイザー)として格上の弟に優勢を保っている姿がある。

 旭日一心流。黒鉄家に伝わる武術と自らの能力である風を操る王馬。

 そこには伐刀者(ブレイザー)としての確かな高みがあり、剣豪の如き剣技と風神の如き使いを以て必死に剣聖へとしがみつく姿には、ひたすらに強さに貪欲な意思が見えた。

 この二人こそ、黒鉄一輝にとっての憧れだった。彼の心、その内側を()()()に事足りる剣だった。

 

 いつか、辿り着きたい―――その高み(けん)に。

 いつか、越えてみせたい―――その(けん)を。

 五輪を極め、空を破りて零へと至らんとする姿に焦れ。求めたくなった。

 強さを求め、己が強さのみを信じて邁進する姿に焦れ。越えたくなった。

 自分のやり方で、ソレに辿り着きたいと思った。

 自分のやり方で、ソレを越えてやりたいと決意した。 

 例えそれが、滅びの道であろうとも。いつか自らを―――否、()()()()()()()()()()()()としても。

 されど、黒鉄一輝は思ったのだ。想ってしまったのだ。

 その日の夜に、ソレを見てしまったから。希いたいと思う程の剣を――――――二人の最強(けんし)を、しかとその眼に焼き付けてしまったのだから。

 

(掴みたい――――――いつか、あの二人の剣を。ぼくのやり方(最弱)で、あの二人(最強)を打ち破りたい)

 

 少年の心は、渇き初めた。

 かつての江戸において、『生まれる時代を間違えた』と言われた少年の様に。

 かつての江戸において―――兵を集める為の災いとして、歪な月の杯を残さんとした剣鬼の様に。

 だが、良かったと言うべきか。或いは、運に恵まれたと言うべきか。

 黒鉄一輝は、決して――――――生まれる時代を間違えては、いなかった。

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