その長女、憧れを以て零へと至らん   作:全智一皆

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第六話「皇女と剣鬼」

 

 

■  ■

 時は流れる。時代は移り変わる。

 黒鉄天華が剣聖となり、名実共に最強の名を欲しいままにして無銘のまま旅を続けて早数年。

 黒鉄一輝は青年として、魔導騎士として破軍学園にその身を寄せて剣の腕を磨き続けていた。相も変わらず、彼は剣を振り続けていた。

 血の滲む鍛錬。魔導騎士としての才能が欠片も無い自分を魔導騎士として成り立たせる為に行い続ける、常人には耐え難い苦難の如き修行の日々。

 その果てに、黒鉄一輝の肉体は高校生という身分にありながら完成されかけていた。あと少し、常人では味わわない様な一つまみの苦行こそあれば、それでようやく彼の肉体は完成する。

 

 数多の剣を取り入れ、一刀と二刀を極めんと振るい続けて幾数年。それでも尚、我が剣は果てには至らず、我が身は未熟の地に足を着けている。

 強敵が足りない。死合が足りない。この剣を振るう場が、この剣と打ち合える相手が、まだまだ少ない。

 『雷切』とは未だ斬り合えず。

 『淑女』とは未だ斬り合えず。

 破軍学園が誇る強敵とは、打ち合えない。斬り合えない。何故ならば家がそれを邪魔するから。

 小さな親子喧嘩。斬る必要もない小さな喧嘩だ。ただ親が子の道を頑なに認めようとしていないだけの事だ。

 剣士として姉を目指し、魔導騎士として兄を目指し。ただ一人の弟は、其々の類において頂に立つ二人の剣士(さいきょう)を知った時から胸焦がれていた。

 

 辿り着くべき場所。至らなければならない高み。そうなる為への研鑽は決して怠らなかった。

 けれど、出会いには恵まれない。強敵との出会い、戦場との邂逅にはどうやっても恵まれなかった。

 そんな彼にようやく―――出会いが来た。

 

「まったく…普段から剣を振るうばかりのお前が男としてやらかした事を喜ぶべきか、叱るべきか…どう思う、黒鉄?」

「い、いや…自分としては、不可抗力と言いますか。別に悪気があった訳ではなく」

「相手の下着姿を見ても僕も服を脱ぐとか言うやつに悪気がない? 紳士は紳士でも変態紳士だな」

「紳士と言うつもりはありませんが…」

 

 破軍学園の理事長室で、一輝は正座をして弁明していた。

 事の顛末はこうだ。今日も今日とて朝の長いランニングを終え、自分の寮の部屋へと戻ってみれば、そこには美しい肉体を持った赤髪の王女が居たのである。

 女の下着姿を見て、少年はこう言い出した。僕も脱ぐから、これで相子だと。

 

 お前はいったい何を言っているんだ? 姉の意味不明な行動が遺伝しているのか? 黒鉄王馬がこの場に居たならば、呆れた目で愚弟にそう言った事だろう。

 下着姿を見られた皇女たるステラ・ヴァーミリオン本人は、この場で皇女として一人の少年に残酷な赦しを告げた。

 

「いいわ。ハラキリで許してあげる」

「ハラキリって…時代遅れも良いところだ、今の世でそんな物騒な詫びなんてないよ」

「皇女の下着姿を見たんだもの、それくらいは当然でしょ!?」

「見たのは事実だけど、それで切腹で死ぬのはごめんだよ。僕にはまだ、やるべき事が残ってる」

 

 正座をしながらも、ただその一点のみを強調して一輝は皇女へと目を向ける。

 剣の道を極める事。剣士として頂へと至る事。決して諦める事のない、決して諦める事など出来ない、修羅の道。

 決死の決意。決して曲がらぬ確かな覚悟。

 それを成すまで、黒鉄一輝は死ねぬのだ。死ぬのは、兄か姉のどちらかに討たれるまで。

 僅かに、皇女が退いた。その圧に、その覚悟に気圧されたのだ。

 理事長たる神宮寺黒乃が、頭を振りながらため息を吐いた。

 

「この通りだ、ヴァーミリオン。コイツはFランク、破軍学園の序列にも入っていないが…それは決して弱いからではない」

「は、はぁ? どういう事ですか?」

「それはコイツと戦ってみれば嫌でも分かる…私は経験済みだ。二度としてやるものか」

 

 元KOKリーグ第三位『世界時計(ワールドクロック)』神宮寺黒乃は。

 この破軍学園にて―――黒鉄一輝に敗北している。




黒鉄一輝(剣鬼)
高校生になって順当に剣鬼になっている少年。破軍学園での七星剣武祭出場選手選抜戦で剣鬼に成り果てる予定である。
留年する前に黒乃に打ち勝っている。

神宮寺黒乃(理事長)
破軍学園の理事長。黒鉄一輝に敗北した、元世界第三位のAランク。
対面した時から警戒していたが、実際の戦いになるとそれ以上の傑物となり、二天一流に数多の剣技を重ねた我流に敗北した。
もう二度と戦いたくないし、コイツの姉とも戦いたくないと思っている。
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