五輪を破りて、零と無限の螺旋を見出す。
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《比翼》のエーデルワイス。そう呼ばれるのは、たった一人の女性であり、そして一人の剣士剣客だった。
比翼の剣。そう呼ばれる最強の剣技を操る彼女は、自らの故郷を守る為にその剣を振るい、そして世界最強の称号と共に、世界最悪の犯罪者の汚名を着せられた。
悲しき事だ。悪しき事だ。だが、それと同じくして、その悲しく、悪しき事が強者にとっては嬉しく、良き事だった、
世界を知る。高みを知る。それが出来るのは、いずれも
だが―――黒鉄天華は、既に最強を知っている。
一刀流の剣聖。生涯無敗の剣聖と名高き、鹿島新當流開祖の男―――
それを通じて、天華は遥か上の世界を既に知っている。
だが、それとは全く異なる世界。その頂。
最速の二刀流。神速の二刀流。最速への過程が存在しない異質の剣技。
自分と同じ二刀流でありながら、しかしその論理は全く異なるもの。在る世界が違うとも言える。
二天一流と比翼。空位に達する剣と頂に達する剣の衝突である。
「我、黒鉄家が元長女にして放浪娘。二天一流、黒鉄天華。我が
「我、比翼のエーデルワイス。世界最強の剣士として、空を掴まんとする一人の剣者へ―――我が
二天一流、黒鉄天華。
世界最強、エーデルワイス。
いざ、尋常に―――始めッ!
「!」
天元の花と飛翔の鳥。
空を翔ける美しき白鳥の如き女へ、剣士は剣を向ける。
ただ剣の思うまま、状況の流れるままに振るい戦うのが二天一流。だが、強敵と対した時、運命と対した時のみ己を静め、剣心を零に落とし、構えを取る。
『第五勢』。二刀の刀の利点、威力を最大限に発揮する構え。或いは、五輪の果て。
火の型・水の型・風の型・地の型・空の型。それら全てを切り替える事なく、しかし自然のまま最大として振るう構え。
「ふっ!」
「…!」
斬撃が舞う。翼が羽撃く。
比翼の剣。それは初速、加速、終速までの概念など存在しない、初速から最高速を叩き出す神速の剣技。
日本刀で例えるならば抜刀、あの瞬間にこそ日本刀は最速が完成される。
だが、鞘から引き抜いて敵に振るうまでには、速度の緩急が生まれる。
しかし、エーデルワイスの剣技にはそれが存在しない。初速から加速し、加速が終速するという過程が存在しない。
振るったその
もはや音が生まれなくなる程に、エネルギーのロスすらも無くしているその剣技から放たれる斬撃は、災害も同然だ。
「くっ…! これちょっと
戦いの最中。しかし天華はそんな事は知らぬ存ぜぬ。
思っていた以上に速い。想像以上に、この剣は疾い。
剣聖の影が決して遅かったとは言わない。だが、コレはアレよりも圧倒的に速い。
しかし、黒鉄天華とて二天一流。生前で二天一流の技術の全てを己に修め、今世で数多の戦いを経験し、二天一流を極め続ける剣士。
空の型。第五勢の構えから放たれる、最速の斬撃。無尽の居合。無刀の構え。
目にも止まらぬ数多無数の斬撃で以て、比翼の神速を相殺する…!
未熟。未だ、未熟。
構えは完成されている。/されど、未熟。
だが、その剣技は未だ空位には至っておらず。無空には届いておらず。
/故にこそ―――未熟。
未熟なれども、花の蕾は未熟であるが故に―――遥か高みを掴まんと手を伸ばす。
「っ!」
「今の躱されるか!」
首の皮一枚を掠める一閃。
相殺の剣戟の中に紛れ込んだ、蛇の毒牙が比翼を襲う。
比翼の剣技。その強さは、最初から最高速に達しているが故の神速と、規格外のパワー。
振るう瞬間から最速が完成している上、音が生まれるエネルギーのロスを無くしているからこそ摩擦によって熱をも生み出し、真空の断層すらも作り出す規格外のパワーを併せ持つ。
つまりは、完全に攻撃寄りの剣。敵を屠る事にのみ特化した剣技であり、そういう剣の論理だ。
だからこそ、比翼の剣技には『奇襲』といった搦め手に弱いという明確な弱点が存在する。
「これは、嫌らしい手をっ…!」
「これも剣術だからね!」
度重なる剣戟。神速と神速の間合いを駆け抜けて、天華の一太刀がエーデルワイスの足を捉えた。
ただ只管に真っ直ぐな剣技。それ故に、搦め手といった技術に弱い。
羽撃く鳥の様に綺麗な剣は、空を掴む者の剣に阻まれる。
純粋な速度においてはエーデルワイスが上だが―――狡賢さと技量においては、天華が上だ。
「晴れ渡る空の如く」
納刀から抜刀。
斬撃が地を這い、蛇の如く駆け抜ける。
無数の剣戟。剣と刀が、交差するでもなく火花を散らす。
大刀と小刀。長直剣と長直剣。どちらも決して軽くはない二刀を、苦もなく音を越えて振るう。
―――この立ち会いには、終わりがない様に見える。
技術においてエーデルワイスを凌駕する天華と、膂力において天華を凌駕するエーデルワイス。
二刀流としての技は天華にこそ理があれど、エーデルワイスにはそれを覆す程の豪力がある。
エーデルワイスは天才だ。剣の才能に関しては、あの黒鉄王馬をも圧倒するだろう。それ程までに、彼女の剣士としての腕は卓越しているのだ。
(埒が明かないな…このままだと体力が尽きそうだわ)
(強い。このままでは確実に限界がくる。となれば)
「必殺技を叩き込む他無し……!!!」
退き合い、覚悟を決す。
小刀だけを鞘に納め、一刀のみを構えて黒鉄天華は敵前で目を閉じる。
剣心を零とし、精神を無情と期す。我が五輪、此処に空位への焦れを捨てる。
成すべきは来た。至るべき時は来た。この敵に、この最強に剣を振るってこそ、我が身、我が心は遂に二刀で以て―――果てなき天を掴む。
「一刀三拝。収斂の果て、無限を破り零へ至る」
「我が剣における最速最大の一撃、受けてみよ」
振り下ろすは一刀。振り抜くは一度切り。
我が空道、我が生涯をこの一刀にて修め奉る。
喚び起こせ、我が剣を。この魂に宿る憧憬よ、ご照覧あれ。
気勢を削げ、我が剣鬼。そして斬り捨てよ―――我が敵を。
「天眼、開眼。ゆくぞ、剣轟抜刀!」
「去り行く一閃。我が剣が至る場所に
神速と神速が交差する。
切っ先が胸を穿つ。だが、些事だ。たかが胸を穿たれただけで止まるくらいなら、最初から勝負なぞ望んではいないッ!
「伊舎那大天象―――ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その果てに――――――黒鉄天華は垣間視た。
果てのない空。遥かなる無限と螺旋、その光景を。
黒鉄家長女、二天一流免許皆伝剣士、黒鉄天華。
前世よりの夢今日この時を以て、空位への到達を完了とす。
その称号を『空位無天』―――黒鉄天華。
是より先は、零の道。究極にまで、これ以上ないというぐらいにその存在を削り落とし、それでも尚残る“何か”。無二と言われる究極の一。
その先へと、彼女は至らんと進むのだ。
黒鉄天華(空位無天)
二天一流免許皆伝者、空位に至った一人の剣聖。
黒鉄家が捨てた逸材。ただの剣技だけで、世界最強を打ち負かした唯一無二たる存在。
これより、我が道は零へと歩む。
エーデルワイス(負けた最強)
剣聖に打ち負かされた世界最強。我が身の未熟を味わい、再び剣の腕を磨く事を決めた。
まだ、私には至っていない高みがある。