その長女、憧れを以て零へと至らん   作:全智一皆

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一刀三拝、無限を破り零へと至る。
五輪を破りて、零と無限の螺旋を見出す。


第五話「二天と対なるは比翼」

 

 

 

■  ■

 《比翼》のエーデルワイス。そう呼ばれるのは、たった一人の女性であり、そして一人の剣士剣客だった。

 比翼の剣。そう呼ばれる最強の剣技を操る彼女は、自らの故郷を守る為にその剣を振るい、そして世界最強の称号と共に、世界最悪の犯罪者の汚名を着せられた。

 悲しき事だ。悪しき事だ。だが、それと同じくして、その悲しく、悪しき事が強者にとっては嬉しく、良き事だった、

 世界を知る。高みを知る。それが出来るのは、いずれも()()()()と戦う事が出来た時だけだ。

 だが―――黒鉄天華は、既に最強を知っている。

 一刀流の剣聖。生涯無敗の剣聖と名高き、鹿島新當流開祖の男―――塚原(つかはら)卜伝(ぼくでん)高幹(たかみき)。その影との死合。

 それを通じて、天華は遥か上の世界を既に知っている。

 

 だが、それとは全く異なる世界。その頂。

 最速の二刀流。神速の二刀流。最速への過程が存在しない異質の剣技。

 自分と同じ二刀流でありながら、しかしその論理は全く異なるもの。在る世界が違うとも言える。

 二天一流と比翼。空位に達する剣と頂に達する剣の衝突である。

 

「我、黒鉄家が元長女にして放浪娘。二天一流、黒鉄天華。我が二天一流(みじゅく)で以て、比翼(さいきょう)との果たし合いを此処に所望す」

「我、比翼のエーデルワイス。世界最強の剣士として、空を掴まんとする一人の剣者へ―――我が比翼の剣技(さいきょうのけん)で、応えましょう」

 

 二天一流、黒鉄天華。

 世界最強、エーデルワイス。

 いざ、尋常に―――始めッ!

 

「!」

 

 天元の花と飛翔の鳥。

 空を翔ける美しき白鳥の如き女へ、剣士は剣を向ける。

 ただ剣の思うまま、状況の流れるままに振るい戦うのが二天一流。だが、強敵と対した時、運命と対した時のみ己を静め、剣心を零に落とし、構えを取る。

 『第五勢』。二刀の刀の利点、威力を最大限に発揮する構え。或いは、五輪の果て。

 火の型・水の型・風の型・地の型・空の型。それら全てを切り替える事なく、しかし自然のまま最大として振るう構え。

 

「ふっ!」

「…!」

 

 斬撃が舞う。翼が羽撃く。

 比翼の剣。それは初速、加速、終速までの概念など存在しない、初速から最高速を叩き出す神速の剣技。

 日本刀で例えるならば抜刀、あの瞬間にこそ日本刀は最速が完成される。

 だが、鞘から引き抜いて敵に振るうまでには、速度の緩急が生まれる。

 しかし、エーデルワイスの剣技にはそれが存在しない。初速から加速し、加速が終速するという過程が存在しない。

 

 振るったその瞬間(とき)から、剣は既に神速へと達している。

 ()()()()()()()()()()という訳ではなく。

 ()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 もはや音が生まれなくなる程に、エネルギーのロスすらも無くしているその剣技から放たれる斬撃は、災害も同然だ。

 

「くっ…! これちょっと(はや)すぎない!? 想像の10倍は疾いんだけどっ!」

 

 戦いの最中。しかし天華はそんな事は知らぬ存ぜぬ。

 思っていた以上に速い。想像以上に、この剣は疾い。

 剣聖の影が決して遅かったとは言わない。だが、コレはアレよりも圧倒的に速い。

 しかし、黒鉄天華とて二天一流。生前で二天一流の技術の全てを己に修め、今世で数多の戦いを経験し、二天一流を極め続ける剣士。

 空の型。第五勢の構えから放たれる、最速の斬撃。無尽の居合。無刀の構え。

 目にも止まらぬ数多無数の斬撃で以て、比翼の神速を相殺する…!

 

 未熟。未だ、未熟。

 構えは完成されている。/されど、未熟。

 だが、その剣技は未だ空位には至っておらず。無空には届いておらず。

 /故にこそ―――未熟。

 未熟なれども、花の蕾は未熟であるが故に―――遥か高みを掴まんと手を伸ばす。

 

「っ!」

「今の躱されるか!」

 

 首の皮一枚を掠める一閃。

 相殺の剣戟の中に紛れ込んだ、蛇の毒牙が比翼を襲う。

 

 比翼の剣技。その強さは、最初から最高速に達しているが故の神速と、規格外のパワー。

 振るう瞬間から最速が完成している上、音が生まれるエネルギーのロスを無くしているからこそ摩擦によって熱をも生み出し、真空の断層すらも作り出す規格外のパワーを併せ持つ。

 つまりは、完全に攻撃寄りの剣。敵を屠る事にのみ特化した剣技であり、そういう剣の論理だ。

 だからこそ、比翼の剣技には『奇襲』といった搦め手に弱いという明確な弱点が存在する。

 

「これは、嫌らしい手をっ…!」

「これも剣術だからね!」

 

 度重なる剣戟。神速と神速の間合いを駆け抜けて、天華の一太刀がエーデルワイスの足を捉えた。

 ただ只管に真っ直ぐな剣技。それ故に、搦め手といった技術に弱い。

 羽撃く鳥の様に綺麗な剣は、空を掴む者の剣に阻まれる。

 純粋な速度においてはエーデルワイスが上だが―――狡賢さと技量においては、天華が上だ。

 

「晴れ渡る空の如く」

 

 納刀から抜刀。

 斬撃が地を這い、蛇の如く駆け抜ける。

 無数の剣戟。剣と刀が、交差するでもなく火花を散らす。

 大刀と小刀。長直剣と長直剣。どちらも決して軽くはない二刀を、苦もなく音を越えて振るう。

 

 ―――この立ち会いには、終わりがない様に見える。

 技術においてエーデルワイスを凌駕する天華と、膂力において天華を凌駕するエーデルワイス。

 二刀流としての技は天華にこそ理があれど、エーデルワイスにはそれを覆す程の豪力がある。

 エーデルワイスは天才だ。剣の才能に関しては、あの黒鉄王馬をも圧倒するだろう。それ程までに、彼女の剣士としての腕は卓越しているのだ。

 

(埒が明かないな…このままだと体力が尽きそうだわ)

(強い。このままでは確実に限界がくる。となれば)

 

「必殺技を叩き込む他無し……!!!」

 

 退き合い、覚悟を決す。

 小刀だけを鞘に納め、一刀のみを構えて黒鉄天華は敵前で目を閉じる。

 剣心を零とし、精神を無情と期す。我が五輪、此処に空位への焦れを捨てる。

 成すべきは来た。至るべき時は来た。この敵に、この最強に剣を振るってこそ、我が身、我が心は遂に二刀で以て―――果てなき天を掴む。

 

「一刀三拝。収斂の果て、無限を破り零へ至る」

「我が剣における最速最大の一撃、受けてみよ」

 

 振り下ろすは一刀。振り抜くは一度切り。

 我が空道、我が生涯をこの一刀にて修め奉る。

 喚び起こせ、我が剣を。この魂に宿る憧憬よ、ご照覧あれ。

 気勢を削げ、我が剣鬼。そして斬り捨てよ―――我が敵を。

 

「天眼、開眼。ゆくぞ、剣轟抜刀!」

「去り行く一閃。我が剣が至る場所に(つい)は無し―――比翼の剣技、見切れるか」

 

 神速と神速が交差する。

 切っ先が胸を穿つ。だが、些事だ。たかが胸を穿たれただけで止まるくらいなら、最初から勝負なぞ望んではいないッ!

 

「伊舎那大天象―――ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 その果てに――――――黒鉄天華は垣間視た。

 果てのない空。遥かなる無限と螺旋、その光景を。

 

 黒鉄家長女、二天一流免許皆伝剣士、黒鉄天華。

 前世よりの夢今日この時を以て、空位への到達を完了とす。

 その称号を『空位無天』―――黒鉄天華。

 是より先は、零の道。究極にまで、これ以上ないというぐらいにその存在を削り落とし、それでも尚残る“何か”。無二と言われる究極の一。

 その先へと、彼女は至らんと進むのだ。




黒鉄天華(空位無天)
二天一流免許皆伝者、空位に至った一人の剣聖。
黒鉄家が捨てた逸材。ただの剣技だけで、世界最強を打ち負かした唯一無二たる存在。
これより、我が道は零へと歩む。

エーデルワイス(負けた最強)
剣聖に打ち負かされた世界最強。我が身の未熟を味わい、再び剣の腕を磨く事を決めた。
まだ、私には至っていない高みがある。
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