天才と星の子   作:もう何も辛くない

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悩める天才と吹っ切れた星

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイって、面倒な女の子だよね。そんなのもう、総司さんの事が好きに決まってるじゃん』

 

 苦笑いを浮かべたヒカルに言われたのは、総司に全てを打ち明けて、受け止めて貰ってから数日が経ったある日の事だった。

 

 その時の私は、自分で言うのもあれだけど、色々と可笑しかった。

 いつもなら総司が休みの日は何の迷いもなく外出に誘う事が出来たのに、携帯の画面に映る総司の名前を前にして、なかなか踏ん切りをつける事が出来ない。

 

 それだけじゃない。

 

 ふとした時に─────例えば、事務所で偶然総司と出会えた時なんかは、心が躍るように嬉しくなった。

 総司が挨拶を返してくれるだけで、幸せな気持ちになった。

 勇気を出して総司を誘って、どこかに行く約束を取り付けただけで、もう天にも昇る気分になった。

 

 他にも色々あるけど─────今まで感じた事がなかった気持ちに私は戸惑っていた。だから、誰かに相談する事にした。

 B小町のメンバーとは、以前よりは少し関係が改善されつつあるけど、それでもこんな相談が出来る程まだ気まずさは抜けてなかった。

 だから、口の堅さも信用が出来るヒカルを呼び出した。

 

 そして、ヒカルにこれらの事を全部話して、返って来た答えが冒頭のあれだった。

 

『面倒って、ヒカルにだけは言われたくないなー』

 

『そうかもね。総司さんにもよく言われるし』

 

『…総司とよく話すの?』

 

『まあね。前も、ドラマの撮影が終わったお疲れ会として、社長と一緒にご飯食べに行ったよ』

 

『…』

 

 あれ?もしかして私、省られてる?なんて、この時の私は思った。

 それと同時に、気軽に総司と一緒にご飯を食べに行けるヒカルを羨ましく思って─────

 

『アイ。顔、怖いよ?』

 

 全く怖がってる様子がないヒカルに、笑顔でそう言われた。

 

『ヤキモチだ』

 

『そんな事ないもん』

 

『大丈夫だよ。僕、男の人をそういう対象には見てないよ』

 

『だから、そんな事ないもん。…あと、総司はヒカルの事を多分二刀流って言ってたよ』

 

『…あの人とは少し話し合わないといけないね。主に僕を何だと思ってるかについて』

 

 少し話が脱線したけど、微かに怒りに歪んだ表情を戻したヒカルは、私に言う。

 

『アイはずっと、その気持ちを知りたいからアイドルを続けて来たんだもんね。いざ、自分が望んだ気持ちを手に入れる事が出来ても、それがどういったものかを知らないから、気付けない』

 

『でもね、アイ。僕は断言するよ。きっと、他の誰に聞いても同じ事を言う。…今、総司さんに対して抱いている君の気持ちは、()だよ』

 

『頑張れ、アイ。君と総司さんの立場上、色々難しい事があるだろうけど、僕は応援してるから』

 

 ()。私は、総司が好き…?

 今まで、総司の事を好きじゃなかった訳じゃないと思う。だって、好きじゃない相手と一緒にご飯に行ったり、遊びに行ったりなんてしない。私はそこまでお尻の軽い女じゃないって思ってるし。

 

 でも、この時、ヒカルに言われた言葉が胸の中にストン、と嵌るような感覚がした。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は、()()()()()()()()()()と思える相手を見つける事が出来たのだ。

 

 そんな、私が恋に落ちた男の子は、同年代の相手とは思えない程に忙しく、時間に追われている。

 一度総司に一日のスケジュールを簡単に聞かせてもらった事があったけど、よく毎日、しかも学校に通いながら熟せるなと思ったのをよく覚えている。

 

 だって、学校の時間を除いて朝から晩まで仕事、仕事、仕事だよ。

 私もアイドルとして、一応社会人をやらせてもらってるし、毎日忙しい日々を送っているつもりだけど、正直これで忙しいって言ってたら総司に失礼なんじゃないかって思ったくらいだし。

 

 そんな人を、私はよく気軽に呼び出して、振り回して、財布みたいな扱いをしてたな。

 なんて、総司への気持ちを自覚してすぐの私は、以前の自分の行動を後悔した。

 総司がよく口にしていた、()調()()()の一言が、今になって私の胸に突き刺さる。

 

 …本当、バカすぎだよ。私。

 

『調子悪いのか?疲れてるならさっさと帰って休め』

 

 そうやって凹んでいれば、微かな変化を感じ取った総司が乱暴な言葉遣いで、だけど優しい声で慰めてくれる。

 

 それは本当にずるいと思う。しかも、これが私にだけじゃなく他の子達にもそうだから質が悪い。

 

 今まで、総司と他の子が喋っていても特に何も思わなかったのに、今は何を話しているのか。どうしてそんなにその子が楽しそうなのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と様々な気持ちが胸の中でぐちゃぐちゃになる。

 

『お前に倒れられたら困るんだ。頼むぞ』

 

 知ってる?私がこうなったのは、貴方の所為なんだよ?

 なのに貴方は私の気持ちなんて知ろうともせず、いつも通りに過ごして、仕事して、私の事を気遣って─────そんな事をされたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 振り切れてしまえばもう止められなかった。

 総司を振り向かせるにはどうすればいいかを考え、結果、振り切れた思考は強引な方法を引き摺り出す。

 ほら、私って多分かなり可愛いと思うし。スタイルだって自信あるし、胸もそれなりだし。これをふんだんに使えば、総司だって我慢出来なくなると思うんだ。

 

 問題は、どうやってそのシチュエーションを作り出すか。

 勢いだけじゃダメ。絶対に総司に躱される。かといって、総司に悟られずに最後まで成功する作戦なんて、私なんかじゃ─────

 

『─────雨、か』

 

 偶然、テレビで流していたドラマの中で、登場人物二人が突如降り出した雨に濡れながら走っている場面があった。

 

 総司と出掛けている途中に雨が降り出し、雨を避けるためにどこか()()()()()()()()()()()()()

 …うん、これなら自然に総司を連れ出せるかもしれない。

 

 方針が決まれば、組み立てるのは早かった。

 一日の途中、夕方辺りから雨が降る日を選び、総司を()()()()()()()()()()()()と言いながら、外に連れ出す。

 それでそれとなく、私が帰る時間を引き延ばしながら雨が降るまで粘って、それで予報通りに降ってくれれば二人で休める場所へ連れていく。

 もし雨が降らなかった場合は、また別の日に同じ事を繰り返す。

 

 この作戦の問題は、丁度いい日に総司の休みが重なってくれるかどうかだったけど─────私が気持ちを自覚してから一か月後、理想の日が来てくれた。

 もう、神様が応援してくれてるのかとさえ思えた。

 

「─────」

 

 そして、時は現在に戻る。

 

 総司に『ムチャクチャにして』なんて挑発しつつ、心の隅で『私も初めてだし、ぎこちない感じになるのかな』なんて思っていたら、本当に私はムチャクチャにされてしまった。

 

「本当に、シちゃった…」

 

 家のベッドで横になりながら、両手を下腹部に添える。

 

 総司と致してからもう数時間が経つけど、私の中でまだ感覚は残ってる。

 総司が私の中に入ってくる感覚。総司が痛がる私を気遣ってくれた優しさ。総司が私の中で広がっていく暖かさ。

 

 全部、鮮明に、ハッキリと思い出せる。

 思い出すだけで、物凄く幸せな気持ちになれる。

 

「…」

 

 だけど、待って。

 物凄く幸せなのはいいけど、結局これは、私と総司はどうなったんだろう?

 

 キスはした。何なら深い方のキスもした。セックスだってした。

 でも、私は好きだって告白したけど、総司は違う。

 行為の途中、私は総司に何度も好きだって伝えたけど、総司は一言も私が好きだって言わなかった。

 

『お前を嫌いだって本気で思った事はなかったよ。多分、これからも』

 

 セックスをする前に、総司が私に言ったこの言葉。

 色々とブレーキが壊れていたあの時の私は、この言葉に全然理解も納得も出来なかったけど、冷静になった今なら分かる。

 

 多分だけど、今の総司は、ついこの前までの私と似ているんだ。

 かぐやちゃんという愛する家族が居て─────だけど、総司にとって愛すべき相手は、今まではかぐやちゃんしか居なかった。

 だから、私から好きだって伝えられても、どう答えればいいのか分からない。

 

 自信過剰じゃなければ、総司は私の事を好きだって思う。だけど、()()()()()()()()()()()()()がどんなものなのか分からないから、総司は回りくどいあんな言葉を言うしかなかった。

 

「…まぁ、分からないなら分からせればいいんだよね」

 

 分からないからどうした。分からないなら、私が教えてあげればいい。

 

「覚悟してよね、総司♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ──────!!?」

 

 今、何か物凄く嫌な予感がした。背筋に強烈な寒気が奔った。

 

 明日からとんでもない事が起きる気がする。

 …とんでもない事なら、今日にもう起きてるんですけどね。

 

「…最悪だ」

 

 ベッドで仰向けになり、天井を見上げながらポツリと呟く。

 頭の中では今日、数時間前に起こった出来事についてが鮮明に思い出されていた。

 

 汚れ一つない白い肌に、細く柔らかい肢体。交わした唇はぷっくりとして、一突きする度に漏れる声はもっと聴きたいという衝動を起こし、顔を合わせば、今まで見た事がない矯艶の輝きを放つ瞳に釘付けにさせられた。

 

「っ…!」

 

 まずい、思い出すだけで色々とクる。

 だが、思い出さずにはいられない。それ程に、俺にとって最悪であると同時に最高の出来事だった。

 

 今の俺はいつもと比べてかなり可笑しく見えているに違いない。

 夕食の時も、かぐやから何度もどうかしたのか、大丈夫なのか、と尋ねられた。

 唯一、かぐやは純粋に心配して俺に尋ねてくれたというのが救いか。俺がセックスをしたなんて、微塵も思っていない筈だ。

 …それはそれで、罪悪感というか背徳心というか、かぐやに悪い気がしてならないが。

 

 一つ気になるのは、早坂の様子だ。

 俺が出掛ける時から何か可笑しいと思っていたが、夕食が出来たと俺を呼びに来たあいつはもっと可笑しかった。

 

 俺を見るなり安心したかのように息を吐いたと思えば、じっと俺の顔を見て表情を失くしていった。

 

 …まさか、気付かれたのか?いや、そんな馬鹿な。

 確かにかぐやには様子が可笑しいと気付かれたし、違和感を持たれても仕方はないとは思うが、まさかセックスの事まで気付かれるなんてあり得まい。

 

 …あり得ない、よな?もしあいつにそこまで気付かれてたとしたら、色々と動く必要が出てくるから大変なんだが。

 

「はぁ…」

 

 本当に、あり得ない。何て事をしでかしたんだ、俺は。

 

 確かに星野の事は一応好意的には見ていたし、今まで出会って来た女の中でも、かぐやを除けば唯一、一緒にいて心の底から休める事が出来る相手だった。

 だからといって、まさかあんな挑発を受けたくらいで()()()()()()()()()()()()

 

「好き、か…」

 

 星野は今日、俺に何度もその一言を口にした。

 

 行為に至る前から、行為の後まで。別れ際にも、耳元で『大好き』なんて囁かれた時には、咄嗟に大声が出そうになった。

 

 ()()()()()()()()

 以前までの様に、あっちこっちに連れていかれたりという身体的な事だけじゃない。

 今じゃ俺の心までもが、星野に振り回されている。

 

「どうすればいい…?」

 

 分からない。何も分からない。

 俺があいつに抱いているこの気持ちは、()()()()()()()()()()()なのだろうか?

 

 それが違うのなら、俺はただ今まで通りにあいつに接すればいいだけだ。

 ただもし、本当にその通りだったとしたら…?俺はこれから、あいつにどうやって接していけばいい?

 

 誰か教えてくれ。俺はこれから、どうすればいい…?

 

「…とりあえず、明日苺プロへは代理として赤木に行ってもらおう」

 

 考えるも結局何も思い浮かばず、俺が出した結論は問題の先延ばしだった。

 

 ヘタレとでも何とでも好きなだけ言え。さっぱり分からなかったんだ。

 あいつとどう接していけばいいかどころか、あいつとどんな顔をして会えばいいのかすら分からなかった俺を笑えばいいさ。

 

 多分、この状態は明日になっても治らない。治らないまま星野に会えば、俺はとんでもなく情けない姿を見せる事になる予感がする。

 それだけは嫌だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()

 何故ならきっと、星野は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今の俺も相当情けないと思うが、それを星野に見せなければ何の問題はない。

 とにかく、少なくとも一週間はあいつと顔を合わせず、現実と向き合う時間が欲しい。

 その間、あいつからどこか行こうとか連絡が来るとは思うが─────申し訳ないが、緊急を要する事態でもない限りは断らせて貰おう。

 

 せめて、いつも通りに星野と顔を合わせられる自信が出てくるまでは。

 

「…恰好悪いな、俺。星野、お前男を見る目ないよ、本当」

 

 心の底から出て来た本音は、誰の耳にも届く事はなく、静寂の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




総司視点からでは分かりづらいと思うので解説しますが、早坂は総司がセックスした事には気付いていません。
ただ、アイとの関係に何かしらの進展があった事だけには気付いて、脳破壊を起こしています。

ごめんよ早坂。この作品では君はヒロインではないんだ。
でも、壊れていく早坂も可愛いよ(愉悦顔)。
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