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ソレを目にしたのは、冷たい夜の事だった。
朧月。雲に隠れながらも、揺蕩う様な月光を零すその夜の下で、少年は己が心を渇かせていたのだ。
黒鉄一輝。黒鉄家の第三子。才能の無き者。
少年もそれは自覚していた。自分には才能がない。魔導騎士になる為の才能が欠片もない、と。
黒鉄家の生まれでありながら、魔力は凡人の半分以下。故に誰にも剣を教えてもらえない。
絶望的で、絶対的な現実を何度も突きつけられた。そんな彼を動かしたのは、そんな最弱を強さへと奔るに至らせたのは、彼の祖父と―――二人の
「ふっ、はぁッ!」
「っ…!」
「―――」
剣戟が夜に響き渡る。
黒鉄天華と黒鉄王馬。一輝の姉と兄。彼が知る中で、今最も強い二人の
その二人の剣戟に、一輝はただ見惚れていた。
二天一流。黒鉄家に伝わる剣術ではなく、かつて戦国最強の剣聖と謳われた二刀流の剣士「宮本武蔵」の剣術を振るう天華。
そこには
旭日一心流。黒鉄家に伝わる武術と自らの能力である風を操る王馬。
そこには
この二人こそ、黒鉄一輝にとっての憧れだった。彼の心、その内側を
いつか、辿り着きたい―――その
いつか、越えてみせたい―――その
五輪を極め、空を破りて零へと至らんとする姿に焦れ。求めたくなった。
強さを求め、己が強さのみを信じて邁進する姿に焦れ。越えたくなった。
自分のやり方で、ソレに辿り着きたいと思った。
自分のやり方で、ソレを越えてやりたいと決意した。
例えそれが、滅びの道であろうとも。いつか自らを―――否、
されど、黒鉄一輝は思ったのだ。想ってしまったのだ。
その日の夜に、ソレを見てしまったから。希いたいと思う程の剣を――――――二人の
(掴みたい――――――いつか、あの二人の剣を。ぼくの
少年の心は、渇き初めた。
かつての江戸において、『生まれる時代を間違えた』と言われた少年の様に。
かつての江戸において―――兵を集める為の災いとして、歪な月の杯を残さんとした剣鬼の様に。
だが、良かったと言うべきか。或いは、運に恵まれたと言うべきか。
黒鉄一輝は、決して――――――生まれる時代を間違えては、いなかった。